Lメモ私録R 『なんでもない日』 投稿者:神海



『朝だよ、お兄ちゃん』


 狂うほどに望んだ笑顔に引かれて、戻ってきた。

 だが、掻き抱こうとしたその姿は、朝の光の中のどこにもなく。
 冴えきった覚醒の夜だけが去り、ぼやけた陽の光だけが何も変わらず残った。

 全てが、薄い膜の向こう側にある。
 自分の微笑みさえも。



         Lメモ私録R  『なんでもない日』



 不意にぶつかってきた音たちに本当に身体を圧されたような気がして、由紀は
思わず足を緩めた。
 弾むボールの音、擦れるシューズの音、生徒たちの喚声。体育館独特のオレン
ジ色の照明の下、バスケ、バレー、その見物の生徒たち。ざっと数えて20人強と
いうところか。それらを大きな音色が包む。一つとして同じものはではないのだ
ろう、捉えられないほど数多くの、水滴が弾けて消える音の群れ。雨音だ。
「まずまずの人出ね。何をするのかわかったもんじゃないけど」
 隣に立った桂木美和子が、困ったような顔で頷いた。もっとも、彼女はいつも
そんな調子なのだが。
「あの子たち、教えてくれてもいいのにね……」
「ま、期待しても仕方ないけどね。揃いも揃って秘密主義なんだから」
 美和子は小さく苦笑いして頷くと、ハンディカムカメラを取り出した。まずは
バスケットコートの片面を使っている生徒たちに向ける。そこにいたのは由紀も
よく知った同級生だった。ピンクのセーラー服の下にジャージを穿いた女子が、
ゆっくりとドリブルの音を響かせている。
「それじゃあ、まず一本ヨ」
 目立つ長身と金髪。スリーポイントエリアの外側をゆっくりと迂回するのは宮
内レミィだった。敵の陣形を崩そうとする動き。藤田浩之がそれに乗って間合い
を詰める。間隙が生まれる、そこにすかさずオフェンスの男子が滑りこむと、す
っと高く腕を伸ばした。
「宮内さん!」
「Hey!」
 レミィが出したパスは鋭くその左手に叩きつけられる。彼の名は昂河晶。
 彼の正面にいるのは長瀬祐介。上背(178センチだ、と由紀は憶えていた)
を生かしてディフェンスに対しポジションを取ると、ふっと、「沈む」。一つフ
ェイクを入れると、パン、と小気味のよい音を立てて八塚崇乃へバウンドパス。
対照的に小柄な崇乃は低く素早いドリブルでゴール下へ切り込む。
 だがその瞬間、佐藤雅史が眼前へ詰めていた。さすがに速い。コツを飲みこん
だ密接するディフェンス。崇乃は手を焼いたように半歩下がって──自分の背後
に、「ほいっ」とボールを『置いた』。
「Yes!」
 レミィが金色をたなびかせて駆け抜ける。崇乃をスクリーンにしてサイドから
にゴール下へ折り込もうとする。対応した雅史を前に急停止。鋭く身体を右に振
ると同時に手首を返す。背中越しにバウンドさせて左にスイッチ。完全に雅史の
逆を突き、抜き去る。なおも正面を塞いだ祐介の──
「アキラ!」
「ッ!?」
 足元を貫くバウンドパス。走り込む晶。低い位置で受けてバランスを崩さず、
二歩走って跳ぶ。リングの斜め下へ、伸びるようなレイアップ・シュート。
「させっか、よっ!」
 浩之がその後ろから跳んだ。ボールが晶の手から離れた瞬間、思いきりブロッ
ク・ショット。ボールはバックボードに跳ね返って、大きく飛んでいった。
「よっしッおわぁっ!?」
 勢い余って壁際まで転がっていく浩之。
「うわー……。今のは参ったなぁ」
 晶がさすがに少し悔しそうに頭を掻いた。浩之の身長は、彼より低いのだ。
「とても帰宅部とは思えないよねぇ」
「ヒロユキはなんでもやればできるのヨ」
「うるせーぞ、そこ!」
 雅史とレミィがわざとらしく感嘆して、転がったままの浩之が怒鳴りつける。
祐介は一人、肩で息をしながら控えめに笑っている。日頃の運動不足だろう。
「ダイジョーブ、ユースケ?」
「いや、その呼び方は別の人みたいなんだけど……」
「な、そろそろチーム換えにしないか?」」
「そうだな……」
 そんな相談を背中に聞きながら、晶はボールを取りに駆けている。なんとなく、
いつもそんなことをしているような印象のある彼だった。
 と、その晶と目が合った。今初めて気付いたようで、たった今失敗したせいか、
由紀たちに微笑むと、照れたようにひらひらと手を振る。由紀も手を振り返した。
「ねえ、由紀ちゃん? 最近思うんだけど、昂河君ってさ……」
「ん?」
 振り向くと、美和子のカメラがまっすぐに由紀を見つめている。真正面から撮
られるのは妙に恥ずかしい。
「なに撮ってんのよ。ほら、向こうのバレーも」
「あ、レンズに触っちゃ駄目だよぉ……」
「で、昂河君がなに?」
「もういいよ……」
 美和子のいつも通りの困ったような声。この時はどこか、嘆息が混じったよう
に聞こえた。
 コートでは、その晶がボールを受けていた。3ポイントエリアの外。レミィが
素早く距離を詰める。晶が一瞬、余所見──というより、なぜか由紀たちの方を
確認したような気がした。
 右手でボールを支え、左手を添えて、跳ぶ。全身のばねを使うように、柔らか
く。同時にレミィも跳んだ。浩之にも劣らない高さのブロック。だが──届かな
い。
 昂河は後ろへ跳んでいた。フェイドアウェイ・ショット。ボールはレミィの指
を遥かに越える。面々が何も出来ずに見送るその「上空」を、晶のぴんと伸ばし
た指先が示す、直径45センチのリングへ綺麗な弧を描いて──

