テニス応援Lメモ「ていうかむしろ幕間群像Lメモ」(前編) 投稿者:神海

「第四試合は、ハイドラント&EGDE組vsTaS&電芹組に決定ーーーーッ!!」

 異様などよめきに場内が満たされる中、EDGEに蹴り転がされるハイドラントの
姿が一部の者に目撃された。


                 ◇


『はーい、それじゃ、抽選会を終わるわね。今日はほんとにお疲れさん。勝ち残
った八組にはせーぜー健闘を祈るわ。
 それじゃ、一週間後ーっ!』
 長岡志保の言葉にブーイングと笑い声交じりの喚声が返る。千人を越えていた
観客たちも三々五々と散り始める。
 あとにぽつねんと残る黒い簀巻きが一つ。頭に巨大なたんこぶが出来ている。
「…導師…おいたわしや…」
「試練じゃい、これが試練なんじゃい……」
「フフ……なんという凄絶な悲劇、なんという呪わしき宿命……」
 葛田玖逗夜と平坂蛮次と氷上零がその傍で男泣きしていた。
「貴様ら、助けんか──ぃっくしょいっ!」
 五月とはいえ、雨上がりの地べたに転がっていては冷えるだろう。人がまばら
になるにつれ、熱気も急速に冷めている。それでもまだ、ところどころに人の群
れ。観客席で熟睡してしまったたけるの前で四季に「ね、どっちが運んでしてい
くの、パートナー君達?」と言われて赤くなった長瀬祐介とmakkeiを視線で殺し
て電芹がおんぶ権を獲得していて、「……せめて一息つくための温泉旅行……」
と落ち込んでいるルミラに神凪遼刃が同情を込めた視線を送っていて、りーずに
戻ったりーずを再びろーずにして慰め合うためにYinが最近量産に成功した薔薇
エキスを玖逗夜がりーずに振り掛けようとしていた。勝ち上がれば準決勝でハイ
ドラント達とぶつかる四人のうち三人が神妙な顔で歩みより、膝を突いて彼の簀
巻きを解いてがっちりと手を握り口々に、「絶対勝ってくれよな、アフロに」
「好勝負を楽しみにしてます! アフロさんと!」「ワタシはどっちでもいいけ
どネ。黒い人's?」と言った。熱衝撃波をばら撒かれて逃げ散ると、傍観してい
たアフロ同盟員が苦笑して追いかけていった。それから悠朔が歩いてきて「おま
えとやるのは決勝だ。勝ってこい、アフロに」としごく真顔でキメたので殴り合
いになった。全ての光景の背後でひたすら踊り続ける白ランアフロにいい加減堪
忍袋の尾が切れた様子で全周囲に破壊音波を解き放ったら少し静かになった。茶
道部邸へ帰る途中、葛田玖逗夜が弟の安否を気遣う某姉のように道々の木の陰か
ら袖を噛み締めて密やかな視線を送って来て、神海が道なりに仕掛けたトラップ
をせっせと解除して、風で飛んできたのは『対ハイドラントさん・レディY対戦
決定時用。関係者以外接触禁止』という張り紙だった。神海もちらりと気遣わし
げな視線を向けてきた。
 またまとめて吹き飛ばしたところで帰りついた。
 一部始終を無言で見物し終えてから、篠塚弥生は告げた。

「人気者ですわね」
「やかましい!」
 本人は気に入らないようだった。

「くっそー……揃いも揃って舐めくさりやがって……ん?」
 引き戸を開けると、ハイドラントはのろのろと首を持ち上げた。味噌汁と焼き
魚の香り。純和風の、いかにも彼の好みらしい香り。 
 ハイドラントは背後を確認する。電芹とEGDEが首を傾げている。電芹の背中で
たけるが寝惚け眼をこすった。
 いつも第二茶道部で夕飯の用意をしているのは、自給二千円で雇っているたけ
ると電芹だ。だが、彼女達は今日、終日大会会場を走り回っていたし、今は隣に
いる。ハイドラントの疑問はそれだろう。
 床に軽い足音。
「お帰りなさい、兄様」
「ああ、今帰っ……」
 出迎えに出てきたのは、留守番役──ということにしている金色の瞳のセリオ。
皇華だった。黒いカッターシャツとジーンズは普段通りだが、今はその上にベー
ジュ色のエプロンを付けていた。とすれば、可能性は限られる。
「皇華、まさか──まさか、おまえが──」
 彼女を指すハイドラントの指が震えた。なにやらいたく感激しているようだっ
たが──

