『どよめけ!ミスLeaf学園コンテスト』 第四十話〜Rupture. and then alliance〜 投稿者:神海

               『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』
                                第四十話
                    〜Rupture. and then alliance〜



「二者択一って、苦手なんですよ」
 中央に佇む男子は、不意に冗談めかして言った。
 篠塚弥生は、それに応じはしなかったが。
 そして、Dボックスも、当然 "皐月" も、同じように。蒼い水底のような教室
に静寂が戻る。
 何を考えているのか、わかりにくい男だ。
 それが学園の大半の、神海に対する評価だった。確かにそうなのかもしれない、
と弥生は初めてそう思った。これまで弥生は、彼が何を考えているかなど問題に
したことはなかった。行動の段になれば、彼が弥生の頼みや指示を拒絶したこと
がなかったから。行動が忠実である限り、彼の内心までは忖度する必要はない。
 だが、今は。
 否。『だから』なのだろう。二者択一。彼がどちらを選ぶのか、あるいは──
 神海は一度肩をすくめて、そしてその力を抜いた。さきほど垣間見せた珍しく
強張った表情はなく、いつもの軽薄と軽妙の境界のような態度でもなく。
 まっすぐに、彼女らを見る。
「結論の前に、一つ、いいですか?」
「……どうぞ」
 いささか肩透かしをくらいながら肯くと、神海は背負っていたナップザックを
下ろし、ファスナーを開けた。何かを取り出す。
 鈍色の金属筒。
 そこまでが一連の動作。休憩用のタオルかドリンクでも取り出すかのように、
自然に見える、そのために訓練された、動作。
 弥生が反応しかけた時、白煙が消火器のような勢いで噴出した。一瞬で神海の
姿を包み隠す。
(何がやりたいのか……)
 確かに一瞬だけ虚を付かれたが、相手にする必要はない。弥生自身とDボック
スを脱落させるよう "皐月" に命じる。……だが、 "皐月" は動かない。
 不要不急の命令よりも、彼女本来の使命を優先したのだ。彼女の近くを通し、
ぽっ、と弥生の意識野にも警告が灯る。それは。

 憎悪さえ伝わるほどの殺意。

 急転に、弥生の心身は冷たい水を浴びせられたように緊張を取り戻した。そし
て同時に気付く。自分が気を弛めていたことに。主の動揺に関わらず "皐月" は
動く。弥生の後ろを回りこんで左へ。白いヴェールを突き破って、影が、弥生の
背中に滑り込もうとしていた。短い何かを逆手に振りかぶる。
 振り返った弥生が見たのは、黒精霊の槍が躊躇いなくその影を貫く姿だった。
 ──猛烈な鳥の羽音が耳を叩く。
 それは白い紙の群れ。何百枚もの本の頁が、白煙に乗るように乱舞する。戦乙
女が金縛りにあったように硬直した。フェイク。ならば──
「──くっ!」
 弥生は思いきりその場から飛び離れた。
 ……追撃は来なかった。依然、白い霧の中を無数の紙片が舞い降りるだけ。
 刹那の呪縛から解けた "皐月" は、この場の者達の位置を再把握していた。間
合いの外。
 弥生は目の前に舞う紙片を一枚、手に取った。
『これぞ、わたしの選んだわたしのしもべ、わたしの心の喜ぶわたしの愛する者。
わたしは彼の上にわたしの霊を置き、彼は異邦人に公義を宣べる』
 ……新約聖書。
 煙が晴れていく。
 神海の姿は窓の外、コンクリートのベランダにあった。どこから出したのか、
Dボックスにロープを掛けて背負おうとしている。
「と、こういうわけです。すみません、篠塚さん」
 それはいつもの、『軽薄と軽妙の境界のような』態度だった。その右手にある
のは竹のペーパーナイフ。
 ……引っ掛けられたのか? 慣れた重みをホルスターに戻しながら、弥生は今
起きたことを反芻した。反射的に間合いを取りながら、オートマチックを抜いて
いたのだ。あの殺気を、冗談で?
「……迂遠なことをなさいますね」
 彼の一言だけで、どちらかを脱落させられる、そこまでお膳立てしたというの
に。彼は、 "皐月" の攻撃を誘ってまでそのチャンスとタイミングを殺いだ、と
いうことになる。もはや弥生のペースは霧散してしまった。
「迂遠は、篠塚さんも同じでしょう。加えて、らしくない」
「………」
「ま、俺の答えはこんな感じです。これからは敵同士ですね。よろしくお願いし
ます」
 弥生が答える前に神海は手摺りに手を掛けた。あっさりと飛び越えて、その姿
は夜の学園に消えた。
 微風が戻ってくる。弥生は "皐月" を還すと、冷たい汗を拭った。


