Lメモ学園武闘伝第壱話”Here come's a new challenger” 投稿者:夢幻 来夢
”試立Leaf学園格闘部”
 緑葉帝暦65年、名無高等学校より試立Leaf学園に新規設立されたときに空手部より改名され
て以来高校生格闘界において高い知名度を誇る部活です。空手、柔道、ボクシング、アマレス
と言った既存の格闘技の垣根を取り払い、真の武道家を目指す人たちの集まるこの部は現
在、総合書く党大会である”エクストリーム”出場に向けて日夜練習に励んでいます。昨年は現
部長の来栖川綾香さん(2年生)がそのエクストリームに出場し、初出場・初優勝という快挙を成
し遂げました。
 基本的な活動内容としては……。

 学内案内であるパンフレットをそこまで読んで来夢はそれをくしゃっと丸めると側の繁みに放り
投げた。そしてそのまま目の前に構えられた看板に目をやる。
 『格闘部道場』。そう墨で書かれたその看板は伝統という古めかしさはないが、実績という重み
を醸し出している。中では稽古の最中なのだろうか、気合の入った声と何かを殴る音が聞こえて
くる。
「ここがその格闘部道場っちゅう訳やな」
 来夢はその看板を一瞥すると不適な笑みを浮かべながら道場の中に足を踏み入れた。
 道場内部はかなりの広さだった。他の高校の道場よりもはるかに広く、とても高校生の使用す
る道場とは思えない。もっともこの道場の資金の大半は部長である来栖川綾香のポケットマ
ネーから出ているのであるが。
「何か用?」
 道場に入るなり来夢はそんな声に迎えられた。声の方に目をやると一人の女生徒が来夢の方
を見ている。
 体格は来夢より二回りほど大きい。黒い髪をボーイッシュに刈りそろえ、空手着を身につけてい
る。両手両足にウレタン性のガードを付けていないところを見ると休憩中なのだろう。
「ああ、そうや。ちぃーと見学を、な」
 女生徒の言葉に軽くうなずきながら来夢はずかずかと道場に上がり、腰を下ろす。その目は目
の前で繰り広げられる組み手に集中していた。
 広い道場だけに、部員の人数も多い。二人一組になった部員たちがある者は打撃を、また在る
ものは組み技の応酬をしている。いや、良く見れば実戦形式の組み手に近いことがすぐに分か
るだろう。
「見学?」
「そうや、かまわんやろ」
 女生徒の言葉に今度は振り向きもせず来夢が答える。彼の目はすぐ前の組み手にそそられて
いた。


「あかんな。この程度か」
 組み手の見学をはじめて2分と経たないうちに来夢の口からそんな言葉が漏れた。
「え、何か言った?」
「この程度やったら入る必要あらへん。帰るわ」
 そう言いながら来夢が腰を上げる。その顔には明らかに失望の色が浮かんでいた。いや、失望
というよりも軽蔑の色の方が濃い。
「この程度?」
 その言葉に込められた感情に気づいたのか女生徒の顔がやや険しくなる。
「そうや。所詮は空手や柔道に毛の生えた程度にすぎないやん。これやったら入る必要あらへ
んわ」
 はき捨てるような来夢の言葉。だが、それを受けた女生徒の顔がはっきりと険しくなった。
「空手や柔道に毛の生えた程度ですって?」
「そうや。寸止めやのうて直接拳を叩き込むぶんマシやがガード付けてる時点で格闘技やない。
これじゃ実戦に通用せんな」
「空手を侮辱するの?」
「侮辱も何も事実やろ。精神鍛練なんぞを掲げとる時点であれは格闘技やないで」
 その言葉が引き金になったのか、少女が突然立ち上がった。
「空手はれっきとした格闘技よ。暴力を振るうだけの新参の格闘技に引けをとりはしないわ」
「そんわけないやろ。ストリートファイトしたこともあらへん格闘は所詮ままごとや。実戦で使えて
こその格闘技やで」
「空手は実戦でも通用する格闘技よ!」
 来夢の言葉を打ち消すように女生徒の声が道場に響いた。その顔は来夢の顔を睨み付けてい
る。
「そこまでいうんなら、証明してみ」
 来夢の顔に不敵な笑みが浮かんだ。そして無造作に道場の真ん中に向かって歩き出す。先ほ
どの女生徒の言葉に組み手が止まった部員たちが何か威圧されたような顔で道を開けた。
「あんた、元々は空手家やろ。ならオレと闘って証明してみぃ」
 道場の真ん中のあたりで来夢は女生徒の方を振り向きながら挑発するように手招きする。
「いいわよ、相手になってあげるわ」
「んなもん、付けてもしゃーないやん。バーリトゥード(何でもあり)や」
 ウレタン性のガードを手にしようとした女生徒を来夢が馬鹿にしたような口調で止める。だが、
女生徒はその言葉を無視し、両手両足にそれを付けた。
「またせたわね」
「かまへんよ。けど、そんなんつけてオレを倒せると思うてるんか?」
 そう言いながら来夢が構えた。もっとも構えたといっても軽く腕を目の高さまで持ち上げただけ
である。我流の喧嘩殺法に近い来夢に正式の構えはない。
 対して女生徒は右手を腰、左手を眼前の典型的な空手の構えを取った。その瞬間今まで押さ
えられていた闘志が吐き出される。
「へっ、少しは楽しめそうやな」
 女生徒の闘気を感じ取って来夢の顔に嬉しそうな笑みが浮かんだ。