 ……かすりもせず、その手前をすり抜けてフロアにバウンドした。

 全員が綺麗にずりこけた。

「あちゃ、失敗、失敗」
 晶が照れたように頭を掻いた。
「今のはびっくりしたヨ、アキラ。Beautiful!」
 素直に感心したらしいレミィ。浩之は意地悪そうに笑う。
「どーせ、漫画見て覚えたんだろ?」
「はは、ご名答」
 雨音に包まれる体育館に、男子の笑い声が響いている。
 由紀はそれを、少しぼうっと見てしまった。
 スローモーションに思えるような、綺麗なフォーム。
 同じように、自分の右手を掲げてみる。
 綺麗な手だ。
 当然のように、今、ここにある。
 一つ瞬きすると、白とオレンジの照明がにじむように降りてきて、腕にまとわ
りついた。
 外は雨。単調で複雑な、音と光の群れ。

 ……ここにいること自体が幻だというように、自分を包む。

「眩しいね」
 声。
 由紀と同じように天井にかざしている人がいた。白い、ほっとするほど繊弱な
指を広げていた。
「こうしてると、くらくらするよね。……なんだか上の方から光の泡が降りてき
て、足の方から溶けていっちゃいそうだよね」
 彼女は手を下ろすと、由紀に瞳を向けた。見たのではなく、ただ、瞳を向けた。
(……その瞳になら、溶け込んでしまえるかも)
 そう、思った。

「こんにちは、由紀ちゃん、美和子ちゃん」

 不意の真っ当な挨拶。
 思わず瞬きして、その拍子に目の焦点が合った。浮世離れした表情と、どこか
焦点が合わないような、いつもの月島瑠璃子が由紀を見ている。
「こんにちは、瑠璃子ちゃん」
 先に応えたのは美和子だった。
「こ、こんにちは、瑠璃子ちゃん……」
 由紀も慌てて挨拶しながら、パタパタと手を動かす。もちろん、身体のどこも
溶けてはいなかった。そっと息を吐く。
 美和子はそんな仕草には気付かなかったようで、瑠璃子に首を傾げている。
「瑠璃子ちゃん……なんだか、元気ないの?」
「ん?」
 言われると由紀にもわかった。湿気のせいか、髪の毛が全体に垂れ下がってい
る。目尻がいつもより下がっていて、眠たそうに見えた。
 いや、眠たそうというよりも。これは、そう。

「……なんか、萎びてる?」

「ゆ、由紀ちゃん……」
 美和子がたしなめたが、瑠璃子本人はまったく困ったものだね、というように
頷いて。
「……雨の日は、電波が雨に溶けちゃうから。受信できないと、もやもやするよ
ね」
「……ふーん」
 電波。この学園では彼女たち月島兄妹と、もう一人が持つ、超能力のようなも
のだと、由紀たちは知っている。
 瑠璃子は頭の上で何かを抱えるように両手を持ち上げた。
「だから、おっきなタライを頭に載せて雨を集めると、いろんな電波を一緒に受
け取れるんだよ。ガヤガヤガヤガヤ……って」
「……そ、そうなの?」
「アフロをつけると感度八割増し」
「………。へーえ……」
 知っているからといって、その電波使いたちの会話についていくのが楽になる
わけではない。
 瑠璃子はふと視線を由紀たちの後ろに向けると、微笑んだ。