                  ◇


 Dボックスを背負ってしばらく駆けた。
 白い月明かりと白い外灯が道を照らしている。そこは昼間なら見慣れた場所、
中庭だった。立ち止まると、神海はDボックスを下ろした。いつも自分が利用し
ているベンチの前。
「うっわー。襟無くなってますよ、襟。あと3センチで頚動脈だなあ。おっかな
いですねえ。本当、篠塚さんは容赦してくれないんですから」
 シュバルツ・ヴァルキューレの槍に襟をもっていかれたYシャツをぱたぱたさ
せながら、神海はDボックスの注意を引く。彼女は珍しくじっと沈黙していた。
カメラアイを神海の顔に合わせたまま。
 我に返って苦笑する。少々興奮してしまっていたらしい。
「──コウミサン。コウミサン」
 呼びかけたDボックスに、神海は微笑んだ。
「約束しましたからね、応援しますよ。Dボックスさんをクイーンにするために」
「──……」
 Dボックスはすぐに答えず、神海の前で小さな円を描いた。たっぷり3度回っ
てから止まって、また神海を見上げる。
「──クイーンデス。クイーンデス」
 神海は口元を緩ませた。
「それでは、改めてよろしくお願いします」
「──オネガイシマス。オネガイシマス」
 アームと握手。
「まあ、弥生さんには後で償いをしないと……っと」
 失言に口を噤む。その時、目の前に何かが生えた。

「みーちゃった!」
「のああっ?!」

 完全に不意を突かれて悲鳴をあげてしまった。
「神海先輩、いーけないんだー」
 音程を取って囃したてるのは、川越たけるだった。斜めに突き出された電柱に
コアラのようにぶら下がっている。
 深夜にもなろうという時刻に似合わない、あっけらかんとした表情だったが、
多少、非難めいたものも混じっていたように思う。
「……どこから見てたんですか」
「このように」
 声とともに電柱が立ち上がる。その根元には、当然ながら。
「運動部連合軍・先遣偵察隊なのです」
 電芹が電柱片手にくるり、と回ってポーズを決めた。バレエのようだ。たける
も地上5メートルで電柱をパートナーに同じように決めた。
「はあ」
「弥生先生、きっと傷ついてますよー。神海君に裏切られたのね、るーるーるー
って」
 たけるがするすると降りてきて泣きまねする。
「ははは、まさか彼女が。俺にあのようなことをされたからとて傷つくわけもな
いでしょう?」
「あっ、それもそうですねー。あははー」
「今までも、篠塚先生が神海さんを気になさったようなことありませんでしたし。
ふふふ」
「──アッハッハ。アッハッハ」
 夜空に拡散してゆく四人(?)の笑い声は、ひとしきり続いて、不意に止まっ
た。

「どどどどどどどどどどどうしましょうッ!? やっぱり今から戻って謝ってき
たほうが!?」
「あははー。有り得ないですってば、ほんとーにー。神海先輩ってばお茶目☆」
 まったく無垢の笑顔で、たけるは気軽に神海の肩を叩いた。

