Lメモ 使徒達の日々(sp02)「第二茶道部の午後」 投稿者:神海

 試立Leaf学園の片隅に足を運ぶと、日本庭園に囲まれた、小さな純和風家屋の佇ま
いを見ることができる。
 第二茶道部邸。
 ハイドラントがその私的趣味のためだけに創設したこのクラブは、現在部員数僅か三名。
 ……その割にはいやに贅沢な敷地だなという疑問が唐突に筆者の中で首をもたげたりも
する。
 これはやはり資金提供元の某結社の予算を私利私欲のために横領したのは間違いなしと
筆者は考えているのですがどうなんでしょうか導師すみません余計なことですね。

 閑話休題。

 一般には、ダーク十三使徒の隠れ蓑・兼・溜まり場とのみ認識されることの多いのが、
このクラブである。
 そのため、部長ハイドラントを始め、部員の川越たける、電芹ともにお茶の嗜みを心得
ているということは、しばしば忘れられがちであった。平穏な日常では、「茶道部」とし
て、それなり以上にまともな活動を行っているのであるが……。

「ハイドさんハイドさーん! 今日はジンさんから『L国志7』を貰っちゃったよ〜!」

 ……おそらく。




             Lメモ 使徒達の日々(sp02)


              「第二茶道部の午後」




「あれ〜? ハイドさーん」
 たけるが首を傾げた。純和風の部屋を歩き回り、襖を幾つか開けてみたが、ここの部長、
というよりも『主』、ハイドラントの姿はどこにも見当たらなかった。
「……いらっしゃられないようですね」
「そうだね。仕方ないから、先に始めちゃおうかっ、電芹☆」
 うきうきと話すたけるに、電芹は少し困って笑った。
「たけるさん……本当にお好きなんですね、その…そのようなゲーム」
「ん? クソゲー?」
「……女性がそのような言葉を口にするのはどうかと思いますけど……」
「気にしない、気にしない。そーいう名前なんだから☆」
 わいわい言いながら、奥から引っ張り出した機体にCDをセットしてゲームスタート。
ぱぁ〜ぱらぱらぱぁ〜 とBGMが流れ出すと、たけるは重々しく腕組みして肯いた。
「うーん、今時こんな気の抜けた合成音声。画面の四分の一も使わないOPアニメーショ
ン、どこか日本語勘違いしてるテロップ……。よしっ、ごうかくっ☆」
 なにやら電芹にはよくわからない判断基準で太鼓判が押される。
「……そうなんですか?」
「電芹っ、修行がまだまだだよっ」
 などとやり取りしていると、表から声が聞こえてきた。
 二人が顔を出すと、見知った顔がある。
「お邪魔します」
「あ、神海先輩、いらっしゃ〜い」
 最近、ここによく顔を出す三年生。神海だった。


「失礼します……。と……」
 座敷に上がるなり、ちらちらと辺りを見回す神海を見て、たけるが笑った。
「弥生先生なら、今日はいませんよっ☆」
 神海は表情に少し微笑みを加えた。
「そうですか、それは残念ですね」
 照れも苦みもなく、はっきり認めるのが、神海の「らしさ」というものらしい。
「うーん、神海先輩って、ほんとに弥生先生のことが好きなんですね〜」
「ええ、そうですね」
 また少し笑ってから、神海は視線をテレビの方へ移して。
「あ、テレビゲームですか、川越さん。この間、やらせて頂きましたけど」
「うん、この前のとは違うのですけど。あ、それと、私は『たける』でいいですよ〜」
「あ、はい……」
 やや曖昧に神海が肯いたのを見ながら、電芹は立ち上がった。
「お茶請けをお出ししますね」
「あっ、電芹、私が……」
「たけるさんは、今日はゲームをしていてよろしいですよ。――神海さん、羊羹とお饅頭、
どちらがよろしいですか?」
「あ、ありがとうございます。羊羹を頂けますか、グレースさん」
「はい」
 返事をして、立ち上がる。
 その時。
 一瞬、たけるが途端に不機嫌そうに押し黙ったのを、電芹は見逃してしまっていた。



