Lメモ涼風譚10話 「虹色の煉瓦は土の匂い」(4)  投稿者:昂河

「昂河くん、秘密の花園を作ってるんだって?」
 朝のHR前の時間。開口一番そう言われて、昂河はがくっとなった。
「……なんだそれ」
「えっ、違うの?」
「……間違ってるような間違ってないような」
「なんだ、合ってたんだ」
「いや、やっぱり違うと思う」
「え〜」
 城下和樹はがっかりした顔になった。
 昂河が教室へ入ってかばんを置いた時にやってきて、最初の言葉がさっきのも
のだったのだ。
「花壇は作ってるけど全然秘密じゃないし。っていうか、どうしてそういう言葉
を聞いてそこはかとなく妖しげな雰囲気を思いつくかな、僕」
「なるほど、秘密じゃなくて妖しい花園なんだね」
「違うっ!」
 まったく、油断もすきもありはしない。
 とはいえ、城下は意図的ではなく素で情報を歪めるのが特技なので、昂河もそ
ろそろ慣れてきていた。
「よーす」
 藤田浩之があいさつしながら2人の所へやってきた。
「おはよう、藤田」
「おはよー、浩之」
「昂河、なんか花壇作ってるって? 委員長から聞いたぞ」
「……なんで広まるかな」
「しっかし、変わった事思いつくもんだな」
 浩之はそう言って笑みを浮かべた。
「みんなして物好きだって言うんだよ」
「そりゃ言うだろ」
「……八塚と同じこと言うなぁ」
 軽く口をとがらせた昂河に、浩之は声をあげて軽く笑った。
「俺はいいと思うけどなぁ。なごめるだろ、花って」
 城下がにこにこと言う。
「ありがとう、城下君」
「それに食べれるしさ。やっぱり、昼にサラダにすんの?」
「……ハーブ園じゃないんだから」
「なんだ、食べれないのかぁ。残念」
 またがっかりしてみせる城下。
「じゃあ、次は野菜畑でも作ったらどうだ? 野菜の花にもきれいなのはあるだ
ろ」
「……それ、実ができたらすぐに食べられてそうな気がするよ」
「それもそうか」
 昂河の言葉に浩之は苦笑を浮かべた。
「しかしまー、地味な趣味だよな。普通やんないだろ、花壇作りなんて」
「趣味ってほどじゃないんだけど……観月さんにはおじさんみたいだって言われ
ちゃったよ」
「そいつはキツイな」
「ん? 昂河君、おじさんが趣味?」
「「違う」」
 城下の一言に昂河と浩之が同時にツッコミを入れる。
「ところで、千鶴先生に手伝ってもらってるんだって?」
「うん、助かってるよ。人手を集めてくれたのも千鶴先生だし」
「そっか。面倒見いいもんな、あの先生」
 浩之は言って、腕を組んだ。
「あれで、生徒になったりたまに血の雨降らせたり笑顔が恐いことがあったりし
なけりゃなぁ」
「うーん……でも、それはそれでいいと思うけどね」
「まあなあ。あんまり完璧だと逆に近寄りがたいってことはあるかもな。……で
も、やっぱりどうかと思うぞ」
 昂河の言葉に、浩之は腕を組んだ。
 その時、予鈴がなった。
「あ、そろそろ教室に戻るよ。じゃあ」
 城下が言って教室を出て行った。
「んじゃ、俺も席に戻って少し寝るか」
「寝不足なのかい?」
「ああ、ちょっとな」
 あくびをしながら、浩之も自分の席に戻っていった。
 残された昂河は軽くため息をつくと、窓の外に目をやった。
(……千鶴先生‥‥かあ)
 千鶴のことを思ってみる。
 ここ2日、千鶴と一緒に行動してみて、なんだかだいぶ距離が縮まったような
気がする。
 もっとも、彼女が「生徒」としてふるまっていたせいもあるのだろうが。
(‥‥ジンさんにはああ言ったけど)
 昨日自分が言った事を思い出す。
 「千鶴と、友達みたいに話せたら」。
 言葉にしてみたのは初めてで、だからこそ昂河は自分でもなんだか不思議だっ
た。