「ウッス! 今日はお疲れ様でした! お食事の用意、出来ちょります!」
 地の底から響くような怒号に完膚なきまでにぶちのめされた。

「……おい」
「やあ、お疲れさまでした、ハイドラントさん」
「フフ……献立は、鮭の包み蒸し、煮しめ、茶碗蒸ですよ……」
 次いで現れる、お揃いの黒いエプロンをかぶった男三人。神海と平坂と氷上。
 ハイドラントはひどく険悪な眼差しでそれらを一瞥する。
「なんだ、貴様らは」
「うわ、酷いですねー。皇華さんの指示でお手伝いしてたんですよー?」
 傷ついた様子もなく答えるのは神海。
「……なぜだか物凄く腹立たしいんだが。それから神海、貴様は今の今までトラ
ップ解除してただろ──」
「さー、どうぞどうぞ、EGDEさんのお席も用意してますので」
「あら、ありがとうございます。ご相伴に預からせてもらうわね」
「さ、お手を。篠塚先生」
「結構です」
「つれない……」
「聞けよ貴様」
 いつも通りのやり取りに、弥生は小さく息を吐いた。
 座敷には膳が並んでいた。
 上座にハイドラント、葛田玖逗夜、神凪遼刃、EGDE、たける、電芹。大会に出
場した者達の席。それから、もう一つ。
「私は出場しておりませんが」
「篠塚さんは偉い人なので、それだけで上座でおっけーなんですよ」
「………」
 反論もとっさに思い浮かばず、座らされてしまう。
 神海が烏龍茶のグラスを持って立つ。前置き無しで、それを掲げた。

「それでは、混合テニス予選大会の無事終了と、方々の健闘を祝して──」

『乾杯!』
 宴会に雪崩れ込んだ。


「この飯、芯が残ってるなー」
 ハイドラントの苦言に神海が照れたように頭を掻いた。
「ははっ。わかります? 時間がなかったもので」
「鮭を尾頭付きで包み蒸しにするんじゃない……80センチはあるぞ」
「ウッス! 腹減っちょると思いまして!」
 平坂が大音声で頭を下げた。
「……なんで 茶碗蒸にサボテンが入ってるんだ?」
「フフ……サボテンはサポニン、ケレタロイックアシド、ステラトサイトA、ミ
ネラル、ビタミンなどを含み……」
 氷上がテンガロンハットのつばをモーゼルで押し上げ、とうとうと語り出す。
「……この煮しめ、なんで全部ハート型に切られてる……」
「…僕の愛の証です…」
 玖逗夜が頬を赤く染めて身をくねらせた。
「葛田さんは参加者ですし、お手伝いしてくださらなくともよかったんですけど
もねー」
「…人には…譲れないものがありますからね…」
「だから君もさっきまで木の陰でハンカチ噛んでただろーに……。このリンゴが
不気味な形状に抉られてるのは呪いかなんかか」
「……すみません。私が切ったのです」
 皇華がしょんぼりと小さくなった。
「………」
「………」
「………」
「………」
 静寂の中、シャリシャリと噛み下されるリンゴの音だけが響いた。
「勝手に食事の用意なんかして……労働権の侵害なのに……時給制なのに……も
うちょっと節約すればプレミアついてた『スケバ○刑事2』今月買えたのに……」
 不機嫌そうな寝惚け眼でぶつぶつ言いながら、かなりの勢いで箸と口を動かし
ているたける。自棄食いの一種らしい。
「まあまあ、おたけさん。私から敢闘賞をあげよう。今日の給金は平日通り支払
ってやるから」
 たけるの顔がぱっと輝いた。
「ほんとですか!?」
「神海と氷上と平坂がな」
『なんでっ!?』
「この請求書の山はなんだ! せめて領収書だろうが!?」
「領収書だったら払ってくれないでしょうに」
「当然だ。つーか、貴様ら明日から強制労働だ!」
 いつも通り盛り上がっている。背後で冷たい視線で威圧している弥生の気配が
ある事は言うまでもない。
 電芹の前には巨大なバッテリーボックス。十三使徒の作戦指揮車から引っこ抜
いてきたものだ。
「これは……齧り付きですね。じゅる」
 ご機嫌だった。
「そういうものなんですかね……?」
 そんな調子で夜が更けて。

