00Lメモ 使徒達の日々(sp01)「使徒達のお年始参り」前編 投稿者:神海

 心地好い鍋の音を微かに聞きながら、風見ひなたは食卓の上の編籠に手を伸ばした。そ
の指は少し黄色くなっている。
 テレビから流れる『蛍の光』の余韻が終わり、今年も残すところあと十五分になった。
『こたみか』しながら「行く年来る年」を見、そして除夜の鐘を聞くという、日本人の風
情全開の年の瀬である。
 隣では、ルーティがうつらうつらとしている。除夜の鐘を聞きたいと言っていたから、
起こさないと怒られるだろう。
 これにしても、今年は色々あった。
 美加香の初夢の話を聞いたことから始まって、正月早々ハイドラントの分裂騒ぎに巻き
込まれ、バレンタインではチョコを美加香に食わされ、マルティーナの誕生に立ち会い、
Leaf学園に編入して来て現在の仲間や敵達と出会い、皆で海に泳ぎにも行ったし、体
育祭、文化祭……クリスマスには殺しあったり殴り合ったり。
 ………。
「なあ……美加香」
「なんですか?」
「来年って、緑葉帝何年だったっけか?」
「ははは、ひなたさん、寝惚けちゃってるんですか?」
「………」
 ひなたが時間と空間の存在というものについて少し深刻に考えかけた時。

 ごーん……

「あ」
「あ……鳴りましたね」
 そういう呟きが聞こえて、美加香がキッチンから出て来る。
「新年、明けましておめでとうございます、ひなたさん。今年もよろしくお願しますね」
「ふん……ま、今年もよろしくな、み……」
 かか。と言おうとして。

 バンッ! バンッ!!

 ぎょっとして言葉を飲み込んだ。
 ベランダの外から、何かを打ち鳴らす盛大な音が響いて来たのだ。十や二十の数ではな
い。
「誰だ! この夜中に……って……!?」
 思いきり怒鳴りつけてやろうと窓を開け、眼前に広がるあまりな光景に再び声を飲む。
「……何をしている、おまえ達」
 ひなたは、低い声で唸った。
「おおおっ、いらっしゃったぞ!」
「ありがたやー、ありがたやー」
「新年早々縁起が良いのー」

 黒。
 黒黒黒黒。
 黒黒黒黒黒黒黒黒。黒。

 深夜の暗い中庭に蟻のように群がる影達。
 百人にはなるだろうか。黒ローブにフードをすっぽりかぶった集団が、ひなたを見上げ
てざわついている。
 その集団に心当たりが無いわけではない。どれほど危険な連中であるかも。だが、彼が
真っ先に思ったのはもっと『現実的』なことだった。
 すなわち。
(ちょっと待てこれはさすがに近所迷惑だ。いやもうきっぱりと恥。新年早々御近所さん
に付き合いを考え直されたり、おばちゃん達にひそひそ話されつつ憐れみの目でちらちら
見られたりすることすること請け合いだ! っていうかもう既にお隣の加藤のおじさんの
視線が痛いぃぃぃっ!?)
 ひなたの脳裏に過ぎるそんな思いを完全に無視して――或いは承知の上かも知れないが
――。
 午前零時の住宅地の空気を、百人の大音声が震わせた。


『新年明けましておめでとうございます! 魔王・日陰様!!』


 嫌がらせだった。それはもう全身全霊で。









            Lメモ 使徒達の日々(sp01)




