『どよめけ! ミス・L学コンテスト』エントリー編「カノジョのジジョウ」 投稿者:神海


 ――『リズエル』地下5階――

 曰く、悪の地下秘密基地。
 曰く、L学園の悪役請負組織。
 曰く、シスコン会長と欠食児童(失礼っ(汗))の悪巧みの本拠。

 暗躍生徒会室。

 今更のことではあるが、問題視される生徒は学園に数多くいても、自ら『悪』を名
乗る組織は唯一、この奇妙な自称生徒会あるのみである。
 そんな、学園に混乱を招くことを使命として日夜暗躍する彼らにも、安寧の一時が
あった。
 地下深いこの部屋。僅か――本当に僅かだけ──地上からの震動が伝わってくる事
があるものの、気にするほどのことではない。
 太田香奈子は、企画中の『どよめけ! ミス・L学コンテスト』の書類から顔を上
げ、大テーブルに集まっている面々を見回した。
 月島留香は、購読しているファッション誌に真剣に目を通している。力が入るあま
り眉根が少し寄っているのが可愛いかもしれない。
 隣には、パートナーのHi-waitが、少しだらけた姿勢で、これまた購読しているらし
い週刊情報誌を眺めている。週刊ステップだか、ステフだかスタッフだかいう名のも
のだ。
 城下和樹がレミィの諺しりとりに付き合って、それなりに盛り上がっている。
 健やかは香奈子の事務を手伝ってくれている。行動派が多すぎるこの生徒会の中で
は、彼は貴重なデスク上の戦力だった。視線に気付いて顔を上げると、彼は首を傾げ
た。
「なんでもないです」
 少し笑って答える。
 なかなかのんびりとした光景だった。
 月島拓也の逆鱗にさえ触れなければ、実はこの部屋、学園でも屈指の平和地帯なの
だ。そのボスは実働隊長役のRuneと合わせて今は不在だった。
「こうしてると、ここが地下の秘密基地なんてこと、忘れそうよね」
 反応したのは、意外にもHi-waitだった。週刊誌内の読み物にでも感化されたのだろ
うか。
「そうだな。たまには、こんな平和に過ごすのも悪くはない……」
 そんな、和やかな悪の秘密基地に。



 ぴーーーーんぽ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん☆




 軽薄なほどに心地良く、来客を知らせる電子音が鳴り渡り、




『うふふっ、兄チャマのシャッターチャンスを日々追い求める、暗躍生徒会室によう
こそ〜★ 逃げても無駄よ、兄チャマの秘密、デ(ピーッ)がみ〜んなカメラに収めち
ゃってるんだから!
 じゃ、室内へ、チェキ!!』



 明らかに学園二年生・D氏の声が勝手に応答したのは、昼休み終了二十五分前のこ
とだった。




          『どよめけ! ミス・L学コンテスト』


                エントリー編

              「カノジョのジジョウ」




「チェキじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇええっ!!!」
 月島留香がズガターン! と椅子ごとひっくり返り、Hi-waitが口の中のお冷やに構
わず絶叫する。見事なリアクションっぷりだ。
「Oh! お客さんのようネ!」
「わぁ〜〜い、おっきゃくさーん!」
「ちょっと待てやおまえらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
 嬉しそうにはしゃぐレミィと城下和樹を、Hi-waitはかなりマジに怒鳴りつける。
「どうしたノ? Hi-wait」
「お客さんだよ?」
「ここはあくまで秘密基地だぞ!? インターホンなんか付いてるわけがあるか! 
悪の罠だ! 行ってはいかん!」
「「え〜〜っ?」」
 その時、顧問の七瀬彰が奥(台所があったりする)から出てきて、悪阻のような女顔
を曇らせた。