 ……羊羹とお茶の一式をお盆に載せて戻ってくる。襖まであと二メートルほどになった
時、電芹は反射的に足を止めた。
 たけるの声が聞こえたからだ。
 いつになく、真剣な……。
(……だから、神海先輩も『電芹』と呼んであげてください。『グレース』という名前は
電芹の、メイドロボとしての名前なんです)
 静かだが、強く訴える声。それが辛そうな、苦しそうなものに変わる。
(それとも、先輩は、電芹のことを、やっぱり……ロボットだと…思っているんですか…
…?)
(そんなことはありません)
 神海が答えた。これも、静かな声で。ただし、問い詰められて怒ってるようでも、困惑
しているようでも、恐縮しているようでもない。ただ静かな声で。
(――なら……お願いできますか……?)
 ――少しの、間がある――。
(分かりました――)
 この時だけ、神海の声に何かが混じった。……ため息のような……?
(――努力してみます)
 そして、声はやんだ。
「…………」
 それを見計らって電芹は歩を進め、膝をついてお盆を置くと、襖を開ける。
「お茶が入りました」
「あっ、ありがと電芹っ☆」                         ....
 たけるが笑ったが、その表情を整えるまでに僅かな時間がかかったように思う。気のせい
かも知れないが。
 元々、嘘や誤魔化しが出来る人ではないのだ。
 内心の想いを表情に出さないように努力しながら、神海へお茶を差し出す。
「粗茶ですが」
 一方の神海は何事もなかったかのように、にこりと笑って。

「ありがとうございます、グレースさん」

 ぶちん。

 電芹は。
 たけるの頭のどこかでそんな派手な音がするのを、聞いたような気がした。




 その晩。Leaf学園女子寮。
「遅い……です」
 敷いた布団の上に座り込んで、電芹は何度目かの呟きをもらした。
 たけるが、『丑の刻参り』に出掛けたまま戻ってこないのだ。
「いつもより遅くなるかもしれないから」
 とは言っていたが、もう明け方の四時である。牛の刻参りの時間はとうに過ぎている。
 何かあったのだろうか。迎えに行くべきだろうか。だが『牛の刻参り』は他人に見られ
ると効力を失ってしまう。
 ……普通の危険に対してなら、たけるも十分に対応する能力を備えているので、心配は
ないとは思うが……。

「ただいま〜」
 ドアが開いたのは、結局五時近くだった。門限の問題を無視しているように思えるが、
気にしてはいけない。
「たけるさん、遅いじゃな……」
 電芹は抗議しようとして――

「――うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

「……た、たけるさん?」
 不気味に笑い出したたけるに、思わず一歩引いてしまった。
「ごめんごめん、ちょっと、張り切り過ぎちゃってね……、あ、朝ご飯食べよっか〜。ふ
ふふふふふふふ……」
「………………はあ」
 こうしてその日は始まった。




「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
「……どーした、おたけさん」
 ハイドラントは思わずのけぞった。たけるが、逢うなり口の端から異様な笑い声を零し
たからだった。
「俗に、徹夜明けハイと呼ばれる状況のようです」
 電芹が困ったような表情で補足する。確かに、頭が微妙にふらふらしているようだ。
「ハイドさ〜ん、一緒に『L国志7』やりましょうよぅ〜うふふふ〜……」
「……その手のは、『ハイドラントの野望』で、いい加減飽きたからなー」
「今回は、一般武将をプレイヤーキャラに選択して、L学を渡り歩けるんですよ〜……う
ふふふ〜」
「いや、どうせ私は君主だし。今回はやめておく」
「ありがとうございます。ハイドラントさん」
 篠塚弥生――一応表向きには、この第二茶道部の顧問ということになっている――が、
唐突に言った。今は茶室に合わせた和風の書物机に、十三使徒関連の書類を山と積んでい
るのだが。
「……はい?」
 弥生はいつも通りの冷静な視線をハイドラントに当て、
「つまり、この、虚偽申告紛いの弁明に満ちた『塔』への報告書と十三使徒構成員による
問題行動にまつわる学校側との折衝または始末書が6割を占める書類整理を、雀の涙の足
しになる程度には処理して下さるということなのでしょう?」
「…………。へいへー……」
「それじゃあ、仕方が無いですね〜ハイドさん〜……うふふふふふ〜」
「……だからその笑い声はやめい」