「何のつもりだっ……! ハイドラントォォォォォォォォォォォオオオオオオオ!!!」
「……あ、煮物煮物っ」





            「使徒達のお年始参り」前編





「皆も既に知っているだろう」
 ひなたの絶叫を完全に無視してのけて、集団の先頭に立つ黒ローブ――無論、よく知っ
ている男だ――が、一同の方を向いて朗々と語りだす。
「あれが我らの預言者・魔王日陰の寄り代となる者、風見ひなただ。今年こそ皆の力を結
集し、大神ダークの名の下に世界を理想に導こうではないか!」
『おおおおおおおおおおおおおおおっ……!』
 異様な盛り上がりを見せる黒ローブ達に、周囲の窓から更に住人が顔を出して来る。
 痛切に泣きたくなって、それを振り切るようにひなたは叫んだ。
「二年連続、クリスマスにあんな真似しておいてまだ足りないか。人手不足の時節に無駄
な労力使うんじゃないっ! 大人しくライト十三使徒名乗って道端のゴミ拾いでもしてろ
っ!」
 罵声に堪えた様子も見せず、先頭の男――黒尽くめの集団『ダーク十三使徒』首長ハイ
ドラントは、ゆっくりとひなたに向き直る。
「ふ……まあクリスマスの決着を付けてもいいが、今日の目的は他にある」
「……まだ何かあるのか」
 ニヤ、と笑みを零すと、おもむろにハイドラントは叫んだ。
「突撃いいいいいっ!」
「………」
「………」
 しばし、空白がその場を支配した。
「……なんだ、何も――」

 カタン…。

 まったく逆方向から。
 ほんの、小さな音。だがその音にただならぬ不吉な気配を感じて、ひなたは振り返った。
 黒ローブの影が二つ、扉から侵入して来る。
「……っ!?」
 フードを落とした顔をはっきりと照合したのは数瞬後のことだったが、それにも、ひな
たは見覚えがあった。葛田玖逗夜と神海。ダーク十三使徒の中でも幹部の二人だ。
 反射的に迎撃の姿勢を取ってしまったひなたの横を突破し、足音もほとんど無く台所へ
奔る。
「きゃぁぁぁぁぁああああっ!!?」
 ――悲鳴。
「美加香ぁっ!!」
 キッチンに駆ける。そこには、凍り付いたように動けない美加香と、鍋や詰め掛けのお
せち箱を分捕った黒ローブ二人が対峙していた。
 男二人は、ちゃんと鍋掴み――ポニーテイルのセリオと長い黒髪の少女が、それぞれ可
愛く刺繍されたお揃いピンク色の――をはめている。
「…ふっふっふ…あなたの可愛いおせちの身が惜しければ動かないことですね……」
「そんな! 私のおせちをどうしようっていうんですっ! だいたいそれはまだ……」
「…こちらの要求は追って知らせますよ…では…」
「待ってください! その子を返してっ!!」
 勝手にシリアス悲劇モードに突入しているその場について行けずにひなたが沈黙してい
ると。
「おせちドロボーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
 げしいぃぃぃぃいっ!!
 疾風のように駆け抜けたルーティが、その勢いのまま跳んだ。長身の方の背中に、飛び
蹴りが吸い込まれる。
 両手に鍋を掴んだまま窓枠に飛び乗ったところでは、避けようも防ぎようも無い。鍋の
中身を自分にぶちまけつつ地上に落下する。
「っーーーーーーー!!?」
「あーー! お雑煮がっ!?」
 葛田を迎えると、蠢く巨大な黒だまり(としか見えないことにした)が一斉に躍動した。
「おお、これは霊験あらたかな……」
「導師、お恵みを……!」
 などとという声も聞こえる。
「おせち返せーっ!」
「そうです! それはまだ作りかけなんですよっ!」
「そういう問題ですかっ!」
 取りあえず美加香は、やはり殴り倒しておく。
「…導師っ、任務完了です…!」
「ふはははははははっ! でかしたぞ葛田! あ、神海、墓前に花くらいは添えてやるぞ。
戦死手当ては出んがな」
「…………」
 全身から湯気を上げつつ倒れ伏している神海から反応はないらしい。
「目的達成、総員撤収ぅぅっ!!」
『オーーーーーーッ!』
「……お・ま・え・た・ち……」
 美加香の襟首を掴み直し。
「闇に堕ちてろぉぉぉぉぉおおおおおっ!!!!!!!」
「みきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!??」
 新年一発めの鬼畜ストライクが夜気を切り裂き、夜闇とは違う色の黒い波動が中庭に膨
張した。




