クリスマス記念&参入L「遅れてきた少年? 少女?」 投稿者:隼 魔樹



 「今年ももうクリスマスかぁ・・・、あれ? そう言えば何か忘れてるよう
な・・・・?」
 「どうしたんや初音? さっきから手が止まっとるで」
 一年生校舎リネットの一室では、何人かの人間がお祭りの準備していた。
 今日はクリスマス本番。
 ここに通う人間で本当の基督教徒は少ないが、せっかくだから何か騒ごうとい
う事で、急遽、クリスマス会が開催される事になった。
 今初音に話しかけたのは、同じ頃の美少女・・・ではない、女子に見えるが男
子の夢幻来夢である。どうも初音と一緒に会場の設営を手伝わされているようだ。
面倒な事が嫌いな筈の彼がここにいるのは、係を決めるくじ引きに負けたせいも
あるが、どうも寮にいたくないというのが本音らしい。
 (最近あのおっさんの活動が活発化しとるからな・・・、『クリスマス記念じ
ゃー!!』とか言われて襲いかかられたくないわ)
 どうも、新一年生平坂蛮次の熱烈な攻撃にかなり悩まされているようである。
まぁ来夢自身には薔薇の属性は無いので当然だろう。
 「うん・・・、ねえ私達誰か忘れてない? 誰か忘れてるような気がして・・・
・」
 「誰か忘れとるか? 今回は自分でパーティやる奴とかは無理に呼んでへんから、
何人かは来てへんけど、それ以外の奴は全員来るはずやで」
 全員参加のクラス会で決めたのだから当然である。ちなみに初音も夕方になると
柏木家でパーティがあるので途中から抜ける口である。
 「うん・・・でも何か何処かに引っかかってるような・・・」
 「気のせいや、それよりとっとと面倒くさい作業はおわらそ」 
 「そうだね、早く終わらせよーね。だから夢幻君も動いて」
 「ゆき・・・、見て無いようで良く見とるんやな」 
 実はさっきから話しばかりで動いていない来夢だった。


  
クリスマス記念&参入L「遅れてきた少年? 少女?」



 「さて、困りました。何を選べばいいんでしょう?」
 神凪遼刃は商店街の一角にあるファンシーショップの前で立ち尽くしていた。額
には汗が滲んでいる。道行く人が彼の様子を見てくすくす笑っているのに気付く余
裕も無いらしい。
 (クリスマスプレゼント・・・・・、何を贈ればいいんでしょう?)
 遼刃の悩みはその一点に集中していた。普段プレゼントを贈った事など無いので、
どうすればいいのか解らないらしい。
 今日のクリスマス会では当然ながらプレゼント交換も行われる。当然、遼刃の想
い人である琴音にプレゼントが行く事もあるわけだ。そうなった事を考えると、絶
対に手を抜くわけには行かない。
 (東西さんはこういう事に詳しそうですが・・・、ライバルである彼に聞くのも
・・・・)
 素直に相談した方がいいと言うのは良くわかっているが、ここは譲れない。恋す
る少年(21歳だが)の辛い所である。
 「・・・・プレゼントで悩んでるの?」
 「誰です?」
 遼刃が振り向くと、そこには一人の少女の姿があった。身長は遼刃と同じくらい
だろうか。薄い緑色の髪を膝の裏辺りまで伸ばしている。顔立ちはかなり整ってい
る方で、蒼い瞳が印象的だ。体つきはスマートだが、出るべきところはかなり出て
いる。
 水準以上の美少女と呼べるだろう。だが、彼女を更に印象付けているのはその服
装だった。それを一言で表すなら、『メイド服』としか言いようが無いだろう。遼
刃はファッションなどにそう深い知識は無かったが、それでもこの服の名前ぐらい
は知っていた。同時に、街中で着るような服装ではないこともわかる。
 (琴音さんよりも大きいですね・・・・・いや、そんな事じゃなくて)
 「何処かでお会いした事がありましたか?」
 こんな人間なら良く覚えていそうなものだが、遼刃にその記憶は無かった。念の
ため脳内データベースをフル稼動させて見るが、やはり記憶に無い。
 「多分初めてだよ・・・・、それよりプレゼントは決まったの?」
 「いや、まだですが・・・・」
 (何なんですか、この子は?)
 「選んであげようか?」
 遼刃は迷った。このまま悩んでいても無駄に時間を費やすだけである。しかし、
この得体の知れない少女に全てを託すのも抵抗があった。どんな事になるか解った
物ではない。
 (どうしますか・・・・ええい、男は度胸です!!)
 「・・・・・お願いします」
 答えるまでの十数秒の間が複雑な葛藤を如実にあらわしている。
 「OK! じゃぁ行って見ようか!!」
 「あの、その前にあなたの名前を教えて下さい」
 「魔樹、隼 魔樹だよ、よろしく!!」
 そうして奇妙な二人組は商店街の彼方へ消えていった。 