「たこ焼き、一つちょうだい」

「……へ?」
「へい、たこ焼き一箱!」
 でん、と。
 XY-MENのたこ焼き屋台がその先に鎮座ましましていた。
「……いつのまに」
「この雨だからなー。ここが一番稼げるのよ」
 鉢巻したXY-MENは、たこ焼をひっくり返しながら飄々としている。
「答えになってないってば」
「ほれ、そっちにもいるぜ」
「なんです?」
 きしめんが振った先で、男子生徒が一人首を傾げた。吸盤式ののぼりを床に立
てたところだった。『呪い屋』と崩れた書体で書かれている。
 広げた風呂敷きには、一面照る照る坊主のアクセサリー。ストラップ、キーホ
ルダー……ミサンガまである。
 行状はけったいだが、その顔に見覚えはない。名札は三年生だと示していた。
由紀はこっそりXY-MENに顔を寄せた。
「……ね、誰だっけ?」
「んー、今月に入ってからの転校生らしいぜ。中庭であの通り屯ってる。俺らの
新しいご同業ってわけ」
「ふーん」
 美和子が構えたカメラに映しこむように商品を見回している。
「なんで、照る照る坊主なんですか?」
「これもおまじないでしょう?」
「……む〜」
 釈然としない様子の美和子。首を傾げた拍子に、そこで視線を固定させた。
 たっぷり2秒ほど静止。
「……ね、由紀ちゃん由紀ちゃん」
「ん?」
 由紀は釣られて視線を上に向けて──ぽかんと、口を半開きにした。
「……水だ」
「水だよ」
「やあ、昔、あんなコントがありましたねー」
「懐かしいなぁ……。……茶色は邪道だろ?」
 釣られて見上げた男子二人のコメント。同年代の台詞だろうか?

 体育館の天井のど真ん中。
 大きな大きなゴム風船が、雨水を溜めて大きく大きく膨れ上がっていた。XY-
MENの言う通り、茶色に。

「ていうか、もう限界」

 美和子の暢気な呟き。
 平和な喚声と単調な雨音が、轟音にかき消されたのはその時だった。


                  ◇


「はーっはっはっはっ! 我らは学園に渦巻く混乱を撲殺するために舞い降りた
正義の使者っ!」
「うー。びしょ濡れ……あっ。愛と真実の名の下に!」
 阿鼻叫喚の坩堝と化した体育館の『上空』、太い鉄骨の上に陣取っててんでば
らばらにポーズを取る三つの影。狭い空間なので、まるで怪しげな格闘技のポー
ズのようだった。
「悪の混乱請負人、暗躍生徒会ここに見参!」
 Hi-wait、月島留香、Rune。内輪呼んで特攻チーム三人組。
「またてめぇらかぁっ! この一年ど──ぐぇっ」
 浩之がバレーボールを投げつけようとして、勢いあまって滑って転ぶ。Hi-wait
が哄笑した。
「はっはっ。犬も滑って泥被りとはこのことだな、諸悪の根源一般生徒A!」
「ちょっと待て! なんだそいつは? 聞き捨てなんねーぞ!?」
「自分の胸に聞いて見ろ!」
「てめぇの口に聞くから降りて来いっ!」
「はぁーっはっはっはッ! きっぱりと断る!」
 完全に全身チョコレート色と化した浩之が地団太を踏む。薄過ぎずダマにもな
らず。ウル●ラクイズのADにも一発採用されそうな見事な泥具合だった。
「練りこまれた職人芸なんだよね」
 瑠璃子が深く頷いている。
 当然それが現場に聞こえるはずも無い。茶色に染まった被害者の数は男女20人
を越えていた。
「おい、サッカー部、やっちまえ!」
「バレーボールを蹴るのはいけないんだよ」
「そんな問題じゃねぇだろっ!」
 ひたすら哄笑する三人組(正確には二人)に堪り兼ねてハンドボールやバレー
ボールが飛び交うが、素人が蹴り上げて命中するものではない。
「はーっはっはぼっげほっげほっ……あー、喉痛て。さて、そろそろ静聴願おう
か、諸君。自分ら暗躍生徒会が、この鬱陶しい梅雨の日に──」
 Runeが余裕ぶって両手を広げて語り出す。
 ……そんな、もはや見慣れた光景を、美和子が割と平然とカメラに収めていく。
 XY-MENも冷静に『雨戸』を引き上げると、たこ焼の返しを再開していた。
「ヘイ、たこ焼三箱!」
「ねえこれ、バラ売りしてないの?」
「お客さんには敵わねぇなぁ……今日だけ特別サービスだ!」
 騒ぎの中心から一歩離れると、被害を受けなかった生徒たちの人垣ができるの
も見慣れた光景。XY-MENたちにとっては美味しい稼ぎ時だ。暗躍生徒会が無事に