「…いやー…上手く行きましたね、導師…」
「うむ。新年早々の一悪、実に晴れやかな気分になるな」
 頭に刺さった苦無を「きゅぽんっ」と抜きながら、ハイドラントは満足げに肯いた。
 葛田玖逗夜、T−star、神凪遼刃、神海、ベネディクトといった幹部達も、ところどこ
ろ暗器が生え、鬼畜ストライクで焦げている。むらさきは美加香の頭と鉢合わせして昏倒
し、神凪に背負われていた。
「……よりにもよって作りかけとは……バランスが最悪だ」
「……仕事だ、これも仕事なんだ……力を得るためなんだ……」
「あ、星が綺麗ですね」
「くそ……なんでこの僕が、こんなことに付き合わなけりゃならないんだ……?」
 幹部達も、幸先良い先勝に士気は盛り上がるばかりだった。
 仮にも宗教団体が、「元旦」とか「初詣で」とかいう行事を祝っても良いのだろうかと
いう疑問は残るが、気にしてはいけない(筆者の懇請)。
「さて、次の予定はどこだった?」
「…次は…」
 葛田はメモ帳と地図を見比べて言った。




 ――九鬼神社、夜半


「……妙だな」
 悠朔は小声で呟いた。
 夏と同じく、実家の神社の手伝いをしている。
 小さな神社であれ、初詣でというのはかなり賑わうもので、年が替わる前から訪れる参
拝客に結構忙しい時間を過ごした。
 それが田舎であればなおさらで、特別な観光客が来ないからこそ、地元の顔見知りが集
まる暖かいものになる。
 だが、ある時、その流れがふと途絶えたのだ。今、境内には人っ子一人いない。
 何かあったのだろうか、と姉に確認しようと立ち上がりかけて。
「………」
 しばし動きを止めた後、無言で木刀を手に取ると、逆に参道の方へと向かった。