「ほな……いくで」
 そう言いながら来夢が動いた。すっと懐に飛び込みながら右のジャブを放つ。と、同時に弓のよ
うにしなるローキックが女生徒に襲い掛かる。だが女生徒はフェイクのジャブには目もくれず
ローキックを足で受ける。そしてそのまま受けた足を踏み込みに使い右の正拳を叩き込む。

「すごい……坂下さんと互角に打ち合うなんて…」

 来夢がかろうじてそれを躱しながら距離を取ったとき、道場の中に感嘆の声が漏れた。
 無理も無いだろう。同じ部員である女生徒、坂下好恵の実力は知っていたとしても来夢の実力
は誰も知らない。しかも口調はともかく見た目は深窓の令嬢という設定が似合いそうな美少女
である。それが副部長である坂下と互角の勝負をしているのだ。これを驚嘆せずして何に驚嘆し
ろと言うのだろうか。

 後方に飛んだ来夢に対して今度は坂下が攻撃に出た。ジャブのような鋭い突きからの連携が
始まる。ジャブと呼ぶにはあまりにも重いその一撃、そしてそれに続く鉈のような切れ味を持つ
鋭い上段蹴り。普通の相手なら防いだだけで体勢を崩すだろう。だが来夢はその攻撃を受け
きって、いや捌いてた。
 上段蹴りを捌いた瞬間にできた隙をついて今度は来夢が攻撃に転ずる。鋭いローキックが軸
足を刈る。さすがにこれは防ぎきれず坂下の体勢が大きく崩れそうになる。そこめがけて来夢
の掌打が放たれる。胸を突かれ、よろめく坂下に来夢がそのままラッシュに持ち込もうとして…
…その動きが止まった。坂下の体勢が崩れきらなかったのである。
 天性の資質呼ぶべきなのだろうか、軸足を刈られ、そのままの状態で胸を突かれたにも関わ
らず坂下はもとの構えに戻ったのである。

「あの状態で転ばんのか……」
 思わず来夢の口から驚嘆の声が漏れた。無理も無い。常識的に考えれば今の攻撃で倒れな
い人間などまずいない。身の軽い人間ならばその状態から後方に跳ねて体勢を立て直すが坂下は足を地面に付けたままであった。
「空手はね…倒れる訳にはいかないのよ」
 来夢の言葉に答えながら坂下の蹴りが来夢に直撃した。
 来夢の身体が避けるどころか受けることすらできず後方に跳ね飛ばされる。一瞬の隙をつく回
し蹴り。跳ね飛ばされた来夢の身体はそのまま道場の床に叩き付けられた。

 誰もがその一撃で勝負が付いたと思った。そして坂下もまた。彼女にしては珍しい油断であっ
た。残身を忘れるという格闘家としてはあってはならないような……。

 その動きは誰の目にもスローモーションのように映った。
 坂下が崩れ落ちる。
 ただそれだけだった。
 だが、攻撃を受けたような形跡はない。
 突然全身を痙攣させたかと思うと床に崩れ落ちたのだった。
 そしてその坂下の前には膝立ちの来夢がいた。5mほど離れたところに……。

「ハァ、ハァ、……どや……"白銀の牙”の味は……」
 大きく肩で息をしながら来夢は呟くように自らが放った技を口にした。そのまま崩れ落ちるよう
に倒れる。
 勝負の結果は相打ちとなった。


 次の日。
「で、なんであなたがここにいるのかしら」
 坂下が目の前に立つ来夢に問い掛けた。
「おもろいからや」
 坂下の言葉に来夢が笑顔で答える。昨日の試合の後、来夢は格闘部に入部届けを出したの
だった。
「おもろい?」
「空手、確かに強いわ。これだけの強者がおるんやったらここもおもろそうやからな。これからよ
ろしく頼むで」
 かくして格闘部に新たな騒動の種が入部したのであった。
 
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後書き
 とりあえず学園武闘伝第壱話です。今回は来夢が格闘部に入部する話を書いています。
 実は最初の予定ではここで闘うのは葵ちゃんのはずだったんです。でも葵ちゃんよりも坂下の
方が喧嘩を売りやすかったので結局坂下の登場となりました。
 しかし2話目だと言うのにまだ他のSS使いが登場してこないのはLメモとしてちょっとまずいで
すね(汗)多分次の話には登場する予定です(汗笑)
 それと余談ですが来夢が最後に立てたのは”浮身”と同じ技術です。攻撃に逆らわず後方に
跳んで衝撃を押さえる技ですね。もっとも来夢は浮身をマスターしてませんので基本的には強
靭な肉体のおかげで耐え切りました。
 最後に恒例(?)のキャラクターに一言です
●登場キャラ(五十音順)
   坂下好恵…最初はまったく登場する予定はありませんでした。でも来夢が一番喧嘩を売りや
すそうだったので登場決定。空手の強さを来夢に教えてますね。でも彼女と来夢は絶対にそり
が合わないでしょう。なにせ生真面目な人ですから(笑)
   夢幻来夢…とりあえず今回は坂下と闘ってもらいました。彼女の強さを骨身に染みたと思い
ます。現在の成績0勝1敗1分ですね