 ともあれ、ハイドラントはお茶を啜り、たけるはクソゲーを始め、電芹はそれを観戦し、
弥生は書類整理に戻る。かようにいつも通り(推定)の第二茶道部の午後が過ぎていく。
 部室には、その立場上、人の出入りもそれなりにあるのだが、
「……失礼します」
 その時現れたブレザー姿の男子に、ハイドラントは軽く首を傾げた。
「どうかしたか、神海。微妙に焦げているが」
 あまり深刻な陰りを見せない表情だが、疲れ果てているのは確からしい。
「どうも、朝から不運が続きまして……」
「ほう。具体的には?」
「流れロケットパンチとか流れサウザンドミサイルとか流れ鬼畜ストライクとか流れ鬼の
爪とか流れ電波とか……」
「ベタ過ぎ」
「ぎゅう」
 ツッコミ魔術で炎上させて庭先に蹴り出す。
「ったく。貴様もSS使いなら、大局的にものを見ろー、じゃない、もちっとプライドを
だなー」
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ〜〜………」
「……ほんとに何なんだ、おたけさん?」



     【突発クソゲーハンターっぽい午後/L国志7・乱離編】


(ちゃ〜ちゃららら〜〜(雄大っぽさを出そうと努力している音楽))
《川越たけるは、特殊技能 呪いを使いました》

たける『アイヨヨ〜 アイヨ アイヨヨ〜〜★』(AoEの聖職者っぽい音声で呪文)


《神海が君主ハイドラントに人事を進言しているようです》

神海 『導師、なぜ俺が弥生さんの元で働けないのですか!? 是非参謀府の一員に!』
ハイド『うーむ。弥生さん、要るか?』
弥生 『むしろ邪魔です(0.1秒)』
ハイド『じゃ、却下(0.05秒)』
神海 『ずかーんっ!?』


(チャラリラリーン!)
《川越たけるの呪いは成功しました。
 たけるは210の経験値を獲得しました。
 神海の評判が5低下しました。
 神海はショックで3日間寝込みました。》


             **  **  **  **


「ううう、酷い仕打ちを……」
「……いちおー味方だろ、このシナリオでは」
「意外と精確なシミュレーションかもしれませんわね」
「う〜ふ〜ふ〜……このゲーム、パーティアタックでも経験値が稼げるんですよ〜」
「……たけるさん……」
 それぞれコメントを述べると、弥生は書類整理に戻り、たけるは半眼のままゲームの続
きに取り掛かり、電芹が後片付けを始めた。




「待て、神海」
 復活するなりいそいそと弥生の隣に回り込み、出されたお茶を取って口をつけようとし
ている神海を、ハイドラントは呼び止めた。
「言おうと思っていたんだが」
「……なんでしょう、ハイドラントさん」
 言葉を交わした後、僅かばかりの沈黙。緊張をはらむような。

「茶を飲むなら金払え」
「そんな理不尽なっ!?」
「どこが理不尽かっ!?」

 議論が平行線になったところで魔術で吹っ飛ばしてノックアウト。それだから、この種
の議論はいつもうやむやになってしまうのだが。
「失礼します、導師」
 攻撃魔術後の一服中のこと、新たな訪問があった。
 障子が開くと、かなり大柄な男の姿が見える。厚手のワイシャツに革のベスト、ズボン、
グローブ。埃が漂ってきそうな、着古したこてこてのカウボーイスタイルだった。腰のベ
ルトには合計4挺の拳銃が光っている。
「氷上か。例の報告か?」
「フフフ……御明察です、導師」
「……明察ってもんか? ともあれ、ご苦労。読み終わるまで、そうだな、クソゲーでも
していたらどうだ?」
「クソゲー……ですか?」