 夜はまだ明ける気配もない。微風が刺すように冷たい。視界には、生き物の影も映らな
かったが。
 鳥居の方向をじっと睨む。
 と、その影から、一人の男が現われた。
「……気付いたか。さすがだな」
 予想は立てていた。ハイドラント。学園での彼の宿敵。
 そして、悠を半包囲するように林の中に湧き出る、数十、それ以上の黒い気配達。
「ダーク十三使徒が総出してくれば、嫌でも気付くさ。明けましておめでとう。……とは
言っておく。宗教結社が神社に初詣でか?」
「おまえへの年始参りだよ、悠。感謝して欲しいな。遥々こんな田舎まで走って来てやっ
たのだから」
「走ってって……」
 思わず、かくっと肩を落としてしまった。緊張感が消え失せる。
「……学園から何十キロ離れていると思ってるんだ、おまえ達」
 ふ、とハイドラントは遠い目で笑い。
「……経理担当が、ガソリン代を出してくれなかったものでな……」
「……ご苦労」
 一瞬、二人の間にしんみりとした空気が流れる。
 が。
「ええい、覇者に同情など侮辱と同義っ!! 悠朔! 今宵はそこの賽銭を貰い受けに参
上したっ! 大人しく日陰に捧げるがいいわっ!」
「つまり、おまえ達の活動資金になるのだろうが。そんな無駄金がうちにあるか!」
「いや……どっちかというと日陰の食費かも知れんが。切迫してるし。経費で落としてく
れないんだよなー……」
「……つくづく、ご苦労」
「おっと、危ない。時間稼ぎもこれまでだ。口車には乗らんぞ、悠」
「……そうだったのか?」
 疑わしげな悠の声を無視し、ハイドラントはおもむろにシリアスモードへ移行する。
「次はおまえの番だ。行け、神凪。目標は九鬼神社の賽銭箱だ」
 ハイドラントの背後から、ゆらり、と影が浮き出てくる影が一つ。悠は改めて構えを向
けた。
 その影は、虚ろな表情と口調でひたすら何事か呟き続けている。
「……仕事だ……取引だ……力のためなんだ……」
「……おまえもご苦労だな」
 同情の視線を堪えきれない。
「それにしても、一騎討ちとはな」
「たまには、いいだろう?」
 ハイドラントは不敵に笑った。
(それ以前に、後ろに控えている黒尽くめ百人は飾りか?)
 悠の方は表面ほど落ち着き払っているわけではない。
 もし百人で攻撃されれば、無論のこと、悠と姉のはじめの二人などあっさりと蹴散らさ
れるだろう。それ以前にダーク十三使徒幹部の戦闘要員が勢揃いしている時点で勝ち目は
ゼロに近い。
 ……万一の場合、姉と自分の身だけでも……いや、姉だけでも逃さねばならない。佐藤
昌斗の家に避難させ、それから安全なところ……西山英志の許へか。
 神社周辺の精細な地形を等高線付きで思い起こしながら、悠は右腕を掲げた。
 横槍が入らないと信じているわけではないが、とりあえずは目の前の神凪に対応を絞ら
なければならない。
(やっかいな……)
 せめて、銃器が手元にあれば、とも思う。
 山林を舞台にしたゲリラ戦になるかも知れない。いずれにしろ、それを見極めるために
も――。
「真・魔皇剣!」
 木剣を振り下ろし。剣尖から放たれる衝撃波を追ってすぐさま走る。
 神凪遼刃自身には格別の身体能力はない。接近戦に持ち込めば決して難しい相手ではな
いはずだ。
 ほぼ同時、神凪も片手を上げ、アブストラクトを放つ。
「エンタ…げほげほげほげほげほげほ! げはぁっっ!?」
 轟音とともに直撃。神凪の身体が吹っ飛ばされ、地面に転がる。
「なっ……! 悠、貴様何をした!?」
 驚愕するハイドラント。悠もあまりの事に足を止めていた。
「……いや、私は何もしていないのだが」
「ならばどうしたというのだ!」
「あの、単に体力を使い果たしただけだと思うんですけど」
 横合いから――と言うには大分離れていたが、場に割り込んだ神海の声に、二人の時間
が止まる。
「………………あ?」
「……おい」
 葛田玖逗夜が、すたすたと歩み出た。
「…あー…平使徒の皆さ〜ん…ここで一時休憩ですー…ゆっくり休んでください〜…」
「……つ、疲れた……」
「足が……足が……」
「ううう……気持ち悪い……」
 葛田の指示によって林から出て来ると、一斉に倒れ込む黒ローブ達。神海は既に石畳に
座りこんで、アク○リアス・レモンの1リットルペットボトルを開けていたのだが。
「…用意がいいですね…」
 と神海に言いつつ、葛田自身も水筒(竹製の、字義通りの水「筒」だ)を開けて、妙な
色の液体を飲んでいる。
「葛田さんは割とお元気ですね」
「…ふ……かつてパリ・ダカールラリーに並走しつつ炭酸抜きコーラを売り捌いた経験に
比べれば……」
「……はあ」
 他方では、持久力に関しては人外なT−starとベネディクトが、一同を眺め渡して呟い
ている。
「戦力の消耗が著しいな……。ここは引くべきだろう」
「……馬鹿? こいつら」
 ふと視線を移すと、ハイドラントはぷるぷると震えていた。怒りか――単に思い切り恥
かしいのかもしれないが。
「撤収っ! 撤収ったら撤収だっ! くぉらっ!」
 目に付いた神海や一般使徒を蹴り飛ばしつつ(八つ当たりだ、無論)、ハイドラントは
わめき散らす。
「えー!?」
「また走るんすかぁ?!」
「労働条件の改善を要求しますー」
「ぶつくさ言うな! 撤収ぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
『うぃーすー……』
 怒声に追い立てられ、百人の黒尽くめ達はだらだらと引き上げていった。
 後には、真冬の風のみが纏わりつく。冷たく、寒い……。
「……何をしに来た……?」
 状況が把握できずに傍観していたはじめが、ぽつりと、言った。
「学校の、お友達?」
「その認識だけはやめてくれ……頼むから」
 がっくりと崩れ落ちつつ、悠は目頭に熱いものを感じていた。




