「僕、好きなんだ」 昂河の言葉に、吉田由紀はにっこりと笑った。 「私も、大好き」 「それじゃ、同じだね」 「ふふ、そうだね」 2人でにこにこ笑い合う。 「じゃあ……」 「うん」 そして、2人はうなずいた。 「すみませーん! たいやき、小倉と抹茶ください」 「私は、小倉といちごクリーム」 「はい、まいど!」 「ん〜、幸せ〜」 むぐむぐとたいやきを頬張る由紀を、昂河はにこにこと眺めた。 「ん……なあに?」 視線に気づいた由紀がきょと、と首をかしげる。 「うん、おいしそうに食べるなって思って」 「だって、おいしいんだもん」 「そうだね」 にこ、と笑って、昂河も自分のたいやきにかじりついた。 「……そういえばさ」 「なあに?」 「いや……その」 言いよどんだ昂河に、由紀はまた首をかしげた。 「どうしたの?」 「ん、いや、その……な、なんかこうやってるとさ。落ち着くって言う か、幸せっていうか……」 「あはは、そうかも。おいしいもの食べて、のんびりして……」 「……君が隣だし」 「えっ……」 少し赤くなった昂河の言葉に、由紀も赤くなった。 しばらくそのまま、2人で黙ってたいやきを食べる。 今は放課後。屋台の並ぶ中庭だ。 昂河は、この後八塚崇乃とCD店に行く予定で、彼が部活を終えるの を待っている。由紀は桂木美和子が今日の日直なので、彼女が職員室か ら戻ってくるのを待っている。 お互い、それならと一緒に待つことになったわけだが。 「……鈴花のことは2人とも眼中にないでし……」 昂河の頭の上で、鈴花がぶう、と文句を言った。 「えっ、そ、そんなことないよ」 「そうだよ〜、鈴花ちゃんもたいやき食べる?」 「鈴花はメイドロボでしから、食べられないでし」 ぷいっ、と鈴花は横を向いた。 もちろん昂河からは見えなかったが。 「そっか……ごめんね」 「謝ることはないでし」 「でも……傷つけちゃったかな……」 「由紀しゃん。……大丈夫でし。ただ、ちょっとすねたふりをしただけ でし」 鈴花はにこ、と笑った。 「…………」 昂河は黙ってたいやきの最後の一口を口に入れた。 「……でも、由紀しゃん」 「なあに?」 「最近、ちょっとお顔がふくよかになってきたでしよ」 「ええっ!?」 由紀は頬の肉をぷに、とつまんだ。 「そ、そうかなあ、太った?」 「そんなことはないと思うけどなあ」 「昂河しゃんの目には分からなくても、鈴花には分かるでし」 「そ、そんなあ……」 ショックを受けた由紀に、昂河はぽりぽりと頬をかいた。 「気にすることないと思うけどなあ……鈴花はメイドロボだから、細か いところも分かっちゃうんだと思うけど、僕は別に気にならないよ」 「昂河しゃん」 「ん?」 「昂河しゃんも肉がついてきたでしね」 「え?」 「太ってきたのでしよ」 「げ……」 昂河もぷに、と頬をつまんでみた。 「間違いないでし。だって、さっき転がり落ちたときに、胸の辺りがち ょっとふかっとしたでし。背中にも肉がついてるに違いないでし」 「……それは……」 たぶん、さらしの巻き方がゆるいのだ。とは言えずに、昂河はかりか りと頭をかいた。 「う〜……」 由紀は、もう1つのたいやきをじーっと見つめてうなっている。 「由紀、おまたせーっ」 向こうから声がして、美和子が小走りに駆け寄ってきた。 「美和子しゃん、こんにちは」 「こんにちは鈴花ちゃん、昂河君」 「お疲れ様」 鈴花と昂河が美和子にあいさつしたその時、由紀がたいやきをぐっと 握り締めてベンチから立ち上がった。 「決めた! 私、ダイエットする!」 唐突な宣言に、美和子はきょとんと目の前の由紀を見つめた。 「なんでいきなり? 由紀、ぜんぜん太ってないよ?」 「だって、鈴花ちゃんが太ったって言うんだもん」 「そうなの?」 美和子は鈴花に視線を向けた。 「はいでし。でもでしね」 「でも?」 「あくまでも見た目の問題でし。由紀しゃんの身長・体重・体脂肪率か ら導き出される肥満度で見た場合は、違うかもしれないでし」 「……だって」 美和子は再度由紀を見た。由紀は軽く口をとがらせた。 「でも、見た目では太ったんでしょ? やっぱり痩せなきゃ」 「その場合は、痩せるより引き締めだと思うけど」 「おんなじなの!」 口をはさんだ昂河に、由紀は両拳をぐっと握り締めて力説した。 「いや、引き締めと痩せるのは違うんだけど……」 「違ってもおんなじなの! 要は、痩せて見えればいいんだもの」 「……まあ、そう言われれば」 「ね?!」 ずい、と顔を寄せた由紀に、昂河は軽く赤面した。 「だから、ダイエットする!」 「……鈴花ちゃん」 「なんでしか、美和子しゃん」 「……ううん。考えすぎかもしれないから」 そう言って微笑んだ美和子に、鈴花は首をかしげた。 「美和子、これあげる」 由紀は、手に持っていたつぶれかけのたいやきを美和子に渡した。 「え、でも……」 「ダイエットだもん。食べちゃだめでしょ」 「そうだね……」 由紀はいっちに、と軽く屈伸をすると、鞄を手に取った。 「それじゃ早足で帰るよ、美和子。ウォーキングで痩せるには少し早足 がいいって、この間テレビで言ってたんだから」 「え〜、私も?」 「いいよ、美和子はのんびり歩いて。あたしはウォーキングする」 「しょうがないなあ」 美和子は軽く溜息をついた。 「それじゃ、またね昂河くん。昂河くんも引き締めないとだめだよ?」 「あ、うん。それじゃ、気をつけて」 「行くよ、美和子」 「待ってよ、由紀。昂河君、鈴花ちゃん、またね」 「お2人とも、お気をつけて、でし〜」 「うん、筋肉痛に気をつけて」 さっさと歩き出した由紀に、美和子は慌ててついていった。 「……別にいいのになあ」 「でも昂河しゃん? やっぱり好きな女の子は痩せててほしいと思うで しね?」 「えっ?! な、なんで? そりゃあその、プロポーションはいい方が 嬉しいけど、でも、それを僕が強要する気はないし、そもそも僕が一方 的に彼女を好きなんであって、彼女が僕をどう思ってるかはまた別の話 なんだから、彼女のダイエットと僕を結びつける必要はないんであって……」 鈴花の言葉にわたわたする昂河を、鈴花はとてっと肩に下りてじっと 見た。 「何赤くなってるんだ、晶?」 声をかけられて、昂河はそちらを見た。 「あ、八塚……」 「おかえりなさいでし」 崇乃は、昂河の顔を見て不思議そうな顔をしている。 「いや、あの……その、なんか」 「由紀しゃんが太ったんでし。だから、ダイエットするんでし」 「ん? 吉田さんが? それでなんで晶が赤い顔してるんだ?」 「いや、だからその……」 昂河はかりかりと頭をかいた。 「話すとちょっと長いかも……歩きながら話すよ」 「? ま、いいか。それじゃ行こうか」 崇乃の言葉に、昂河は鞄を持って立ち上がった。