     【突発クソゲーハンターかも知れない午後/L国志7・誘惑編】


(じゃん、じゃらりらりらら〜ん(勇壮な雰囲気を出したい音楽))

《氷上零の行動です》

「フフフ……ほう、これは……」

《何をしますか?》

 鍛練
>勧誘
 決闘
 売買
 特殊


《誰を勧誘しますか?》

  ・
  ・
 太田香奈子
 岡田
 柏木楓
 桂木美和子
>神岸あかり
 来栖川綾香
 小林芳美
 坂下好恵
  ・
  ・


氷上 『フフフ……先輩も我らがダーク十三使徒に入信しませんか?』
あかり『ごめんなさい、浩之ちゃんに、宗教が来たらドアを開けるなって言われてるから
   ……(ばたん)』

(ブッブー!)
《神岸あかりは氷上零の勧誘を断りました》


             **  **  **  **


「うふふふふ……零君、残念だったね〜」
「フ……フ、フフ……流石、名高いクソゲーブランドだけのことはある……理不尽この上
ない……」
「いや今のは流石に無理からぬ反応だと思うが」
「何をおっしゃるのですか導師っ。あかり先輩は未だ真理に到達していないだけなのです。
そう、必ずや神岸先輩もダーク神の教えに……ええい、今にきっとっ! ああ畜生っ、あ
の男め、先輩とあんなことやこんなことや、ああ!? 貴様、そんなことまでかあっ!? 
くそっ、いつか必ずこの手でえええっ!!!!」
「自分の妄想でキレるなっ!」
 両腰の拳銃に手が伸びたところで、ハイドラントの右フックが空を裂いた。正確に氷上
のテンプルを捉える。乱射開始直前のモーゼルが一発暴発したが、氷上自身は昏倒して畳
に倒れる。大事無い。

「いわゆる現代的な若者ですわね」
「零さん、順番飛ばしちゃうよ〜……うふふふ〜……」
「カルシウムの摂取をお勧めします」
 それぞれコメントを述べると、弥生は書類整理に戻り、たけるは半眼のままゲームの続
きに取り掛かり、電芹が後片付けを始めた。
「ハイドさん、神海さんはどうしますか?」
「んあ?」
 流れ弾が当たっていたらしい。神海は眉間に穴が空いて昏倒している。
 ……昏倒で済ませて良いものかとも、僅かに思うが。
「あー、まとめて捨ててかまわん」
 済ませることにした。


「ところで、氷上君の報告書とはなんだったのですか?」
「近頃の学園における、食べられそうな物体の分布とその習性。弥生さん達も見るか?」
「結構です」
「ハイドさん、綾香先輩とまた喧嘩したの〜? うふふふ〜……」
「衣更えの時期でしたからね」
 それぞれコメントを述べると、弥生は書類整理に戻り、たけるは半眼のままゲームの続
きに取り掛かり、電芹が後片付けを始めた。
「……結構便利なんだぞー……」
 ちょっといじけてみたり。




     【突発クソゲーハンターじゃないかな午後/L国志7・幼年期編】


《平坂蛮次の順番です》


「ぐふふふふ……」


 全武将一覧 >>> ソート >>> 昇順 >>> B



  《名前》      《B》
 赤十字美加香     67
 来栖川わるち     67
 HMX-12 マルチ    68
 HMX-12D Dマルチ   68
 柏木初音       69
 雛山理緒       70
 柏木楓        71
 藍原瑞穂       71
 松原葵        72
  ・
  ・
  ・