「あ……ごめん。まずかったかな、インターホン」

「先生の仕業かぁぁぁ!!??」
「つーか、なんだ今の声はっ!?」
「絶対ウケる流行ものだって、九品仏君がくれたPC用音声プログラムだけど」
「あ・い・つ・かぁ〜ッ!」
「こんなに地下深くにあったら、お客さんが大変だろうし……」
「客なんて来るわけないだろうっ?! 
「……お客さぁん……」
「出ないのノ?」
 取り残された城下とレミィが、寂しげに注意を喚起する。
「ほら、実際来てるんでしょ?」
「ぐっ……!」
 Hi-waitが言葉に詰まる。
 今まで沈黙していた(状況についていけなかったのだ)大田香奈子がそこで口を挟
む。
「と、とにかく、出てみましょうよ。お客さん……なんでしょ?」
「はい、受話器はこれ」
 彰が中古のPHSを差し出す。少し前から室内に転がっていたものだ。
「……どうも」
 こほんこほんと何度も咳払いして(動揺が抜けない)から、香奈子は受話器のスイ
ッチを入れた。
「もしもし、あ、あの、あ、暗躍生徒会……室……なんです…けど……」
 語尾が小さくなる香奈子の声に対して、インターホンのスピーカーから声が聞こえ
てきた。


『──エントリーシマス。──エントリーシマス』


 気が挫けかけた。

・
・
・

「あのー、そのー、ね? まず、この書類に必要事項の記入とサインを……」
「──エントリーシマス ──エントリーシマス」
「……あなた、鉛筆持てないんじゃないの?」
「──ドヨコンデス ──ドヨコンデス」
「…………えーと」
「──クイーンデス。──クイーンデス」
「……………」

「あーっ! うっとおしいぃぃぃっ!! それ以前に、参加資格があるのか? コレ
にっ!?」

 先に切れたのは、端で見ていたHi-waitだった。無理もない。「エントリーシマス」
と「ドヨコンデス」と「クイーンデス」の繰り返しを15分も延々聞かせ続けられれ
ば。
「夢幻来夢やら水野響やらを出場させようとして却下された一派がいたと聞いたぞ?
コレは外見人間ですらないではないか!」
「でも、一応女性人格のはずだし……」
「──レディデス。──レディデス」
「ほら」
「……その姿で女を騙るとは、貴様──!」

 Hi-waitが、処理に困ったあらゆる状況を力尽くで解決できる決め台詞を放とうとし
たとき──

  ぴんぽーん♪

 再びインターホンが鳴り。


『押忍、あにぃ! 俺とあにぃの二人だけの乱取り空間、暗躍生徒会室へよく来たね!
さあ、明るく俺とソーカイな体験を始めようか!』


 ……体育会系男の太いきゃぴきゃぴ声が、部屋中に轟いた。 


「……もう、勝手にしてくれ……」
 気勢を削がれたHi-waitががっくりとくずおれる。留香が無言でぽんぽんと肩を叩い
たりする。
 その二人を含め、全員の視線が香奈子に集まる。
「……あの声の後に喋るのって、すごい恥ずかしいのよ……?」

 副会長の義務らしい。

 こんな時に不在の月島拓也を呪わしく思いながら、香奈子はPHSを取り上げた。
「……はい、暗躍生徒会室ですが……」
『――あ、通じてよかった。三年の神海ですが、Dボックスさんはいらっしゃっいま
すか?』




                  ◇




『よくぞ来た、兄くん。我らが滅びとダークの砦、暗躍生徒会室へ──』

『ここは学園に秩序と安寧をもたらし、兄君殿をお護りするための暗躍生徒会室でご
ざいます。兄君殿、入室の合い言葉として「秩序に勝利を」と──』

『……香しき薔薇の園、暗躍生徒会室へ、ようこそいらっしゃいました、兄や……。
 このギ(ピーッ)、兄やに上手く挨拶できておりますかな……? 爺やが、こう申し
上げろというもので……。不安でございます……』

「すごいね、どこから聞いてもあの人たちだね。声だけだけど」
「……実名に音をかぶせるあたりが生々しいよな」
「彼なら嬉々とやりそうだけどね」

 なんだかんだで和気藹々と品評会を始める暗躍生徒会の面々の一方で、神海は、て
きぱきと書類を代筆して手続きを終えた。
「──と、これで全部ですね?」
「……ええ」
「それでは、よろしくお願いします」
 さほど深くはないが、神海は頭を下げる。
「……ご健闘を」
『ご検討を』と言った方がいいのではないかとも思ったが。
「ええと。次はどこへ行けばいいでしょう?」
 問われて、香奈子はしばし沈黙した。
 足元の箱に視線を落とす。


 ……コレに、アレを?


