大会を直前に控えたテニスコート。 その大会に備え、各人それぞれの調整に余念がない。 だが、その中に取り残された格好の組があった。 その組とは・・・・・。 「みんな、うまいね・・・・・・」 「そうだぞ・・・・・・」 「靜たち・・・・たちうちできるかなぁ・・・・・」 「どうだろ?」 「・・・・・とにかくすごいね・・・・・、みんな・・・・」 「そうだぞ・・・・・・・」 きたみち靜と雛山良太の二人組である。 二人は、コートの端の方で、ぼんやりと他の人の練習風景を眺めているのである。 なにを隠そうこの二人、コートに出るのが今日始めてなのである。 大会出場が決まってこのかた、テニスのルールを覚えるので精一杯だったのである。 それが終わると、大会は明後日に迫っていたのである。 「どうしようか?」 「どうするぞ?」 頭を寄せ合って考え込む二人であった。 それを、別の所から見守る二つの影があった。 それは・・・・・。 「うのれぇ〜!あの洟垂れ小僧がっ!! 靜からはなれぇ〜いっ!!」 「どうどうどうどう、落ち着きなさい、きたみっちゃん」 きたみちもどると緒方理奈であった。 「これが落ち着いていられるかっ!! あの糞餓鬼、この間から事あるごとに靜と・・・・・・・・。 許せん・・・・・・・・・・・・・・」 ゴゴゴゴゴと怒りの闘志を燃やすきたみちに 「だから落ち着きなさいって」 近くにあった業務用の天ぷら油が入っていた四角い缶できたみちの頭をどつきながら理奈がそういう。 ぐへっ!! という奇妙なうめき声をあげつつ倒れるきたみちを見下ろしながら、理奈はため息を漏らし 「はぁ〜、どうして靜ちゃんにかかわると、こう性格が変わるんだろ・・・・・・」 とつぶやかずにはいられなかった。 「で、どうするつもり?」 理奈が聞くと 「あぁ〜、あのバラ餓鬼そんなに引っ付くなぁ〜!!離れろぉ〜っ!!。 さもないと、『轢き逃げアタック』か自転車のスポークで首さすぞ!!」 きたみちは全然聞いちゃいなかった。 「人の話し聞けぇっ!! それ以前に、ネタが古すぎるっ!!」 「ぐはっ!!ぐえっ!!ぼげぇっ!!」 またもや、油缶できたみちを殴打する理奈。 「で、これからどうする訳? 計画とおりにやるわけ?」 ぼこぼこになった油缶を、そこら辺にほり投げながら改めてきたみちに尋ねる。 「その通りですよ、理奈姉。 このままでは、靜がパーフェクト負けをしてしまいますからね。 何とかしなくてはいけません」 と、缶同様顔をぼこぼこに腫らしつつ、血を流しつつきたみちが言う。 その(ぼこぼこに腫れた顔から覗く)眼には、並々ならぬ決意があふれ出ていた。 その決意あふれる瞳を見て、理奈はため息一つをつき 「わかったわ、他ならぬきたみっちゃんの頼みだもの。 お姉さんも協力してあげるわ☆ミ」 と笑みを一つこぼす。 「ありがと、理奈姉」 にこっと、(顔を腫らしたまま)笑うもどる。 「さ、いくわよ、きたみっちゃん」 それを見て、ちょっと不気味だなぁ〜と思いつつ理奈が声をかけて歩き出そうとする。 「ちょっとまったぁっ!!」 それを制止するもどる。 「な・・・なに!?きたみっちゃん・・・・・・・・」 驚いて、もどるの方を振り向く理奈。 もどるは、真剣な表情(まだ顔が腫れてるけど)で理奈を見つめ 「理奈姉・・・・・・・・・・」 「な・・・・なに?」 そのあまりにも真剣な表情に、気圧されるものを覚え思わず息を呑む理奈。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 空白の一瞬(ひととき)。 その静寂な空間を破るがごとくもどるが口を開く。 