             **  **  **  **


「ぐふふふ……ちゅるぺたじゃあっ! ●●●●に●●●●なで●●●●●るんじゃああ
っ!!」
「電芹、やっちゃって☆」
「でーーんーーちゅーーうーー……」
 高々とした跳躍――イベント画面移行により地形無視――からの。
「スパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァイクッッ!!!」
「おぶっはああああああああああああっ!!!」
 平坂の顔面を正円に凹ませつつ吹っ飛ばし、
「ぐぎゅ」
「ぐはっ」
 復活しかけた神海と氷上を下敷きにして庭先に墜落した。
「性的嗜好の表現にいささか問題ありではないでしょうか」
「蛮次さん、浮気しちゃ駄目だよ〜。マルチちゃん一筋でいこうよ〜……うふふふ……」
「ふむ……やはり、電柱スパイクでは変圧器を地上8メートルの位置に調整するのがベス
トのようですね。室内では7.5メートルの方がコンパクトなスイングを期待出来るので
すが。……奥が深いです」
 それぞれコメントを述べると、弥生は書類整理に戻り、たけるは半眼のままゲームの続
きに取り掛かり、電芹が後片付けを始めた。
 襖を開けるなり飛び込んできた光景を、一通り見終えた後、ハイドラントは事の元凶ら
しき男に口を開いた。
「……人が席外している間に何やっとる」
「押忍! 失礼しました!」
 たちまち庭先から復活して、太い声を轟かせる。さすがに頑健さに定評のある男だった。
 氷上零よりも、更に二回りは大きい。あからさまに緑葉帝50年代か60年代の番長ス
タイルを誇示する平坂蛮次だった。
「平坂か。何か用があったか?」
「実は……氷上どんの報告について、重大な追加があるんじゃい」
「ほう? めぼしい食い物の新発見でもあったのか?」
 首を傾げる。第二購買部販売のレポート用紙を受け取ると、ハイドラントは更に意外に
思った。報告は鉛筆の太い筆跡で数ページに渡っている。あからさまに武闘派の平坂に対
しては、この予備調査の方は期待していなかったのだが。意外と几帳面なところがあるの
だろうか。
「……で、何々? ………」
 ハイドラントは沈黙した。なぜか、リストには、割と見慣れた名前が数十人並んでいた
から。
 この学園の生徒の名。――高等部だけではなく、初等部がかなりいる。女子が殆どだが、
ちらほらと男子の名もある。内容は、氏名と学年、外見的特徴。それから、かなり詳細な
学内での行動パターン。重要らしき部分には赤鉛筆で丸が付いていたりもする。
 それらの人物の共通点は。
 ……一人で調べたとしたら、確かに大した情報量ではあった。
 ハイドラントは平坂を見る。人相の悪い目付きで――という自覚はある。
「……いちおー聞いておくが、何だこれは?」
「ぐふふふふ……何を隠そう、この学園で食べごろな――!」
「電芹、やっちゃって☆」
「でーーんーーちゅーーうーー……」
 以下同文。



「……ったく、うちの男どもは」
「悪態をつきながらも、そのリストは懐にしまうのですね」
「誤解だっ!」
 ハイドラントの絶叫が初夏の青空にのほほんと吸い込まれていく。
 風があったので、ハイドラントにとって幸いなことに、暑くはない一日だった。そろそ
ろ終盤になりつつあるらしいクソゲーと書類整理を横目に見る。なんとも平和な光景であ
る。
 庭先には、男三人が未だ暑苦しくのびたままだったが。
 いや。
「うー……」
 神海が、のたのたと縁側に這い上がってくる。復活したらしい。いつのまにか、絆ソウ
膏をバツ印に、額に貼っているのが気になったが、
「あ、すみません」
 片づけようとした電柱の先端が当たってその顔面を抉り取ったので、ハイドラントはツ
ッコミをいれる機会を逸してしまった。
 神海、六たびノックダウン。
「……てゆーか、なんぼなんでも何かあったのか? シコルスキーの拳にやられたよーに
顔面抉られてる神海」
「はあ。どうにも、呪われているようで」
「……バチが当たったんですよ〜」
 ゲーム画面から首を(首だけをぐるりと)巡らせて、たけるが口を挟んだ。
「……バチ?」
「そう、バチです〜。藁人形に、昨日一晩で十二回分お願いしましたから、叶ってくれた
んです〜。うふふふ〜。反省してくれましたかぁ〜?」
 間延びした声に加えて、頭の揺れが振り子のように大きくなっている。徹夜明けハイも
そろそろ限界らしい。
「……それを呪いというような気がするんですが」
「私怨か」
「うーふーふー……? ハイドさん、何か言いました?」
「……タニンノイヤガルコトヲシタンダロウ? ヨクナイゾ、コウミ」
 馴れない台詞に片言になりながらも、ハイドラントは深入りを回避した。
「もしこのまま神海先輩が反省しないようなら、ジン先輩とDセリオさんの決闘に巻き込
まれたり、食堂の決戦に巻き込まれたり、耕一先生争奪戦に巻き込まれたり、月島先輩の
破壊電波に巻き込まれたりしたのみならず、西山先輩の暴走に巻き込まれたり、あっきー
の突進に巻き込まれたり、風紀委員会の捕物に巻き込まれたり、ハイドさんと悠先輩のじ
ゃれ合いに巻き込まれたり、アフロの皆のタマダンスに巻き込まれたり、あまつさえ背景
に取り込まれたりするかもしれないんですよ?」
「そ、そんなことになったら!?」
 神海の顔が真っ青になる。
「神牙指数がうなぎ上りっ! いや既にしてやばいような気もしますが。にしてもそのよ
うな惨い仕打ちを受ける謂れがどこにあると!?」
「気づいてないみたいですね〜☆」
「……気づいてなかったんですか?」
「事情は分からんが、そこでなにげなさそーに私の名前を出すな」
 そんな電芹とハイドラントのツッコミも無視して、神海は悲愴に救いを求めた。


