テニス大会ライバルL”決戦前夜−ゆきの決意−”  投稿者:夢幻来夢
「えっと、夢幻くん。ちょっといいかな……」
 開会式終了後、早々と会場を後にしようとした来夢は突然呼び止められた。
「えっと……ゆき……やったっけ?」
「はい……。ちょっと時間いいですか?」
「いや、これからちょっと用事があるんやけど……」
「時間は取らせません。お願いします」
 そう言ったゆきの顔つきはいつに無く真剣味を帯びていた。普段は眠たそうな瞳も今ははっきり
と開かれている。
「あ、ああ、分かったで……」
 その顔つきに気おされるように来夢はうなずいていた。


「で、話ってなんや?」
 ゆきに連れられて校舎裏に来た来夢が口を開いた。あたりは人気がなく、閑散としていた。
 ここまで来る間、ゆきも来夢も一言も口を開いていない。何か押し殺したような、決意の様なも
のがゆきから感じられたために来夢の話し掛けられなかったのだ。
「明日の…明日の試合、どうしますか?」
「明日の試合? 出るで、もちろん」
 ゆきの言葉に何を今更と言う口調で来夢が答えた。その言葉を聞いてゆきが軽くため息を吐く。
 そして顔を上げると「じゃあ、僕は棄権します」 と宣言した。
「棄権? なんでや?」
「初音ちゃんに負担はかけられないから……」
「柏木は頑張るって言ってたで?」
「…………」
 来夢の言葉にゆきは口を閉ざした。
 初音の性格はゆき自信が良く知っている。昨日今日知り合ったばかりの仲ではない。中学校の
ころからの知り合いだ。いや、ずっとそばにいた大好きな人だ。彼女がどんなことを考え、どうい
う言葉を口に出すかは知っている。自分と来夢が試合に出て欲しいと頼み、それを引き受けた以
上途中で投げ出すなどという事は決してするはずの無い娘なのだ。
「ま、出場を止める気なら止めへんけどな。オレもライバルが一人減って楽やし」
「…………」
「けど、それでええんか? 柏木の奴がどう思うかオレの知らんけどな」
 来夢の言葉にゆきの身体がぴくっと震えた。
 確かに来夢の言う通りだろう。ゆきが棄権する理由を初音が知ったらどう思うか。それを考えな
いゆきではなかった。しかし、それでも彼女をこの試合に出場させるのは心苦しかったのだ。
(きみさえいなければ……)
 思わずそんな事を思ってしまう。逆恨みかもしれない、ただの八つ当たりかもしれない。だが、そ
れでもゆきは来夢を怨まずにはいられなかった。
「話がそれだけやったらオレは帰るで。これから特訓せなあかんからな」
「特訓?」
「そや。オレの都合で出場させてまったし、こんな事態やったら柏木に負担はかけさせれんからな」
(負担をかけない……)
 来夢のその言葉はゆきの中の何かに火を付けた。確かに自分の力は未熟かもしれないテニス
の、それもインターハイレベルの強さの相手には通用しないかもしれない。でも、可能性がない
わけではなかった。

「ゆきちゃんだってやればできるんだよ」

 ふと頭の中を昔、初音に言われた言葉がよぎった。いつの言葉かは覚えてない。でも確かに彼
女はそう言ってくれた。最高の笑顔を向けながら。
「ま、辞退するなら今のうちにいっといた方がええんちゃうか?」
「いや、やっぱり出る」
 来夢の挑発的な言葉にゆきはきっぱりと言い放った。
「出るよ、僕も。初音ちゃんに負担をかけないくらい、僕にだってできるから」
(無理かもしれない。どこまで自分のテニスが通用するかわからない。でも……)
「負けられないから。僕は初音ちゃんと優勝するって決めたから……」
 ゆきは来夢に、そして自分に言い聞かせるように言った。その瞳にはもう迷いはない。ただ愛す
る人を護ろうとする漢の眼だった。

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後書き
 あぅ、なんかキャラが違ってます? おかしいな、最初はこんな話になる予定じゃなかったのにど
んどんゆきさんがカッコ良くなっていく(笑) 来夢にもっとおいしい役をやらせるはずだったのに(笑)
 まあなんだかんだでとりあえず書き上げましたライバルL、いかがでしょうか? この後、時間が
あれば特訓Lを書いて行こうと思ってます。んで今の目論見はブロック決勝でゆきさんと対決する
ことですね。そのためにゆきさんと来夢をガンガン応援します。
 最後に多数エントリーで大変だと思いますが、頑張ってください、よっしーさん。