「くっくっく……言うようになったね、長瀬くん」 「ははは……月島さんも相変わらずのようですね」 激しく電波を散らし合う祐介と拓也。 電波と殺気で周囲の空間が歪んで見えるほどの険悪っぷりに、アフロ同盟の面々は とっくに気付いている。 「……まあ、折角護ってくれてるわけだし、気付かないふりぐらいしてあげましょ」 溜息を吐く緒方里奈と、ぽややんとしている月島瑠璃子。 その周辺では、祐介&拓也の電波で倒された襲撃者に、次々とアフロをかぶせてい く同盟メンバーの姿があった。 ・ ・ ・ ・ ……──と、いうような情景が、学内の某所で展開されていた同刻。 さらに学内の片隅では。 「……くすくすくす……会長……私には、『堂々と優勝を狙えるよ。君ならね』なん て言っておいて……結局彼女に走るんですね……ふふ……私なんて……私なんて、ど うせ……うふ、うふふっ、うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……」 コンテストエントリーヒロインの一角、暗躍生徒会副会長・太田香奈子が、一人、 あっちの世界一歩手前で涙に暮れていた。 『どよめけ! ミス・L学コンテスト』 第十四話 〜Afro strikes!!〜 ……モノクロに沈んでいく、初夏の陽光に照らされる学校の光景。 喧騒が、狂騒が遠くなっていく。 世界から現実感が失われていく。それは、狂気の淵へと堕ちる証。 ……もしかしたら、彼女にとっては近しいのかもしれない──世界。 ──だが。 無彩の光と音の中。 その時、その声だけが、彼女の耳に響いたのだ。 鮮やかな輪郭と、色彩とを、伴って。 「Hey! 力が欲しいデースカ?」 「ええ。とっても」 「…………即答イタダイタノ、初めてデース……」 ちょっとだけ感涙しそうになった、アフロ同盟が長、TaSだった。 ◇ ……コンテスト参加者、非参加者を問わず、廊下を行く者全てが、驚愕と戦慄の表 情で彼女に道を譲っていく。 二年生、太田香奈子は、学内でも知名度が高い方だ。元生徒会副会長にして現暗躍 生徒会副会長。無理無茶無謀無駄無意味の五拍子が揃った暗躍生徒会の活動が経済的 に破綻を免れている理由の一つは月島拓也を陰ながら支える彼女の献身があってのこ とだと囁かれてる──のかどうかは割と不明ではあるが。 ともかく。 ──その太田香奈子の頭に、ふさふさ、こんもり、ゆらゆら、黒々と、アフロ(レ ディースサイズ)が乗っかっているのだから、無理はなかった。 「ト、ユーワケで、アナタが生徒会長に就任した暁に、コノ学園のミナサンをを全て アフロにしてしまえば、ナニモカモ我々の思いドーリデス!」 「相変わらず、過激なのか迂遠なのかわからない手段ねー」 香奈子の一歩半前を、妙に体重が無いようなふよふわした足取りで歩いていくのは、 マスター・アフロことTaS。香奈子の一時的──で終わるか否かは定かではないが ──な同盟者になった生徒──というには非常な違和感がある──だ。 「なんだか、TaS君がまともに二本の足で歩いてるの、初めて見たような気がする わ」 「HAHAHAHA! 善良な一般生徒を捕まえてヒドイお言葉デース!」 豪快、というには致命的なまでに『重さ』を喪失している笑いで、TaSは香奈子 の疑念を一笑に付す。香奈子もそれ以上突っ込む気も無かったが、別の疑問が湧いた。 「……でも……あなた、瑠璃子さんのところにいたんじゃないの?」 「Oh!」 TaSはいつも通りの大仰なジェスチャーで『ペシッ』と靴墨の塗りたくられた自 分の額を叩いた。 「アナタはソレをご存知ナイはずデスネー! 登場きゃらノ垣根を越えてはイケマセ ーン!」 「……あなたにそんなこと言われると、とても悲しいんだけど」 「シカーモ!」 TaSはどこからともなくノートPCを取り出すと、それを香奈子に見せた。 「このトーリ! ドヨコン第三話にワタシの名前は登場してイナイのデスヨ! ワタ シがどこにイテも不思議ではありまセーン!」 