「何とか説得してください、グレースさん!」


 ぶっつん。ちゅー。


 たけるのこめかみで血管ぶちきれて血が噴出して。
「……ふふふっ★」




「おらおらおらーーっ! なんかムシャクシャすっから消し飛ばせっ、ヨークーーッ!!」





 猛烈な閃光が、第二茶道部の庭先を綺麗に掠め取って神海の姿のみを押し流した。

 ……その光の先で三年生校舎「アズエル」が陽炎の如く蒸発したのだが、それは別の話
ではある。


「自業自得、ですわね」
「うーふーふ〜……★」
「……早めに諦めた方がいいと思いますよ」
 それぞれコメントを述べると、弥生は書類整理に戻り、たけるは半眼のままゲームの続
きに取り掛かり、電芹が後片付けを始めた。



     【突発クソゲーハンターだと思う午後/L国志7・落星編】


(じゃ、じゃん、じゃんらりらりら〜(終盤っぽく雰囲気を出す音楽))

《川越たけるは、特殊技能 呪いを使いました》

たける『アイヨヨ〜 アイヨ アイヨヨ〜〜★』(AoEの聖職者っぽい音声で呪文)


たける『ハイドさんハイドさーん、買置きのお茶菓子食べたの、神海先輩なんですよー☆』
ハイド『ぬあにぃ〜〜!? これで87回目だろうがっ、今度こそ処刑じゃあっ!!』
神海 『87回とも濡れ衣なんですよっ!? てゆーか川越さんの口に餡子がっ!』
たける『うーふーふー☆』
ハイド『ええい、問答無用! そこへ直れっ!』(しゃきーん(抜刀を知らせる合成音声))


神海 『……最後に一目、弥生さんに……ぐふっ』


《神海は死亡しました》
(ちゃ〜〜らら〜らら〜〜(物悲しいっぽく努力してるけど厚みの無い音楽))

(ちゃらりらりーん!)
《川越たけるの呪いは成功しました。
 たけるは210の経験値を獲得しました。
 たけるの知力が1上昇しました。
 たけるの魅力が1上昇しました。
 たけるの評判が3上昇しました。
 たけるは功績を認められて筆頭使徒に昇進しました。
 たけるは功績を認められて軍師に任命されました。》

ハイド『その戦功やよし。これからも頼むぞ、おたけさん』
たける『はーい、頑張りますっ! それで、せっかくだから組織名を「コンバット十三使
   徒」にしたいと思うんですっ』
ハイド『うむ。君のいうことなら間違いあるまい。我々は今日から「コンバット十三使徒」
   だ! うわははははは!!』


