Lメモ学園武闘伝第零話”彼と彼女の最初の出会い” 投稿者:夢幻 来夢
「……」
 黒木は信じられないと言う顔で目の前の光景を眺めていた。いや、眺めるというより
も呆けるの方が正しいのかもしれない。
 彼の目の前にいるのは、彼の舎弟たちをあっさりと打ちのめした人影が一人。
 もし目の前に立つ人影が身長2mの巨漢であれば彼もこの事実をあっさり納得しただ
ろう。
 だが、目の前に立っていたのは自分よりもはるかに小柄な少女だったのだ。
 身長は160cmぐらいであろうか。美人と呼ぶよりも可愛いと形容した方が似合う
やや幼い顔立ち。可憐という形容詞がふさわしい愛らしい唇。軽く力を込めれば折れて
しまいそうなくらい華奢で小柄な体躯。雪のように白い肌。惜しむべきことは腰のあた
りまで伸ばした銀色の髪を無造作に束ねていることか。しかしそれすらも絵になるよう
な美少女である。
 と、唖然としている黒木に向かって美少女が口を開いた。
「どないしたんや。これでしまいか?」
 不適な笑みを浮かべながらそんな言葉が紡ぎだされる。しかも今しがた5人の不良た
ちをのしたとは到底思えない軽い口調であった。息切れすらしていない。
 その言葉が黒木を現実に引き戻したのだろう。邪魔になりそうな制服の上着を投げ捨
てる。
 相手がどうで見えたとしても事実自分の舎弟たちが倒された事実には変わりがない。
それを理解するだけの判断力を黒木は備えていた。もっともその程度の判断力がなけれ
ば不良たちを束ねることはできないだろう。
「へぇ、ちょっとはやるようやな」
 黒木の構えを見て少女がにやりと笑みを浮かべた。声もわずかに喜びを含んでいる。
(こいつ、強い……)
 少女の気配がこっちにむいたとき黒木はそう直感した。圧倒的な闘志が伝わってくる。
「けどまだ役不足や」
 その言葉とともに少女が動いた。軽く息を吐きながら蹴りを放つ。黒木がローキック
と読んで脛で防ごうとする。が少女の蹴りは膝を伸ばす瞬間、ミドルキックに変化す
る。蛇のように伸びたその蹴りは黒木の脇腹に突き刺さった。
「ぐ……」
 ふけば飛びそうなくらい小柄な体躯から想像もできない衝撃を受け、黒木の体勢が崩
れた瞬間、少女の身体が反転し上段の後ろ回し蹴りが襲い掛かる。
 かろうじてそれを受けながら黒木はいったん間合いを取った。ブロックに使った腕に
重い衝撃が残っている。蹴りを受けたというよりは木刀の一撃を受けたような衝撃だっ
た。
「くそっ」
 自分の胸ぐらいしかない相手に後退させられたことが黒木の自尊心を傷付けた。あり
きたりの台詞をはきながら少女に回し蹴りを放つ。スピード、威力ともに申し分のない
蹴りだった。もっとも一般人を相手にするには、の話であったが。
 少女は黒木の蹴りを左腕で捌くと同時に右の回し蹴りを叩き込む。攻撃の瞬間のため
黒木のブロックは間に合わずそれは再び脇腹に命中した。と、少女はそのまま軸足を跳
ね上げる。それは狙い違わず黒木のあごにヒットした。
 後方にもんどりうって倒れる黒木を眺めながら少女は空中で一回転した後体勢を崩すことなく
着地する。恐るべき身の軽さとバランス感覚であった。
「なんや、もうしまいか?」
 少女の言葉は黒木に届いていなかった。まるで曲芸師のように放った少女の蹴りを受け、受け
身をとることすらできずに倒れた彼は後頭部を地面に打ち付け気絶していたのだった。
「ったくかなわんな、人に喧嘩を売るときはもう少し強うなってから来て欲しいもんや」
 ぴくりとも動かない黒木を眺めながら少女が呟く。
「そう思わんへん、あんた?」
 何事もなかったかのようにそのまま少女は背後にいる人影に声をかけた。
「しかしこれは見せもんとちゃうで。何しとるんや、そこで」
 えっという顔をしているその人影に少女は問い掛けた。
