Lメモ”夏の夜の一夜” その2 投稿者:夢幻来夢

CASE 2 夢幻来夢および平坂蛮次の場合


「う……」
 小さなうめき声をあげながらYOSSYが目を覚ました。
 隣で朔も頭を振りながら起き上がる。
「あれ? なんで俺たちここにいるんだ?」
「さぁな……」
 先ほどまでの記憶は二人の頭の中からすっかり消え去っていた。
 とりあえずわかっている事は二つ。
 一つは今、部屋がとてつもなく暑いと言う事。もう一つは全身汗まみれということである。
「とりあえず、風呂にでも行こうぜ」
「そうだな」
 もっとも妥当な判断をして二人は風呂場へと向かった。


「今日〜が、終わ〜っても♪」
 風呂場から楽しげな歌が聞こえてくる。
 やや高めの――おそらくはボーイソプラノと呼ぶ領域だろう――声である。
 ただし音は正しくとれていない。
 ありていに言うならば音痴、な歌であった。
「誰か入っているようだな」
「そうだな。どうする?」
 YOSSYの言葉に朔はしばし沈黙した。
 男子寮の風呂場は決して広くはない。とはいえ4、5人ぐらいは入れる大きさではあるが。
 問題は中にいる人間である。
 癖の多い男子寮の人間である。「入ったら中にいたのは薔薇でした」などという目には絶対に合いたくな
い。
 ちなみに現在男子寮生で薔薇疑惑があるのは3名である。
 うち二人は真正の薔薇らしいが。
「少し待っておくか?」
「そうだなぁ、やっぱり暑いしさっさと入ろうぜ」
 そう言いながらYOSSYがさっさと服を脱ぐ。
 鍛え上げられたとまではいかないが贅肉の少ない身体が服の下から現れる。
 さすがは格闘部員と言ったところだろうか。
 もっとも彼の場合、理由を聞かれたら「この方が女の子にモテる」と言いそうなのだが。
 大して朔の方も負けてはいなかった。
 YOSSYとはまた異なるがこちらも余分な肉がない。
 YOSSYに比べるとがたいがいいのはおそらく使い方の違いだろう。
 胸板などはYOSSYよりも厚い。
 まぁ、どちらにせよこのような現場を女の子に見られたら悲鳴が聞こえるのは間違いない。いい意味で
も、悪い意味でも……。


 水が床に叩きつけられる音がする。
 元々は真っ白い――二十歳を超えた女性はおろか同世代の女の子でさえ、ともすれば羨むようなきめの
細かい――肌が夏の暑さの所為かほんのりと桜色に染まっている。
 ゆっくりと顔を上げ、軽く頭を振ると長い銀色の髪からこまかな飛沫が宙へと舞う。
 女性特有のふっくらとした丸みをおびた体つき、ではない――特に胸に関してはまったくない――が小
柄で華奢な体躯はそれすらも一種の魅力とさせている。とは言えその魅力に性的興奮を覚えるのは人とし
て間違っているかもしれないが……。
 女の子から少女へ、そして少女から女へと変わっていく途中のまだ未成熟の青い果実特有の魅力を持っ
ているのは何もその体つきだけでもない。
 顔もまた、愛らしさから美しさへと変わっていく過程の中で微妙なバランスを保っている。
 そしてその愛らしい唇からつむぎだされるのは楽しげな歌。
 と不意にそれが止まり、風呂場の入り口を振り返る。
「ん? お前らも風呂なんか?」
 少女――ではなく少年、来夢は入ってきたばかりの二人に向かってそう尋ねた。


