Lメモ恋愛趣味レーション「彼女たちの場合  投稿者:昂河
 放課後。廊下で吉田由紀さんに会った。
「吉田さん」
「あっ、昂河くん」
「今帰り?」
「うん。今、会議が終わったとこなの」
 吉田さんは鞄を両手で抱えて言った。
「そっか。…ちょうどいいや、一緒に帰ろうか?」
 僕の言葉に、吉田さんはにこっと笑った。
「うん、いいよ」
 やった☆
 僕もにっこり笑みを浮かべた。



  Lメモ恋愛趣味レーション「彼女たちの場合」



 僕達はとりとめのない話をしながら、公園まで来た。
「電車の時間まで、まだ少しあるな。‥ちょっと休んでいこうか?」
「そうだね」
 僕の提案に、吉田さんはこくっとうなずいた。
 空いているベンチに、二人で腰を下ろす。
「…いい天気だね」
 きれいなグラデーションになっている空を見ながら、僕は言った。
「うん。風が涼しいよね」
 吉田さんもうなずく。
 その後、二人ともなんとなく黙り込む。
 僕はちらりと吉田さんを見た。彼女は空に1つだけ輝きだした星を見上げている。
 こんなふうに二人きりになるのは、久しぶりだ。
「…吉田さん」
 僕は、彼女に話しかけた。


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 選択
  A:こんなふうに話すの、久しぶりだね
  B:……あれ、なんだと思う?
  C:もう少ししたら、夏だね

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 Aの場合

「こんなふうに話すの、久しぶりだね」
 僕の言葉に、吉田さんはこちらを見た。
「…うん。そうだね」
 そう言って、微笑む彼女。
「なかなか顔を合わせる機会がなかったもんな、このところ」
 吉田さんは生徒会、僕は部活で、放課後出会うことがなかなかなかったのだ。
「うん。私はまだもう少し忙しいかな。まとめなきゃならない資料もいっぱいあるし」
「そうか。‥僕は、もうそろそろ部の雰囲気にも慣れてきたし、少し余裕でてきたか
な」
「よかったね」
 吉田さんはそう言って微笑んだ。
「…でも、昂河くんが工作部に入るとは思わなかった」
「そうかな」
「うん。でも、なんとなく納得はできるな。昂河くん、手先器用そうだし」
「最初は、料理研究会もいいかと思ったんだけどね」
「お料理研?うふふ、それは考えつかなかった」
 おかしそうに吉田さんは笑った。
「そうかな。わりと合ってると思うんだけどなぁ」
「うーん、言われてみればそうかもねっ」
 のんびりと、時間が過ぎていく。
 僕は、こんな時間が好きだ。
 風が、緩やかに二人の髪を揺らす。
「‥私、この時間の空って好き」
 吉田さんが言った。
「きれいなグラデーションの中に、星が光ってて。ずーっと見てて、飽きないの」
「そうだね。僕も好きだよ」
 空に目をやる。彼女も、空を見上げた。
 上の方からゆっくりと、空は色を変えていく。
 見ていて飽きない、か。
 僕は吉田さんを見た。彼女は、空をじっと見上げている。
 確かに、この空も見ていて飽きないけれど。
 僕にとっては、彼女もそうだと思える。見ていて飽きない存在。
「…………」
 なんでも楽しんでしまう吉田さん。いつも笑顔の吉田さん。
 こうやって隣にいてくれるだけで、なんだか落ち着いた気分になれる。
 ただ黙ってこうやっているだけでも、幸せな……
 そう思った時、吉田さんがこっちを見た。
「どうしたの?」
「えっ?いや、なんでもないよ」
「そう?‥でも、何か言いたそうだよ」
 首を傾げた彼女に、僕はあいまいに笑った。
「そうかなぁ?」
「うん」
 じーっと見つめられて、僕は頬をぽりぽりとかいた。
「えっと…」
「うん?」
「……吉田さんといると、楽しいなと思って」
 僕は、思った事を口にした。
「えっ?‥そう?」
 吉田さんはきょとんとした。
「うん」
「でも、…私、特に楽しい話できるわけでもないのに‥」
「楽しいよ。君と一緒にいられるだけで」
 僕は微笑みながら言った。
「昂河くん…」
 彼女は目を丸くした。周りが薄闇になってきた中で、その頬が赤くなったのが見て
とれた。
「え、えっと、あの」
 吉田さんはうつむいて、膝の上で手をぱたぱたさせた。
「あの、あのね昂河くん‥」
「なに?」
「あの‥ね」
 彼女はそこで言葉をとぎらせると、深呼吸した。
「私も…こうやって昂河くんといるの、楽しいよ…」
「…吉田さん」
「えへへっ」
 吉田さんは顔を上げて、僕に笑ってみせた。
 胸がぎゅっとしまるような、そんな感覚がした。
「…………」
 なぜだか涙が出そうになって、僕は慌てて空を見上げた。
 こういうの、幸せっていうのかな。なんて、なんだか馬鹿みたいなことを考えなが
ら、僕は、半分くらいまで一色になってしまった空を見ていた。


