Lメモ・『ある日の葛田・日常編』「毛羽毛現騒動 ――BLACK SIDE――」 投稿者:葛田玖逗夜




 冬のとある寒い一日のことである。
 その日の放課後、神無月りーずは、いつものように生物部部室で部屋の整理
を行なっていた。
「まったく、相変わらず使ったらそのまんまなんだから……」
 『整理』と言えば聞こえはいいが、実のところは、部長である葛田玖逗夜の
後始末だった。
 りーずの言う通り、葛田は後片付けするということ知らず、使った物はその
まま出しっぱなしというだらしのない性分なのだ。
 もっとも、それも彼に言わせれば「自分が使いやすいようにちゃんと配置し
てある」ということだったが、少々几帳面なところがあるりーずには、それが
我慢ならない。
 かくして、副部長という立場もあって、その類の後始末諸々の雑用はすべて
必ずりーずにお鉢がまわってくるのだった。
「ま、B型ってのはそーいうもんらしいよ〜」
 部屋の八割以上を占めている録地帯――床に直接、様々な木々は植わってい
る――に寝そべったままYinが声をかける。
「そうなの?」
 ――はい。
「……ってか、あのヒト、血液型あったんだ」
「それもそうだな。ま、細かいことは気にしない気にしない」
 はふ、とあくびを噛み殺しながらYinがつぶやく。
「もう!
 そんなこと言ってるヒマがあったら、Yinさんもちょっとは片づけるの手伝ってよ!!」
「おーこわ、ヒステリー……」
「ぼくは男だいっ!!」
 Yinはりーずのツッコミを寝たふりでやり過ごした。
「も〜、ホントに片づけるこっちの身にもなって――」

 ――フィーン……。

 彼の言葉をさえぎるように、部室の入口である自動の内扉が軽い唸りと共に
開いた。
 と、顔を上げたりーずの目に映ったもの――

「うきゃああああああああぁぁっ!?
 アブストラクトッ、“波動の拳ぃぃっ!!!!”
 (私信:使い方がわかりませんでした(爆))」
 りーずから咄嗟に放たれた光弾が部屋に入ってきた影を貫く!
 ――それは――





 ――巨大な毛玉だった。










          Lメモ『ある日の葛田・日常編』

       「毛羽毛現騒動 ――BLACK SIDE――」











 もこもこもこもこ……。

 どこからどう見ても黒々とした毛玉だった。
 もう力いっぱい、これ以上はないってくらいに。
 ただし、見慣れているYinの頭の上にあるようなアフロではない。
 どちらかといえば、さらさらへあーのストレートっぽかった。
 それは、りーずの攻撃をものともせず――というか、彼の放ったエネルギー
弾は毛玉の上方に向こう側が見えるだけの穴を穿ってはいたのだが――、なお
も部屋の内部へと歩み寄ってくる。