「あ、本当。ごめんなさい」 「ご理解いただけて幸いデース」 TaSはふへらっと肩をすくめて、 「因みに、他のミナサンがドコでドウしてるのかも定かではありまセンケドネー」 「……まあ、別にいいけど」 突っ込んでも無駄なのは明白なので。 「それで──」 これからどうするつもりなのか、香奈子がと問おうとしたとき、急にTaSはドア の一つに身を寄せた。 怪訝に思った香奈子と目が合うと、 「シィーーッ。面白い話が聞けマース」 サングラスの奥で一つ、ウインクしてみせる。 (あ、意外に愛敬あるのかも) などと思ったりしながら肯いて、香奈子も同じようにドアに耳をつける。 ……廊下の往来でドアに耳をそばたてる、アフロ二人。 (ああ……私、堕ちてるのね) 僅かに生き残った香奈子の恥と外聞が、そう嘆く声が聞こえたかもしれない。 ◇ 「とにかく、わかったから作戦開始よ!!」 松原美也の勇ましい呼号が風紀委員会室に響いた。単に、他の人間の様子に一切頓 着していないからこその威勢かもしれないが。 完全無欠に気後れしている生徒指導部の面々をよそに、美也は先陣を切って出て行 こうとする。 「……あー、そういえばふと思ったんだがな?」 ふと、永井の呟いた声に、ドアノブを捻りながら、美也は振り向く。 「なに、永井君?」 ──俺たちがおまえに従う理由ってどこにあるんだっつーか、坊主orアフロなんて 俺らもお断りなんだが──。 だが、そんな想いが現実に口にされる前に、美也は扉を開けていて。 「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!」 運命の鐘のように鳴り響いた『それ』が、永井の言葉を無為の彼方に押し流してし まった。 「アナタガタのディルクセンサンへの熱き想い、シカと受け取りマシタッ! 彼にア フロをプレゼントするタメに、ワタシも力をお貸ししまショウッッ!!」 左手で右の耳を抑え、いやにねじくり曲がった姿で右足爪先立ちという決めポーズ らしいもので取り美也たちを指差しつつ、アフロ白ラン靴墨グラサン物体は、そう宣 言した。渾身の力を込めているのか、微妙にその身体がぷるぷると震えていたりする。 「ま……確かに、不意討ち食らう方はたまったもんじゃないわね、これ」 その一歩下がって、なぜか黒いアフロを被った太田香奈子が、一人、ぽつりと呟い た言葉は、空しく彼らの脳を素通りしていった。 ◇ 「シカシテッ! アフロを求道するマイ同志たちの数も揃いマシタッ! 後は行動あ るノミデスッ!」 微妙に間違えているかもしれない日本語で宣言するTaS。 「で、誰から剥きにかかるの?」 するとTaSは、くねり、と身を翻して香奈子に一礼した。 「我々は契約者たるアナタの意志に従うノミデス。Order please, our mistress!」 なぜか最後の部分だけ、いやにシリアスに響いたりする。 「あ……私が決めていいわけ?」 「我々って俺たちもかっ!?」 エキストラ(香奈子主観)からの悲鳴は無視して、香奈子は沈思した。エキストラ (あくまで香奈子主観)の面々が、期待と不安の入り交じった視線を寄せるのはわか ったが── ──考えるまでも、なかった。 自明のことではないか。 「決まってるじゃない」 香奈子は、断言した。 ──今にも、両の頬に三本の痕(きずあと)を浮かび上がらせそうな── 笑みで。 「瑠璃子さんの水着を拝みたいの。月島さんの目の前で」 「Wow……そいつはワンダホーデース……」 TaSが囁くように呟いた感嘆には、ちょっとだけ困った様子が浮かんでいた、か も、しれない。 ……生徒指導部の面々が滝のような涙を流しながらアッチの世界へ旅立っていたの たのは、無論のことではある。 生存者残り二十六名で、第十五話へ ── 今度こそ責任譲渡(笑) ────────────────────────────────────── …………参加者各位の健闘を祈ります(笑)