                        →ハッピーエンド

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 Bの場合

「……あれ、なんだと思う?」
 僕は反対側にあるジャングルジムを指差した。
 すでに日は沈んでいて、その残光がジャングルジムとその上にあるシルエットを浮
かびあがらせている。
 ジャングルジムの上で激しく体をくねらせているその姿。頭が異様に大きく丸く見
えているのは……
「…アフロじゃないかな」
「…アフロだね」
 なんていうか、もう見慣れちゃって、あんまりなんとも思わなくなっているような。
「そんな哀しいコトを言わないでくだサーイ。アフロは永遠のインパクトでス!」
「いや、だって。PS版のD○Rやってると、踊るアフロに違和感を感じなくなるん
だよ」
 いや、マジで。
「むう……そろそろイメチェンの時期ですカ…」
 僕のツッコミに、アフロなTaS君は激しくダンスしながら悩んだ……らしい。
「ど、どうする?もうアフロはインパクトじゃないんだってさ」
「どうするって……もしかして、やめるチャンス?!」
 ジャングルジムの下で、デコイ君とYin君が丸い頭を寄せ合って話している。
「私はインパクトのためにアフロになるわけじゃないですから、別にいいですけどね」
 とーる君が、砂場で山を作りながら言った。その隣で、瑠璃子ちゃんがくすくす笑
いながら一緒に山を作っている。
 なんだかそこ一帯がほのぼのながらどこか異様な光景だった。
 今日はここがアフロ同盟活動の場らしい。
 ていうか、学園外だぞ、ここ。
 TaS君は、「トウッ!」と声をかけてジャングルジムから飛び降りると、ビシッ
と妙なポーズを決めた。
「由々しき問題デス。アフロのインパクトが通じないとは、まさに同盟の危機!」
「ますたぁ、ここはひとつもうアフロはやめるってことで‥」
「却下デース」
「はぐっ!」
 TaS君がどこからともなく取り出した棒で、Yin君の頭をどついた。
「いいデスか。せっかく顧問もついたというのに、ここで終わらせてどうなるのデス
?」
「そうよっ!そんなことは、この私が許さないわっ!」
 そう言ったのは、緒方理奈先生だった。こちらは、ビシッときれいにポーズを決め
ている。
 ていうか、ここ学園外。
「さっきからうるさいデスねぇ」
「やかましい」
 僕は、TaS君の頭にかかと落しを叩き込んだ。アフロの加護のおかげで、あまり
こたえてはいないようだった。
「棒倒しの準備、できたよ。昂河ちゃんと由紀ちゃんも、しよ」
 砂場に出来た砂の山の隣で、瑠璃子ちゃんがいつもの澄んだ笑顔で言った。
「じゃあ、一緒に遊ぼうか」
「ん、そうだね」
 僕と吉田さんは、砂場にしゃがみこんだ。
「ちょっと、遊んでる場合じゃないわよ。アフロ同盟の存在意義が、今問われている
のよ!」
「存在意義なんて、あったんですか……」
「あるのよ!目標だってあるんだから。まだ決まってないけど」
 理奈先生は仁王立ちで腰に手を当てた。なんか勇ましい。
「存在意義っていってもなぁ……」
「まったくなぁ……」
 デコイ君とYin君は、相変わらずジャングルジムの下で溜息をついている。
「昂河君あなたなのよ、この危機を招いたのは。ちゃんと責任をとりなさいよね」
「なんで僕のせいですか」
「アフロにインパクトがないって言ったのはあなたでしょ。どうすれば事態が良くな
るか、考える義務があるわ」
「ないです」
 どきっぱり。
「あっさり否定しないでちょうだい」
「僕は別にアフロ同盟の一員でもないですから」
 冷たく僕は言った。
「昂河ちゃんの番だよ」
「あっ、ごめん」
 声をかけられて、僕は慌てて砂山に手を伸ばした。棒を倒さない様に砂をかき取る。
「……ふふっ、ふふふふふ…」
