新番組企画シリーズ「ジン・ジャザえもん」  投稿者:makkei
 ……俺の名前は、ジン・ジャザえもん。
 22世紀に開発された単式戦闘型汎用エルクゥサイボーグだ。
 分かりやすく言えば、「未来の世界のエルクゥ型ロボット」というわけだ。
 今俺は、故あって20世紀の末に来ている。
 クソゲーと馬鹿映画をこよなく愛する小学生、「野比之beaker」というガキンチョの世
話をするためだ。
 こんな風に言うと、まるでター○ネーターのようだが、全く関係ないから安心しろ。
 液体金属みたいな奴(ジィィィン、やらせろおおおっ!!)もいるが、気にするな。
 とにかく、俺は今、20世紀末にいるのだ。
 そして、そんな俺を、周りの奴はこう呼びやがる。
 ――親しみと、畏怖と、そして、ほんの少しの希望を込めて。
 ――そう、こんな風に……




   「ジャザえも〜〜〜ん!!」




   ♪あんな子といいな できたらいいな
    あんな夢こんな夢 いっぱいあるけど〜
    みんなみんなみ〜んな 叶えてくれる
    不思議なポッケで叶えてく〜れ〜る〜
    「あの子と仲良く なりたいな」
    「はい ぱすてる☆ノート」
    あんあんあん とっても邪悪☆な ジャザえ〜もん〜
   (泣き声っぽい)




 だだだだだ……
 けたたましい音を立てながら、誰かが階段を上ってきていた。
 ジャザえもんは、その近づいてくる音をまるで無視するかのように、自分の右手(丸型
ロケットパンチ)を磨き続けている。
 だだだ……
 段々と大きくなる音を聞いても、ジャザえもんは特に動こうともしない。
 ただ、きゅっきゅっと右手を磨いている。
 そして、部屋の前までその音が迫り、
 がらり、と障子戸が開かれ……


「ジャザえも〜ん、何か道具を出し
              「ロケット・パーーーンチッ!!」
                             へぶしっ!!?」


 部屋の中に、生臭い血の匂いが広がった。


「……ジャザえもん…」
 しばらくして、むくりと少年が起きあがった。
「おお、どうした。beaker?」
 ジャザえもんが、倒れていた(倒したとも言う)少年の名を呼ぶ。
「いきなり何しやがる、この野郎☆」
 倒れていた少年、beakerが、にっこりと笑って答えた。
 ただし、コルトガバメントを片手に。
 ジャザえもんは、その顔に笑みを浮かべてこう続ける。
「はっはっ、今までのパターンから言って、『何か道具を出してよ〜』というのが見えて
 いたからな。『何事も、自分でやれ』という、俺からの教訓だ」
「ああ、なるほど。ありがたい教訓だね♪」
 左手の甲で、その口元から流れる赤い筋をふき取りながら、beakerが微笑む。
「ありがたい教訓だったから、僕もお返ししなきゃあね」
 かちゃり、とbeakerの右手の人差し指が、引き金へとかかり、
「お返しは……鉛の弾でいいよね?」
「はっはっ、教訓なんだからお返しなんて気にしなくていいぞ」
「とりあえず、貴様は今死ね☆」
「てめぇこそな」
 そして、一発の銃声を皮切りに、beakerの部屋は血生臭い戦場と化した。


(10分後……)


