『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』第11話 〜水面下の戦い〜 投稿者:隼 魔樹


 〜章前〜

 ――動けない。
 互いにそう判断する。
 ――動いたらやられる。
 こちらも動けない、だがあちらも動けない。
 偶然だった。誰も来る筈がないと確信していた場所での不意の邂逅だった。
 無表情な相手を見つめる。
 相手の表情からは何も伺えない。
 焦っているのだろうか。
 せめてそれだけでも解れば、と思う。
 目は口ほどにものを言うとされる。だが、今は何の表情も浮かんでいない。
 尤も、普段から表情を浮かべる事はないのかもしれない。
 自分もあちらもこの世界に属する生命ではないから。
 風が吹く。
 少し強めの風が互いを揺らす。
 きっかけが欲しい。
 戦うにせよ、逃げるにせよ、このままでは無駄に時間を浪費するだけだ。
 既に夏の陽射しが降り注ぐ、蒼空と言う事場が相応しい大空の中で。
 
 悠朔の放った式神と隼魔樹の使い魔じぇりーず、ナンバー“8”はL学上空
数十メートルで奇妙な睨み合いを続けていた。

(……あれは、指導部の1年の)
(式神……陰陽道か。使い手は一体?)

 ま、大勢には一切関係ない事である。

 ちなみに、さらに上空では某戦闘機と某戦艦による激しいドックファイトが
行われていたりする。

 では、本編へ。


『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』第11話 〜水面下の戦い〜



「これは……使えるかな?」
 ここではない場所。自分の目からでなく使い魔である精霊、じぇりーずから
送られてくる情報が頭の中に浮かぶ。
 その情報は映像イメージとなり、魔樹の頭の中で再現される。それは実際に
その情景を見ているのと変わらない。一切のタイムラグ無しに送られてくるリ
アルタイムの情報。
 魔樹(=じぇりーず)が見ている先には、意外な事態が展開されていた。
 新しい服に着替えた黒髪の大人しそうな少女。その傍らには少女と非常によ
く似た顔の少女がいる。
 来栖川芹香と来栖川綾香。
 つい先程までは互いにライバルの筈であったが、綾香の一方的とも言える脱
退宣言により、この二人はチームを組む事になっていた。
 はっきり言って洒落にならない事態だ。
 ただでさえ両者の実力、守護者の層の厚さは侮れないものがあるのに、その
二者が同盟してしまったのだから。
 全体の実力で言えば、柏木千鶴とその守護者すら凌駕するかもしれない。優
勝候補筆頭と言っても過言ではないだろう。
(それでも、それをいち早く知れたのはラッキーだったな)
 横で玲子と喋っている山浦に、芹香の様子を見てくれと頼まれなければ、こ
の情報はもっと遅れていたに違いない。
「おい隼、来栖川先輩はまだ大丈夫なのか?」
 心配そうな山浦の声。男子寮の生活改善のためとはいえ、憧れの人の護衛を
放棄してここにいるのだ。今は敵同士とは言え、心情的には今すぐ芹香の元へ
と飛んでいきたい筈だ。
「大丈夫だ山浦。今の所――」
 その時。
 目が会った。
 芹香達を見つめるじぇりーずと。
 綾香の横に影のように佇む男が。
 ――ダーク13使徒首長、ハイドラント――
「戻れじぇりーずっ!!」
 思わず口にだして命令する。横の二人が突然の大声に何事かと言う視線を向
ける。が、構っている暇はない。
 間髪いれずにじぇりーずの召喚を解く。
 魔力の供給が途切れ、じぇりーずが精霊界に帰還しようとしたその時。
 光が、走った。