 ――雨月山、某所


 まだ薄暗い時刻。
「おまえら、気合いは入ってるか?」
 一人の呼び掛けに、肯く三人。
 エルクゥ同盟のうち四人である。まさただけは、図書館から離れられずに欠席していた
が。
 今日は柏木家の人々やその友人達と、雨月山の神社に初詣での約束が入っている。
 新年初めて彼女らと顔を合わせる、その直前に、言ってみれば決意式のようなものを彼
らは行っていた。
 新年を迎えて心を一つにし、彼らの姫達を守り抜くことを誓い合うために。
(今年こそ千鶴さんに……いや、きっと……ああ、ちょっとでも……。ううっ、頑張れ、
俺)
(今年も梓の拳が一層冴え渡ってくれることを祈るとするかあ! うわははははっ!!)
(今年こそあのくそボケ真っ黒黒助消火栓男と決着がつけられますようにっ! ああっ、
思い出しただけでも腹が立つっ!)
(今年こそ初音ちゃんに……(ぽぽっ))
 内心は結構ばらばららしいが。
「はーっはっはっはっはっ!! ダーク十三使徒ここに見参っ!」
 突然響き渡った高笑い。
 よく知っている。ハイドラントと――。
 ハイドラントと……。
「その、後ろでほどよくスクランブルにダレまくってる黒尽くめどもはなんだ」
「どやかましいっ!!」
 むきになって怒鳴るハイドラント。
「一人でさえ胡散臭いのに、百人集まってダレていると逆に壮観ですね」
 他は全員死んでます、さすがに。
「……むしろ、日が変わってからずっと走り通した後に全力で高笑いできる貴方の体力の
方が信じられないのだがね……ハイドラント師?」
「神経の方だけどね。信じられないのは」
「むらさきつかれた〜〜」
「貴様らも黙れぇっ!!」
 体力が余っている部下三人の突っ込みにも怒鳴り返すと、ハイドラントは気を取り直す
ように笑った。
「さて。新年早々だが、私からちょっとした贈物があってな」
 懐から何かを取り出す。
 それは、四枚の葉書だった。
「………?」
 ぴっ、とそれを放ると、どういう仕掛けか、それぞれ四人の手元に届く。
 受け取ったそれにジンは見覚えがあった。見覚え以前の問題だ、ジン自身が柏木家に出
した年賀状だった。どうにかして横取りしてきたらしい。
 他の三枚も、それぞれが投函した年賀状なのだろう。眉をしかめている。
「ちっ、下らねえことしやがって……これが何だって……」
 言いながら、ジン・ジャザムは自分の身体が強張るのを感じていた。
 ハイドラントの笑み。そして、彼の手に出現した、さらに四枚の葉書を見て。
(……なんだ? 俺は何に怯えている? あの葉書に何を感じているんだ!? いや、落
ち着け、俺。今日届いた年賀状には全部目を通した。千鶴さんのもちゃんとあった! 落
ち度はない落ち度はない落ち度はない落ち度はないっ!)
「怯えているな、ジン・ジャザム?」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………

 J●J●張りの効果音を背景に、ハイドラントはゆっくりと葉書を投げる。
 それを掴み取ると、ジンは緊張とともに視線を走らせた。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………

 差出人――『ジン・ジャザム』
 宛名――『柏木千鶴』
 加えて赤文字で――『見本。本状はLeaf学園全生徒・教師に送付されております』

(なっ……!?)