「……あれは犯罪だ」
「……同感……」
 朔の呟きにYOSSYがうなずく。
 無論、話題の対象は来夢である。一見すれば美少女であるのだが男子寮の風呂場にいることでわかるよ
うに来夢はれっきとした男である。
 ただし、人間頭でわかっていても身体は反応してしまうこともあるわけで……。
 結局のところ二人とも来夢には背を向けて体を洗うことに専念しているわけである。
 ちなみに当の来夢は既に身体を洗い終わっているためにのんびりと湯船につかっている。長い髪の毛は
湯につかるのには邪魔なのかタオルで持ち上げているのがその姿はどう見ても女の子の入浴姿だろう。
 風呂の戸を開けた瞬間、二人が硬直したとしておかしくはない。もっともあの時は後姿だけだったが。
(しかし、あの格好で男ってのはやっぱりつまらないよなぁ)
 YOSSYが身体を洗いながら思う。
(あの後ろ姿、胸はまぁ、今後に期待としてお尻の形はなかなか……、って何考えている、俺は!)
 さっきの姿を思い出しかけ、慌てて首を振る。ま、無理はないのかもしれないけれども。
「おい、シャンプーを取ってくれ」
「え? あ、ああ、ほい」
「? どうかしたのか?」
「なんでもない」
「そうか?」
「そうだって」
 そうYOSSYが言ったときだった。それが起きたのは。


 脱衣室の戸が開く音がする。誰かが風呂場に入ってきたようだ。
 どさどさっという音とともに服を脱ぎ、その人影が曇った窓から覗くことができる。その影はかなり、
いやまれに見る巨漢だ。
 浴室と脱衣所を仕切るガラス戸が開かれ、ぬぅっとその姿を現す。
 それは見事なまでの筋肉で覆われた男だった。いや、その身体から放たれる雰囲気は男というよりもむ
しろ漢か。
 編み上げられた縄ように太くたくましい上腕筋。
 ナイフなどで刺したところで軽く弾き返そうなくらい分厚い胸板。
 ひょっとした鬼が哭くかもしれないと思わせるほどの発達した後背筋。
 鍛えぬかれた鋼とでも形容すべき肉体である。
「さて、ひとっ風呂あびるかのぉ」
 野太く、粗野なその声に来夢が湯の中で身構えた。


「よぅ、お前も風呂か?」
「おお、やっぱりこういう日は熱い風呂に限るからのぉ。おんしらもそうじゃろ?」
 YOSSYの言葉に巨漢、蛮次は男くさい笑みを浮かべながら言う。
「まぁ、熱い風呂に入れば少しは暑さを忘れられるからな」
「なんじゃ、ゆーさく、おんしはこの程度で音をあげる漢じゃったのか?」
「誰がゆーさくだ」
「おんしの事じゃ。みながそう呼んじょったが気のせいじゃったか?」
「俺ははるか、はじめだ。ゆーさくなどと呼ぶな!」
「なんじゃ、騒々しい男じゃのぉ。そんなんではちゅるぺたにモテんぞ」
 思わず激昂しかける朔だったが蛮次は平然とした顔で答える。というよりもなぜその程度のことで怒る
のかが理解できていない様子である。
「なぜ俺がつるぺたなぞにモテる必要がある!」
「なにぃッ! おんし、ちゅるぺたの魅力がわからんのか!?」
 風呂桶を手にしようとしていた蛮次が朔の言葉に振り向く。
「いいか、ちゅるぺたちゅーもんは萌えるもんなんじゃ。あの希望に満ちたあどけない瞳! 成長途中で
ガラスのように繊細な身体! ふにっとすれば真っ赤になって照れる様! そして何より……」
「そして何より?」
「そう言うものを自分色に染めてく快感じゃぁああ!!」
 拳を振り上げ、天に向かって吼える蛮次。
 次の瞬間、YOSSYの投げた風呂桶が頭部に激突する。しかしその程度で蛮次の動きは止まらない。
「やっぱり基本は監禁陵辱じゃな。あの希望に満ちた瞳が脅える様は一度見るとやめられんぞ。さらに純
粋無垢なものを汚すという行いの背徳感……」
(なるほど……。って、何を考えている俺は!?)
 一瞬、蛮次の言葉に頷きかけ、慌てて頭を振る朔。
「どうしたんじゃ、ゆー……」
 さく、と言いかけた蛮次の動きが不意に止まる。
「か、か……」
 両の拳を握り締め、全身を震わせる。
 視点はただ一点を見つめ、その視線の先には……。
 風呂からこっそりと逃げ出そうとした来夢がいた。