撤収できるかどうかのトトカルチョも手馴れた様子で始まっている。
 今回親の権利を獲得したのは、占い商品を風呂敷に畳んで背負った三年生だっ
た。
「撤収成功がただいま3:7です。今成功に賭けると大きいですよー。単勝予想
も受けつけてます。これはさらに倍率ドン!」
 やっぱり古かった。
「Shots!!」
「ぎゃっ」
「ぎゅっ」
「ぎょっ」
 賭博対象の戦場では、レミィの和弓三矢済射が三人を同時に天上から叩き落し
たところだった。墜落の轟音とギャラリーの悲喜交々の喚声が木霊する。
「よし、ぼてくりこかせッ!」
 浩之の煽動に満を持した火力が火を噴く。バスケットボールからピンポン玉ま
で、屋内競技のあらゆるボールが集中する。頭を庇って必死に逃げ惑う三人。
「おのれ、卑怯な! 数と火力の暴力は正義の特権であるのに!」
「なんでクリームパイ〜?」
「あのね、番組の最初の十分で悪役を倒しちゃったら子供たちがチャンネル変え
ちゃうでしょーに。つーか裏切りかこの地球人外運動神経ミヤウチ星人ッ!」
「はいはい、撤収成功が1:9に変わりました。さあさあ生徒会に賭ける方はい
ませんかー? あれ、もういない? 今日はこれで決まりかなぁ」
『まぁッだまだぁっ! トトカルチョの判定は彼らが完全に無力化されるまでッ! 
勝負は下駄を履くまでわからないッ!』
「お、放送部の中継が来たぞー」
 一際高い実況を得て、一気に盛り上がる館内。流石、逃げ慣れた三人はそう簡
単には捕まらない。ステージからキャットウォークまで観客を巻き込んで逃走す
る。追い回して爆走する茶色の集団。
「うおあッ!? なんで床のど真ん中に落とし穴が?!」
「風船爆弾かよ!?」
「階段が一枚の板にぃーーーっ!?」
 悲喜交々。感心するほど豊富なトラップの数々。犯人二人は想像がついた。追
跡側の殺気の水準が上昇していくだけのような気がするが。
 XY-MENが一つ肩をすくめた。
「しかし、あいつらも飽きねえなぁ……見てていいのか、生徒会?」
「いいのいいの。それも仕事なのよー」
「ほ〜……」
 XY-MENは頷きかけて、止めた。由紀たちは返事をしていない。視線を転じる。
屋台の席へ。
「……何してる、悪の女幹部」
 肩に届くボブカットの同級生が、ちゅるると音をたてて麺をすすったところだ
った。
「昼食よ、特攻風紀委員さん。あ、由紀、美和子、お疲れー」
「うん、香奈子ちゃんもお疲れさま」
「……むしろ精神的にねー」
 美和子は素直に、由紀はおざなりに、手を振り返す。XY-MENが掌で屋台を叩い
た。
「そうじゃねえっ! たこ焼き屋台でラーメンを食うなってことだよ!」
「まーまー」
「あ、こらっ」
 香奈子はひょいと割り箸を伸ばして鉄板の上のたこ焼きを摘む。
「細かいことは気にしない、気にしな……ほふほふ」
「ったく……ちゃんと金払えよ」
 諦めたらしい。ぶつぶつ言いながら、XY-MENは一箱分のたこ焼きを手早く掬い
上げ、オイルを塗り直すと生地を垂らしていく。その速度はまさに『手捌き』。
熟練の技だ。
「ほい一丁!」
「ありがとー」
「あれ?」
 美和子がカメラを左右に振りながら首を傾げた。器用だ。
「そういえば昂河君がいないよね? あ、由紀ちゃんずるーい」
 由紀は一個当たり税込み30円の激安タコ焼を咀嚼しながら、
「んー? 泥被ったあと、もの凄いスピードで走ってったよ。更衣室かな? 欲
しかったら自分で買いなさいって」
「ふうん……見てはいるんだ……。ケチ」
 謎の呟きを漏らしたが、無視することにする。
「随分慌ててましたよね。どうしたんでしょうね?」
「水を被ると女になるとかいう線じゃないのか?」
「あはは、縮んではいなかったけどさー……」
 軽口に付き合いながらもう一口。
「そういえば、昂河先輩って、プールでも変な格好してるって一年生でも噂にな
ってますよ」
「うむ。ついでに男から妙な視線が注がれていたりもするな。電柱の額の高さに
血痕が残って電芹が嘆いている」
「……そんなことになってたんだ……」
 美和子の驚いた様子。
「ま、あの水着ではしゃーねーですなー」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
 長い沈黙。合わせられる視線たち。