「轢き逃げアタックやブラックエンジェル知っているということは、実は歳ごまかしてぐはっ!!」 その言葉が言い終わらぬうちに、理奈のラッシュ鉄拳攻撃を受けるもどる。 もどるは、その鉄拳攻撃を受けて倒れそうになったが 理奈の鉄拳がそうはさせてくれなかった。 しまいには、壁にめり込む始末。 その特別製の棺桶の中でもどるは『口は災いの元』という格言を身を持って知った。 それと (ミッドナイトスペシャルなんて、古すぎてマイナーすぎて誰も知らないよ・・・・) と心の中で突っ込んだ。 一方、そのころのお子様組は 「どうしようか?りょうたくん・・・・・」 「とりあえず、練習するぞ・・・・・」 「う・・・うん・・・・・」 そういって、ぶんぶんと、取り敢えず素振りを始める二人。 その時、ふと影がさしたのでふりかえってみると、二人の後ろにあった金網の上に一組の男女が立っていた。 男の方は、赤く塗られたソル○ードJのような仮面をかぶっており忍者ルックといういでたち。 女の方は、桃色の赤影のような仮面をかぶり、緒方理奈のステージ衣装といういでたち。 どっからどうみても、怪しい二人組は、おこさまを見るや否や、ちちっと指を横に振り 「君たち、まだまだそのようなことをやってる様じゃあまいぞっ!!」 「私たちが、ちゃんと試合が出来る様、コーチしてあげるわっ!!」 ばばぁ〜ん!!とSEつきでそう宣言する。 それを見て、お子様たちはというと 「あっ、ちちうえぇ〜♪」 「なにやってるぞ?きたみちおにーちゃんに、りなせんせー」 と、一発で二人の正体を言い当てる。 (ったくもぅ、一発バレじゃない!!きたみっちゃん!!) (つーか、最近のお子様たちは『お約束』をしらんのかっ!!) (知る訳ないでしょ!?こういう事に関しては正直なんだから) (そーだよなぁ・・・・・。世間て冷たいね・・・・・理奈姉・・・・・) (しらないわよ・・・・・・) という会話をひそひそとしてから、ゴホンと咳払い。 「いや、私たちは、きたみちもどるでも緒方理奈でもない。 私の名前は・・・・・そう、『赤き荒ぶる風(レッドタイフーン)』とでも呼んでもらおう」 と、もどる(一応仮名)が 「私の名前は『桃色の旋風(ピンキィーサイクロン)』とでも呼んでちょうだい」 と緒方理奈(これまた一応仮名)がそれぞれ名乗りをあげる。 その様を見てお子様はただただ目を丸くするばかり。 「・・・・まるで、『ねいてぶあめりかん』みたいな名前だね・・・・」 「なんだぞ?それ・・・・・?」 「うん、ねいてぶなアメリカの人は、なんでもぶぞく名や個人の名前にこういうつけかたするんだって」 少し得意げに話す靜。 「・・・・にっくねーむみたいなもの?」 「うん、そーだとおもうよ」 「へーしらなかったぞ、おにーちゃんたちそういうなまえだったのか」 「違うわぁっ!!」 約0.01秒で否定する男。 「つーか、君たち、お約束を知らんのかぁっ!! たとえ、正体バレバレでしかも兄弟なのに覆面しただけで全くわからなくなったりするんだぞ!! そうぅ、覆面をかぶったら例え知っている人でも知らない振りをしなくてはならんのだぁからっ!!」 そう一気に捲し立てる男。 「そういうものなのかなぁ?」 「・・・・わからないぞ・・・・・・」 二人して首を傾げる。 「ともかく、そういう事だから以後気をつけるように」 「うん、わかったよ、父上♪(にぱりん)」 「わかったぞ、もどるにーちゃん」 「だぁ〜っ!!わかっちゃいねぇ〜っ!!」 もどる(しつこいほど一応仮名)滂沱す。 それを見て、緒方理奈(やっぱりくどいけど仮名)は、頭に指を当てて (やってられないわ・・・・・・) と首を横にフルフルと振った。 