 熱い風の吹き荒れた戦場の跡に、二人は腰を落ち着けていた。
 どうやらようやく喧嘩(殺し合い、とも言う)が終わったらしい。
「やっぱりすごいや、ジャザえもんは……」
「てめぇこそ、やるじゃねぇか、beaker。小学生とは思えねえぜ」
 更には友情も深まったらしい。
「おっ、そういえば……」
 不意に、ジャザえもんが何かに気付いたような声をあげた。
「どうしたの、ジャザえもん?」
「そういえば、beaker。お前、俺に用があったんじゃなかったのか?」
「あっ!!」
 beakerが、言われて初めて思い出したのか、大きな声で驚いた。
「そうだっ、好恵ちゃんが!!」
「好恵ちゃん……誰だ、そいつ?」
 ぴくり、とbeakerのこめかみに青筋の浮き出たが、beakerは敢えて続けた。
「好恵ちゃんは、僕のガールフレンドだよ、ジャザえもん」
「ああ、そういえばそんな奴もいたなぁ」
 両の手をぽん、と叩いて、ようやく思い出したことを表現しようとするジャザえもん。
 beakerの青筋は、ぴくぴくと脈を打っている。
「で、その好恵ちゃんとやらがどうかしたか」
「そ、そうなんだよ。好恵ちゃんが、好恵ちゃんが………同じクラスのアフロ杉くんのと
 ころへ遊びに行ったんだよ!!」
「あっそ」
「話を最後まで聞けや貴様」
 そろそろbeakerも限界らしい。
「あくまで噂だけど…アフロ杉くんのところへ遊びに行った子は、みんなアフロになって
 帰ってくるらしいんだ。だから、もしかしたら好恵ちゃんも……」
「別にいいんじゃねぇのか、どうせ坂下だし」
 beakerのこめかみが危険な鼓動を打っているのに、ジャザえもんは気がつかないようだ。
「坂下って、つまるところ、某魚介類アニメにおける『花○さん』なわけだし、お前以外
 誰も気にしないって」
「今度は容赦しねぇぞ、このポンコツが☆」
「二度目はないぜ……戦場で生き残るチャンスはなぁ!!」


(さらに10分後……)


「はあはあ、やっぱりやるじゃねぇか。beaker……」
「ふうふう、ジャザえもんこそ……」
 お互いを認め合う漢と漢。
 それは、戦場で生まれた素晴らしい友情と言えるかもしれない。
「……って、こんなことしてる場合じゃない!!」
 ようやく気付いたらしいbeakerが、部屋の出口へと向かうが、
「待てよ、beaker」
 ジャザえもんがそれを引き留めた。
「でもジャザえもん、早くしないと、好恵ちゃんが……」
「待てって言ってるだろ」
 ごそごそとブレザーのポケットを探りながら、ジャザえもんが言った。
「今回だけは……助けてやらあ」
「ジャザえもん……」
 ごそごそ。
 四次元空間へと繋がるポケットに右手を突っ込んで何かを探しているジャザえもん。
 そんなジャザえもんをじっと見つめるbeaker。
 そして、そのうち……
「おっ!!」
 ジャザえもんが、捜し物が見つかったのか嬉しそうな声を出した。
「何が見つかったの!?」
 beakerも、思わず声をあげる。
「ふふふ……これはな、いつでもどこでも……」
「『どこ○もドア』!?」
 先走ったbeakerが嬉しそうに叫んだが、ジャザえもんは左手の人差し指を、チッチッと
左右に振った。
「くくく……この俺がそんな温い秘密道具を出すわけないだろうが」
 にたり、と唇の端を歪ませるジャザえもん。
「じゃあ、一体……」
 こくり、とbeakerの喉が鳴った。
「こいつはな……いつでもどこでも相手を逝かせることがことができる、その名も……」
「その名も……?」