『まっさかなぁ。はっはっはっ』

 全員で声を揃えて笑いあった。泥人形たちも笑っていた。一年生たちも笑って
いた。昂河を知らないような生徒たちまで笑っていた。
 そのまま画面がフェイドアウトし、空から雨の学園を映し出して──

「なんであんたたちがこっち来るのよっ!?」

 我に返った。RuneとHi-waitと留香が共に笑いあっていた。XY-MENの屋台の上
で。ついでになぜか、美和子も一緒に登っていた。
 勿論、それを巡って20から泥塗れの包囲陣が完成している。
 Runeが悪びれもしない表情で形だけ頬を掻く。
「なんつーか、破局と逃亡の果てに。具体的にはそこの生徒会異星人の裏切りの
お陰様で」
「昨日の強敵(とも)は今日の敵……悲しいことネ。世の中って厳しいワ。……
じゅる」
「ヨダレ垂らして言うことか」
「というわけで、立て篭もることになった次第です」
 ぺこりとお辞儀する留香。
「……人様の迷惑とかちったぁ考えろよ、てめぇら?」
 XY-MENは怒りに震えていたが。
「まー、事態がここに至ったからには、だな」
「……はれ?」
 Hi-waitがおもむろに苦無を取り出して美和子の首筋に突き付けた。
「さあ、この女の命が惜しくば正義に道を譲れ!」
「……あんたって、ほんとに外道ね……」
『おおーーっと! 暗躍生徒会! 禁断の人質作戦に出たーッ!』
 実況が絶叫する。どよめく館内。主に新展開を期待しての歓声だったが。賭券
を拾い直している生徒もいる。
「ちっ……人質とは味な真似を……」
 胡乱な目付きで呟く浩之。両手に持つ10キロのバーベルの芯を握り直した。
「……まあ、治安維持のためには多少の犠牲もやむを得ないと最近公言してる先
輩もいることだし?」
「同意」
 八塚がバスケットボールを玩びながら頷く。躊躇う者、無し。全員完全にラン
ナーズ・ハイに入っている。
「ちょっとちょっと! 幾らなんでもそれはちょっと過激なんじゃないの!?」
「その通り。正義の名の元に有志の協力を得て活路を開こうとしているわけでや
ましい事は何もない!」
「うるさいあんたは黙れっ! だいたいあたしらはみか──」
 とっさに口をつぐんだ。背後にひしめく殺気の群れに気付いて。
 美和子のビデオカメラは撮影姿勢で回りっぱなし。
 そう。自分たちは『味方』でも、ある。
(……気付かれたら……殺られる、かも)
 由紀の沈黙に引き摺られたように途端に静まりかえる館内。破れた天上から床
を叩く雨が聴覚を支配する。
 Hi-Waitがふんぞり返った。
「ふっふっ。正義の前に悪は反論する術さえ失ったか。とりあえず雫乃右子。そ
こな諸悪の根源一般生徒Aのバーベルの芯を奪った上に、正義の鉄槌の名の元に
撲殺してもらおうか?」
「誰が右子だぁ!?」
「だから誰が諸悪の根源だ!」
「浩之、君の突っ込み所はそっちでいいの?」
「やかましいっ!」
「んなこと言われてもなぁ……」
 Hi-waitはしみじみと首を振った。
「なにしろ二人とも名前覚えてな」
 皆まで言わせる前、由紀はHi-waitの顔面に双眼鏡を叩きこんだ。
 思いきり仰け反った彼の上を越して、双眼鏡の右と左がばらばらに飛んで、落
ちる。
「……はぅ」
 その拍子に美和子のセーラー服の襟がさっくり切れていたが。
「ぐぉのっ……! 殺す気か!?」
「ちっ。人中を狙ったのに……」
「洒落じゃ済まんぞコラァッ!? だいたい貴様も裏方とはいえ正義の盟友なら
ば、気ぃ利かせてちったぁ協力せんかい!」
「あーっ、言ったわねー!? せっかく今からどう切り抜けるか考えるところだ
ったのに! って、洒落がどうこうってあんたが言えることっ!? ほら、美和
子の襟切れてるじゃないの! 人質取るなら身の安全にくらい気を使いなさいよ
ね! だいたいあんたたち一年のくせに態度でっかいのよ!」
「このタンコブは誰のせいだコルァッ!?」

「ほう。正義の盟友な」

 冷たい冷たい呟きが背後から聞こえた。
「……あー……」
 恐る恐る振り向く。
「フジタさん?」
 藤田浩之がバーベルの柄を背中に回して身体を捻っていた。これから準備運動
らしかった。八塚崇乃が指先の上でバスケットボールを回転させていた。集中力
はばっちりだ。とある男子が『五人か……』などと呟きつつモップの絵を素振り
していた。佐藤昌斗と長瀬祐介が最後列でのほほんと静観していた。止める気は
なさそうだった。
「Restart....ready?」
「ねえ由紀ちゃん、宮内さんって、なんで五本も一緒に矢をつがえてるのかな?」
「記録に挑戦したいお年頃なんじゃないの……?」
「無論、この場に正義の使者が五人いるからだ! 男女バランスがよろしくない
のが難ではあるが」
「忘れさせててよっ!」
「つまり、おまえらも敵か。敵だ。決定」
「そっちは疑問符くらいつけてっ!?」
 そんな悲鳴も無視されて、手に各々持った凶器を光らせにじり寄ってくる。
「……せめて、バーベルのウェイトとか跳び箱十一段目とかは洒落にならないと
思うの……」
「わかったからそろそろどこうぜ。な?」
 XY-MENが優しい口調で退去を勧告していたが。
「ふっ」
 浩之が漏らしたそんな吐息が鮮明に耳に残った。由紀は悲鳴を上げようとした
が、間に合わない。

「悪滅」


 捕り物は2ラウンド8秒、両陣営All K.O.により決着。

 フィニッシュブロー / 「ショーバイノジャマダテメーラァ」
                       (無双乱舞/敵味方識別無し)