 「神凪さん遅いですね、もうパーティは始まってるのに・・・」
 「そうだね・・・・、またどっかで迷ってるのかな?」
 きれいに飾り付けられた会場の隅で、琴音と東西は小声で話し合っていた。何故小
声なのかと言うと、会場を支配しているどんちゃん騒ぎに巻き込まれないためである。
見ようによっては多少怪しい雰囲気ではあるが、このような時に乱入してくるOLH
は自宅で子供達とクリスマスを過ごすため、とりあえずは安心して話しをすることが
出来た。 
 既に現時刻は午後5時過ぎ、パーティが始まって一時間半ほど経っている。学業か
ら解放され、束の間の休みを与えられた事で理性の箍が外れたのか、場は異様なほど
盛り上がっていた。誰かが持ってきた酒が何時の間にか皆に配られたせいもあるだろ
う。
 ある一角では平坂蛮次がいつもの様に初音に襲いかかろうとして、ゆきと来夢に叩
きのめされた反動で暴走し、今度は来夢に襲い掛かっていたる。
 またある一角では風見ひなたがルーティや赤十字美加香、Hi−Wait、月島瑠
香らと一緒に家族のような団欒を作り上げていたる。
 酒に酔った氷上零が辺りにベレッタM92SBハンドガンを乱射したりなど、既に
秩序は失われている。
 秩序と言えばいつも呼ばれもしないのに湧いて出てくる生徒指導部は、今回に限っ
ては何故か姿を現してはいない。それはセーラー服を着た千鶴ちゃん14歳と彼女に
拉致られた柏木耕一先生が居るためかもしれない。因みに隆雨ひづきも耕一先生に近
づこうとしているため、ここでは一触即発の緊張感が漂っている。
 「それにしても、一体誰がお酒持ってきたんだろう?」
 「多分、あそこの人達です」
 そっちの方に目を向ける東西。
 「HAHAHAHAHAHAHAHAHA、今年はアフロが凄く流行りましたネ〜。
この調子で今年をミレニアムアフロで締めくくりましょウ!!」
 「むう、そうはさせませんぞアフロ殿!! 21世紀こそは髭の世紀!! アフロ
に負けるつもりは毛頭ありませんからな!!」
 盛り上がる二人の脇には大量の酒瓶が転がっている。東西は自分が巻き込まれる事
を恐れて目をそらした。
 「あ、もうすぐプレゼント交換ですけど、神凪さん、間に合うでしょうか?」
 「なら、ちょっと精霊に聞いてみるよ」
 意識を集中させ、精霊たちの声を聞く。いつもと違い、漠然としかイメージしか伝
わってこない。これは精霊たちがこれから起こる事を面白がって伝えていない証拠で
ある。
 (えっと・・・、何かが来る、神凪さんかな? 古くて新しいものを連れて?」
 「どうでした?」 
 「何か・・・良く解らないけど、来るのは間違い無いみたい」