             **  **  **  **


「…………ゲームとはいえ……」
「うーふーふ〜。パーティアタックだけで上り詰めちゃったよ〜。やっぱりここのメーカ
ーはこうでなくっちゃね。次は反乱しよっと★」
「………」
 ……ハイドラントの眼前2メートルより先は瓦礫の山と化していた。遠く向こう、まだ
まだ続いている爆光と地響き(とその中心にいるであろう神海)を、安っぽいゲームミュ
ージックを友としながらしばらく眺めて。
「電芹、お茶受けのお代わりはあるか?」
「はい、ハイドさん」
 ハイドラントも傍観モードに移行することにした。
「……胃が痛え」




 戦い済んで日が暮れて。



 結局神海は、宇宙皇帝ダークマスターが平行世界からお出ましになって三次元が消滅の
危機に瀕する辺りで、泣いて謝ったという。





      エピローグ?


 ――翌朝。

「川越さん、電芹さん、ご苦労様です」
 授業前に第二茶道部に立ち寄った二人は、その姿を見てしばらく呆然としてしまった。
「あの……神海さん?」
 神海が、第二茶道部の縁側を雑巾掛けしていたのである。
 しかも、割烹着姿に三角巾で。
「はい? ああ、これですか。やはりこういった雑事は義務になろうかと思いますから。
失礼させて頂いています」
「義務? ですか?」
「はい」
 三十センチ近い身長差のたけるを見下ろす形になりながら、神海は、にこりと言った。


「師匠とお呼びしてもよろしいですか? 川越さん」
「せっかくだから、たけるって呼んでください〜………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………え?」


「昨日の師匠の呪い、まったく感服しました。自分の拙い呪術などまったく及びも付きま
せん。よろしければ今後、その心構えなどご教授いただければ幸いと思いまして」
「………………………………」
「とりあえず、弟子の務めとして第二茶道部での雑用は任せていただきましょう」
「…………………………………………………………………」
「三年ほど自活してましたからね。料理以外の家事ならだいたい出来ますよ。至らないと
ころがあれば努力します。如何でしょうか?」
「……………………………………………………………………………………………………」
「……たけるさん?」
 困ったように電芹がたけるを促がすと、途端にたけるの時間が動き出す。
 電芹の首をひっ掴んで。
「へぐっ?」
 揺さ振る。
「ふぎゅぎゅっ」
「あうあう私が師匠だってどうしよ電芹そんな大層なの私には無理だよだって師匠って言
ったらあっきーだよもっと殴ってくれっ!だよ攻撃食らわなくちゃいけないよ私が殴られ
たら『おーーのーー』って言って倒れてデスクリムゾン進化できないリセットやり直し百
回くらいで骸骨ロゴ恐いよだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「たたたたけるさん、神海さんは武術を教えてくれとはおっしゃってませんよよよよ……」
「でもでも師匠って言ったら西山先輩だよマスターカエデだよぐるぐる回って拳が光るよ
緑の髪で三つ編みお下げだよあっあのお下げって一度ほどいてみたいよね今度みんなでお
揃いしてみたいかなって思うから試してみようか電芹あああっでも楓さんに萌えなきゃい
けないんだよーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
「おおおおおおおちちちちちちちちちちつつつついいてててててて…………」
「そういうわけで師匠、ここの雑用はお任せください。お二人はこれから、ハイドラント
さんのお茶にだけ気を使ってくださればよろしいですからね」
「ほらほらなんか偉そうになっちゃうよっははぁ〜だよEDGEさんだよハイドさんとあ
の修行する自信なんてないよだって手に酢だよ鉄下駄だよ廬山昇龍覇だよ土星でかけっこ
だよ家元養成ギブスでぎりぎりばったんライガージョーだよでもでもあのきぐるみは一度
入ってみたいから今度お願いしてみようかところでネッキングハングツリーはちょっとひ
どいよ電芹っ☆」
「落ち着きました?」
「……うん」
「おお、ご承知して頂けたようで幸いです。では師匠、次はどこを掃除しましょうか?」
「あうあうあうあうあう〜〜〜〜…………」

               (後略)