「あわあわあわわわわ……」

 むくっ

 と、その一部が持ち上がり、肌色の地膚がのぞいた。

「……も〜、いきなり撃つなんてひどいじゃないかぁ〜……」
「あ、やっぱり部長だったんですか」
「わかってて撃ったんかい!!」
 傍らで一部始終を見ていたYinが、立ち上がりながら突っ込んだ。
「だって〜、こんなことでもないと戦闘技能なんて使うことないし、へへ〜」
「……ん?……Yinさんはわからなかったの……?」
「へーへー。わかっちゃいましたがね。
 あんたのそんなわけわからないことするよーなわけわからない性格とかね」
 ぱたぱたとズボンについた埃を払いながら、あきらめの表情でYinは二人
の元にやってくる。
「で、いったいなんなんですか、これは?」
「……やー、ほら……寒いからさぁ〜……
 ……ちょっと特製の毛生え薬なんか作ったみたりしてね……
 ……まぁー、その実験……」
 どこにしまっていたのか、葛田はちょうど男性用香水でも入れておくような
角張った緑色のビンを取り出した。
「じゃあ、それって……」
「……地毛なんだ」
「……はっはっはっ……ちなみにこの下は全裸だっ!!……
 ……服着てると、なぁーんかちくちくするから……」
「どうりで午後から姿が見えなかったわけだよ」
「これって、Yinさんのアフロにかけたらどーなるんだろう……」
 何気なくビンを受け取ったりーずが、やや虚ろなまなざしでつぶやく。
「……あ、効くんじゃないかな?……
 ……それ、一種の寄生生物みたいなもんで、無生物にも毛を生やすことが可能だから……」
「でぇいっ! やめれっ!!」
「Yinさぁ〜ん、ちょっとだけだからさ〜」
「毛ならもう存分に間に合ってるっ!!」
「ねえ、Yinさ〜ん」
「なまじ中世的な顔立ちだからって、そんな甘えた顔してもダメだっ!!
 お断りっ!!」
「ああっ、待ってってば〜!」
 ばたばたとアフロを抱え込むようにして逃げ回るYinとそれを追うりーず
たちの様子を、葛田は全身毛まみれな雪男を黒くしたらこんな感じだろーかと
いう姿のまま、にこやかに見守っていた。
 その実、なにも考えていなくもあり、さもなくば、こんな顔をしているとき
の葛田はなにか悪巧みの最中だったりもするのだった。










 その頃、風紀委員会の為にあつらわれた特別室では……。
「はぁ……」
 一人席についたディルクセンが、深い溜息をついていた。
 専用デスクの鍵付きの引き出しから何本かのビンとブラシを取り出し、机の
上に並べてみる。
「ふぅ……」
 そして、また溜息。
 彼は悩んでいたのだった。
 その悩みとは、風紀委員会の内紛などということについてではない。
 彼にとっての、もっとも差し迫った状況に関する事柄だ。
 そう、みなさんもご存知の通り――















          ・・
 ――ディルクセンはヅラだった。















(「ええぃっ、認めん!! 認めんぞ、こんな設定はっっ!!」)
(「……いや、まーまー……書いちゃった者勝ちが、Lの大原則ですし……(微笑)」)
(「断固として、即時撤回を要求するっ!!!!」)
(「……はっはっはっ……ここまできたら、あとはみんなの判断に任せましょ〜……(高笑)」)
(「認めたヤツは、全員反省房送りだぁぁぁっっ!!!!(血涙)」)



 ――まー、余談ではあるが、そんなやり取りが裏であったとかなかったとか。
 とにかく、斯様な次第でもって、本作中では『ディルクセン氏は“ヅラ”で
ある』ので、そのつもりで読み進めていただきたい。

 閑話休題。
 そうなってしまった理由は至極簡単なものだ。
 問題児ばかりがひしめいているこの学園において、風紀委員という役職を三
年も務め上げることが、どれほどの心労を生み出すものかは計り知れない。
 そのストレスは、神経性胃酸過多(要するに、胃痛)ばかりでなく、若年性
突発性脱毛症候群(つまるところ、ハゲ)として彼の肉体を苛むまでになって
いたのであった。
 嗚呼、哀れなりディルクセンよ!! 帝国に栄光あれ!!(謎)

「……くっ」

 彼は、なぜか悔しい思いのこもった涙交じりに、すっぽりと帽子でも脱ぐよ
うに“ヅラ”を外した。
 鏡に映ったその頭頂部は、ものの見事につーるつるであった。

 ……プッ……クックックッ……















       (作者悶絶中につき、しばらくお待ち下さい)      




















 ……くぅー……はぁはぁはぁ……(涙目)

(「粛正ぃ!!(パンパァーン!!)」)
(「……ぐはぁぁっっ!?……(……ぱったり)」)















   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
   ★                            ★
   ★ 選択肢もなかったのにいきなりのBAD END(爆死) ★
   ★                            ★
   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★




















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 ――いや、ちゃんとこのあとのストーリーも考えてあるんですけど(笑)。
 とりあえず、紀元節でもあることだし、この作品をでぃるくせんさんに捧げます(爆)。



                         00/02/11