「……世界って、もう少し優しく出来ていてもいいような気がしませんか? る
ーるーるー……」
 蹲って膝を抱えてみた。一人○×ゲームは塩の味だった。
「泣かせてしまいましたね、たけるさん」
「正直が、いつも良いことだとは限らないって、こういうことを言うんだねー」
 背中に暢気な会話がぶつかってくる。泣いていることすら悲しくなって、神海
は立ち直ることにした。
「さて、真実はどうだか。単にからかわれたのか。忠告だったのかもしれません」
「忠告?」
「いつまでも二兎を追っているわけにはいかない、とね」
「弥生先生とDボックスちゃん?」
「──だけではなくて。ところで警備保障の皆さんはどちらか、ご存知ですか?」
「さっき、体育館のほうにいましたよ?」
「ありがとうございます。それではDボックスさん、そろそろ行きましょうか」
「──イキマショウ。イキマショウ」
 二人は歩を並べて歩き出した。
「あー、誤魔化したー!」
「俺の言葉で決着をつけては、競技精神にもとりますからねー」
 背中越しに何気なく返すと、たけるのブーイングは止んだ。きょとんと神海を
見ている。
「では、ご武運を」
 たけるはぱっと笑顔を輝かせた。
「頑張ってくださいねっ! ……でも、先輩、そっちは逆ですよー?」
 神海は振り向いて、軽い仕草で両手を広げた。
「気まぐれですよ」




              第二十八話 〜Night Heroins〜 へ、続く──


                 ◇


                 ◇


                 ◇


「……はず、だったんですが」
 さすがに困って、神海は慨嘆した。
 月光差しこむ夜の廊下。神海とDボックスの前に七瀬彰が佇んでいる。その足
元に転がるのは、歴戦のはずの風紀委員会生徒指導部員達。
 ふと指を一本立てて、神海は言った。カメラ目線で。
「現在、YOSSYFLAMEさん作、どよコン28話参照の状況です。観客の皆さん、ご確
認は終わりましたか?」
 学内のおおよその場所には、撮影用のカメラが据え付けられているのである。
「──サンショウデス。サンショウデス」
 Dボックスが繰り返した。
 一夜の休息の場を探して校舎内に入ると、Dボックスと神海は不運にも20人か
らの生徒指導部の一隊に遭遇してしまった。それをやり過ごそうとしたところ、
不意に七瀬彰が現れてあっという間に無力化した挙句、隠れていた神海とDボッ
クスをなんなく見つけて全部ひっくるめて『風』のせいにしている。今の状況は
概ねそんなところだった。
 そして自称風の二輪車乗り曰く、暗躍生徒会の仲直りに協力して欲しい、と。
「脈絡のないご指名ですね」
「そうだっけ?」
 真顔で首を傾げて問い返されて、神海は思わず、自分と暗躍生徒会との関わり
の有無を脳裏で検索し直してしまった。
「……ないと思いますよ、多分」
「まあ、これはこれで面白いじゃない」
「……はあ。面白いのかもしれませんが、その台詞は危険ですね」
 七瀬彰事務員はこんな人だったかな、と思ったが、それを口に出して問うのは
間抜けだった。彰も白い鉢巻を付けている。そして自分の横には守るべきヒロイ
ンがいる。
「というわけで、協力してくれないかな?  暗躍生徒会の仲直りに」
「……どの辺が『というわけで』なのか、さっぱりわからないのですが……」
「協力してくれないのかな?  暗躍生徒会の仲直りに」
「あのー」
「協力してくれないのかなあ? 暗躍生徒会の仲直りに?」
「………」
「──ケンカハヤメテ。フタリヲトメテ。ワタシノタメニアラソワナイデ♪」
 歌うDボックス。虫も殺さないような微笑みをぴくりとも崩さず神海を見据え
る七瀬彰。起き上がる気配も無い生徒指導部員達。
 収拾がつかない。──逃げてもイイよね? と心の中の神様にでも問い合わせ
てみた。CQ、私の声が聞こえますか。
「えいっ」
 不意に、ひどく重い音が彰の上に落下した。それとほぼ同時に耳に残ったのは、
それが彼女なりの精一杯、というような健気な掛け声。
 それきり静まる廊下。
「あー……」
 かなり躊躇ったのではあるが、万一にでも天祐である可能性を捨てるには忍び
なかったので、神海は、一瞬前と代わって目の前に佇む女性に尋ねることにした。
「これはいったい、どういうわけですか、澤倉先生?」
 重さに耐え兼ねて少々内股で立つ澤倉美咲は、やはり白い鉢巻を締めていた。
「混乱した人にはこれが効くよって教えてもらったのよ、神海君」
 どことなく誇らしそうに控えめに胸を張ったようだった。重くて赤い得物の下
敷きに、真紅に染まった人の頭を利用して。
「………」
 結論、回れ右。
「つれないなあ、神海君?」
 後ろから肩に手が置かれた。おそるおそる振り向く。そこにいるのは同級生。
 健やか。彼は、直前まで神海の真正面だった位置に平然と立っていた。
「……なんのご用でしょう?」
「もちろん、暗躍生徒会の仲直りに、だよ」
「………」
 げっそりとしてから。
 神海は、先刻から肌を撫でていた違和感の正体に、ようやく気付いた。
 再びカメラ目線で。
「この面子、俺がツッコミ役なんですか?」


