Lメモ”夏の夜の一夜” 投稿者:夢幻来夢

 男子寮というものは得てして人の住むような場所ではなくなる。
 平時はごみの山に埋もれ、夏となれば冷房はおろか扇風機すらないような環境で汗まみれになり、冬は
ストーブを巡って争いが起きる。
 そんな人外魔境であることが多い。
 むろん、ここLeaf学園の男子寮もごたぶんにもれずその傾向があるわけで……。



   Lメモ”夏の夜の一夜”



「暑いな……」
 ボソッと朔が呟いた。
 いつものような白衣は着ておらず、黒いティーシャツにズボンとラフな格好をしている。
「まったくだよなぁ……」
 悠朔の言葉にYOSSYがだるそうな声で応えた。
 こちらは白いシャツにGパンという格好である。
 まぁ、男しかいない男子寮でわざわざおしゃれなどする必要もないのだからあたりまえなのかもしれな
いが。
 そう、ここは男子寮の一室、朔の部屋である。
 かなり殺風景なのは彼の性分なのか、それとも几帳面さの表れか。
 少なくとも他の部屋のように足の踏み場もないほど散らかってはいない。
「しかし、ほんとに何にもないんだな、おまえの部屋」
「何をしている?」
 ひょいっとベッドの下を覗き込むYOSSYを朔が睨み付ける。
「いや、エロ本の一冊でも隠してないかなぁ、と思ってさ」
 その視線に気づかないのか無視しているのか、そのままベッドの下に手を突っ込むYOSSY。
「勝手に人の部屋を漁るな」
「いいじゃん。それとも見られて困るものでもあるのか?」
「いや、そういうわけではないが……」
 YOSSYの言葉に朔が詰まる。
 無論、それは嘘だ。
 朔の部屋には、以前、購買部で衝動買いしてしまった綾香湯たんぽがある。
 買ってしまった後で、使うのには気が引けるがさりとて捨てるには惜しい事に気が付き結局は未使用の
ままで押入れにしまうことになったのである。
(あれを見つけられてしまったら……)
 一瞬、その状況を思い浮かべて額から汗が流れる。
 湯たんぽが壊されるのは仕方がないが、その所為で綾香に嫌われるのはなんとしても避けたい。
 そんな考えが朔の頭の中をよぎる。。
「なんだ、ベッドの下にはないのか。んじゃ、押入れかな……」
 そうYOSSYが呟いた瞬間、朔の体が動いた。
 すばやくYOSSYの背後に回りこむと右手を取って投げ飛ばす。
「ってぇ……。いきなり何するんだ!?」
 見事に背中から床に叩きつけられたYOSSYが腰をさすりながら文句を言う。
 いきなり投げ飛ばされたのだから当然の反応と言えるのだろう。
 もっともその前の行動にだいぶ非があるとは言えるのだが。
「うるさい、人の部屋を勝手に漁るな!!」
「勝手に漁るな、ってただ押し入れの中を見ようとしただけだろ」
「許可なく俺の部屋を漁るなと言ってるんだ!!」
「まぁ、そりゃそうだけど……。なんか怪しいなぁ、その態度」
「な、何が怪しんだ!?」
「いや、おまえがそこまで慌てるなんてなぁ……。ひょっとして人に見せられない趣味のものがあると
か?」
 あからさまに動揺している朔に向かってじりじりとYOSSYが近づく。
 その顔にはいたずらっ子のような笑みが浮かんでいる。
「そ、そんなものはない。断じてない、絶対にない!!」
「だからその台詞と顔が怪しいんだって。いいから見せてみろって」
「ないと言ってるだろう!!」
 そういいながら傍らに立てかけてあった剣に手を伸ばす朔。
「そう言わずにさ……」
「真・魔皇剣っ!!」
 さらに歩み寄るYOSSYめがけて一瞬で練り上げられた気が牙を向いて襲い掛かる。
「うわっ!! 何すんだ、危な……」
 辛うじてその一撃を交わしたYOSSYが抗議の声をあげようとした直後、背後で何かが爆発するよう
な音がする。
「あ……」
 そこには今の一撃を受けて、見事に煙を噴いているクーラーがあった。