 理奈先生が不意に笑い出した。唐突な人だなぁ。
「昂河君、あなた……この場に馴染んでるわねぇ」
 ぎくっ!
「あなたには、新たな同盟の道を切り開く素質があるわ」
「んなもんないです」
 即答。
「ふふ、隠さなくてもいいわ。…PS版○DRをしているうちに、違和感を感じなく
なるほど、アフロに馴染んだんでしょう?」
 びくっ!
「あまつさえ、エンディングを見て、踊るアフロもかっこいいと思ってるでしょう?」
 びびくぅっ!
「な‥なんのことでしょう?」
 冷や汗をだらだら流しながら、僕は言った。
 向かい側で砂をかいていたとーる君が、僕に同情するような目を向けた。
「そうなんでしょう?」
「ちっ、違いますよ。ぼ、僕はアフロがかっこいいなんて……」
「思ってないの?」
 うっ……。
「いや、あの、……確かに見てる分にはかっこいいかもしれないとはそこはかとなく
感じるっていうか、クールに踊るからこそアフロでもかっこいいというか、えーと、
僕には似合わないっていうか」
「案外似合うかもよ?かぶってみないと分からないわよ?」
「そっ、それは……」
 滝汗。いろんな意味で。
「そうデース。今なら、特別謝恩セールとして脱げるアフロを進呈しますヨ?」
 TaS君がどこからかアフロづらをとりだした。
「っていうか、ちょっと待てっ!」
「……女性には、サービスしますよ」
 TaS君が、僕にだけ聞こえるような声で言った。
「えっ……」
「いかがデス?好きな時にアフロになれる……これほどの魅力がありまスか?」
 ニカッと笑ってみせる、TaS君。
「ああっ!ますたぁずるいっ!」
「そいつばっかり〜」
 Yin君とデコイ君が抗議の声を上げる。
「シャーラップ!同盟員が増えるチャンスを逃す手はありまセーン。さあっマイ同志」
 目の前にづらが差し出される。
 うう…。そう言われても……。
 でも…………ちょっと、いいかも……こう、なんつーか、禁断の園ってゆーか、ず
っとアフロかぶってるのは嫌だけど、好きな時にアフロになるってのは……
「昂河くん……」
「はっ!」
 吉田さんの声で、僕は我に返った。
「ちょ、ちょっと待てっ!話がずれてるっ!」
 僕は必死になって言った。
「アフロのインパクトの話でしょう!僕がアフロになったって、なんの解決にもなり
ませんよっ!」
「じゃあ、何かいい案でも?」
 理奈先生がきいてくる。
「何も変わる必要はないんですよ。アフロはアフロであるからこそ、アフロなんです。
だってアフロはずっとアフロなんだし、これからもみんなにとってはやっぱりアフロ
はアフロだから、できればいつまでもアフロのままがいいかな、って」
 僕は熱弁をふるった。ツッコミは却下。
「そ、それは……」
 理奈先生は、ショックを受けたように、一歩後ろに下がった。背後はベタフラッシ
ュ指定。
「何をやってもアフロはアフロ…………そうね。そうなのよねっ!」
 理奈先生はぐっと拳を握った。
「すばらシイ!私は感動しましタ!」
 TaS君が涙を流しながら言った。顔に塗られた靴墨が取れて、白い筋ができてい
る。
「あなたのアフロにかける情熱……確かに受け取りまシタ!」
「違う」
「オウッ!」
 バシィッという音と共に、僕の延髄蹴りがTaS君に決まった。
「HaHaHa、いい蹴りでス」
 TaS君の首が曲がってるけど、平気そうだからいいだろう。
「とにかく、アフロはアフロなんだから、それだけでいいんです!」
 うん。それでいいんだよ。
「昂河ちゃん」
 瑠璃子ちゃんがにっこり笑った。
「昂河ちゃんの番だよ」
「あ、うん」
 うわ、みんなうまく砂取ったな……
 僕は慎重に、砂に手を伸ばした。
「昂河君……やっぱりあなたには素質があるわ…」
 理奈先生の呟きは、聞かなかったことにした。
 ……でも、脱げるアフロづらには、ちょっとばかり心が残ってたりもするのだった
……