「ともかく、君たちの今の実力では相手から一本を取ることすら難しいだろう」 そう、お子様たちの周りを回りながら、もどる(やっぱり(以下略)))。 「うん、それはわかってるぞ」 「どうすればいいの?ちちうえ・・・じゃなかったれっどたいふーんさん」 お子様二人は、真摯なまなざしで見つめ聞いてくる。 それを見て、もどる(以下略)は肯き 「私のやり方に付いてこれれば、できるだけのことはしてやろう・・・・・。 どうだ?やってみるか?」 とお子様たちに尋ねる。 すると 「うん、やってみるよ」 「やってみるぞ」 とすぐに返事を返した。 「その意気やよしっ!!でわ早速始めよう」 そういって、もどるはラケットとボールを握り 「いいか、今更どうのこうの言っても始まらん・・・・・。 実戦だっ!! 実戦形式の特訓しかあるまい。 打ち方など、その時にどうでもなる。 実戦に勝るものはないんだ!!」 ばばぁ〜んとまたまたSEつきで宣言する。 「うん、わかったよ」 「わかったぞ」 二人はそう言ってうなずき、空いているコートに陣とった。 そして、もどると理奈も反対側のコートに陣取る。 「じゃあ、審判宜しく頼みましたよ、とーる君」 もどるが、審判台に座る青年=とーるにそう声をかけると 「ああ、まかせてください」 となんて格好してるんだろこの人は?という目をしながらもしっかりとそう返事をするのであった。 まず、先行はお子様チームから・・・・・。 前衛は靜、サーバーは良太。 対して大人チームは、前衛が理奈、後衛がもどる という形で試合することになった。 「でわ、ゲームスタンバイ」 とーるのその言葉に四人が構えを取る。 「ゲームスタート」 それを合図に、良太がトスアップを始める。 オーバーハンドのサーブ。 「ていっ!!」 ばしん!! お子様にしては、それなりに形になっている。 勢いもまぁまぁだ。 だが 「こんな魂のこもっていないサーブなど、目で見なくても打ち返せる」 目をつぶったまま、鋭い矢のようなレシーブを返すもどる。 ぴしっ!! そんな音を立てて、ボールはラインぎりぎりのところに落ちる。 あまりにも速さに、靜はきょとんとしている。 「0−15」 とーるが告げる。 「すごいよゆーだぞ・・・・・」 「そう・・・・だね・・・・・・」 お子様’Sはびっくりしつつも、また構えを取る。 「てぇ〜いっ!!」 良太が今度はそれなりに気合いのこもったサーブを放つが 「こんなコースでは、相手に軽々打ち返されるぞっ!!」 そういって、またもや矢のようなリターン。 「0−30」 とーるが淡々とそう告げる。 この次もサーブを放つが、今度もまた激しく打ち返されてしまう。 「0−40」 (どうすればいいぞ、このままだとまた打ち返されてしまうぞ・・・・) と真剣に考えながら、良太がサーブを放つ。 ばさぁ〜 「フォルト」 ボールはネットに突き刺さる。 「この次またフォルトだと、このゲーム緒としますよ。がんばってください」 とーるがそうお子様たちに声をかける。 「うん、がんばるぞ」 そういって、良太二度目のサーブ。 ばさぁ〜 またまたネットに突き刺さりダブルフォルトでこのゲームを落してしまう。 今度は、大人チームの攻撃。 サーバーはもどる。 「いいか、おまえたち子供では、サーブを打ち返されると圧倒的に不利だ。 だから、打ち返されないように工夫することが重要だ。 例えば、このように・・・・・」 そういって、身体をしなやかに撓らせてサーブを放つ。 ボールは鋭く弧を描きつつ、コートの隅の方に突き刺さる。 「ふぉるとだぞ」 良太が嬉々としてそういうと 「イン!15−0」 とーるがそう告げる。 