                  ◇


『ハーイ、勝利者インタビューよー。展開を決めたのはこの人、リングサイドの
燃えるたこ焼き職人君でしたー。あんまし意外でもないけどねー。さて、まずは
一言!』
『XY-MENのタコ焼き屋台をよろしく! 昼休みはまだあと15分残ってるッ!』
「えー、両者ノックアウトにつき、配当は親の総取りということになりましたー」
「ちょっと待てぇ! そこの三人捕縛されてるだろうがーっ!」
「無力化したのは通りすがりの屋台のおやっさんですしー」
『おやっさんってなんだおい!』
 ……そんな喧騒を背景に聞きながら、泥塗れの上に濡れ鼠になった生徒たちが
床に転がされる蓑虫三人組を囲んでいる。由紀と美和子はどさくさに紛れて雅史
たちの傍へ避難していた。
「おつかれさま」
「いつも大変だね」
 何事もないかのようににこにこと。
 ……この人たちにもちょっとついていけないかもしれないと由紀は思った。
「さて、どうしてくれようか……」
 浩之が指の関節を鳴らしてにじり寄る。Runeたちはバレーのネットに包まれつ
つも胸を反らした。
「ふっ。煮るなり焼くなり好きにしやがれ。これも悪の定めって奴だ」
「覚えておけよ諸悪の根源! 僕らが潰えても正義の意思はいつか必ず貴様を滅
ぼすだろう!」
「第二第三の正義の使者が私たちの後を継いでくれます!」
「ほほう。殊勝だな。遠慮しねえぞ」
 据わった目で本当にバーベルを振りかぶる浩之。
 振り下ろされる──寸前。
 ふと、声が聞こえた。

「あらら、ほんとにいいざまね……」

「なにィ?」
 ほとんど反射的な風情でRuneがすごみ、オーバーアクションで首を振り声の元
を探す。
 パチン、と音が聞こえた。指を鳴らす音。そして、何かが風をはらむ音。
 全員の視線が集中する。その先は屋台の上。黒い大きな布を纏い、翻し、その
身を包む。
「てめえは!」
「今日のことは首領に報告しておくわよ、Rune君」
 そこに現れたのは、黒いマントに身を包んだ悪っぽい威厳のある女の姿。何故
か、白い包帯がゆるく顔の半ばを隠している。
『八個で240円な』
 マイク越しの催促は聞かなかったように流す。
「我らの戦隊の中で、月島司令官の過去を知る、謎の女副司令が……まさか、彼
女が出てくるとは……」
「放送は2クール終盤を迎えていたんですね……!」
 戦慄きつつ解説する正義の二人。
「……謎の、ねー……」
 思わず目つきが悪くなる由紀。
「ようするに幹部級のお出ましってワケか」
「ケッ、首領の腰巾着が」
 芋虫のままRuneが吐き棄てた。
「今日は自分がやると言ったはずだ。あんたが出てくる幕じゃねぇんだよ。なめ
るんじゃねえ」
 女幹部は嘲るように笑った。
「その有様でよくそんな事が言えるわね? 折角、例のものが完成したというの
に……」
「なにいっ?!」
 Runeの表情から反発が消えた。代わりに浮かぶのは、驚愕。
「奴らを出す気か、太田委員!?」
「馬鹿な……あれは月島司令官の許可が無ければ使えんはずだ!」
「あの人たちをこんなところで解放したら……どんなことになるか……!」
 Hi-waitと留香も口々に説明台詞を叫ぶ。
 浩之がじろりと由紀たちを見て説明を要求したが、首を振るしかない。まった
く知らされていない話だった。それほどのものがある?
「ふっ……。戦果を挙げればいいのよ。それで首領も納得してくださるでしょう」
 香奈子は悪役らしいオーバーアクションで両手を広げる。警戒し、密集しつつ
全周囲に目を光らせるチョコレート軍団。
「さあ、出でよ!」