「感動じゃぁああああ!! わしのことを裸で待っとってくれたとわ!!」
「じゃかましぃっ! 風呂に入っとただけやっ!」
「ちゅるぺたじゃぁあ、ぷにぷにじゃぁああ、萌えぇぇええええ!!」
 意味不明な言葉を口走りながら蛮次が来夢めがけて突き進む。
「黒い牙ぁあああ!!」」
 拳を突き出しながら来夢が吼える。
 裂帛の気合が込められた一撃が正面から蛮次を捕らえる。
 だが、その一撃を受けても蛮次の動きは一瞬止まるだけ。恐るべき耐久力である。
「その照れる様がまたええんじゃあ。さっそく持って帰って監禁陵辱じゃぁ!!」
「照れとらん!!」
 背筋に走る凍るような寒気と恐怖を必死で払いながら来夢が叫んだ。
 と、同時にその身体が宙へと舞う。
 自らの裸身を惜しげもなく晒し――とは言え男だけしかいないのだからまぁさして問題ではない上に惜
しまれることもないが――旋風脚の要領で放たれた蹴りが蛮次の頭部に叩き込まれる。
 だが、その蹴りを受けながら蛮次は微動だにしなかった。むしろその蹴りで一瞬だけ止まった来夢の足
をむんずと掴む。
「うぉっしゃー、来夢ちゃんゲットォォオオ!!」
「勝手にゲットすなぁあ!!」
 吼える蛮次に更なる追い討ちの蹴りを叩き込む来夢。しかし、それも蛮次を一歩後ろに下がらせるしか
効果はない。
 だが、どうやら天は来夢に味方をしたようであった。
「ぬぉっ!!」
 下がった足の下の何かが蛮次の体勢を崩す。
 2mはゆうにあるその巨体は一度バランスを崩すと立て直す事は困難だ。さらに今は来夢が暴れている。
 かくて蛮次はその野望を果たすまもなく風呂場の床へと倒れ伏した。


「なぁ、あれ、どうする?」
「知るか」
 YOSSYの言葉に朔はそう返事を返した。無論、何が起こっているかはわかっているがそれに構う気
はさらさらない。
(第一、奴等がどうなろうと俺には関係ないからな)
 シャンプーを手につけながら朔は考える。彼にとって風呂場で馬鹿な騒動を起こす二人に関与するより
早く自分の汗を流すほうが遥かに有意義だ。
「そうか? 風呂に入れなくなってるけど……」
「何?」
 横目でちらりと見ると蛮次と来夢が折り重なるように気絶しているのが目に入る。そしてその蛮次の身
体というか頭の下には崩れている浴槽の壁があった。さらに言うならばそこから流れ出すお湯がちょっぴ
りとピンクになっている。
「シャワーで我慢するしかなさそうだな」
「やっぱりそうか……」
 ちょっとうんざりとした声でYOSSYがため息をつく。
「あーあ、銭湯か仮眠館にでも行けばよかったかなぁ」
「お前は立ち入り禁止じゃなかったのか?」
「あ、そういやそうだっけ?」
「第一あそこまでは距離がある。行って帰ってくるだけでまた汗をかく」
「確かに」
 朔の言葉にYOSSYが苦笑する。
「ま、しょうがないか。さっさとあがって扇風機でも探そうぜ」
「ああ、そうだな」


 ――YOSSYと朔が風呂から上がって数分後――
「こら、放せ、放さんかぁ!!」
 気絶してもその手を放さない蛮次から必死で逃げようとする来夢の姿があった。
「来夢ちゃ〜ん、もう逃がさんぜよ。わしがしっかり調教してやるからのぉ……」
「待て!! どんな夢見取るんやっ! こら、起きんかぁあああああ!!」
 風呂場に来夢の絶叫が木霊した。



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 ふぅ、第2話というか続き終了〜
 しかし、最初に投稿してから気付いたことだけどこれ連作なのにタイトルに1とか2がない(笑)
 ま、何はともあれ学園寮Lの続きです
 今回は蛮次×来夢に焦点を絞ってみたけどなぜか男の裸を描写することに
 やっぱり女の子の裸のほうが楽しそうです、はい(笑)

 さて、次は誰の部屋を書こうかな?(笑)