「今の、ラインから外れてたぞ」 良太が抗議に出るが 「微妙なところですがね、ぎりぎりでラインの内側に入っていました」 とーるがそういうと 「きたねーぞ!!」 ともどるに噛み付くように言う。 「ふっ、きたなくなないよ・・・・・・。 相手に打ち返されないサーブの一つだよ・・・・・。 それに、相手に汚いやらどうやら言う前に、サーブを打ち返すことを考えろ!!」 そう激しく言い返し、再びサーブを放つ。 同じように、同じコースで再びボールが飛んで行く。 良太が懸命にはしり、打ち返すっ!! ぱしぃっ!! 心地よい音を立ててボールは、もどるたちの方へ返っていく。 だが 「手元がお留守よ!靜ちゃん」 そういって、理奈がボールを軽くはじく。 「ふぇっ!?ふぁ・・わわわ」 慌ててボールを追いかけるが ぽぉ〜ん、ぽんぽんぽんぽん ボールが転々と転がる。 「30−0」 「どうした!?味方が打ち返したからって気を抜くなっ!!」 そう、靜を叱咤するもどる。 「う・・・うん・・・・・」 目の端にちょっと涙を浮かべながらも、健気にうなずく靜。 その表情にちょっとばかしの罪悪感を感じつつも、続けてサーブを放つもどる。 「いいか、頭で考えるな!感じるんだっ!! 相手や、ボールの気配、風の流れを・・・・・」 そう相手に言い聞かせるようにサーブを放つ。 スピードが速いながらも、今度は飛ぶコースが違う。 良太と靜のちょうど真ん中あたりに落ちる。 「あ!!」 それに気付いて、慌てて良太が追いかけるが間に合わず 「40−0」 「くそぉ〜、もうすこしだったのに!!」 ものすごく悔しがる良太。 それを尻目に、もどるがサーブを放つ。 そして、またもや二人の間に落ちる。 が 「そう何回もやられてたまるかっ!!」 良太が意地で打ち返す。 だが 「はっ!!」 理奈がボレーでそれを返す。 またもや、入ると思われたが 「ていっ!!」 靜が、ややロブ気味だがそれを打ち返す。 理奈は完全に虚を衝かれた状態で、それをスマッシュできない。 だが 「いくぞっ!!ひっさぁ〜つ」 もどるがそう叫び、ジャンプする。 「バーチカルアタック!!」 ジャンプしつつ、ボールを真下から思いっきりぶったたく。 すると、ボールは鋭い弧を描きつつ凄まじい縦回転を伴いながら相手コートに突き刺さる。 「イン!このセットもきたみ・・・・大人組の勝ちです」 とーるがそう宣言する。 んで、その後。 天性のバネと雛山家に流れる努力と根性、そして物覚えのよさによって バーチカルアタックを会得し、さらにコートすれすれ&二人の間に落ちるサーブを会得した良太と サーブした直後にダッシュしてのボレーと理奈から伝授してもらったスワンサーブという名の スピンサーブを会得した靜は、白熱した試合を見せるが、健闘及ばず6−4で負けてしまった。 だが、この短期間で彼らは様々なことを身につけた。 技は言うに及ばず、試合に対する意気込み、情熱、あきらめないこと・・・・・・。 そう、彼らは短期間でそれらを身につけることができたのだ。 ありがとう、『赤き荒ぶる風(レッドタイフーン)』。 さようなら、『桃色の旋風(ピンキィーサイクロン)』。 あなたたちのお陰で、短期間でここまで成長できました。 本当にありがとう。 良太と靜は感謝の気持ちを胸に抱きつつ、いつまでもいつまでも二人を見送ったという。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ というわけで、お子様二人にも、必殺技を持たすことにしました。 なお、バーチカルアタックは、もどるは今後一切使いません。 雛山良太の必殺技になります。 というわけで、なんだか、良太かっこよく書きすぎたかなと思いつつ出羽出羽・・・・・。