 一方その頃、遼刃&神凪は学園への道をひた走っていた。
 「もうとっくにパーティ始まっていますよ!! どうしてプレゼント一つ買うのに
こんなにかかるんですか!」
 「しょうがないよ、だって行く所行く所で『ここはダメです』って言うんだから」
 あれから二人は魔樹の提案で色んな店を周っていた。どんな店かと言うと今魔樹が
着ているような服が大量においてある店だったり、妖しい本やCD(18禁含む)が
置いてある店だったりと、およそまともな店ではなかった。遼刃でも一般的なプレゼ
ントから大きく離れている事が解ったくらいだ。
 「あんな店ばかり行くからでしょう!! もう少し一般的なプレゼントを私は探し
ていたんです!」
 「だって、最初にどんなプレゼントか聞いてなかったしね。だから僕が一番いいと
思う店に行ったんだけど」
 あさっての方向を見て答える魔樹。その顔にはしてやったりと言う笑みが浮かんで
いたが、幸いにも神凪には見られなかった。
 「あなたの趣味でプレゼントの傾向を決めないで下さい!」
 そうした紆余曲折の末に、ようやくまともそうなプレゼントを選ばせる事が出来た
が、時は既に遅く、パーティ開始時刻は既に過ぎていた。おまけにかなり遠くまで来
てしまったので、Leaf学園に帰るのにも時間がかかる。
 (私の居ない間に東西さんと琴音さんがいい仲になっていたら・・・・、早く行か
なければ!)
 「仕方ないね・・・・、急いでるならアレを呼ぶか」
 そう言って魔樹は立ち止まると短く何事かを呟いた。普通の人間なら何を言ってい
るか解らなかったが、神凪には理解できた。それは彼がよく慣れ親しんでいる、呪文
の類だったからである。
 (これは・・・・召還呪文ですか?)
 言葉が終わると同時に目の前の空間が歪み、何かが実体化してくる。それは二人の
目の前で50センチほどのくらげの姿を形作った。13体の空中にふわふわと浮かぶ
くらげが実体化する。魔樹の使い魔であるじぇりーずである。
 「じぇりーず、フォーメーションF!」
 魔樹の言葉と共に手(触手?)を上げたじぇりーずは互いに隙間無く身を寄せ合っ
た。その姿はまるで空飛ぶ絨毯のようだ。最も下から見たなら大量の触手が複雑に絡
みあっており、かなり無気味な姿ではあったが。
 (彼女もただの人間ではない・・・・、SS使いでしょうか?)
 魔樹は無造作に上に乗ると、神凪に声をかける。
 「ほら、乗って。じぇりーずは空飛べるから、歩くより早いよ」
 (これに乗るんですか・・・・、ええい、一度泥舟に乗ったんですから、最後まで
乗りますか)
 ためらいつつもじぇりーず絨毯の上に乗る。ぶよぶよと柔らかい感触が帰って来る
ため、酷く頼りない。一応魔樹と遼刃の体重を支えてはいるようだが、これで空を飛
ぶのだからかなりの勇気が必要である。
 「じゃ、出発!」
 その言葉と共に空中に浮かび上がる。神凪が予想していたよりも上手く、じぇりー
ずは宙を舞っていた。多少風にぐらつく所はあるが、バランスを崩すような事は無い。
 「で、どこ行くの?」
 「試立Leaf学園までお願いします」
 「OK!」