 翌日、多くの生徒が授業を寝て過ごした。


                 ◇


 予選会から二日、日曜日。

 長瀬祐介は、なんとなく学校に出向いていた。
 もはや耳に残るほどになってしまった掛け声とショットの音が聞こえてくる。
決勝トーナメントに残ったチーム達だろう。コート場の外でも、壁打ちやフォー
ムのチェックに励むペアが幾つかいた。少しの観客席とその奥の芝生にぱらぱら
と見物人が座っている。
「長瀬せんぱーいっ!」
 フェンスの向こうから手を振るのは、よく見知った──と、この数日で言える
ようになってしまった少女だった。ドリンクや軽食のメニューを掲げた、パイプ
フレームの屋台の中に座っている。
「や、川越さん。どうしたの?」
「カフェテリア出張サービスなんですよー。千鶴先生が、練習する選手とお手伝
いの皆さんにって、予算組んでくれたんです」
「へえ」
 相槌を打ちながら、反射的に軽食の棚を目で走査する。……異常無し、見た目
は。
 たけるがけらけらと笑った。
「みんなそういう目しますよー」
「へ、へぇ〜」
 精一杯当たり障りなく相槌を打つ。たけるは笑顔で焼き蕎麦を差し出した。
「祐介先輩も、どうぞ。私が奢っちゃいます☆」
「それじゃあ……ご馳走になります」
「どうぞ召し上がれ」
 同じタイミングで深々と頭を下げる二人。
「ふふっ」
「はは」
 照れくさくなって、二人同時に笑った。
 出場を決めた頃とは違う何かが、彼女と自分の間に生まれていたのを、祐介は
感じていた。


「む〜……──複雑です」

 芝生に座る二人を遠目にして、電芹は胸に去来する名状し難い想いを持て余し
ていた。半身を電柱に隠しているが、修行によって研ぎ澄まされた彼女の聴覚は
二人の会話を殆ど拾うことが出来る。
「HAHAHA! 鯉のヤマイは草木の露でモ治ラナイとユー奴ですネッ!?」
「元はと言えば、優勝した長瀬先輩を『──主人公に人権は無いのです』などと
冷徹にセリオお姉様を気取りつつ誰彼丘から突き落として身投げ完了! と指差
し確認しかるのち傷心のたけるさんを慰める手筈でしたのに、まさか、男女混合
ペアの盲点がこのような形で現れるとは……。
 こんなことならば封印された禁断のサテライトサービスでタカラヅカ男役をダ
ウンロードしておくべきでしたッ」
 ガットを口の端に噛んで切ない乙女の思いを込めつつ、仲睦まじい二人を見や
る。きゅーと引き絞られていく。
「そうですっ!」
 突如閃いた考えに電芹はガットを放した。ぐっと握り拳。ガットはべろべろに
伸びていた。
「私達が見事優勝し、然るのち密かにTaSさんを亡き者にしてしまえば、たける
さんと二人でドキドキ湯煙温泉パニック旅籠編!」
「HAHAHAHAHA! ソーユーことは本人の聞こえないところでユーもの
デェスッ!」
「ハッ!?」
 驚愕に我に返る。変わらずうねうねと踊るTaS一人。
「聞かれてしまったからには仕方がありません! TaSさんごめんなさいの口封じ
電柱クラッシュ!」
「真剣電柱取リッ! HAHAHAHAHA! ワキが甘いデスネェ、電芹サン
ッ!」
「私はッ! あなたを倒して温泉に征くのです!」
 電柱とラケットが火花を散らした。