「え、危なそうだったから助けてあげようと思ったんだけどね……」
 少女の言葉に人影は苦笑いをしながら答えた。だがそんな姿も絵になる。
 黒木と闘った少女とは優るとも劣らない美少女だった。身長は少女とそんなに差はないだろう。
ただ、少年のような体つきをしている少女とは異なり出るところは出、引っ込むところは引っ込ん
でいる。それと身に纏っている雰囲気が異なった。先ほどの少女が月とすれば太陽のような雰
囲気を持っている。
「それにしてもあなた強いのね。なにか格闘技やってるの?」
「格闘技? そんなもんやっとらんわ。我流や我流」
「でもすごいわね。助けに入ろうと思ってたけどお節介になるところだったわ。おまけに我流なん
でしょ。あたしも空手やってるけどあなたも女の子なのにずいぶんと強いじゃない」
 そう少女が言ったときだった。黒木を打ち倒した少女の顔が険しくなる。
「なんやって……」
「え、だから女の子なのにすごく強いのねって……」
「オレは女やない!」
「うそ? そんなに可愛いのに?」
「誰が可愛いんやー!」
 少女、いや少年が吠えた。とそのまま右の蹴りが放たれる。黒木に打ち込んだときよりも速く、
そして鋭い。 だが少女は少年の蹴りをいともたやすく見切った。顔を後ろに軽くスウェーするだ
けで躱す。
「何するのよ、いきなり。危ないじゃない」
 抗議の声を上げる少女に少年はにやりと笑った。それはまるで獲物を見つけた肉食獣を想像
させる笑みであった。
「あんた、強いんやな。俺と勝負せん?」
 先ほどまでの怒りはどこへやら、不敵な笑みを浮かべたまま少年が問い掛ける。その言葉の
裏には受けなくても仕掛けるぞと言う雰囲気がにじみ出ていた。
「……。いいわよ」
 数秒考えた後、少女が答える。少年の強さを見たにもかかわらずその顔は落ち着いたもので
ある。いや、先ほど少年の蹴りを躱したことを考えれば当然かもしれないが。
「でも一つ条件があるんだけどいい?」
「条件?なんや、言うてみ」
「これつけてならいいわよ」
 そう良いながら少女は手にしていたバッグから二つのグローブを取り出した。いや、グローブと
は違い、指が出るようになっている。
「これとこれをつけてならOK。いい?」
「なんやめんどいな。けどしゃーないな、それでええわ」
 少女の言葉に少年はさも退屈そうに頷いた。そしてグローブとレッグガードを受け取り手早く身
につけた。

「これでええんやな?」
「いいわよ」
「ほな……行くで」
 少年のその言葉が闘いの火蓋となった。滑るように少女の懐に入り込んでボディーめがけて
フックを打とうとした。だがそれは少女の放つ牽制のジャブにあっさりと止められる。
 今度は少女がジャブからの連携で攻めたてる。
 ジャブ、ジャブ、ワン・ツー、ハイキック、ジャブ……。
 実践的な闘い方である。隙が少なく相手の動きを封じる闘い方だった。アウトレンジでジャブで
牽制し、懐に入るとラッシュをかける。
 だが少年もその攻撃をなんとか捌いていた。数撃は受けるがその程度ではまったく気にした様
子もなく逆に肉を切らせて骨を断つとばかりに攻撃を叩き込む。
 勝負は少女の方が有利なようだった。少女の攻撃は少年に効いていないようだが確実に少年
を捕らえている。対して少年の攻撃は少女に当たっていない。これでは勝敗は目にみえていた。
「やるな、あんた」
「あなたもやるじゃない。でもそんな攻撃じゃ当たらないわよ」
「ほなこっちも本気でいくで」
 そう言って少年は上段の回し蹴りを放つ。少女がそれを躱した隙をついて大きく後方に跳ぶ。
「ヒュゥゥゥ───……」
 高く、長い息吹が少年の口からもれる。とたんに少年の身体を取り巻いていた闘気が収縮して
ゆく。まるで呼気とともに闘気が体内に蓄積されていくようだった。
(なに?)