 ……そして、返した裏を見たとき。

 ズッギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 再びJ●J●張りの衝撃音がジンの全身を駆け抜け。

「ルウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 血の雄叫びが大気と大地を震わせた。





   『新年、明けましておめでとうございます。
    わたしたち、結婚しちゃいました☆ミ
                          エルクウユウヤ☆
                         マジックナイト・ジン☆』

 コスプレ写真年賀状。エ○ーヌ×ユ○ーシャ(byダー○ロウズ)。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…………!!!!!!!」
 顔面の至るところから血を流し、ジンの身体が変貌していく。全身から砲塔を突き出し
た鋼鉄の鬼へ――。

「ナァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァイツメア!!
オヴ・ソロモ……………!!?」
 ――閃光。
 ――爆炎。
 ――爆風。
 ――轟音。
 ……ジン・ジャザムを中心に。

『鬼の血』及び内蔵火器、動揺のあまり制御失敗。


 同時に。

「馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!!」
 秋山は、柏木梓宛ての『秋山登×日吉かおり』の『テニス大会で情が移っちゃいました
(はぁと)』な年賀状に……。
「俺を差し置いてっ! 俺を裏切っていたんだな!! 遊びだったんだな!! 弄んだん
だな!!! ジィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!!!」
 ――目もくれず、ジンの結婚宣言に打ちひしがれ。


「…………………嘘だ、嘘と言ってくれ……そう、嘘なんですよ師匠……」
 風見ひなたは師匠西山英志宛てで『風見ひなた×柏木楓』の仲睦まじい『今年は子供が
生まれます☆』な新婚写真を見せ付けられて放心し。


「ふふふ……うふふ、ふふふふふ……」
 ゆきは、『自分が差出人の』柏木初音宛て『ゆき×宇治丁×夢幻来夢』のちょっとお姉
様方に人気かも☆なセミヌード(と言うよりギリギリ9/10ヌード。R指定確実)絡み
付き年賀状に真っ白に萌え……もとい燃え尽きていた。


「……さて。待ち合わせの時間だったな。邪魔をするのはよくない。さらばだ、エルクゥ
同盟の諸君。今年も良きライバル関係でありたいものだな!」
「………………待て」
「おお、さすがにしぶといな、ジン・ジャザム。まー、貴様の一年が適度に良き年である
よーに」
「……俺のこの手でっ! 貴様を殴るぅぅぅぅぅぅうううっ!!!!!」
「うおおおおおおジィィィィィン!! なぜ俺に一言言ってくれなかったああああ!!!」
「どけぇぇぇぇ秋山ああああああっ!!! 今日だけはっ! 今日だけは俺の全てをっ!
全てをォオ!! 奴に叩き込んでやらねえと気が済まねええええええええっ!!」

 やっているうちに。
 山並の向こうから、すっ、と光が差し込んで来る。
 この年初めての夜明けだ。
 待ち合わせの時間。
 運命の時間。
 騒ぎを聞きつけてきたのだろうか。周囲、そこかしこに現われる、気配。
 そして幾つかの――。

 殺意。


「こぉぉの馬鹿弟子があああああああああああああああああっ!!!!!!!!」
「し、ししょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおっ!!!!!!!!」


 SS不敗流奥義の炸裂を皮切りに。
 エルクゥ同盟史に残る悪夢が、真に始まった。
 いろんな意味で。





           とりあえず、ダーク十三使徒の二勝一敗で――
                                 後編へ、続く

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 明けましておめでとうございます。大変遅くなりました。

 その上、今回は前編のみです(死)
 いい加減アップするべきだと判断したのと、勢いで押し捲る事が出来てるわけでも、そ
れなりのストーリーがあるわけでもないギャグが30kも続くのはさすがに苦痛のように
思えましたので……。(書いてる方がリズム取りに失敗してましたし)
 とかいいつつ20k超。今年は精進したいです(泣)
 一つだけ、先に。
 冒頭の『ひなたさん家に初詣で』は、チャットで散々言ったネタですね。プライドの無
さが出ています。すみません。
 その他諸々は後編の後書きにて。犠牲になっている皆様、申し訳ありません。今年もよ
ろしくお願いします(笑)。
 それから、kosekiさん、及び他の方々の元日Lとの整合は取っていません(というか
取れません:笑)のであしからず。
 にしても、学外に被害が広まってますね、新年L。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
                              000112 神海