                 ◇


 とりあえず状況を整理するという意見に、異論は出なかった。
 20分ほどして生徒指導部員十名弱(アフロ完備)が目を醒ますと、予想通り悶
着が起きかけたが、このまま有耶無耶にならないかと期待する神海がぼけっと静
観しているうちに美咲が取り成してしまった。
 永井達はぶつぶつと言っているが、現況(あるいは元凶)を打破する好機であ
ることに異存はなく、話くらいは聞くつもりのようだ。廊下の一角に車座になる。
「どよめけ! ミス・Leaf学園コンテスト」、一日目夜。
 現在、月島瑠璃子陣営はアフロ衆を従え、無尽の野を征くが如く進軍を続けて
いる。厄介な事にそれをストーキング中の月島拓也と長瀬祐介。
 それに対するは(彰の証言を元にするに)太田香奈子陣営。TaSを腹心としア
フロの力を取りこみ、さらには生徒指導部の一部を吸収して組織力にも不安はな
い。
 ここに、アフロ同盟と暗躍生徒会の、二重分裂抗争が勃発したのである。
「中世武家の処世みたいね」
 美咲がさりげなく的を射て、神海が手を打った。
「ならば、どちらが勝ってもどちらも生き残るわけで、万事めでたしと──」
「協力してくれないかな?  暗躍生徒会の仲直りに」
「………」
 目が醒めても彰は元には戻らなかった。どこかピントのずれたようないつもの
ポーカーフェイスで繰り返すばかり。
「彰君、今日はどうしちゃったのかな?」
 消火器片手の美咲がそっと頬に手を寄せて首を傾げている。……事態の異様さ
を飲み込んでいないようにも見えたが。むしろ彼女が致命傷を与えてしまったの
ではないだろうか? 神海はあまり深く考えないことにした。
 両陣営が正面から激突し、香奈子が負ければ、当然香奈子には釈然としない思
いが残るだろう。
 片や、瑠璃子の水着姿が晒され、その首謀者が香奈子であった場合、月島は彼
女に、どんな反応を示すのか?
 これははっきり言って人の想像力の及ぶ遥か外にある。
「二組が衝突し、どちらが勝っても遺恨が残るというわけだね」
「遺恨。暗躍生徒会には違和感がある言葉ですねー」
「協力してくれないかな?  暗躍生徒会の仲直りに」
 やはり繰り返している彰。
「……で、最初の疑問ですが」
 神海は大きく息を吐く。
「なぜ俺にそんなことを頼むんですか?」
 健やかが彰を眺めて肩をすくめた。
「たまたま通り掛ったからじゃないかなぁ?」
「……犬に噛まれたと思えっていうんですか……」
 神海はこりこりとこめかみの上辺りを掻いた。
 相手の言い分はとりあえず終了らしい。返事をしなければならない。交渉、駆
け引きをしても良い。
 普通に考えれば、確かにDボックス陣営(と強弁することにする)には、彼ら
の申し出を受ける動機もメリットもない。守るべきヒロインを無用の危険に晒す
だけだ。リターンがあるとしてもリスクが大きすぎる。
 しかし、これはゲームなのだから。
「ま、今の七瀬先生も含めたメンバーなら、それなりのことは出来そうですか」
「それは、了解と受け取っていいのかな?」
「条件。
 我々Dボックスさんを応援する陣営は、七瀬彰さんの依頼を請け、暗躍生徒会
の人間関係の再統合に協力する。
 これに義を感じた暗躍生徒会役員、および生徒指導部員は、今後の競技におい
てDボックスさんの優勝のために意を払うこと」
「なんで俺らが!」
「アフロ、外したいでしょう?」
「うぐっ……」
「──クイーンデス。クイーンデス」
 Dボックスがとことこと円を描く。主な5人を囲む大きな円が自分たちの団結
と祝福を暗示しているようで、神海はとても満足だった。永井は隣でとても苦々
しい顔をしていたが。
 彰が、やはりどことなく焦点の合わない瞳で答えた。
「うん。暗躍生徒会が仲直りした時には、それに恩義を感じた僕達暗躍生徒会は、
君達の優勝のために全力を尽くすと約束するよ」
 健やかと美咲が拍手する。沈黙している他10名。誰からともなく視線は永井に
移る。生徒指導部員達は、世にも情けない表情で彼らの指揮官を見つめていた。
その頭を支配する黒い悪魔。永井はがっくりと肩を落とした。
「しゃあねえ……。その条件でやってやるよ……」