 そして、パーティ会場ではプレゼント交換が始まっていた。先ほどとは違う緊張感
が会場に充満している。皆、自分が気になる子のプレゼントを貰いたいと思っている
のだ。だが、そう上手く行くはずも無い。
 「あ・・・・・、僕のプレゼントは夢幻君に行っちゃったか・・・、姫川さんのは?」
 「私のは氷上さんに行ったみたいですね、東西さんのは?」
 「僕の所は誰からきたのかな? ・・・・・・Tasさんからか」 
 悲喜こもごもの声があちこちから聞こえる。その様子を見ながらふっと何かを感じ
て窓に目を向けた琴音の目に何かが飛びこんでくる。  
 (あれは・・・・・空飛ぶ絨毯?)
 それは恐ろしい勢いでこちらに近づいてくる。もはや接近と言うよりは墜落と言っ
た方が正しいくらいのスピ−ドだ。身の危険を感じ慌てて窓から離れて、皆に警告し
ようとする琴音だったが、自分が安全地帯に避難した所で“それ”は会場に墜落した。
 窓を突き破って墜落してきた“それ”は、プレゼントで盛り上がっていた人間を巻
き込み、辺りの机を薙ぎ倒しながら轟音を上げて、ようやく停止した。皆が暴れたた
めあちこち壊れていた会場は最後の止めを食らって見る影も無く破壊されている。最
も、メインイベントは終わっていたから、単に後片付けの人間が苦労するだけの事だが。
 「一体何が・・・神凪さん?」
 難を逃れた琴音の目の前で“それ”=じぇりーず絨毯に乗っていた二人はゆっくり
と立ち上がった。その傍らでは東西を含む巻き込まれ組が盛大に目を回している。
 「じぇりーず便到着〜、ほら着いたよ」
 「いつつ・・・、急いでくれとは言いましたけど、墜落する事は無いでしょう!」
 「仕方ないよ。スピード上げればコントロール難しくなるんだから、それにこっちは
2倍痛いよ、感覚じぇりーずと繋がってるんだから・・・」
 「自業自得です!」
 悪態をつきながら遼刃は立ちあがる。そして琴音と目が合うとふっと笑いながら、
声をかける。
 「やれやれ、大変な事になってしまいましたが・・・、琴音さん、大丈夫ですか」
 「はい、でも一体何があったんですか?」
 「少し時間が遅れまして・・・、急いで来たらこうなりました。琴音さんちょっと手
を出して頂けませんか?」
 「え? あ、はい」
 素直に手を出す琴音。その手に多少包装汚れてしまったが、一日かけて探し出した
プレゼントを乗せる。
 「メリークリスマスです、琴音さん」
 「あ・・・、有難うございます」
 多少にはにかみながらも琴音は嬉しそうにプレゼントを受け取った。



 「うーん、上手く行ったみたいでよかったね、と。じゃぁもう行くかな・・・」
 「あ! 思い出した!!」
 気絶している連中を尻目に、その場を退散しようとした魔樹にゆきと来夢のお陰で初
音が声をかけた。
 「魔樹君! 確か一年の始めに病気で入院したはずの・・・、もう治ったの?」
 「・・・・・・俺を覚えているとは思わなかったな、久しぶりだな。とりあえず退院
はした、またこのクラスにくる事になる」
  魔樹の口調が突然変わる。というよりもこちらの口調の方が地なのだろう。先ほど
までの女性口調の影が見えない完全な男性口調だった。
 「あれ? でも魔樹君って男の子じゃなかった? それにその服・・・」
 ボロボロになったメイド服もどきをに視線を当てながら初音は自問自答するように呟く。
 「流石にそこまでは覚えて無かったか、俺は両性具有だよ。自己紹介でも言った筈だ」
 「両性具有・・・そ、そうだっけ」
 「ああ、よろしく頼むぜ」
 

 こうして少年でもあり、少女でもある存在、隼 魔樹はめでたく試率Leaf学園に
復帰する事になった。


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 よーやく、初Lが完成しました。皆さん改めてよろしくお願いします。今回出演して
頂いた皆さんは有難うございました。時間の関係で(クリスマスLかねてるので)上手
く描写できなくて申し訳ありませんでした。これから精進して技術を高めていきたいと
思います。

文責;隼 魔樹