 ……深く考えるのはやめよう。手続きが終れば、それ以降は自分の管轄ではない。
 お役所主義全開の心境で、香奈子は答えた。

「次は……第二購買部で制服の試着です」




                  ◇




「…………………逃げたね、beaker」
 坂下好恵は、30秒ほどの沈黙の後、やっとそうとだけ言えた。
 第二購買部に訪れたところ、beakerが、やってきて、「ミスコン」の件で用付けら
れたのだ。
「今来ている参加者のお二人に、いつも通りアンケートをとってくださいね。
 僕は注文の取り付けがありますから留守番よろしく」
 それはいつもの、ややマイペースな部分もあるbeakerの態度だった。少しだけ足早
に廊下を歩いていったのが気にはなりはしたのだが……。

「うん、まずまずよ」
 ……『ソレ』を伴って更衣室から戻ってきた齋藤勇希教師は、驚愕すべきことに、
動揺していなかった。それどころか新たな境地への挑戦を果たした満足のうちにある
ようにさえ見える。
 とはいえ。
「あ、あははは……まずまずですか」
「──セイフクデス。 ──セイフクデス」
『身体にぴったりフィットする水着』の上に、『L学指定のセーラー服(ピンク)』を
着込んで走り回る自走箱。

 シュールな光景だ。

「やあ、よく似合っていますよ。Dボックスさん」
 にこやか、かつさらりと、神海が女性に対する礼儀を守る。
(……この男の誉め言葉、絶っ対に信用しない)
 好恵は心に誓った。仮に純粋混じりけの無い本心だとしても、まったく嬉しくない。
「と、とりあえず……エントリーした人には、アンケートに答えて貰うことになって
いるんだけど。いい?」
「──アンケートデス。──アンケートデス」
「……まず、参加動機は?」
「──クイーンデス。──クイーンデス」
「………あなたのチャームポイントは?」
「──ハコデス。──ハコデス」
「…………護ってくれる全校の人たちにアピールの一言を……」
「──テレマス。──テレマス」
「……………その制服を着た感想を」
「──ゼッセイデス。 ──ゼッセイデス」
「………………」
 好恵は思考をやめた。
 無言で書き留めて、用紙を折りたたむ。どうせこれを活用するのは、beakerか大会
当日の運営部だ。自分の責任ではない。
「神海先輩……コレを応援する理由、一応聞いときたいんですけど?」
 つい『コレ』呼ばわりしてしまい、神海は怒るかとも思ったが、好恵の想像は外れ
た。
 彼はあくまでにこやかに。
「もちろん、それがDボックスさんの意志だからですよ」
「……さいですか」
 ……何も言うまいと思った。




                  ◇




「──……もちろん、Dボックスさんも警備保障の一員ですし、参加するのであれば
協力するつもりですが……」
 Dセリオは当惑を隠せなかった。
 来栖川警備保障Leaf学園支部。その玄関口。
 Dセリオの前には、ブレザー制服の三年生、神海が立っていた。
「それはよかった。あなたが協力してくれるのなら心強いですから」
「──アリガトウゴザイマス。──アリガトウゴザイマス」
 Dボックスはいつも通り、カタカタと自走しながら同じ言葉を二度繰り返している。
「──ですが、なぜ、こんなものに出ようなんて思ったんですか? Dボックスさん」
「………」
 返事がない。
「──Dボックスさん?」
「──クイーンデス。──クイーンデス」
「──……?」
 Dボックスは、ありていに言って、現在のメイドロボ水準にとっては時代遅れの思
考ロジックしか持たない。だが、それだけに単純作業の確実性については定評がある。
その内容はともかくとして、質問すれば即答するし、記憶力はDガーネットを上回る。
アームも精密作業はできないが、反復には強い。
 その彼女にとって、返事が遅れる、ということはあまり考えられないことなのだ。
音声センサーの不具合でもあったのだろうか?
「──コウミサン。──コウミサン。──アリガトウゴザイマシタ。──アリガトウ
ゴザイマシタ」
「──あ……」
 神海に挨拶すると、Dボックスは奥に引っ込んでしまう。まるでそそくさと。
 変だった。定期検診の時に注意を払おう、と考えてから、Dセリオは正面に視線を
戻した。
「……──神海さん、でしたか?」
「はい」
「──あなたの方は、なにを企んでいるのですか?」
「もちろん、Dボックスさんの力になりたいだけですよ」
「──……信じろと?」
「信用がないんですね」
 当たり前だ。
 なにしろ彼は、かつてこの警備保障支部を襲撃し、陥落寸前にまで追いやった、
『ダーク十三使徒』の一員なのだから。彼を支部内に入れず、玄関で立ち話している
のもそのためだ。
 神海の方は、それらのいきさつをまったく気にした素振りも見せない。
「そういえば、落とし物がありまして」
「──話を……」
 Dセリオが遮る前に、神海はバックパックから一冊の冊子を取り出した。
 派手な煽り文句が目に飛び込んでくる。