 ……というわけで。


 起死回生の逆転劇により、電芹は37回目のタイトル防衛に成功した。


 じゃない。


 神海は第二茶道部の雑用係と相成ったらしい。多分。


                        「第二茶道部な日々」 おしまい

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 未許可です。……なんか色々と。
 使徒達の日々外伝、半分クソゲーハンターの午後、でした。外伝1(年始参り編)も完
成してないのに第二話かい、とか、もしかしてこれって入部L? また所属増やすんか、
とか、我ながら救いがたいものを感じつつあったりします。他色々と。


>第二茶道部関係各位様へ(と言ってもお二人だけですが)。
 こんなものを書いてしまいましたが、どのみち神海は、弥生さん目当てで「部室」には
出入りしてるつもりですので、特に設定や交友関係に変更が加わるわけではないと思いま
す。……多分(笑)
(これに準じて、実働の予定がない時にはダーク十三使徒でも下働きしているような気が
します(笑)。……と言う予定だったのが去年の10月ごろ。いつのまにか十三使徒にも
『後輩』な方がいらっしゃって、そうもいかなくなってしまったのでしょうか。はぅー)

 神海という男、キャラ的にはこういう細々とした事が好きなんですね。特に人様の作業
に首突っ込むのが。それであーゆーキャラですので、人の下に付くということ自体は苦に
しません。「立場の上下」という感覚に思いきり疎い、というのが正確な所なんですが(笑)
 作者としては『下っ端扱い』が当初からの目標でしたし。

 てなわけで、当方としては所属順など気にせず『下克上』してくださって一向に構わな
かったりするんですが、どんなものでしょうかねー?(笑)>氷上零さん 平坂蛮次さん


 では、私信。

>川越たける様
 やらかされてみました(笑)。
 具体的に教授してもらうというわけではないでしょうけれど(笑)、神海は勝手に、た
けるさんを尊敬と畏怖の念をもって見ることにします(笑)。
 でもまあ取りあえず、呼称は「たけるさん」「電芹さん」で落ち着いたということで、
よろしくお願いします。
 基本的には、ですけどね…(笑)。


>氷上零様、平坂蛮次様
 そういう事で、ダーク十三使徒参入、おめでとうございます(?・笑)
 どうにも、提示されたパターン通りの芸の無いネタでしたね……。ご勘弁ください。
(平坂さんの場合、丁寧語っぽく広島弁を書く、というのが私の想像力外の問題で、かな
りでたらめになってしまいましたが)
 ……お二人に出演してもらったのは、無論歓迎の意味と、新年Lの中後編で出番が作れ
そうに無いから、という不届きな理由もあったりします(汗)。



 作中、L学キャラクターの「B」のステータスは、葛田玖逗夜様原作(?)、現在管理
者陸奥崇様、「L学バストランキング」より拝借させていただきました。無断でしたが、
この場でお礼申し上げます。


 最後に更に私信。
 すみません、ユンナ書けませんでした(汗笑)


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 おまけ


ハイド「……で、おたけさん」
たける「どうしたんですかハイドさん? なんだかヨモギを噛んだみたいな顔して」
ハイド「奴、結局アレが目的なんだろう?」


神海「掃除終わりました。どうでしょう、篠塚さん(にこにこ)」
弥生「最初と比べて大分よくなりましたね。ほぼよろしいかと思います」
神海「ありがとうございます(にこにこにこにこ)。これも篠塚さんのご指導のお陰です
  (にこにこにこにこにこ)。これからもよろしくお願いします(にこにこにこにこに
  こにこにこにこ)」


たける「うん……やっぱりそうとしか見えませんよね」
ハイド「……ったく、うちの男どもは……」
神海 「(にこにこにこにこにこにこにこにこにこにこにこ)」
ハイド「……………」
神海 「(にこにこにこにこにこにこにこにこにこにこにこにこにこにこ)」
ハイド「……………(ぷるぷるぷる)」
神海 「(にこにこにこにこにこにこにこにこにこにこにこにこにこにこにこにこに)」
ハイド「うっがあああっ、うっとおしいわあっ!! プアヌークの――!」


                      ちゃんちゃん♪(時代遅れのオチSE)


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                              000630 神海