「『どこでもポ…』」
「検閲に引っかかるわ」

「……むう、一時期に比べて流行は去ったようだがな……」
「いや、むしろやばいっつーの」
 泣く泣くとっておきの秘密道具をポケットにしまうジャザえもん。
 端から見ても、とっても残念そうだ。
「ちっ……まあ、検閲に引っかかるならしょうがねぇな」
 そう言って、ジャザえもんはまたしてもポケットに手を突っ込む。
 しかし、今回はすぐにその手をポケットから抜き出した。
「ほらよ、これを使え」
 ジャザえもんの手に握られていたもの、それは、竹とんぼの柄の先端に小さな吸盤をつ
けたようなデザインの、つまるところ『タ○コプター』であった。
 そのまま、beakerの手へと受け渡す。
「これは……」
「少しばかり改造してあるから、高速移動が可能だ……早く行きたいんだろう?」
「ジャザえもん……」
「お喋りは後だ。助けに行くんだろ?」
「……うん!!」
 力強く頷いたbeakerは、だっと窓へと駆け寄る。
「ジャザえもん、ありがとう」
「まあ、貸しにしておいてやらあ」
 ジャザえもんの言葉を聞き、beakerは窓枠へと足をかけた。
「じゃあ、行ってくるから」
 そしてbeakerは、窓から飛び降り……
 遠く遠く、遙か青い空へと飛び去って行った。


 そんなbeakerの姿を見送りながら、ジャザえもんが呟いた。
「あれ、ブーストしてるから、音速での飛行が可能なんだよな……」
 そう言った後、ジャザえもんはくるりと窓から背を向ける。
「生身の人間が、音の壁にぶつからなけりゃあいいが」


 数秒後。
 べしゃり、というひどく嫌な音が遠くの方から聞こえた気がしたが、ジャザえもんは
敢えて気にしないことにした。




 ・
 ・
 ・

「HAーHAHAッ、世の中、やっぱりアフロデース」
 やたら陽気な声が、その屋敷の中には広がっていた。
「ムグーッ、ムグーッ!!」
 そこには、ぐるぐる巻きの上に猿ぐつわまで噛まされた坂下好恵が転がっている。
「そう思いマセンカ、好恵サン?」
 アフロな小学生、アフロ杉TaSが坂下好恵へと迫る。
「ムグーッ、ムグーッ!!」
 好恵は必死にもがくが、いくらやっても縄は緩まない。
「HAHAHA、無駄デスヨ、好恵サーン……」
 いつの間に手にしたのか、TaSはその手にアフロヅラを抱えている。
「サァ、これを着けてアナタもアフロになるのデース!!」


「やめろーーーっ!!」
 突如聞こえてきた叫びに、TaSはハッと後ろを振り返る。
 そこには……
「好恵ちゃん、迎えに来たよ……」
 何故か血みどろのbeakerが、息も絶え絶えに立っていた。
「アナタは……」
 beakerの姿をみて、少しばかり驚いた表情を見せたTaSであったが、
「HAHAHA、アナタもアフロになりに来たのデスカ?」
 アフロヅラを持ったまま不敵に笑った。
「…………」
 だが、かちゃり、と自分へと向けられたコルトガバメントを見ると、さすがのTaSも
その表情を変える。
「コルトガバメント……小学生がそんなモノを持っているのは珍しいデスネー」
「その前に、アフロな小学生も珍しいと思うぞ、っていうかいねぇだろ」
「OH、細かいことは気にシないでクダサーイ」
「まあ、そんなことはともかく……好恵ちゃんを離せ!!」
 銃口をTaSへと向けたまま、beakerが叫ぶように言っ放ったが、相変わらずTaSは
にやにやしているだけであった。
 しばらくこの状況に変化はないと思われた。
 だが、beakerが瞬きした刹那……
 異変が、起こった。

「HEY、BOY?」
 背後から聞こえてきた底抜けに明るい声を耳にし、beakerはぞっと戦慄を覚えた。
(う、後ろだって!?)
 ちりちりと背中の毛が総立つのを実感する。
 目の前にいたはずのTaSの姿は、きれいさっぱり消えていた。
(いつの間に、背後を取られたんだ!?)
 しかし、それを考える暇はなかった。
(…間に合うかっ!?)
 右足を軸に精一杯、くるりと身体を回転させようとする。
 だが、振り向いたbeakerがその視界に捉えたのは、
「NONO、遅いデース」
 アフロを頭上高くに掲げ、今にも振り下ろして自分の頭にそのアフロを乗せようとして
いるTaSの笑い顔であった。
「HAHAHA、これでアナタも今日からアフロデスネ♪」
 やがて、スローモーションのように、TaSの手がゆっくりと降ろされていき……
 そして。