『学園に舞い下りた、華麗なる戦女神の素顔に迫る!』
 表紙写真は、ジン・ジャザムと戦う彼女の合成写真。

  『爆弾乙女 創刊号』

 それは、彼女自身がその存在に反対し、結果的に解散に追い込んだ、Dセリオのフ
ァンクラブ会報だった。
「──なぜ、あなたがこれを?」
 神海は比較的新しい転入生のはずだ。これが発行された頃に学園にいたはずがない。
 しかも、まだ発行部数が少なかった創刊号は、裏でかなりの値段がつけられている
──と、Dセリオはへーのき=つかさからの噂で聞いたことがあった。その辺に落ち
ているはずがない。
「落とし物ですよ。俺が持っているのも変ですから、預かっていてもらえますか?」
「………」
 神海はそれを差し出したまま言う。引っ込める様子も無いので、Dセリオは受け取
っておいた。一冊残らず燃やしてしまえ、というほど嫌っていたわけでもなかった。
 それは大分読みこまれているのか、妙な形にへこんだ跡がついている。
 不審の視線で睨むが、神海は堪えた様子も見せない。神海はもう一度笑って見せて
から表情を整えた。
「ともあれ、よろしくお願いします。Dボックスさんのために」
 と、握手の手を差し出す。
 Dセリオは取り合わず、席を立った。

「──あなた方となれあうつもりはありません」
「それはつれない」




                  ◇




 ……後刻、支部長室。

「──それにしても……」
 Dセリオは、Dボックスが貰ってきたコンテストのパンフレットに視線を落とす。
そのルールの項。

『ヒロイン以外の競技参加者に対しては、どのような攻撃も許されます』

「……──なんでもあり、ですか」

 ……ちょうど入室したへーのき=つかさは、斜め後ろ45度の位置から彼女の釣り
上がった口の端が見えた、と同僚たちに語った。




                  ◇




 ……かくして、動機も見通しも不明なまま、Dボックスのエントリーはなった。
 神海以外の応援者は現われるのか? それ以前に相手にされるのか? 競技の行方
も予断を許さない。
 なぜなら、全員に忘れられて最後に生き残り、という可能性も捨て切れないのだか
ら……。(利己的な願望)


 一方、上機嫌で第二茶道部へ帰宅(帰宅違う)した神海の前に、想像だにしない究極
の選択が待ち受けていたりもするのだが──


 それはまた、別の、お話。

              ── 無意味に森●●オ調で ──

                          どよコン本戦へ つづく

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 ……なんてーか、前半部が暴走しきってますが(笑)
 便乗させてもらったギャラさんにごめんなさい、声だけ出演の皆様にもごめんなさ
い(笑)

 えー。と、いうわけで、まず無事にエントリーできました。最強大穴万馬券、Dボ
ックス様です。トトカルチョ、入れるなら今のうちですよ〜。協力しとくと見返りが
巨大ですよ〜(笑)。

 さて、我らが(複数形)愛すべきDボックス様ですが、特にご本人の機動力の無さが
致命的。せめて、ミノ●スキー・クラフトとか、ありでしょうかね?(笑)
 霜月さんの「推薦ならDセリオを」という要請を蹴ってしまったので、彼女に戦う
動機を用意してみましたが(笑)
 メタオを出したかったのですが、ここで騒ぎを起こすと開会に間に合わなくなって
しまうので残念ながら省略してしまいました。本戦ではどうにかしたいです。

 最後に、L学ガーディアン4姉妹(強弁)を生み出し、この度の急なお願いに快く許
可をくださったへーのき=つかささんと(少し勝手な解釈かもしれない設定を書いて
ますが……許容範囲でしょうか?)、本イベントを企画してくださったYOSSYFLAMEさ
んに謝意を。

 では、盛り上げていきましょか〜。


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           ――D箱様胸ラン入り推進委員―― 010530 神海