 親近感を勝手に持っていたのは確かだ。だから話をしてみたい、そう思ってい
たのも事実だ。
 身近に感じる事ができて、優しくて、健気で、時に暴走してもそれもまたチャ
ームポイントで。
 そんな女性である千鶴が、どうして恋愛対象じゃないのだろう。
(…………)
 確かにジンに言われたように、そういう意味で気になっているのは別な女の子
だ。
 だから、なのだろうか。もし彼女がいなかったら、千鶴を恋愛対象として見て
いただろうか。
(それは、違うような気がする‥‥)
 たぶん、そうはならない。なぜか確信があった。
(‥‥なんだろうなぁ)
 別に、それはそれでいいのだけれど。憧れの女性なのに、そういう意味で好き
だというわけじゃないのはどういうことだろう。
(うーん‥‥)
 ガラッと扉が開いて、HR担当の教師が入ってきた。立ち話をしていた生徒達
があわてて席につく。
 日直の号令に合わせて礼をするのも上の空で、昂河は自分にとっての千鶴がど
ういう存在なのかを考えていた。



 昼休み。
 昂河は昼食を浩之達とすませてから、作りかけの花壇の所に来てみた。
 また周囲を囲って立ち入り禁止にしてあるのだが、それが功を奏したのかそれ
とも誰の興味もひいていないのか、どうやら誰も立ち入ったりはしていないよう
だった。
 が。
 その向かいのベンチに水色の頭とそれよりちょっと低い茶色の頭が並んでいる。
「‥‥瑠璃子ちゃん」
 ベンチに座ってぼーっとしていた瑠璃子は、その焦点の合わない瞳を顔ごと昂
河に向けた。
「こんにちは、昂河ちゃん」
「こんにちはです〜」
 瑠璃子の隣にちょこんと腰掛けていた変わった髪型の少女──もっとも、昂河
はその子が少年だと知っている──が元気にあいさつをしてきた。
「やあ、水野君」
「ここは日当たりがいいです〜。ひなたぼっこです〜」
 水野響はにこにことして言った。
「……僕も座っていいかな?」
「うん」
「はいです」
 2人の返事を聞いて、昂河は瑠璃子の隣、響とは反対側に腰を下ろした。
「ここに花壇作ってたんですね。知りませんでした」
 響が言った。
「だろうね。ここだけだし」
「昂河さんは知ってたんですか?」
「ていうか、僕が思いつきで作ったんで‥‥」
「あ、そうだったんですか。すごいですー」
「いや、すごくはないよ」
「でも、できあがったらいいひなたぼっこスポットになりますよ。猫丸くなりま
す〜」
「猫……?」
 響と昂河が会話している間、瑠璃子は無表情で花壇を見ていたが、やがて軽く
目を細めた。
「楽しそうだよね」
「え?」
「見てたの。みんなで作ってたよね」
「あ、うん。千鶴先生がバックアップしてくれたおかげで、だいぶスムーズにい
ってるよ」
「千鶴先生、ずっと楽しそうだったよ」
 瑠璃子はその大きな瞳を昂河に向けた。
「昂河ちゃんも楽しかったよね」
「‥‥うん。……みんなでものを作るって、いいよ」
「きっと大丈夫だよ」
「何が?」
「千鶴先生は知ってるから、気にしてるの。だから」
「……?」
 不思議そうに見る昂河に、瑠璃子はくすくす笑った。
「そのうち分かるよ。でもね、昂河ちゃんは昂河ちゃんだから」
「…………」
「はい」
 すっと瑠璃子は手を差し出した。その手の平にはこうめちゃんが1つ。
「あげる」
「……ありがとう」
 昂河はこうめちゃんを受け取った。
「あっ、こうめちゃんですー」
「響ちゃんはこっち」
 どこからともなくうまい棒を取り出す瑠璃子。
「わぁ、バーベキュー味です〜」
「私も食べるね」
「おそろいなのですー」
 そろってうまい棒を口にする瑠璃子と響を見ながら、昂河もこうめちゃんを口
に入れた。
(瑠璃子ちゃん……何が言いたいんだろう?)