 一点を指して叫んだ。

「あなたたちを改造したのはこの日のためよ! 思う存分悪の限りを尽くすがい
いわ! 我らの誇るダブル改造人間、雫乃右子左子ッ!」

 一瞬の静寂。

 由紀は、自分たちに集中する100人からの生徒たちの視線を見た。
 美和子を見た。ぽかんとしながらカメラを回し続けている。

「さあ何をしているの。本来の姿を見せて戦うのよ! 異次元怪人ども!」
「な……」
 極至近の祐介と雅史が、なんだか違う世界のものを見ているような目をしてい
るような気がした。
 ……顔中が際限なく熱を持っていくのを自覚する。
「何言い出すのよあなたはぁ!?」
「はーっはっはっはっはっ!」
 蓑虫がいきなりぴょこんと跳ね起きて由紀たちの傍に跳ね寄って来た。
「さっきので今回のオチにしなかったこと、今日は後悔しますぜ、先輩方!」
「命運尽きたな、悪の徒党ども! やはり最後には正義が勝つのだ!」
「その身を犠牲にしてくださって身につけたお二人の力、味わうがいいですっ!」
 ……そんな様子を至近から変わらずカメラに収めながら、美和子は首を傾げた。
「困ったねぇ、由紀ちゃん。でもお仕事だし……変身してみる?」
「出来るかぁっ!?」
「出来ないはずがないぞ、雫乃右子。貴様の怒りのパワーが頂点に達した時──」
「やかましいっ!」
「さて、と、今度は六人か……」
「……あう」
 気だるい動きでぞろぞろと周囲を取り囲みつつある、ねっとりとした視線の群れ。
 ……先刻より危険かもしれない。
「ねえ由紀ちゃん、この変身ポーズなんだけどさ」
「ごめんなさい、美和子! 私は友情と麗しき学園生活を取るわっ!」
 由紀は邪念を捨てて駆けた。包囲網の方へ。
「それって友情なのかなぁ?」
 美和子の疑問が聞こえるが聞こえない。
「むぅ、男に迷って真の愛を忘れるとはこの学園のモラルも落ちたもんだぜ……」
「逃げるんじゃない雫乃右子! 怒れ! その怒りのパワーが頂点に達した時、
貴様は異次元怪人力の一号に変身するのだ!!」
「親友の左子ちゃんも泣いていますっ! 激しい哀しみに襲われてと技の二号哀
しみの皇女に変身してしまいますよっ!」
「だ・ま・れ・えっ!!」
 左足を軸に180度転針。鞭のようにしならせたインステップを真下のバスケット
ボールに叩きこむ。空気が爆ぜるような音。Runeの顔面に直撃して後ろの二人を
撒きこみ、ごろごろと壁際まで転がす。
 しばし沈黙。由紀の荒い呼吸だけが体育館に響く。
「んー、文句なしのストライクね」
「怒りのパワー、炸裂だね」
 他人事のようにぽつりと呟いたのは残った女幹部と美和子。
 Runeたちはわたわたと起きあがりつつ動揺しきった様子で顎差し非難してくる。
「ぅおのれぇっ! 自分の思い違いだった、雫乃右子は謀反した!」
「あなたは女でありすぎたわ!」
「しかし小娘! 自分の力で勝ったのではないぞ! その異次元改造のおかげだ
という事を忘れるな!」           ・・・
 由紀は答えず、戻って来たバスケットボールを片手で掴む。

「まだ、何か?」
『すこやかな学園生活を満喫してください』
 蓑虫三人はさっくりと土下寝の姿勢を取った。


                  ◇


「さて、残ったのはあなただけよ? 悪の女幹部さん」
 今や包囲網の先頭に立ち、バレーボール片手に由紀は厳かに宣言する。美和子
は迅速に後退しつつカメラ撮影を続行している。
「……なんてこと。まさか……」
 包囲下に置かれた彼女は、ありえないものを見たように声を震わせた。
「洗脳手術に失敗していたなんてっ!?」
「いい加減にせんかいッ!」
 肘の入ったファストボールが唸りをあげる。ひらりと躱す女幹部。模造木目の
壁が鳴く。
「ま、今日のところは引き上げてあげる」
 軽い金属音をたてて、と頭上から落ちてくるワイヤーロープ。その鐙に足を掛
けると、滑るような早さで上昇していく。
「でも、あなたたちに安息の日はないわっ! 私たちは裏切りを許さない。昼夜
を問わず我らの刺客があなたたちの命を狙うことになる。眠れる夜はないと知り
なさいっ!
 あ、健やか先輩、天井、天井ーっ! ──いたぁい!」
「あっ、ごめんごめんー」
 ……鉄骨が震える思い音ととにもに悪の女幹部は去っていった。
 あとには変わらず降り頻る雨だけが残る。

「──はっ! 思わず見送ってしまった!?」
『金払えー! ばっきゃろーッ!』
 XY-MENの咆哮が虚しく響いた。


                  ◇


「おーい、こいつら、どうするー?」
「吊るしとけー」
 和気藹々と後始末を始めた同級生たちを見て、由紀もやっと肩の力を抜いた。
 カメラをやっと下ろして、美和子は凝ったらしい肩を揉んでいる。なんだかん
だで撮影し続けていたのだ。結構根性が座っているのかもしれない。
 画像はコピーしてから、暗躍生徒会と生徒会に提出する。一つは暗躍生徒会長
の命令で、もう一方は生徒会の学内防犯資料(対暗躍生徒会編)に活用されるの
だった。
「まったく、二股掛けも楽じゃないわねぇ……なんでこんなことやってるんだろ」
「仕方ないよ……」
 美和子がいつものように、困ったようにまなじりを下げた。

「私たちがいないと、両方とも事務が滞っちゃうんだから」
「あー、何か泣けてきたかもーっ!」

 後から、笑いを含んだ声が掛けられた。
「はは、いつも大変だね、由紀さんたちも。いやさ力の一号?」
「ほんとに。せめてこっちを巻き込むのだけでも遠慮してくれると助かるんだけ
どって力の一号ははもう──」
 声に振りかえって。由紀は硬直した。
 昂河が苦笑していた。ジャージに着替えてタオルをかぶっている。
「あ、あ、あの、そのこのどのこれはそのっ! ていうかいつから!?」
「ん? どうかした? 戻ってきたのは女幹部登場の頃かなぁ」
 首を傾げる昂河。……つまり、なんとも思われなかったらしい。
 情報特捜部の号外が、暗躍生徒会の内乱を報じていた。
 トップ写真は由紀のバスケットボールが三人組に命中したところだった。
「……なんでもない」
 大分悲しくなった。


「あ、忘れるとこだった。月島さん、こっち向いてね」
 美和子がカメラを構え直して訊く。
「楽しかった?」
 瑠璃子はいつもと同じ表情で、まっすぐにレンズを見つめて、答えた。

