テニス特訓Lメモ 「Do your best!」  投稿者:makkei
「秋山先輩っ!!」
 ようやく授業から解放され賑わいを見せる秋山登のクラスに、文字通り「飛び込んでき
た」のは、近頃「ろりぃすと」だの「邪悪」だの「諸悪の根元」だの言われているmakkei
であった。
「んん〜、どうした?」
 おそらく先刻までぐっすりと寝ていたのだろう、腕枕の跡が秋山の顔にべったりと残っ
たままである。
 そんなのんびりとした秋山に、makkeiは、
「テニスのコーチをお願いします」
「? そりゃあ別に構わんが……」
 妙に神妙な顔つきのmakkeiを見、秋山は怪訝な視線を向ける。
「……何かあったのか?」
 秋山の問いかけに、表情を引き締め、makkeiははっきりとこう言った。
「風見くんの凶行を、止めたいんです」
「……はぁ?」



   テニス特訓Lメモ 「Do your best!」



「つまりは、風見の”バスター”が許せんのか?」
「あのような人を傷つける凶行、見過ごすわけにはいきません」
 教室から場所を移し、二人はテニスコートで話し込んでいた。
「今日は、Hi-waitくんが被害を被っていました」
「……今日『も』な気がするが……」
「いくらHi-waitくんが僕のことを「邪悪邪悪」と呼ぶとはいえ、やはり同士として傷つく
 のを見るのは忍びなくて……」
「その言い方、妙に棘を含んでないか?」
「とにかく、誰かが風見くんを止めないと」
 そこまで話を聞き、「むぅ」と秋山が唸る。
 そして、少し思案した後、
「風見に勝つ方法は、およそ3つだ」
 と言った。
「それは!?」
 makkeiが身を乗り出すと同時に、秋山はゆっくりと右手の人差し指をぴんと伸ばした。
「ひとつ、風見にはボールを打たせない」
「……なるほど」
「これにはいくつか方法がある。
 其の一。美加香の方にしかボールを返さない。
 其の二。魔術…お前の場合は代償魔術を行使して何とかしてみる。
 其の三。風見を闇討ちする。
 其の四。新城をひん剥いたあげく、人質にして脅迫する。
 とまぁ、こんなところか?」
「終わり二つはやりません」
 にべもない。
 秋山は続ける。
「勝つ方法ふたつめ。風見が返せないようなボールを打つ。つまりは、必殺技……とでも
 言えばいいのか…」
「必殺技、ですか……」
 秋山の言葉を反芻する。
「そうだ、必殺技だ」
 そう言うと秋山は、その腰を上げ、
「まずは、それからだな」
「あ、はい」


 特訓その一:必殺技

「実は、これに関しては、前々から少しばかり考えていたんですよ」
「……ほう」
 makkeiが口にした言葉に、秋山はぴくりとその身体で反応を示した。
「それは楽しみだな」嬉しそう、というかわくわくな秋山である。
「それでは、いきます」
 そう言うとmakkeiは、サーブの構えをとった。
 左手でポンポンと地面に数回ボールをバウンドさせてから、
「それっ」とボールを垂直方向に投げ上げた。
 ぐっとmakkeiの背中が反り、ストレッチパワーが溜まっていく。
 何故に怪しげな黄色の全身タイツヒーローパワーが溜まるのかは謎であるが。
「鋭!!」という掛け声と共に、makkeiが思い切りラケットを振り抜いた。
 刹那……。
 ばしゅん、というテポドン顔負け北朝鮮もびっくりのミサイル発射音のような音が辺り
に響きわたった。
 肝心のテニスボールは、プロテニスプレイヤーの200km/時サーブのように、ぐん
ぐんとその軌跡を伸ばしていく。
 秋山が待ちかまえている、その先へと。
 そして。
 ぼくっ、と何だか妙に生々しい音がし、秋山がこれまた生々しい声で呟いた。
「ああん、いいぞぅ」

「……今のは、一円玉を使ってみました」
「ほほう?」
 くっきりとボールの跡を残した顔で、秋山が聞き返した。妙に満足げなのは何故だろう?
「ええと、つまり、『一円玉の力』でテニスボールを勢いよく打ち出したわけです」
「なるほどな」
「他にも、五十円玉を使って、『地面にバウンドした瞬間にボールを地面に”縛”する』
 魔球、というのも考えたんですが……」
 ふと真剣になったmakkeiの顔を見ながら、
「何か問題でもあるのか?」
 秋山が聞いた。
 すると、
「いえ、今月の残り、あと153円しかないんです(僕的実話)」
「…………」
 とりあえず、殴られたらしい。


「さて、風見に勝つための方法、三つめだが……」
「はい」
 ボールの跡がくっきり綺麗に残った秋山と、大きなたんこぶをこしらえたmakkei。
 端から見ると近づきたくない組み合わせである。
「……どうやっても、サーブの時には必ず風見の番がくる。ということは、だ」
「と、いうことは…?」
「結局、風見のボールを返せるようにはなっておかなきゃならないわけだ」
「そうですね」
「特訓、だな」
「……そうですね」
 makkeiの頬を、熱いものがつうっ、と流れ落ちた。


 特訓その二:至近距離で殺り合おう☆

「というわけで、風見の球に少しでも慣れるために、5mから撃ってみようと思う」
「これで風見くんの凶行が止められるのなら……」
 すっと、秋山が構えをとった。
「行くぞ」
「はい」
 天瞬。
 ぼくっ☆、という可愛らしい音がしたと同時に、makkeiが地に伏した。
「これくらいも取れないのかっ!?」
 秋山の叱責が飛ぶ。
「……ま」
「ま?」
「…ま、まだまだぁぁぁっ!!(正義のためだぁぁぁぁぁぁっ!!)」
 ゆっくりとだが、しっかり立ち上がろうとするmakkeiの様子を見て、秋山が「にやり」
と笑う。
「ようし、どんどん行くぞっ!!」
「はいっ!!」
 makkeiが、ラケットをぎゅっと握った。

「うぎゃあっ!!」
「まだまだぁ」
「これでどうですかぁぁぁっ!!」
「今度は俺に撃ってみろ!!」
「はいっ」
「ああん、いい感じだぞぉ!!」

 こうして、二人の特訓は、日が暮れるまで続いた。



「さて、お前に教えることはもうない……」
「はい、先輩」
 練習を終えた頃の二人の格好は、それはボロボロであった。
 もっとも、何故か秋山は満足げな表情だったが。
「あとは、風見と当たるのを待つだけだな」
「…………」
「……どうした?」
「………そういえば、当たるまで対戦できなかったんですよね」
「…………」
「…………」
「……はぁ」