 少年の不可思議な行動に一瞬攻撃の手を休めていた少女は動けなくなった。頭の中に”危
険”の二文字が点滅する。
「これで…しまいやあァ!」
 少年が吠えながら右腕を振るう。その瞬間、不可視の力が少女に襲い掛かった。
 爆発的な衝撃が少女に叩き付けられ、弾き飛ばされそうになる。だが少女は奇跡ともいえる動
きでその衝撃に耐え切った。いや、躱したと言った方が正しいのかもしれない。
 少女に不可視の力の奔流が見えた訳ではなかった。気が付いていたら身体が動いていた、が
正しいだろう。それはまさに天性の才能が為し得る技であった。
「な…」
 それが奥の手だったのか少年の動きが止まった。その隙を逃さず少女のハイキックが少年の
側頭部にクリーンヒットする。そのまま少年は崩れ落ちるように倒れた。

(なんや、気持ちええな……)
 額に冷たいものを感じながら少年は目を開いた。すでにあたりは夕闇が迫っており、人気はな
い。
 ゆっくりと身を起こすと額からぬれたハンカチが落ちる。
「気が付いたみたいね」
 ぼんやりとハンカチを眺めている少年の背後から唐突に声がした。声の方を無くと先ほどの少
女が缶ジュースを片手にこちらへ歩いてくるところだった。
「ごめんね、ちょっとやりすきちゃったみたい。あ、これでいい?」
 意識がはっきりしていない少年に向かって軽くウィンクをすると少女は缶ジュースを差し出した。
「あ、おおきに」
 思わず礼を言いながら少年は缶ジュースを受け取った。軽く目をやると有名なスポーツドリンク
だった。
「大丈夫?まだ意識がはっきりしないの?」
「いや、大丈夫や……」
 そう良いながら缶の蓋を開け一口飲む。渇いた喉に染み渡るジュースの味はおいしかった。
「でもあなたも結構強いのね。久しぶりに燃えられたわ」
 少年の横に腰を下ろした少女が笑顔で言った。そして自分も缶を開け一口飲む。
「でも最後のあれ何だったの? なんかものすごい危険を感じたんだけど」
「気や」
「え?」
「気。気功の一種や。詳しいことは教えれんけどな」
 少女の問いに少年はぼそっと呟いた。その言葉に刺激されたのか何やら口を開きかけた少女
だがそれは彼女の持つ携帯に邪魔をされた。
「はい、綾香です。……あ、うん、わかった。じゃあすぐ行くから」
 そう言って携帯を切ると
「ごめんね。もう少し話聞きたかったけど用があるから先行くね」
「ああ」
 少女の言葉に少年は力なく頷いた。
「あ、そうそう。自己紹介がまだだったわね。わたしは来栖川 綾香。あなたは?」
「夢幻……夢幻 来夢や」
「そっかじゃあね、来夢」
 そう言うと来栖川 綾香と名乗った少女は公園の外めがけて走り出した。残された来夢はそのう
後ろ姿をぼんやりと見送った。

 そしてそれから一年後。
 来夢は試立Leaf学園の門をくぐることになる。より強き相手を求めて……。

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後書き
 とりあえず普通の人が書かないようなものを書いてしまいました。これでほんとにLメモかと
突っ込まれると返す言葉がありません(笑)
 それとこの作品はPS版の綾香ストーリーを見てから書きました。もっともネタばれにはならな
いと思いますけれど、綾香の闘い方はそれを参考にさせてもらっています。
 まあ次は格闘部に挑戦をする来夢を書いてみたいですね。では最後に登場キャラクターにつ
いて一言(笑)
●登場キャラ(五十音順)
   来栖川綾香…言わずと知れたエクストリーム・チャンプ。この時はまだチャンプになる前の話
なんですけどね。今後とも来夢の前に立ちはだかる壁になっていただくつもりです(笑)
   黒木…一回こっきりの不良さん。空手をやってました。とりあえず来夢の強さを引き立たせる
だけの役です(笑)
   夢幻来夢…いろいろと設定をこねくり回してようやく誕生。これが当然初登場です。かなり強
いんですが”井の中の蛙大海を知らず”みたいなところがあります。きっと大海に通じる蛙に
なってくれると思いますが(笑)