Lメモ”昼放課脱出作戦!”  投稿者:夢幻来夢
「なあ、ゆき。頼みがあるんやけど……」
「え? なに、夢幻くん?」
 授業も終わり、初音と帰宅をしようかと思っていたゆきはいやな予感を押さえつつ振り向
いた。
「明日の化学のレポートなんややけど、もう終わっとる?」
「え? うん、まあ……」
「ほな頼む! まだぜんぜん進んどらんのや。ノート貸してくれへん?」
「え?」
「頼む、お前以外に頼めるヤツおらんのや」
 躊躇するゆきに畳み掛けるように拝む来夢。
「でも……」
「レポート終わったらヤックオゴるってことでどうや? ほんま頼むで!」
「うん、まあいいけど……」
 来夢の頼みに結局、ノートを貸す事にしたゆき。
 だが、これが彼の災難の始まりだった。


 次の日。
 ぼんやりと窓の外を眺めながら髪をいじくっていた来夢にゆきが声をかけてきた。
「夢幻くん」
「ん? なんや?」
「昨日貸したノート、返してくれないかな?」
「あ、そうやったな。いや〜、ほんま助かったで」
 満面の笑みを浮かべながら鞄を開ける来夢。
 だが、その動きがそこで止まった。
「どうしたの?」
「………」
 ゆきの言葉に答えず額から汗を流しはじめる来夢。
「…夢幻くん?…」
 何やら胸に湧き上がる不安感を必死で押さえながらゆきが再び問い掛ける。
「あのな……」
「うん……」
「……そのな……」
「……」
「すまん! 忘れてきた」
 次に瞬間、ゆきの視界はブラックアウトした。

「む、夢幻くぅん〜!」
 ガシッと来夢の襟首をゆきが掴む。
「あれは柳川先生の授業なんだよっ! あれがなかったらまた実験台にされちゃうじゃな
いか〜っ!!」
 そのまま首が折れよとばかりの勢いで来夢を揺さぶる。
「ま、待て……オレが悪かったって……」
 今にも泡を吹きそうな声で来夢が答える。
 普段ならここで「なにするんや!」の声とともに蹴りに一発でも放つところだがさすがに
今回は罪悪感があるのかなすがままになっている。
 いや、単に馴れない衝撃に耐え切れていないだけなのかもしれないが……。
「それに……」
「それに?」
「オレも実験台はいややぁぁぁあああ!」
 自業自得とも言えるセリフが来夢の口の中から飛び出した。


「ゆきちゃん! ゆきちゃん! 落ち着いて、落ち着いてってば」
 結局初音が間に割り込むまでゆきは来夢の肩を揺さ振り続けた。


「で、どうするんだよぉ」
「とりあえず事情を話して……」
「そんなの柳川先生はわかってくれないよぉ」
「確かにそうやな……」
 ゆきの言葉に来夢が納得するように頷く。
 あの柳川の事である。「そうか。結局私の宿題を忘れたというわけだな」の一言で罰を与
えてくれるだろう。
「………」
「………」
「あの……」
 二人の深刻な気配に耐え兼ねた初音が「わたしが言ってきてあげようか?」と、言いかけ
た時
「よし、なら取りに行くしかあらへんな」
 来夢が意を決したように立ち上がった。
「取りに行くって夢幻くんは確か寮のはずじゃ……」
「今は3限の放課やな。化学の授業は5限、今から取りに行けば充分間に合うで」
「でも次は千鶴先生の授業でだけど……」
 ゆきの言葉に来夢の動きが止まる。
「そ……やったっけ……?」
 来夢の言葉に無言で頷くゆきと初音。
「あかん、千鶴先生の授業はサボれん……」
 一瞬授業をサボった後の風景を思い浮かべ慌てて首を振る。
「どうするんだよぉ」
「大丈夫や、まだ昼休みがある。飯食わなきゃなんとでもなる」
 すでに半分涙目のゆきに向かって来夢が自信たっぷりに答えた。


 4限が終わる鐘が鳴る。
 各教室がいっせいに騒ぎ出した。
 或る者は購買部へ、また或る者は親しい人間と持参の弁当を食べるために。
 普段ならここでまっしぐらに購買部に向かって走る来夢だが、今日だけは違った。
「ほな、行ってくるで!!」
 ゆきと初音に一声かけるとそのまま窓の外に身を躍らせる。
 そして2階からこともなげに飛び降り、そのまま校舎裏に向かう。
 いくらなんでもどうどうと正門を突破して学校を出るわけにはいかない。
「よし、こっからなら大丈夫やな……」
 校舎裏の壁を見上げ、ゆっくり腰を落す来夢。
 だが、どうも今日の彼は運がなかったようだった。