「ったく、なんで壊れるなんてなぁ……」
 蒸暑い廊下を歩きながらYOSSYがぼやく。
「……誰の所為だと思ってる」
「お前があんなとこで魔皇剣なんて撃つからだろ」
「お前が、人の部屋を漁るなんて真似をするからだろうが!」
 YOSSYの言葉に珍しく朔が語気を荒立てる。
 もっとも、自分がしてしまったとは言え、部屋を半壊にさせる原因を作った相手には穏やかに話せるも
のでもないだろう。
 さらに言うならば今は蒸暑い。初夏とは言え今の今まで冷房の下にいた人間にとってはこの暑さは一種
の拷問である。
「いや、それはそうだけど……。ってやめようぜ。ただでさえ暑いのに喧嘩なんかしたらもっと暑くなっ
ちまう」
「確かに……。それは同感だ」
 そうは言うものの額から流れる汗をぬぐうYOSSYと違って朔は大して汗を書いている様子ではない。
「同感って……お前、汗かいてないじゃん」
「この程度で汗をかいてたら軍隊などやってられない」
「……ぐんたい?」
「いや、なんでもない。それにしても暑いな、お前の部屋にはクーラーはないのか?」
「俺の部屋? あるわけないだろ」
 朔の言葉にYOSSYがあきれたように言う。
「だいたい、自分の部屋にあったらお前の部屋に行くわけないだろ」
「確かにそれもそうだな……」
 YOSSYの言葉に悠朔がうなづく。
「で、お前はどうするつもりだ?」
「俺? そうだなぁ、とりあえず他にクーラーか扇風機のある部屋を探してみるよ」
「そうか。なら俺も一緒に行かせてもらうぞ」
「へ? なんで?」
「あの部屋で寝られるわけがないだろう」
 朔は一瞬、ため息をつきそうになった。
 先ほどの影響の所為で朔の部屋は非常に暑い。誰だってそんな部屋でわざわざ寝ようなどとは思わない
だろう。
 ちなみに半飼い猫のゴーストはというと飼い主(?)を見限ってさっさと逃げ出していた。
「ま、確かにそれもそうか」
「だが部屋に心当たりはあるのか?」
「持ってるって話は聞かないけど誰か持ってるだろ。まぁ、当たって砕けてみようぜ」
 かくしてYOSSYと朔の寝床探しが開始された。



CASE 1 雅ノボルの場合


「みやびん、ちょっといいか?」
 YOSSYが「雅ノボル」と書かれたプレートの張ってある部屋をノックする。
「……」
「返事がないな。留守みたいだな」
「そうか? でももうこんな時間だぜ、外出してるってのは考えにくいけどなぁ」
 といいつつ腕時計を見るYOSSY。確かに時刻は門限の8時を回っている。
「門限破りはお前もよくしているだろう」
「そりゃ俺はいろんな抜け道をしってるからさ。けどあいつはそう言うのはしそうに思えないけどなぁ」
 そうYOSSYが呟いたときだった。
「……て……」」
「なぁ、何か声しなかったか?」
「ああ、部屋の中から聞こえた気がするが……」
「……た……け……」
 再び部屋の中から聞こえる声にYOSSYと朔が顔を見合わせる。
「やっぱりしたな」
「ああ、けど……」
「けど?」
「誰の声だ?」
「……」
 その言葉に二人とも沈黙する。無論その声に聞き覚えがなかったからだ。
「たぶん、雅じゃないのか? 声は部屋から聞こえたようだしな」
「だよなぁ。まぁいいや、開けるぞ、みやびん」
 そうYOSSYが扉を開いた瞬間、部屋の中から何かが溢れ出してきた。
「なっ!!」
 一瞬、何が起こったか二人には理解できなかった。いや、理解の範疇を超えていたとうべきか……。
 雪崩るように落ちてくるミッ○ーマ○スやキ○ィ○ゃん、ト○に魎皇鬼と言った版権ものの着ぐるみが
硬直している彼らを押しつぶすのに数秒とかからなかった。