                 ◇


「うーん、なんというか、想像を絶したわね〜」
「Hahahahaha……!」
 太田香奈子(アフロヅラレディースサイズ付き)が感心して、その隣でTaSが
囁くように高笑いする。一応彼なりに、隠密行動に配慮しているらしい。もっと
も、その雄々しいアフロは隠しようもないが。夜闇にまぎれて気付かれないと信
じたい。
 アズエル屋上。
 説明するのもうんざりする経緯でアフロに取り込まれた松原美也は、現在、太
田香奈子を優勝させるために力を貸す羽目になっていた。
 ミス・コンテストも競技開始から12時間を越えて、ほとんど有力な妨害に合わ
なかった月島瑠璃子とアフロ勢力は、現在300人を越える大勢力に成長していた。
「アフロの力の素晴らしさデース……!」
 屋上に伏しながらもリズム良く腰を振るTaS(当然の如く大アフロ)。
「見事なアフロ輪形陣。ダーク十三使徒と黒さ比べしたいわね」
 結構順応してしみじみ感心している美也(アフロヅラ)。
 その他、生徒指導部員20数名。それが太田香奈子陣営の本陣だった。
「シテ、ドウなさいますカ? まいみすとれす」
「へ?」
 TaSに水を向けられて、香奈子がきょとんと首を傾げた。
「作戦よ、作戦」
 美也が横から注釈する。
「アフロの大群と電波トリオに、正面からぶつかる気?」
「作戦ねぇ……」
 香奈子は小首を傾げて何か呟くと、満足げに一つ頷いた。
「美也さん達が、アフロ達を抑える。TaS君が、月島先輩と長瀬君を殴り倒す。
で、あたしが瑠璃子さんを剥ぐ。単純ね」
「What?」
「……単純と簡単とを結ぶ道には、この場合アイガー北壁ほどの難所が立ちはだ
かってると思うんだけど……」
「でも、他に手もないと思わない? 特に月島先輩に勝てる生徒なんて、ちょっ
と思いつかないし。だったらダメモトでジョーカーをぶつけるしかないでしょ?」
「役がつくかブタになるか。まさしく賭けね」
「ほら、最悪でもワンペアにはなるんだし。ジョーカーって」
「ナンだか酷い言われようですネェ」
『日頃の行いね』
 同時に左右から突っ込むと、アフロがしょぼんとしな垂れた。TaSががっくり
と首を折ったのだと気付くのに、美也には1秒ほど時間が必要だった。傷ついた
のだろうか? まさか。
「とにかく。300人のアフロに20人でどうしろと言うのよ。ここはセオリー通り、
他の陣営にぶつけて戦力を削ぐの。月島先輩達は瑠璃子さんを護っているから、
アフロ集団なんか気にもしないわ。陣形が崩れた隙にTaS君が月島先輩達をどつ
き倒して、私達が瑠璃子さんを剥く。これしかないわね」
「やっぱりワタシなんですネ……」
「ふむ。じゃ、それで行きますか。まずは生贄の集団を見つけないとね。なるた
け多くて強いとこ。それじゃあキリキリ行きましょ、キリキリ」
 香奈子は匍匐姿勢のままで器用に後退していく。
 この人、こんなにアレな感じだったっけ? と美也は疑った。アフロは知能を
吸い取るのかもしれない、とも考えて、慌てて首を振る。頭の上の例のものが半
テンポ遅れてもさもさと揺れた。なんとも気持ち悪い。
「ねえ、ところで」
 昇降口の前まで戻ると、膝の汚れを払いながら香奈子が小首を傾げた。
「あのアフロ集団、誰が指揮してるの? 瑠璃子さんが一々やるとも思えないし」
「サア?」
 無責任極まる首長が無責任に肩を竦めた。
 とても嫌な予感が過ぎるのを、美也はどうやら無視できないようだった。