「ブアヌークの邪剣よ!!」
 光熱波がオカ研の教室を薙ぐ。辺りにある物を焼き焦がしながら、直線に飛
ぶエネルギーは対象と周囲の物品を撒きこみながら、壁に当り消滅する。
「ちょっとハイド! いきなり何するのよ!!」
 姉と話していた綾香が驚きと誰何の声を上げる。
 芹香の表情は変わらないが、彼女の表情は見分けるのが難しい。もしかした
ら驚いているのかもしれない。
 その他の人間、神無月りーず、トリプルG、雪乃智波、ガンマルは咄嗟に戦
闘体勢を取る。対象は――ハイドラント。
「見られたぞ」
 光熱波が弾けた先から目を離さずに言う。
「え?」
「そこに何か潜んでいた。恐らく使い魔か何かだろう。ああ言うのは主と精神
が繋がっているものだ。……お前の脱落と芹香の状態を見られたな」
「見間違いじゃないの?」
「俺は白昼から空飛ぶクラゲを見るほど目は悪くないつもりだ」
「空飛ぶクラゲ、ですか?」
 トリプルGの声。
「心当たりがあるのか?」
「同じクラスの魔樹さんの使い魔です」
「たしか彼は……いや、今は彼女と言ったほうが適切でしょうね。今回の参加
者の一人です」
 神無月りーずが補足する。この二人は魔樹と同じクラスだ。常時魔樹の側に
控えているじぇりーずを見る機会も多い。
「厄介な相手に見られましたね……」
 トリプルGの顔が険しくなる。魔樹の行動を予測するのは非常に難しいと言
わざるを得ない。特に今回のように何でもありな舞台では、何をしでかすか予
想がつかない。
「早く結界を張りましょう。彼が何か行動を起こす前に篭ってしまえば……」
「それはあまり良いとは言えんな」
「何故です?」
 りーずがハイドラントに向き直る。
「ここには逃げ場がない。立て篭もってもそれ以上の力で攻められたらいずれ
陥落する。この状態で波状攻撃を食らったらいずれこちらの体力も尽きる。そ
れに……」
「それに?」
「いつまでここに立て篭るつもりだ? 食事・排泄その他に十分な設備は整っ
ていまい」
「あ……」
 失念していた、と言う感じのりーずの表情。安全を確保する事が最優先だっ
たので、そこまで気が回らなかった。
「打って出たほうがいいわね」
 厳しい表情の綾香。
「私がいつもの姉さんの服を着るわ。しばらくは固まって行動、その後で二手
に分かれましょう。本当は護衛も入れ替えた方がカモフラージュになっていい
んだけど……。どうせそんなつもりはないんでしょう」 
 男達は当たり前だ、と言わんばかりに一斉に頷く。
「…………」
「え、無理しないで下さいって?。大丈夫、これぐらいいつもの事よ」
 姉を安心させる様に不敵に……そして生き生きとした表情で綾香が微笑む。
「さ、早く着替えないとね。この程度のアクシデントに負ける気はさらさらな
いわよ!!」




「え〜。それじゃ芹香ちゃんと綾香ちゃんが同盟したの?」
「その通りです。厄介な二人が手を組みましたよ」
 魔樹達はまだ更衣室に残っていた。コンテスト開始してまだ余り時間が経っ
ていない。この状況で更衣室に戻るような参加者はいない、との判断からここ
に留まっているのだが。
「そろそろ移動した方がいいでしょうね。さっきじぇりーずを見られました。
オカ研の連中が相手だと逆探知されかねません」
「それは良いが、何処へ移動するつもりだ? この面子で他の参加者や護衛に
会いたくないぞ」
 もっともな意見だ。日下部翔のコスをしている玲子と山浦は近接戦可能とは
言え、魔樹は殆ど格闘は出来ない。それに玲子にしても下手に格闘して服が破
けたらそれでおしまいである。
「とりあえずは外に出て森にでも逃れよう。移動中にじぇりーず経由で幾つか
やりたいこともあるし、それに合流時間が近づいてる」
 山浦と話す時だけ言葉がくだける。魔樹にとって先輩に当たるのだが、何故
か彼にだけは敬語を使う気になれなかった。それは魔樹が彼をそれなりに信頼
している証し、なのかも知れない
「合流? 誰とだ?」
「会えば解るとだけ言っとく。この大会一体何処で誰の目があるか解ったもん
じゃないらな」
 自分のような能力者が何処にいないとも限らない。
「じゃ、早く行こ。途中であったら私が焼いちゃうから大船にのったつもりで
ね〜」
「頼りにしてますよ、玲子」
 そして三人は移動を開始する。何処かほっとした表情の山浦と、楽しげな表
情の玲子を前衛、魔樹が後衛と言うフォーメーション。
 前を行く二人はいつくるか解らない相手に集中しているのだろう。だから気
づかなかった。
 ぽたり。
 赤い雫が滴り落ちる。
 魔樹の左腕から血が滴り落ちる。
 さっきの偵察で負った傷だった。じぇり−ずと言う素晴らしい偵察機を持つ
代償。
 主と使い魔は感覚がリンクする。視覚、聴覚、嗅覚、触覚、そして――痛覚。
 じぇりーずの受けたダメージが、魔樹の体を傷つけたのだ。一体だけだった
ので肩から血を流す程度で済んでいるが、もし複数で巻き込まれていたら行動
不能になっていたかもしれなかった。
(この借りはきっちり返しますよ。例え相手が学園最強の一角の貴方でも。正
面から戦うだけが能じゃないんですからね、ハイドラント先輩)
 魔樹の唇が不敵に笑った。
(とりあえずあの二人に――悠朔先輩と松原にこの事を伝えたらどう動いてく
れるかな?)