「学校は、いつも楽しいよ」

 と。



                  ◇


「ただいまー」
 なんのわだかまりもなく、美和子が扉を開けた。
「うぃーす、お疲れー」
「正義のお役目、今日もご苦労」
「先輩方、ジュースとアイスティー、どちらがいいですか? 七瀬先生が今、シ
フォンケーキを持ってきてくれますからっ」
 RuneとHi-waitのねぎらいに続き、留香がぱたぱたと駆けて来て、あどけなく
ジュース缶を差し出してくる。
 全員、一舞台終えた後の役者たちのように、朗らかに笑いあっていた。
「あ、Hi-wait君大丈夫? あのコ結構バカ力でしょう? これ貰ってきたから」
 Hi-waitの瘤に軟膏を付ける美和子。いきなり和んでいた。
「うむ、いい手つきだ。正義の戦隊の司令部付医療士官になれぐふっ」
 留香の肘が入っている。
 頭に濡れタオルを当てた香奈子が隣から入って来て、由紀たちに両手を差し出
す。
「二人ともお疲れさま。はい、七瀬先生のケーキ」
「……なんか、たった今、とてつもない疲労感が……」
「あら、大変だったのね」
 自分の分を一切れ食べてながら、
「あ、会長がビデオをお待ちかねよ?」


「ふふ、ルリコ……。今日の趣向は愉しんでくれたかい……? おお、瑠璃子……
もう来てくれたんだね……」
(ね、やっぱクスリとか始めちゃったんじゃない。この人?)
(滅多なことは言っちゃいけないと思うな……)
 いつも暗闇の会長室。
 毎回『任務』後は、こうして月島のビデオ鑑賞会が始まる。
 遠いところへ旅だってしまった笑みを浮かべつつビデオを見守っていた月島だ
ったが、映像の最後のシーンで、途端に表情を硬くした。
 瑠璃子のコメントを録画した場面だった。失望極まりないというふうに歎息し、
何度も何度も首を振っている。
「今日もお気に召さなかったみたいね……何が基準になってるのか全然わからな
いんだけど」
「Rune君たち、大変だよねー……」
 こっそりと囁き合いながら、これから行われる事に立ち会わないのがせめても
の情けだと、二人は退出した。
 あとに暗躍生徒会長の厳かな宣告が残る。

「今日のお仕置きだルリコ」


              ◇


 膜が晴れる日は、遠い。


              ◇


 屋上。

「学校はいつも楽しいのにね……」

 呟きが風に吹かれていく。
 鉄の扉が開いて、瑠璃子の名を呼ぶ何人かの声が聞こえた。



              ◇


              ◇


『次回予告!

 悪の秘密結社悪役生徒会を抜け出した悲劇の異次元怪人二人!
 必死の想いで帰りついた故郷で見たものとは。
 彼女たちは、もう安息の日が戻らないことを思い知るのだった。
 ディメンジョン/ウォリアーズ・第二話。「あの日は、遠く」

 君は流れる星を見たか!?』



 祐介は一人夕暮れの教室で、妄想電波を撒き散らしていた。



「悲劇の改造人間……ちょっといいかも」

 ぽつりと呟いている二年生A.K君がいたりもした。


                               おしまい

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 最初に、解説。
 私録R、です。
 このシリーズは、後々来るべきかもしれない長編シリーズの設定に準拠して書
かれる予定の短編シリーズであります。
 まあ、色々好き勝手やる予定の、勝手な設定及び人間関係の慣らし運転だった
り、各種パワーバランス変更の慣らし運転だったり、書きたいけど今まであまり
出番のなかったLキャラの慣らし運転だったり、雰囲気そのものの慣らし運転だ
ったり、そもそもまだ学園にいない人もいたりします(笑)
 概ね、長編(の日常部分)はこんな感じで進みます。
 ……と言うと失望されるかもしれませんが。今までの私のLと比べてさえ、ド
タバタとして面白かったかどうかは疑問だなぁ、と思っています。まあ今回は半
傍観者(右子さんね)の主観視点だったということもあるでしょうけど……むぅ。
 まあ要するに、「こんな感じの話」になるんだよ、と思っていただけると幸い
です。
 で、割とマジメにご意見募集かもです。

 解説終了。


 今回主役(?)の二人組について。
 右子さん → 明るくおちゃらけている
 左子さん → 気弱で赤面症
 という元設定のハズなのですが……あっはっは。
 ……いや、もちょっと平穏な話では、それなりに(笑)


 そして………えー。

 膨大かつ細部に渡らねばならないであろう謝罪の言葉、省略。(おい)

 正月Lについて。目算では、このRを4、5本書いた後、になるかと思われま
す。……非常にお待たせしております。申しわけありません。
 どよこんについて。……可能な限り早急に。……でも、その一話じゃ問題の
二人とも落せないなぁ……。

 いずれにしても、巻いていかなければならないでしょう。多方面に渡って。

 とりあえず、うたわれリレーから〜(笑)

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     ─どっかで見たシチュの話だなんて言わないで─
                     030512(微改稿) 神海