 たぶん、聞いてもこれ以上は答えない。そんな気がした。
 口の中で甘酸っぱい塊をころがしながら、昂河は昼休みが終わるまで瑠璃子と
響と3人でそこにいた。



 放課後、工作部に向かおうとしていた昂河は、なんだか楽しそうな表情で歩い
ている千鶴に出会った。
「千鶴先生」
 なんとなく声をかけた昂河に、千鶴は立ち止まった。
「あら、昂河君。今日は作業はないのよね?」
「はい、ありませんよ。明日です」
「いよいよ明日、完成するのね。楽しみにしてるわ」
「はい。……ところで千鶴先生はこれからどこへ?」
「あら、どうして?」
「なんだか楽しそうだから‥‥」
 その言葉に、千鶴は笑顔を浮かべた。
「今日はね、お料理研究会の日なのよ。この間から耕一さんに食べてもらいたい
と思ってたお料理があってね、さっそく作ってみようと思ってるの」
「そ、そうですか‥‥」
 満面笑顔の千鶴に、昂河は苦笑を浮かべた。千鶴の料理オンチっぷりは昂河も
知っている。
「‥‥でも、千鶴先生と料理するっていうのもなんだか楽しそうですね」
「あら、そう?」
「ん〜、なんだかスリルがありそうですし」
「……どういう意味かしら、それ」
「あははは〜」
 上目遣いに見る千鶴に、昂河は笑ってごまかした。
「昂河君、お料理は好き?」
「はい、わりと。1人暮らしだからあんまり凝った料理なんかはしないんですけ
ど」
「そう。やっぱり1人だと大変よね。……誰かのためにお料理するのって、とっ
ても楽しいものよ。特に好きな人のためにするお料理はね」
「そういうものですか。……うーん、それもそうですけど、やっぱり作ってもら
う方が僕はいいですね」
「そうかしら」
「やっぱり好きな女の子に料理作ってもらうっていうのは、男のロマンですよ」
 冗談めかして昂河は言ったが、それを聞いた千鶴は何やらじっと昂河の顔を見
た。
「……昂河君」
「はい?」
「……昂河君は、その……やっぱり女の子が好きなのかしら?」
「それはまあ、そうですね。やっぱ男ですから」
「…………」
 そう答えた昂河に、千鶴は考えるような表情でそのまま昂河の顔を見ている。
「えと、何か?」
「……いえ、別になんでもないんだけれど……。あのね昂河君、もしもあなたが
女の子だったら、どんなふうかしらね」
「え?」
「女の子らしくできるんだったら、どんな女の子になっているかしらね」
 どうしてそんなことを思ったのやら、そうきいてきた千鶴に、昂河は困惑した。
「……どうしたんです、いきなり」
「なんとなく思ったの。ね、どんなだと思う?」
 微笑を浮かべる千鶴に、昂河は一応考えてみた。
 もし、自分が女の子だったら。
「……そうですね……どうでしょうね。でも、もしなれるんなら、千鶴先生みた
いな女の人になりたいですね」
「あら、私?」
「だって美人で、優しくて、……こう言うと怒られるかもしれないけど、可愛い
し。わりといいと思うんですけど」
「ふふ、ありがとう。……でも、昂河君なら、私なんかより素敵な女の子になれ
ると思うわ」
「そんなことないですよ」
 苦笑いする昂河に、千鶴は昂河を見たまま小さく首をかしげた。
「……なろうとは、思わない?」
「はい?」
「そんな女の子に。なろうとは思っていないの?」
「‥‥どうして、僕が女の子にならなきゃいけないんですか」
 昂河は苦笑した。
「……そう。そう、よね……昂河君は男の子なんですものね」
 千鶴は軽く目を伏せた。
「……でもね、昂河君。やっぱり女の子は女の子でいるのがいいと私は思うわ。
その方がきっと楽しいと思うの」
「……千鶴先生?」
「このまま大人になってしまったら……やっぱり問題じゃないかしら」
 そう言う千鶴に、昂河は何も言えなかった。
 「女の子は女の子でいる方が」。
「……ごめんなさいね。あなたにはあなたの事情があるのに。……でも、私はそ
う思うのよ。女の子には女の子だからこその幸せがあるの。それを知らない女の
子は、やっぱり不幸せなんじゃないかしらって……」
 千鶴は軽くうつむいて言った。
「私も、もし耕一さんがいなかったらそんな幸せがあるなんて知らなかったから
……だからよけいにそう思うのかもしれないわね」
「…………」
「あっ、いけない。もう行かなくちゃ。ごめんなさいね、長話しちゃって」
「いえ……」
「……もしよかったら、今度またお話しましょう。遠慮しないで言いたい事言っ
てくれていいから。ね」
 優しく微笑んで、千鶴は歩いていってしまった。
 残された昂河は、今の会話を反芻した。
(……千鶴先生、もしかして僕が女だって知ってる……?)
