Lメモ秘録 「真実」 投稿者:神海



             Lメモ秘録 「真実」



「えー、明日、5月13日は、ご存知の通り開校記念日で休日となります。Leaf学園
はお休みですが、勿論世間は平日で、他校もいつも通り授業がありますので、あまりはめ
を外さないように……」
 校門前の桜並木が葉桜へと移り、新緑が眩しくなる季節。
 試立Leaf学園の生徒、数千名を詰め込んだ体育館では、足立教頭の穏やかな口調で
の挨拶が始まっていた。
 明日の休日に浮かれているのか、私語を交わす生徒も幾らかいたが、目立つほどではな
い。
 時々笑い声があがったりしては、体育教師を中心とした教師陣に後ろに忍び寄られて頭
を小突かれたりしている。
「……というわけで、今から8年前、柏木耕平校長が、来るべき21世紀を見据えた教育
形態を見出すために、『試立』という名を掲げて……」
 そんな時。
「あのー」
 唐突に、手を上げた生徒がいた。
「なにかな?」
 足立教頭はスピーチを中断された事に腹も立てず、マイク越しに穏やかに聞き返す。
 それは2年生の男子、藤田浩之だった。学園全体から見ても有名な生徒である。
「あー……前から疑問だったんですけど……」
 浩之は言葉を途中で切り、ぽりぽりと頭を掻いた。彼らしくもない躊躇のようだったが、
また足立をまっすぐに見上げて。
                  ....
「結局なんで、このLeaf学園ってこんな風なんすか?」
「―――」



                 沈黙。



 ……返答の代わりに訪れたのは、不気味なほどに不自然な沈黙だった。
 むしろ、その奇怪な『間』が、その場の者達の思考を悪い方向へ刺激してしまったのか
も知れない。
 やがて方々で起こったささやきが、幾つかまとまって大きくなり、更に周囲を巻き込ん
で、瞬く間に体育館全体に反響するほどの大きなものになる。
 教師と風紀委員達が声を張り上げて注意するが、今度は効き目が無い。彼ら自身が動揺
しているのだから、無理もない。
 ――と。

 カッ――

 靴音が、全てのざわめきを無視して全員の耳に轟いた。
 それは、無言でステージに登る、柏木千鶴。
 ざわめきを制止するのではなく、何か意思表示するわけですらなく、ただ視線をまっす
ぐに向けたままステージを横断する。
 その靴音に制圧されるように、ざわめきは急速に鎮まっていった。
 彼女は戸惑う教頭からマイクを譲り受けると、壇の正面に佇んだ。
 水を打ったような静寂に支配された中、千鶴のしっとりとした声が伝えられる。
「……その質問にお答えいたしましょう」
 いつになく真面目な、声と表情で。20代前半の女性とは思えない静けさで。
 ――或いはそれは、本当にごく一部の者か知らない、柏木千鶴という女性の持つ本性の
一つなのかもしれなかったが――
 生徒達も、緊張の気配を纏う。
 彼らをそうさせる理由は、十分すぎるほどあった。
 痛々しい記憶の疼く昨年の「大戦」。地下に張り巡らされる広大かつ危険な迷宮。鬼伝
説。人ならぬ者達の闊歩。常軌を逸したテクノロジー群。外部からの密やかな、時には極
めて直截的な、干渉。記録に残されない数々の異変。一部の生徒達の不穏な動き。
 ――なにより、「SS使い」と呼ばれる者達が集まる理由。

 この学園には、秘密がある。

 誰も改めて口には出さないが、それはこの学園に関わる者全てに共通する、確信だった。
 特にSS使い達の中には、自分達の存在理由が、この学園の中に隠されていると考える
者も少なくない。
 彼らとて、自分がなぜ自分であるかを、完全に理解しているわけではないのだった。人
がなぜ人であるかを、殆どの者が悟り得ぬままに生涯を閉じるのにも似て。
 その『秘密』が、図らずも今、衆人の前に明かされようとしている――?
 数千人の視線を一身に浴びながら、千鶴は、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「この試立Leaf学園が、私達の祖父、柏木耕平によって建てられたということは、皆
さんご承知のことと思います」
 一語一語。一つの言葉が全ての者に浸透するのを確認するように、ゆっくりと。
「そのお考えの一端を、私は以前、お聞きしたことがありました」
 視線を上げ、空間のどこかを見つめる。そこに、過去の記憶が映し出されているかのよ
うに。
「あれは、私が8歳の誕生日を迎えた日のことで……」







『千鶴や。千鶴は大きくなったら、何になりたい?』
『ちづるは……がっこうの先生になりたいんです』
『おー、よしよし。じゃあお祖父ちゃまは、千鶴のために学校を建ててあげようかな。誕
生日プレゼントだよ』
『わあっ、おじいちゃまだいすき!』
『ほっほっほっ……くすぐったいじゃないか、千鶴』






                ……………………
                ……………………
                ……………………
                ……………………
                ……………………
                ……………………
                ……………………
                ……………………





「「「「「「「「「「「「「「「「「ちょっと待て」」」」」」」」」」」」」」」」」






「孫にはとても甘い祖父でして……。
 それでは皆さん、明日は良い休日を(ぺこり)」

『ンな学校のために…………俺達はああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!???』








        ――『SS使い達による開校記念日前日動乱』――




                         ――勃発76秒後に武力鎮圧。







 ……因みに。

 シリアス設定保有系SS使い達は、翌一日を精神的再建のために費やした。




                                   おしまい

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
                              000710 神海




       ……たまには、こんな真実があってもいいでしょう?(いいのかっ!?)