「電芹……逞しくなって……」
「誠治ぃ! 余所見!」
「ぐごはぁっ!?」
 耕一の鬼レシーブを顔面に受け、菅生誠治は血涙と共にコートに沈んだ。


                 ◇


「セッ!」
 決まるロブに、全力で飛び付く。高く浮くボール。
 返るスマッシュ。だが既に的確に位置するレディが打ち返す。
 さらに左隅ぎりぎりに決まるストローク。含ませてあるのか自然な展開か、コ
ートを縦横に駆けずり回るのはXY-MENの役目。派手なダイビング。
「ッだあああ!」
「イン。60−30。ゲームポイント、河島・高瀬」
 女子テニス部員の宣告が無情に響く。
「あー! ちっくしょうっ!」
「素直、素直」
 いつものポーカーフェイスに少しだけ楽しげな表情。河島はるかが手の中でく
るくるとラケットを回した。
 スポーツ選手としてはそれほどではないにしろ、彼女は意外に背が高い。長い
手足を柔らかく活かした正確なコントロールと変化球で相手の意表を突き、読み
の鋭さで粘り強く拾う。今は若草色のジャージにその長い手足を包んでいる。
「XY-MEN君、解り易いからね」
 高瀬瑞希も微笑む。果敢なボレーと威力のあるスマッシュを得意にするプレイ
ヤーだ。学園最高のペアかもしれない。
「怪我はありませんか」
 唐突に近くにレディの顔があって、XY-MENは少し仰け反った。
 レディは片膝を突いて覗きこんでいる。XY-MENが肩を抑えていたかららしい。
肩から肘にかけて筋肉に触れていく。どうか、という視線。
「あ、ああ、大丈夫だ。痛くない」
 意外なのではあるが、彼女はテニスのペアとして、かなり細かい配慮をしてく
れる。コンディションから戦術までのリーダーとして、仮面の下にもう一枚の仮
面を持つような無表情で、何事に付け先に用意をしているのだ。
「さて、もいっちょいくか──」
 あるものが視界に入って、きしめんは冷や汗と共に足を止めた。
 照明の柱の辺りがどんよりと重い空気を纏っている。その後ろから顔半分だけ
覗かせてじとっと見つめる黒い視線。
「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブ
ツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブ」
 呪詛のような声も聞こえてくる。実際呪詛なのだろうが。
(エントリーしたのあんた転校してくる前だったろうがっ、神海先輩よう!)
 声に出すと、充満する殺気が一斉に堰を破るような気がしたので、彼は可能な
限り無視する事にしてラケットを構えた。

「なにをやってるんですか、あなたは……」
 神凪遼刃は、げんなりと同僚兼同好の徒の背中に言葉を投げた。
「ハッ!?」
 初夏の爽やかな晴天の下、テニスコートの太い柱一杯に、呪いの言葉が彫りつ
けられている。神代文字からサイコさん系まで。神海は練習する選手達に劣らな
い爽やかな笑顔で、額の汗を拭った。
「おっと、つい無心で一汗掻いてしまいました」
「……ま、いいですがね……あまり纏わりついてると篠塚先生に撃たれますよ」
「それはしたり。お邪魔してはいけません。遠くから戦勝を祈願することにしま
しょう」
「藁人形で……?」
「専門は蝋人形です」
「洋風ですねぇ……」
 フェンスの向こうから二人を呼ぶ声が聞こえた。見ると、よく知った女子が大
きく手を振っていた。

「はい、広島焼と、ストロベリークレープ、アイスコーヒーですっ」
 茣蓙とビニールシートが混在する即席休憩所に、ウエイトレス姿のたけるがト
レイを運んでくた。
 神海はシロップをコーヒーに入れ、クレープを口に運んでいる。
「甘党で……?」
「割と。神凪さんはたこ焼やそういうものが好きですよね」
「ええ……割と」
 遼刃は広島焼を箸で割って口に運ぶ。視線が同時にテニスコートに戻った。
「レディ組は、ひたすら実戦みたいですね……」
「XY-MENさんの基礎技術と持久力を底上げする策ですね」
 神海の言葉に、遼刃は首を傾げた。
「必要な筋肉、持久力の種類はスポーツごとに全く異なります。XY-MENさんの体
力は万全であるかのように見えますが、テニスのような激しいスポーツで万全の
コンディションをできるだけ長く維持するには、反復練習と実践を何より必要と
するでしょう。
 最大で一日三試合。基礎体力は間違いない人ですから、技術向上も含めて、1
週間みっちりやりこめば上昇の余地はまだまだあるはずです。
 問題はむしろ──」
「むしろ?」
 神海は言葉を切って、肩を竦めた。
「ナントカの後知恵って奴ですね。彼女の指導を見てそう思っただけですよ」