「そこ、何をしている!」
 背後から厳しい声が飛ぶ。
 そして来夢にはその声に聞き覚えがあった。
「な、ディルクセン!」
 そこにはしっかりと学生服を着込んだディルクセン以下数名の風紀委員がいた。
「貴様、こんなところで何をしている? まさかエスケープか?」
「ちゃうわ。忘れモン取りに行くだけや」
「放課後になるまでは校内に残るのが学生の本分だ。無断早退は許さん!」
「ちゃう言うとるやろ! だいたいなんでお前らがこんなとこに来るんや!」
「昼休みの校舎裏など不良どもの溜まり場になる可能性が高い。こんなところで煙草を吸う
馬鹿がいないか見回りに来たのだ」
 ゆっくりと来夢との距離を詰めるディルクセンら。
(あかん、この状態やったら上れん)
 とっさに周囲を見渡した後、来夢はそう判断した。
 彼の脚力、及び能力を使用すればこの塀を飛び越える事は可能である。
 だが、それには気を練るための集中の時間を要する。そして目の前のこの男たちがそれを
許してくれるとは到底思えなかった。
「無断早退未遂により、夢幻来夢を連行する! かかれ!」
 ディルクセンの号令とともに風紀委員たちが動いた。
 どこから取り出したのか手にした銃を構え、来夢に向かって撃つ。
「ぬわぁ!」
 間一髪それを躱した来夢だが、風紀委員の連携は完全に統制の取れたものだった。
 わずか一呼吸だけ遅れて放たれた第2射が来夢の胴を捉える。
 実弾ではないが暴徒鎮圧用のゴム弾をまともにくらい派手に吹き飛ぶ来夢。
 そこに間髪入れず戦闘用ネットが投げられた。

「さて、これで終わりだな。全員次のポイントに向かう。阿部、山田はこいつを反省房に連
行しろ!」
「Ja vor!」
 何故かかかとを打ちつけて敬礼する風紀委員の2名を残して去ってゆくディルクセン。
 その後をまるで軍隊の用に統制の取れた動きで着いてゆく風紀委員たち。
 今日も学園の秩序は守られた。
 はずだった……。


「さて、おとなしく付いて来てもらうぞ」
 二人の風紀委員がネットを取り除き、来夢を引き起こした瞬間だった。
 今の今までぐったりとしていた来夢の身体が跳ね上がるようにして飛びおき、奇麗な蹴り
が一人を打ち倒す。
「な!」
 慌てて笛を鳴らそうとしたもう一人めがけて後ろ回し蹴りが炸裂する。
 ほとんど一撃で二人を昏倒させて来夢は壁にもたれかかるように腰をおろした。
「あかん、めちゃしんどいわ……」


「夢幻くん、遅いなぁ……」
 時計の針が1時を過ぎたのに来夢が帰ってくる様子は無い。
 ひさしぶりの初音と二人きりの昼食だというのにゆきの口は重かった。
 もちろん食事がおいしくないのではない。
「まだ20分ぐらいあるから大丈夫だよ、ゆきちゃん」
 元気付けるような笑顔で初音が言う。
「うん、そうだね」
 先ほどから拭い去られない不安感を無理矢理胸の中に押し込め、ゆきは初音との昼食を楽
しむ事に専念しようとしていた。


「えっと今の時間は……。あかん、もうこんな時間やないか」
 校舎裏でしばらく休憩を取った来夢だが腕時計を見た瞬間、天を仰いだ。
 時計は1時を回っている。
 ここから寮までは走って10分ほどだ。
 だが、寮に侵入する事を考えると時間はすでにほとんど無い。
「こうなったらあいつの手を借りるしかあらへんな」
 いつも黒ずくめの格好をしている青年を思い浮かべながら来夢はゆっくりと立ち上がっ
た。


「あかん。こんだけ人がおるとどこにおるかわからん……」
 人間界に降りてきた元仙人、T−star−reverseを捜しに2年校舎リズエルに向かった来
夢だがそこで重大な問題にぶつかっていた。
 なにせこの学園はむやみに広い。
 さらに生徒の数も尋常ではない。
 となればそこでの人捜しがいかに困難かは軽く想像できるだろう。
「よぅ考えたらどこにおるかの心当たりもあらへんし……」
 がっくりとうなだれる来夢。
 だが、神は彼を見放してはいなかった。
 視界の隅によく見かける黒い帽子が映る。
「ティー、見つけたで!!」
「え?」
 突然呼びかけられ、戸惑うT−star−reverseに向かって来夢はダッシュで近寄った。