「タマダンスはイヤだぁぁぁあああっっっ!!!」




 空間に突如、爆発音が響きわたった。




「…………?」
 思わず閉じてしまった目を、beakerがゆっくりと開く。
 目の前にいたはずのTaSの姿が、またもbeakerの眼前から消えていた。
「…………」
 不思議に思ったbeakerが、その顔を上げ、きょろきょろと周りを見渡す。
 TaSは先程の位置から3mほど先で、仰向けになって倒れていた。
 そのすぐ近くに、先っぽが丸形のロケットパンチを携えて。
(丸形ロケットパンチ……ということは……)
 後ろを振り返りながら、beakerが嬉しそうな悲鳴を上げた。
「ジャザえもん!?」
「……よう」
 beakerの振り向いた先には、不敵な笑みを浮かべるジャザえもんの姿があった。


「beaker、てめぇは先に帰れ」
「……え?」
 ジャザえもんの口から出た言葉に、beakerが驚きの声をあげる。
「ジャザえもん……それは…」
「アレを見てみな」
 beakerの言葉を遮り、ジャザえもんがそのあごで、ある一点を差した。
「HAHAHA……チョット痛かったデース」
 そこには、何時の間に立ち上がったのか、TaSが平然と両足を地につけていた。
「あいつはな……」
 不意に、ジャザえもんが口を開いた。
「あいつはな、俺と同じく、22世紀のロボットだ」
「ジャザえもんと……同じ?」
「ああ、確か『特殊戦闘型汎用アフロロボット』とか言ったな」
「アフロロボにエルクゥロボ……22世紀って言っても、ろくな時代じゃねぇな」
「黙れクソガキ」
「OH、喧嘩はいけマセーン」
「貴様も黙れ、この爆髪が」
 言うが早いか、ジャザえもんがロケットパンチをTaSへと打ち出したが、
「HAHAHA、効きまセンネー」
 ロケットパンチは、アフロによって衝撃を殺され、カランという音を立ててその場に転
がった。
「ちっ……」
「ジャザえもん……」
 悔しがるジャザえもんを、beakerが心配そうに見やる。
 だが、ジャザえもんは、すぐに不敵な表情をその顔に再び浮かばせてこう言った。
「こうなったら……」
「こうなったら?」
「俺の秘密道具でひーひー言わせてやるぜ」
「ひーひーの用法違う」
「問答無用、いくぜぇぇぇっ!!」
 そう言って、ジャザえもんは地を蹴った。
 ただ真っ直ぐに、TaSの方へと向かう。
「ジャザえもん!?」
 驚くbeaker。
「HAHAHA、どんな攻撃もアフロの前には効きマセーン」
 自信を持って笑っているTaS。
 そして……
「くらえぇぇぇ、これが俺の秘密道具だぁぁぁぁぁぁあああっ!!」


「原田美佐子ぉぉぉっ!!」
「OUCH!!」


「魔法少女ルリー☆」
「OH!?」


「そして、複合奥義……」
「秘密道具じゃなかったんかい」


「ひろって♪美佐子ちゃん☆」
「NOooooooooooッ!!」


 ・
 ・
 ・

「ねぇ、ジャザえもん……」
 赤い夕日に包まれた帰り道、ふとbeakerが口を開いた。
「ん、どうした?」
 ぐるぐる巻きのままの好恵を肩に担いだジャザえもんが、beakerの方へと顔を向ける。
「あのさ……助けてくれて、ありがとう」
「何……貸し、二つだ」
「一つ目で死にかけたぞ、野郎」
「過ぎたことは言うな。過去を振り返るな」
「……まあ、いいや」
 くすりと笑うと、beakerはまた歩き始めた。
 ジャザえもんも、それに習う。
 そうして二人は、夕焼けの中をゆっくりと帰途についた。
 二人の影が、仲良く並んでいた。


                               続く(続きません)