「誰も近づいてきませんね」
 柏木千鶴は誰にともなく呟いた。
 彼女の護衛二人は目を会わせる。
(そりゃぁ、ねぇ……)
(この状態の千鶴さんに近づく奴なんて……)
 L学最強の一角、ジン・ジャザムと最強の鬼、柏木耕一はアイコンタクトで
会話する。
 彼らは開始以来何処に隠れもせずに校内を歩いているのだが、まだ誰にも遭
遇していなかった。特に隠れていないにもかかわらず。
 当たり前である。
 かなり退化しているとは言え、人間にも野生の本能と言うものがある。
 その本能が人間をここに近づけない様にしているのだろう。近づけば死ぬ、
と。
 体が変化こそしてないが、あたりの気温は数度近く下がっていた。三十度近
くある外気温が快適温度になっている。
 臨戦体勢、闘る気が満ち溢れている。ここまで露骨な闘気なら鈍い人間にも
感知できる。
「そろそろ誰かを剥きに行きましょうか?」
 平易な声。だからこそ恐怖が増す。
「ほう、それは面白いな」
 落ちついているようで、何処か危険性を秘めた男性の声。
 三人が弾かれた様に散開する。この距離になるまで気づかなかった。鬼の超
感覚をすり抜ける穏行の持ち主。
 その危険性に体が咄嗟に反応したのだ。千鶴を中央に右にジン、左に耕一が
展開する。
 その正面に現れたのは。
「久しぶりにな……血が見たくなった」
「柳川……」
「柳川先生……」
 柳川の額には、コンテスト参加者を示すハチマキ。
「私の邪魔をするつもりですか?」
「ふん、いずれ貴様とも決着はつけるがな。今俺が闘りたいのはお前じゃない。
……柏木耕一、ここで決着をつけさせてもらおう」
 柳川の視線が耕一にぶつかる。闘気ではなく殺気が辺りを包む。
 その気に反応したのだろう。無意識の内にジンの手がピクリと動く。
「ジン、手を出すな。お前が手を出さなければ俺も柏木千鶴には手を出さん」
「……本気みたいだな」
「当たり前だ」
 耕一が柳川を睨み返す。
 リズエルの一角では、最強の鬼達の戦いが幕を空けようとしていた。


戦うかどーかは次の人任せ(笑)


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とりあえず、魔樹にちょっとした因縁をつけて見ました。ハイド相手に無謀か
とは思いましたが――。
状況が面白けくなればすべてOKです(笑)
そして千鶴さんの方をちこっと書いてみました。なんか、ますます人外の領域
に入りつつありますが(笑)
師匠と憧れの人、ジンさんがどっちにつくか結構楽しみだったりします。
それでは次の方頑張ってください〜