 着ぐるみの山がもそもそと動き出す。
 一瞬の沈黙後、「だぁぁぁああっ!!」という掛け声とともにYOSSYが立ち上がる。
 その体は土砂降りに会った後のように濡れている。
 隣に顔を出した朔も同じようなものだ。
 さすがの彼も着ぐるみに埋もれても汗をかかないという技術は身に付けれなかったらしい。
 もっともそんな状況を想定する軍隊などあるはずはなかろうが。
「ワンワンワン」
 と、二人の背後からそのような声がする。
 振り向いた二人の先に立っていたものは犬の着ぐるみだった。
 頭が重いのか少しふらふらとしている。
「何やってんだ、みやびん?」
「ワン、ワワン」
 首を振りながら答える犬、もとい雅ノボル。
「ちゃんと人間語を喋れ」
「ワワワン、ワン」
「貴様、俺を馬鹿にしているのか?」
「ワン、ワワン、ワン!!」
 朔の言葉に必死で首を振るノボル。
 だがその口から漏れるのは可愛い犬の鳴き声のみ。
「雅……、冗談は時と場合を選んでしろ……」
 朔の声が一段低くなる。
 部屋から持ち出した木刀を握る手に力がこもる。
「ワワン、ワン!!」
 両手を前に出し、左右に振るノボルだが悠朔は見向きもしない。
「おい、ちょっと待てって……」
「お前は黙っていろ。この暑い時にくだらない冗談を言う馬鹿に制裁を加えてやるんだからな」
「ワン! ワワン!!」
「まだ言うか、この怪人犬男!」
「ワンッ!! ワワンッ!!」
 不意にノボルが体を翻して部屋の中に戻る。
「待て!」とばかりにそれを追おうとする朔だが、足元に散乱する着ぐるみに足を取られ、思うように動
けない。
「あいつめ……」
「なぁ、なんかあったんじゃないのか?」
 そう、YOSSYが声をかけたときだった。再びノボルが顔を出す。
「観念して出てきたか……」
「ワワン、ワン」
 朔の言葉に慌てて首を振りながらノボルが手にしたものを差し出す。
「なんだ、それは?」
「看板、だよな……。なんか書いてあるぞ」

『話を聞いてくれ』

「話を聞けだと?」
「何かあったのか?」
 YOSSYの言葉にノボルがぶんぶんと首を縦に振る。
 そしてすばやい速度で看板に文字を書き込む。

『ボイスチェンジャーが壊れた』

「なるほどねぇ。それで喋れないってわけか……」
「ふん。喋れない事情はわかった。だがこれはどういうわけだ?」

『着ぐるみの整理をしてたら出しすぎて……』

「着ぐるみの整理?」
「けどどこにこんだけ仕舞ってあったんだ?」
 YOSSYが疑問に思うのも無理はなかった。
 何せノボルの部屋から出てきた着ぐるみの量はどう考えても部屋の中に仕舞ってあったものとは思えな
い。

『えーと、これに仕舞ってあったんだけど……』
 看板を掲げながらノボルが手にしたものを見せる。
 それは半円状で真っ白い袋のようなものだった。
 ノボルがそれに手を突っ込むと真っ白い看板が出て来る。
「4次元ポケット?」
 YOSSYの言葉にノボルがうなずく。
「ところで喋れないならさっさとそれを脱げ」
 ノボルがさら看板に何か書きかけた時、突然朔が言い放った。
 ノボルが文字を書く速度は着ぐるみをきている人間とは思えないほど早い。
 が、それはあくまで書く速度が早いのであって喋る速度に比べれば遅いのは当然であろう。朔の指摘も
もっともである。
 だが、ノボルは首を振る。
「いちいち書いてると手間がかかる。いいからさっさと脱げ」
 フルフルフル
「さっさと脱げと言ってるだろう」
 フルフルフルフル
「確かに面倒だよな。さっさと脱いじゃえよ」
 フルフルフルフルフル
「いいからさっさと脱げって」
 YOSSYと朔の手がノボルに伸びる。
 必死になって抵抗するノボルだがいかんせん日ごろの慣れが違う。あっさりと二人に取り押さえられる。
「別に下まで脱げとは言ってないだろ」
「頭だけ外させてもらうぞ」
「ワワン、ワンッッ!!」
 三人の声が重なり……、そして次の瞬間、朔とYOSSYは気を失った。
「まったく、人の顔を覗こうとするからだよ……」
 ずれかけた頭部を直しながらノボルがボソッと呟いた。


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 というわけで久しぶりのLです。みなさん、お元気でしたでしょうか?
 前回の投稿からなんと半年以上経ってしまっているのでもう忘れられたりしたら……とびくびくしたこ
ともありました、夢幻来夢です(笑)
 とりあえず、ネタが浮かんだので早急に書いてみました。まだまだ先は長くなりそうですが男子寮全員
の登場を目指して頑張っていこうと思います
 最後に……合宿編まだですみません(汗)

追伸:キャラがだいぶ違ったらすみません>みやびんさん、朔さん、YOSSYさん