 でなければあんな話はしないだろう。
(…………)
 女の子は女の子でいた方がいい。それは、分からないでもない。
 だからといって、それが自分に当てはまるかと言えば、それは違うと思う。
 ずっと男として生活してきた。成長して体が女性になっても、それは変わらな
かった。
 逆に、それでも男としているにはどうあればいいのかを教わった。
 けれど、もしも。女として育っていたら。
(……そう、なんだよな)
 実は考えた事がないわけではない。けれど、それは実現するものとしてではな
く、いつかそうしたいという夢でもなく、あくまでも「もしもそうだったら」と
いう仮定であり、想像の中のことでしかなかった。
 だから、結局のところ昂河は男なのだった。体が女であるだけの。
 もしも女扱いされたら──それは忌むべきことでしかないのだが。
 だが、千鶴に今のように言われても、それは特に嫌な事ではないようだ。困惑
はするけれども。
(なんでだろう……)
 考えてみる。
 例えば浩之や崇乃が、昂河が女である事を知って女扱いしたとする。はっきり
言って気持ち悪い。
 じゃあ、例えばあかりや智子がそれを知って女扱いするとしたら?
(…………それはそれでまあ、なんかなあ)
 彼女達なら、事情を知ればただ女扱いはしないだろうと思う。逆に頼もしい味
方になってくれるかもしれない。
(うーん、男には知られるのは嫌だけど、女の子にはいいのか、僕?)
 そういうわけでもないだろう。要するに、扱いが変わるのが嫌なわけで、知ら
れてもそのまま男扱いされるのだったらそれはそれでいいわけだ──とてつもな
く楽観論だが。
 そういう意味では、千鶴の昂河への接し方は、今のところ悪くない。
 それに、千鶴にかまってもらえるのは正直言って嬉しい。まして、それが隠し
事のないつきあいならどうだろう。
(うーん……)
 例えば、体が女性であるがゆえの悩みなんかは相談に乗ってもらえるかもしれ
ない。それはかなり心強い。
 そこでふと、昂河は今朝考えていた事を思い出した。
 なぜ、千鶴が恋愛対象になりえないと確信できるのか。
 結局その時は答えが出なかったが、期せずしてさっき昂河は答えを口にしてい
る。
(……そ、か。千鶴先生って、僕にとっては)
「理想の女性像」。それは、「恋人にしたい女性」ではなく、「自分がそうなり
たい女性」なのだ。だから、恋愛対象ではないのだ。
 なら、自分はやっぱり女になりたいのか?
(…………)
 それはない。
 そんなことはないし、考えたくもない。
『そのうち分かるよ。でもね、昂河ちゃんは昂河ちゃんだから』
 昼の瑠璃子の言葉が頭をよぎる。
 彼女が言いたかったのはこのことだろうか。
(……うん。僕は、僕なんだよな)
 昂河はそこで考えを打ち切って、再び部室に向かって歩き出した。



 次の日。いよいよ花壇に花を植える日だ。
 放課後、授業が終わって早々に、昂河は花壇に向かった。
 そこにはすでにbeakerが待っていた。
「ああ昂河さん、さっそくですが品物の確認をお願いします」
 そう言うbeakerの足元には、咲き誇る花がビニールポットや鉢に入って置かれ
ていた。
「よくそろえてくれたね、ほんと」
「商売ですから」
「‥‥でも、今の時期まだ咲いてないはずの花があるんだけど‥‥」
「せっかくですから、咲いている方がいいでしょう。まあ市販のものより少しば
かり値がはりますが、せっかく代金が学校もちなんですから」
 にこやかに言うbeakerに、昂河は苦笑しつつ品物の確認をした。
「……うん、全部あるよ」
「では、受け取りのサインをこちらへ」
 beakerが出した書類にサインをする。
「まいどどうも。しかし、なかなかいい趣味をお持ちで」
「うーん、別に趣味ってほどじゃないんだけどね。あ、今後の肥料の購入とかも
君に頼むつもりだから」
「ええ、ご用命の際はお気軽に声をかけて下さい。では、僕はこれで」
