Lメモ番外編『バカは舞い降りた』Side1:Home Room 投稿者:雅 ノボル

「こ、こんな時期に転入生ですか?」
 3月もやっと期末考査が終わった翌日の事、校長室に集まった柏木千鶴に、足立
教頭、そしてここのところ、やたらめったら影の薄い小出由美子教諭が、そろって
頭を悩ませていた。
「にしてもちーちゃん、どうしたものかねぇ」
「足立さん。ちーちゃんはやめてください」
 さらにげんなりとした顔で、千鶴は足立に言う。未だに「ちーちゃん」と呼ばれ
ては、校長の威厳も何もあったものでもない。
「あぁ、ごめんなさい。とにかく校長は、どうお考えのつもりで」
 物腰穏やかでも、時期が時期だけに急な転入生とあっては、内心そうはいってら
れない。
「それですよ、それ。さっき応接室で会いましたけど、相当今度の転入生もアレじ
ゃないですか………」
 実際に引率する教員の身にもなってくださいと、由美子がぼやく。
 先ほど、応接室で対面したときのショックは、いまも抜けきっていない。
 それどころか、ケースがケースなだけに、こういった場合、どうしたものかと思
い悩んですらいた。
「とにかく、転入手続きを受けてしまった以上、突っ返すわけにも行きませんから、
申しわけありませんが、小出先生にお願いします」
 校長先生は言いきった。えぇ、そりゃぁもう鬼の力30%ぐらい出して、気温が
3度ぐらい下がれば、普通の人間である由美子なら有無を言うわけもない。
 当然、判りましたとこくこく頷いて、蒼い顔をしてダッシュで校長室から出てい
った事は、言うまでもない。

 千鶴さん、あんたやっぱり鬼や。


「じゃぁ雅君、入りなさい」
 若干、引きつった表情を残しつつ、由美子は転入生を教室へと招き入れる………
 のだが、どうもモコモコの茶色い毛皮に包まれたソレは、デカイ頭が入り口に支
えていて、どうにこうにもならなくなったらしい。
「なんだ?」
「なんじゃありゃ!?」
「ぬいぐるみ?」
「何のキャラクターなの!?」
「ボ○太君だよっ!?」
「なんだそりゃ?」
「あの初等部向けの、そうそう、情操教育番組の「おねいさんといっしょ」にでて
くるきぐるみだよ」
「あの芳賀玲子が出てる番組かぁ?」
 ざわざわとざわめく生徒たち。あるものは興味シンシン、あるものはあきれ果て、
あるものは事態のあまりのシュールさに、リセット状態になってるもの………
 要は、興味は転校生が人間ではなかったと言う事実に、みんな度肝を抜かれてた
に過ぎない。
「ふぬぬぬぬ、ふもも!!!」
 メリ、ミシミシ、ボコン!!! と、大きな音を立てて、ようやく教室内に転がり込
んできたのは………
 そいつはまごうことなききぐるみであった。
 どこからどう見ようともきぐるみであった。
 完全無欠にぱーふぇくとにきぐるみだった。
 だからきぐるみなんだってばァ、こいつは。
「おいおい……… 立てるのか?」
「立て………ないんじゃねぇか? 足短いし」
 指摘の通りに、どうやらその気ぐるみは2頭身で、しかもやたらと頭がでかいも
のだから、胴体部分からは短い手足が出てるのみである。
「どうする?」
「どうするって?」
 場には沈黙する生徒達と先生、そしてじたばたと短い手足をばたつかせるきぐる
み……… 一瞬の沈黙の後。
「ほっとくか?」
 と、誰かが言った瞬間………
 ゴロン
 きぐるみは器用にもじたばたと手足を動かした反動でゆっくりと回り始めた、誰
もが唐突に動くきぐるみに目線が集中する。
 その気ぐるみは、ゴロゴロゴロ………と転がって、ほっとくか? と言った件の生
徒の席をボーリングのピンよろしく跳ね飛ばして、むっくり! と、おきあがりこぼ
しのように起きあがったのである。
「き、器用な奴………」
 本当に器用な奴だ。
 立ちあがったきぐるみは、何事もなかったように教壇の方へと戻っていく、もち
ろん先ほどのボーリングピン……… もとい、跳ね飛ばした奴を踏み超えていくの
はお約束である。
「オレ、やっぱりこういう場面でしか、出番ないのか?」
 ボ○太君に踏み越えられた奴……… なんだ、矢島か。

「で、では………自己紹介をしてください………」
 もう由美子のほうも、かなり精神ダメージが累積しているらしい。
「ふもっ。ふも、ふもふもっふ、ふもふもふもっふ」
 ………お願いだから、人間の言葉で喋れよ。
「をい、喋ったぞ!?」
「中に人間が入ってるっていうのか?」
「当然でしょ!? きぐるみなんだから」
「ボ○太君が実在するわきゃねーか」
「………かっわいぃ(はぁと)」
「ちゃんと人間の言葉はなせよ!?」
 生徒席側から盛大なヤジが飛ぶが、その気ぐるみは、器用にも短い手で「はて?」
と、あたかも腕を組んで首をかしげるポーズを取りっぱなしである。
「み、雅くん……… 日本語、キチンと話せたわよね?」
 先ほど応接室であったときは、きちんと話していたんだから間違いない、と由美
子は思いつつも、やっぱり否定しきれないので聞いてみると。
「ふもっ」
 といいつつ、大きな頭をこっくりと頷かせる。だが、発した言葉は、どう考えて
もボ○太君語であり、日本語ではない、決してない、絶対にないわ、んなもの。
 目を白黒させている由美子も眼中になく、ひたすら悩んでいたボンタ君は、やがて
「ぽむっ」と手を叩いて、学生服(器用にもきぐるみの上から着ていた)の下にあった
大きな蝶ネクタイを、あれやこれやといじり始める。そして一言。
「あー、あーーー。ヴォイスチェンジャーが勝手に入ってました。(^^;」
 ノー天気なひと事に、クラスの全員が、由美子が、砕け散った。
『だぁぁああああああ!!!』 
 がたががたがたたたたたん!!!!!
 椅子から転げ落ちる者、力なく突っ伏す者、ひっくり返って昏倒する者等々………
 わずか15分そこらでひとつのクラスが、ショーもない理由で轟沈したのである。
 そして、その日以降。その「きぐるみを着た男」……… 名を。
「雅ノボルです、故あってこっちの学校に転入して来たんでよろしく。ふもっふ」
 と言うカブリモノSS書きが誕生したのは、言うまでもない。

 And so………『バカは舞い降りた』


 と言うわけで、初Lです。
 実は、4部構成の初日、まずはHRです。
 うーん、3人称視点だのう。
 イーのかこんなので?(笑)
 まぁ、とにかく、こんな野郎ですが、よろしくお願いします。