                        →うやむやのアフロエンド


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 Cの場合

「もう少ししたら、夏だね」
「そうだね」
 吉田さんは、うなずいた。
「夏休みも近いよね。‥早いね」
「そうだな。…夏休みの前には、テストかな」
「あー、もうっ、せっかく夏休みの事考えてたのに〜」
 吉田さんが頬を膨らませた。
「はは、ごめんごめん」
 僕は頭に手をやった。
 吉田さんは軽く僕を睨みつけて、それからくすっと笑った。
 のんびりとした雰囲気がただよう。
「‥ねえ、昂河くん」
「ん?」
「夏休みって、どこかに行く?」
「え?…いや、別に予定はたててないなぁ」
「そうなんだ」
 そう言うと、吉田さんは軽く視線を下に向けた。
「……あのね」
 ちょっともじもじしている。
「先の話だけど……もし、よかったら、夏休みに一緒にどこかに遊びに行かない?」
「えっ‥」
 僕は吉田さんの顔を見た。彼女は相変わらずうつむいている。夕闇の中で、その頬
が赤くなっているのが見てとれた。
 ひょっとして、これは……デートのお誘い?
「僕…と?」
 どきどきしながらたずねる。
「うん」
 彼女はこくっとうなずいた。
 やったぁ!
 心の中で、祝福の鐘が鳴った。
 わーい、わーい、吉田さんとおでかけっっ<ふぉんとでっかく>はあと</ふぉん
と>
 心の中で喜びのタグをつけつつ、僕は平静を装いながら吉田さんに微笑みかけた。
「それは…嬉しいな」
「ほんと?」
「ああ」
 僕の返事に、吉田さんは顔を上げるとにこっと笑った。
 ああ、可愛い……。
 ちょっとみとれてしまった僕には構わず、吉田さんは笑顔のまま口を開いた。
「じゃあね、私、プールに行きたいなっ」
「うん、プールかぁ。いいね……って、えっ、プール?」
「うん」
 こくんとうなずく吉田さん。
 ……ちょっと待て。プール?
 そ‥それはまずいっっ!
「えっ、えーと‥プールってことは、もちろん泳ぐんだよね?」
「そうだよ?」
「…もちろん、水着だよね?」
「うん」
 当たり前でしょ、という顔で、吉田さんは僕を見た。
 あうう……
「学校のプール‥じゃなくって?」
「うん。学校のプールじゃ面白くないでしょ?」
「それは‥そうだけど…」
 やばい……
 僕は、心の中で滝汗を流していた。
 まずいっ、まずすぎるっ!
 …………みんなにはないしょにしているが、僕は実は女だったりする。ずっと男と
して暮らしてきて、今も男として生活してたりするけど。
 だから、プールは鬼門だったりする。いくらなんでも、男用水着にはなれないから
だ。
「どうしたの?」
 動きが凍ってしまった僕を、吉田さんは不思議そうに見た。
 あううぅ……。
「いや、その‥」
 だらだらと汗が流れ落ちる。
 せっかく吉田さんが誘ってくれたのに、断るなんてもったいない。しかも、プール
といえば、格好のデートスポットじゃないか。
 正直言って、僕だって吉田さんの水着姿は見たい。ことわっとくが、僕だって体以
外は男だ。気になる女の子の水着姿が見たくないわけはない。
 泳げないとかいって入らない手もあるけど、それはやっぱりかっこ悪い気がする。
できればそんな情けない事は避けたい。
 でも、体の事がばれたら困る。今後生活していけなくなってしまう。
 吉田さんの水着姿か、僕の将来か…………
 ああっ、どうしたらいいんだっっ!!
「…昂河くん」
「えっ‥な、なんだい?」
 ぎこちなく笑った僕に、吉田さんは寂しげな表情をした。
「もしかして…迷惑だった?」
「そっ、そんなことはないよ」
「でも…なんか変だよ?」
「きっ、気のせいだよ」
 滝汗流してるけど。
「…………」
 吉田さんは、じーっと僕を見た。
 あう……なんでそんな悲しそうな目で見るんだよぅ……
「…ごめんね」
 吉田さんは、寂しげに微笑んだ。
「私、無理言っちゃった」
「えっ……」
「昂河くん、優しいから……私に合わせてくれたんだよね?」
「ちっ、違うよ、僕は‥」
「ううん、いいの。ほんと、ごめんね」
 そう言うと、吉田さんは立ち上がった。
「私、そろそろ行かなくっちゃ。じゃあ、またね」
「あっ‥」
「…無理に合わせてくれなくてもいいよ、昂河くん。無理される方が……嫌だよ…」
 ぽつり、と言うと、吉田さんは駆け出した。
「吉田さんっ‥」
 振り向かず、彼女は公園を出ていってしまった。
 その後を追うように、風がヒューっと吹いていく。
「…………」
 ……あ゛あ゛あ゛ああぁぁぁ…………
 せっかく……せっかく吉田さんの水着姿を見れるチャンスだったのに……
「僕の……ばか……」
 ちくしょう、涙が出てきやがったよ。
 ああっ、どうして僕はちゃんと男に生まれなかったんだよぉぉぉっ!!
 プールに行けないなんて、男としての楽しみが半分はないじゃないかぁ……
 ううっ、視界が涙で歪んで……まるで、海みたいだ……。
「…………」
 海?
「ああっ、しまったあっ!」
 僕は叫んだ。
「プールじゃなくて、海にしとけばよかったぁっ!そうしたら、水着じゃなくても変
じゃなかったのにっ!」
 海なら、別にTシャツで水に入っても、文句は言われないだろうに……
 今更思いついても、時すでに遅し。
「あああぁぁぁっ!僕の馬鹿ああぁぁっ!」
 すっかり暗くなった公園に、僕の叫びが虚しく響いた…………


                              →バッドエンド