「ありがとう」
 去っていくbeakerを見送って、昂河は花に目をやった。レイアウトを考えて、
背丈の高いもの、中くらいのもの、低いものとそろえている。
「……へへー」
 なんとなく嬉しくなって、昂河は笑みを浮かべた。
「……ほう、色々とそろえていますね……」
「うわっ?!」
 唐突に足元から聞こえてきた声に、昂河は驚いて下を見た。
 いつの間にいたのか、昂河の隣にしゃがんで花を見ている少年が1人。
「……これはどうも……」
 言って、葛田玖逗夜はしゃがんだまま昂河を見上げた。
「葛田君……びっくりさせないでくれよ」
「……いやあ、全身で匍匐前進してきたんですよ……くっくっ……」
「……相変わらずだね」
「だって葛田ちゃんだもの」
「って、うわ!」
 いつの間にか、葛田とは反対側に瑠璃子が立っていた。
「きれいだね、花」
「う、うん」
 続けざまにびっくりさせられて、さすがに昂河もちょっと心臓がどきどき言っ
ている。
「葛田ちゃん、あれ何?」
「……ああ、デルフィニウムですね……。キンポウゲ科の花です……ちょっとト
リカブトの花に似てていいですよね……」
 昂河をはさんで会話している。
「え、えーと……2人とも何か用かな?」
「昂河ちゃんがいたから」
「……花、もらいに来ました……」
 それぞれ別のことを言う2人。
「……もらいに?」
「……くすねよーかと思ったんですけど、気付かれちゃいましたし……」
 何事もないように言う葛田。
「あー……えーと‥‥」
 思わず何を言っていいか迷った昂河の隣で、瑠璃子がくすくす笑う。
「……さて、それでですね……せっかくですからデルフィニウムとアネモネ、下
さい……」
「せっかくだからってどこから続くんだか……で、持っていってどうするのかな?」
「……かけあわせるんです、今うちの部室で育ててるやつと……。……きっと、
きれいですっきりとして、毒を持った歩く捕食植物ができます……」
「やだな、それ」
「……えー、かわいいのに……」
「うん、かわいいよ」
「……瑠璃子さんはさすが、分かってくれてますな……」
「私、見たいな」
「……ええ、できた時にはぜひ見て下さい……」
「瑠璃子ちゃん……」
 もともと分かりやすくはないが、こういう時の瑠璃子は更に分からないと昂河
は思う。
「……まあ、もしもその謎植物ができたとして、部室の外に出さないっていうな
ら1株ずつあげてもいいけど」
 昂河の言葉に、葛田はにやりと笑った。
「……ありがとうございます……あなたの分身だと思ってかわいがらせてもらい
ます……」
「やめれ」
「……せっかく親愛の情を示してみせたのに……」
「いらんてば」
 言いながら、鉢を選んで葛田に渡す。
「はい」
「……どうもです……ついてはお礼として、できた研究成果をお届けします……」
「だからいらんてば」
「……いけず……」
「なんでだよ」
「昂河ちゃん、葛田ちゃんとお話楽しそうだね」
「……瑠璃子ちゃん……」
 くすくす笑う瑠璃子に、昂河は肩を落とした。
「……それじゃあ、花ももらった事だし、僕は戻ります……では……」
 両手にそれぞれの鉢を持ったまま、葛田はなぜか腹ばいになって、そのまま匍
匐前進で去っていった。
「…………」
「やっぱり葛田ちゃんだね」
「……変なやつ……」
 言った昂河に、瑠璃子は瞳を細めた。
「昂河ちゃん、千鶴先生とお話したんだね」
「ん?」
「電波で聞こえたの」
「……そう」
「考えなくていいんだよ。昂河ちゃんは昂河ちゃんだから」
「……うん。……瑠璃子ちゃん、電波が聞こえたってことは、僕の事も……」
「昂河ちゃんは昂河ちゃんだから」
 瑠璃子は同じ言葉を繰り返した。
「それでいいよ。……私も行くね。今日は長瀬ちゃんと帰るの」
「あ、うん。またね」
「またね」
 瑠璃子は口元だけに笑みを浮かべると、歩き去った。
「……知ってるのかなあ……」
 その後ろ姿を見送りながら、昂河は呟いた。


──続く──