                 ◇


「甘いぞ月島ァ!」
 スパーン、と小気味良い音と共にサービスが月島瑠香を襲う。頭を屈めてやり
すごす。
「Hi-waitさん、恐いですよぅっ」
「馬鹿野郎!」
「アウッ!?」
 打球が容赦なく鳩尾を貫く。
「僕のことはコーチと呼べと言ったはずだ! この健忘症の根腐れボケナスがぁ
っ!」
「スポーツ少女達の憧れの的がそんな言葉使っちゃだめだと思うんですぅ……」
「やかましい! 恋だの愛だの十年早い!」
「あうあうあうあうっ」
 ボールが降り注ぐ。
「あの二人がよくそんな台詞言えますよねー」
「新手のプレイか何かなんじゃないですか?」
 横のベンチでは風見ひなたと赤十字美加香が友人コンビとしてお茶を啜ってい
た。一応練習相手に来たのだが、大会ベスト8の二人は先刻からあの調子である。
「ボレーはラケットを振り回すなと何度言ったらわかる! 野球じゃないんだ、
ラケット捨てて一塁に走る気か!」
 言っている内容はかなり真っ当な(らしい。テニスの練習はしなかったひなた
には、よくわからない)ので始末が悪い。
「それにしても……」
 ひなたと美加香は同時に息を吐いた。
「なんだかとっても心和む光景ですねぇ……」
「なんだかとっても涙が出ちゃうのです……」


「……あそこは何をやってるんでしょうかねえ」
「もしや」
 神海はぐっと拳を握った。
「ド根性コマンドを会得する作戦に出たのではッ」
「長期戦仕様ですかい」


                 ◇


 ……コートの中を見物しながら芝生をぐるりと回っていると、フレーム製の屋
台が立っていた。中で切り盛りしている女子が一人、傍に座りこんでいる男二人。
「なんだか妙な面子だな」
「あ、こんにちは〜、ジンさん。一口どうですかぁ?」
 たけるが笑顔で挨拶した。たけるとジンも縁のある仲だ。他の二人、神凪と神
海も会釈する。
「おっ、うっす。んじゃ頂くか」
 ジン・ジャザムはどっかりと胡座をかくと、空揚げを一つ摘んで口に運ぶ。た
けるが麦茶の魔法瓶を持って出てきた。
「ジンさんはどこのチームを応援するんですか?」
「んー? どこっつーなら、梓達だろうな。お約束で」
「お約束?」
「自分を負かした奴らに付くのがお約束だろ?」
「あはははっ☆ ……でも──」


「HAHAHAHAHA!! 電芹サン! 脚すまっしゅの腰ノ捻りはコノヨー
にスバヤク、そしてスルドクッ!」
「はい、TaSさん!」
「デハご一緒に。くいっく・あんど・しゃーぷ、くいっく・あんど・しゃーぷ
ッ!」
「クイック&シャープ、クイック&シャープ!」
「膝の動きを柔ラかクッ!」
「はい!」
 コートの外、揃って腰を振りフォームチェックに余念の無い二人組。
「電芹ぃ〜……」
 コートの中では菅生誠治が滂沱の涙を流していた。
「誠治!」
「──あ」
「ぼぐっ!?」
 セリオのボレーが頭部に直撃してひっくり返る。
「ぐぅ……」
「──申し訳ありません、菅生さん」
「ダンスに見取れてぼけっとしてるのが悪いんだよ!」
「いや、それは違う……」
 誠治はしくしくと頬を濡らしていた。


「──さっきからずっとあの調子なんですよ〜。大丈夫なんですかね〜☆」
「さあなー?」
 はのほほんとお茶を啜るたけるとジンだった。
「ま、優勝候補ですよね。何しろ隙がない。両者ともテニス経験者で、パワーの
ハンデもなく、智と勇を分担したコンビネーションは脅威であり──」
「何わざとらしいフォローしてるんですか……?」

 そんなこんなでチャイムが鳴った。