「で、私の宝貝(パオペイ)を借りたいと?」
「パオペイやかなんやか知らんがいろいろマジックアイテム持ってるんやろ? すまんが
一個貸してくれへん?」
 困ったような顔をするT−star−reverseに両手を合わせてウィンクをしながら拝む来夢。
 身長の低さもあいまって相手の顔を覗き込むようなそのしぐさが妙にかわいかったりす
る。
「まあそういう事情なら貸してあげてもいいんですが……、思っているより安全じゃないん
ですよ、宝貝と言うものは」
 自分の創る宝貝を思い浮かべながら苦笑いを浮かべるT−star−reverse。
 彼が創る宝貝は欠陥宝貝とも言われるようにどこかに致命的な欠陥を持つ。
 本来なら年単位どころか10年単位の作成期間を要する宝貝を数日で作り上げるのだ。そ
の分どこかにひずみが生じる。
「確かにこの縮地靴(しゅくちか)なら音速で走れるようになるんですが……」
「それやな。ほな借りてくで!」
「え?」
 懐から靴の宝貝を取り出したT−star−reverseだが次の瞬間、それは来夢の手の中にあ
った。
「ありがとな〜」
 生徒たちの間を駆け、飛び越えて去ってゆく来夢の後ろ姿を一瞬唖然と見ていたT−star
−reverseの口から思わず一言漏れた。
「いや、それは致命的な欠陥があるんですが……」


「これを使うと音速で走れるようになるんやったな。けどどうやって使えばええんやろな…
…」
 T−star−reverseに追いかけられ、中庭はに逃げ込んだ来夢は手にした宝貝をぶらぶら
と持て遊んでいた。
 勢いに任せて借りて(強奪)して来たのは良いが、その使い方など当然知るわけがない。
「とりあえず、靴のようやから履いてみるべきやな」
 と、その時だった。

「なぜ貴様がここにいる!!」
 突然背後から投げつけられた声に来夢はいやな予感が背筋を走るのを感じた。
「なんでまた出て来るんや!」
 悲鳴とも取れる声を上げながら振り向く来夢。
 そう、そこには来夢の予想した人物たちが立っていた。
 すなわち、ディルクセン率いる風紀委員一同。
「見回りの交代のために戻ろうと思っていたが、まさか貴様脱走したのか?」
「あんな無茶な風紀に付き合ってられへんわ! オレは用事があるんや!!」
「黙れ!! いかなる用事があろうと規則は規則! それを守らずして秩序はありえな
い!」
 そう言うとともに手を上げるディルクセン。
 既に中庭でのんびりしていた他の生徒たちは巻き添えはごめんとばかりに避難を開始し
ている。

「撃てっ!!」
 ディルクセンが号令とともに手を振り下ろした。

(これは音速で走れるんやろ、全開で逃げきったる)
 来夢は内心ほくそえんだ。


 ズガーーーーーンッッッ!!!!


 次の瞬間、中庭に強烈な爆音が響き渡った。
 中庭の芝生がはげ、土煙が巻き起こる。
 突風が吹き荒れ、そんな事態を予期していなかった生徒たちが一斉に転倒する。
 風紀委員たちも鼓膜を押さえてしゃがみこんでいる。

 そして土煙が晴れた後、ズタボロになった来夢が倒れていた。


<蛇足的後日談その1>
「何や、これは!?」
「壊れた屋台の弁償」
「使えなくなった食材の代金です」
「割れたどんぶりの代金」
 結局、保健室に担ぎ込まれた来夢の前に積まれた請求書の数々。
「きっちり払ってもらうからな!!」
 XY−MEN、猫町、ディアルトが声をそろえて吠えた。


<蛇足的後日談その2>
「ああ、もう授業が始まっちゃうよぉ」
「ゆきちゃん……」
 ワカメ涙を流しながら机に伏せるゆき。
 初音も何と声をかけてよいのかわからないといった顔をしている。
 とその時、教室の扉が開いた。
 そして一人の教師が入ってくる。
「あ、今日の授業だがな、柳川先生は急な学会で出張となったそうだ。と言う訳で今日の授
業は自習。それと宿題のレポートだが提出は次の授業の時でいいそうだ」
 そう一言告げると教師は教室を出ていく。
「………」
「良かったね、ゆきちゃん」
「うん!」
 初音の言葉に会心の笑みを浮かべたゆきが力いっぱいにうなずいた。


<今回の欠陥宝貝>
 縮地靴(しゅくちか)
 これを履いた人間の脚力(瞬発力)を増強し、最高速で音速で走る事ができるようになる
靴。ただし、その際に発生する空気との摩擦などから使用者を守ってはくれない。

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<後書き>
 えっと、正直言えばコメディになってないかな、これ?(苦笑)
 けど、ネタとして考えたし、せっかく書いたので投稿する事にしました。
 正直言うと神牙Lを読んでたおかげで投稿するのに少しだけ気が引けたってのもあるけ
どやっぱりLってのは書いてなんぼだろうし、投稿して誉められたり貶されたりして伸びて
くものだと思うので投稿します。
 と、言う訳で、きつい意見、感想、アドバイスなどなどをよろしくお願いします。

 最後に出演してくださったゆきさん、ディルクセンさん、T−star−reverse
さん、ありがとうございました。
 それと完全な端役ですがXY−MENさん、猫町さん、ディアルトさん、出演ありがとう
ございます。壊した屋台などの弁償は必ず払います。
(それぞれのところでのバイトLでも書こうかな(笑))