              ◇


「しかし……前衛に縁がないな」
 ランニングシューズの靴紐を二重に結ぶ。サイズは良し。昔取った杵柄、とい
う奴だ。
 トランシーバーで連絡を取る。
「こちら神海。両陣営位置確認、予想内。Dボックスさんのこと、くれぐれもお
願いしますね」
『こちら美咲。Dボックスちゃんは任せて。ちゃんと守るから。
 じゃあ、彰君、予定通り始めてね』
『こちら彰、了解。
 ふふ……いい風が吹いてきたよ……まるで僕を呼んでいるようだ』
 校舎のどこかで唸りをあげる、高いエキゾーストノートを聞きながら、神海は
ちょっとだけため息を吐いた。
「ハイドラントさんに喧嘩売り、いつになるのかなぁ」


            脱落者無し、残り18名で、第四十一話へつづく──
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 ……弥生さんを出し抜くのは辛かった……(かなり色々な意味で)
 今回は神海出突っ張り(だめじゃん)
 さらに珍しく、神海主観がメイン。押されっぱなしですが(これはいつも)
 えー……
 大変大変長らくお待たせしてしまいました。何日ぶりかちょっと考えたくない
ほど久しぶりのどよコン投稿です。
 このあと、たすさんと近接バトルしたり、風龍受けて屋上からたたき出された
りするシーンもちょっと書いたのですが、カット。神海の格闘武装を作ろうかと
いう誘惑に勝ちました(笑)。仲裁軍の作戦も書いてしまおうかなとも思いまし
たが、次の人の足枷になるかもしれないのでカット。
 弥生さんとD箱様を落とさなかった理由は、ま、本文の通りです。たけるさん
と電芹は、この後に運動部連合@セリオ派の襲撃を受けたということで。今まで
警備保障を書いていた方、すみません。神海は彼女を独占してしまいました(笑)
ま、合流の機会は幾らでもあるでしょう。生き残っていれば。
 あー……弥生さんのフォローはしておく必要があるかなぁ。


 では、次は昼の部の面々……誰を書けばいいんでしょ? リクエスト受け付け
ますー(笑)


 次の締め切りまであと6日と21時間、6日と21時間しかないのだ!
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                        20031124 神海