Lメモ”始業前攻防戦”  投稿者:夢幻来夢
「第一班は後方に戻れっ! 第四班遅れるなっ!! 二班、三班は現状を維持せよっ!!」
 ディルクセンの激昂が飛ぶ。
 その声に呼応するように風紀委員たちが手にした銃を構える。

「くそ、ここまで来て負けてられるかよ!」
 最近再び一般生徒に紛れてしまった藤田浩之が今こそ出番挽回とばかりに声を振り絞る。

 時刻は8時25分。
 今日も学園の一日が喧騒とともに幕を開ける。


「あかん、完全に遅刻や!」
 人気の完全に無くなった道を来夢が走っていた。
 既に時計は8時半を回っており、遅刻自体は確定している。
 いつもの来夢ならここまできたら諦めて、歩いて登校していただろう。
 しかし、今日だけは事情が違った。
「柳川の授業に遅れたら何させるかわからんからな……」
 額に運動以外の汗をかきながら来夢が呟く。
 学園一のマッドサイエンティトととしても有名な柳川裕也の授業である。一度や二度の遅
刻ならいざ知らず常連ともなるとさすがに危険度は倍増する。
「おし、もうすぐや」
 遠くから悲鳴や爆音が聞こえて来る。
 来夢の身体がさらに加速した。


「ちょっと、見回りに行ってくる」
 正門で指揮をとっていたディルクセンは何やら虫の知らせのようなものを感じ、隣に立つ
風紀委員にそう告げた。
「え? どうしたんですか?」
「いやな予感がする。ここは後少しで終わるだろうから後は任せる」
「え? あの……」
 風紀委員が止める声を待たずにディルクセンは校舎裏へと走り出した。
(まだ、常連が一人来ていない……)
 取り押さえた、あるいは取り逃がした生徒の中に見知った顔を見なかった彼は自分の予感
を信じていた。


「おし、ここなら大丈夫やな」
 目の前にそびえる壁を眺めながら来夢は一度大きく屈伸をした。
 そして軽く足を開くとゆっくりと気を練りはじめる。
「ヒュゥゥゥゥウウウウウウ────────」
 鋭い呼気とともに全身に気をわたらせる。
「やっ!」
 裂ぱくの気合とともに来夢の身体が宙に舞った。
 次の瞬間、来夢の身体は塀の上に立っていた。
 およそ3mほどの壁を助走も無しに飛び越えたのであった。
 気功術にも知られる技、軽気功の一種であった。
 自重を軽くすればこの程度の高さを跳躍する事はたやすい事である。
「ま、別に正面からいかんでもええわけやしなぁ」
 収まりつつある正門の騒ぎを聞きながら、来夢は笑みを浮かべながら呟いた。
 時計は8時35分を示している。
 が、授業開始まではまだまだ余裕がある。
 来夢はそのまま無造作に飛び降りようとした。
 と、その時だった。
「見つけたぞ、一年生、夢幻!!」
「なんや!」
 突然声をかけられ、動きが止まる来夢。
 声の方を向くと数名の生徒を率いた一人の生徒が校舎裏に回り込んできた瞬間だった。
「ディ、ディルクセン!!」
「遅刻常習犯の貴様が来ないからおかしいと思っていたら案の定こんな所から進入してき
たか」
 そう言いながら銃を構えるディルクセン。
 それを見た、来夢は塀から飛び降りるとディルクセンたちに向かって走り込んだ。
「え?」
 突然の来夢の行動に慌てる風紀委員。だが、
「うろたえるな! そのまま散開、フォーメーションβ!」
 ディルクセンの声に即座に反応し、即座に行動に移る。
 その動きは統制の取れた軍隊のようなものだ。

 来夢は一気にディルクセンの目の前まで駆け込んだ。
 多対一の時の鉄則はまず、指令塔を潰す事である。
 長年の喧嘩で染み付いたこの作戦はこういった場合でも来夢の身体が反応する。
「悪く思わんといてな!」
 軽く顔面に突き出したジャブをフェイクに来夢の身体が宙に浮き、ディルクセンの顔を蹴
り飛ばそうとする。
 と、そこに真横からの衝撃が来夢に襲い掛かった。

「なんや!!」
 衝撃に跳ね飛ばされた来夢が身を起こそうとして動きが止まる。
 彼の上半身は細い、だが頑丈な紐でくくられていたのだ。
 いや、紐ではない。それはしなやかで丈夫なピアノ線、それも丁寧に三つ編みにしてある
ものである。
「射出式のボーラだよ。それなら動けないだろう?」
 地面に転がっている来夢を見ながらディルクセンが勝ち誇ったように眼鏡を掛け直す。
「くっそぅ、飛び道具なんて卑怯やで!」
「卑怯も何も風紀を乱す人間に情けは無用だ。さて、君はこれで通算七十回目の遅刻なのだ
が……そうだな、罰として……」
 そうディルクセンが言いかけた時、
「まだ終わっとらんわ!!」
 ヘッドスプリングの要領で飛び起きた来夢がディルクセンに体当たりを仕掛けた。
 そしてそのまま体勢の崩れたディルクセンを踏みつけ、校舎の方へ走り去る。
「ちぃ、おのれ! 追え、追え!!!」
 校舎裏にディルクセンの声が響いた。


「ふぅ、ここまでくれば安心やな……」
 下駄箱にたどり着いた来夢は軽く一息ついた。
 そして首をひねって時計を見る。
 時刻は8時40分。始業の時間まではまだ少しある。
「しっかし……、どないしよ、これ……」
 身体に巻き付いたままのボーラを眺めながら来夢が呟く。
 しなやかで強靭なピアノ線で出来たものである。無理に解こうとするならば体中に食い込
む事だろう。
「しゃーない、ゆきか初音に頼んで解いてもらうか」
 下駄箱に靴おきっぱなしにしたまま来夢が廊下に踏み入れたその時
「ポイント1−αにてターゲット捕捉!」
 そんな声が響く。
 声の方を振り向くときっちりと学生服を着込んだ生徒の一人がトランシーバーを片手に
何やら叫んでいた。
(ん? なんや)
 そう思う間もなく、窓ガラスが割れ、数名の生徒が廊下に飛び込んでくる。
 そこには来夢が先ほどまで相手をしていた顔があった。
「ディ、ディ、ディルクセン!!?」
「遅刻及び規定の場所以外からの登校。さらに風紀委員の活動の妨害。これ以上を罪を重ね
る前に登校しろ! と言いたいところだがその様子はなさそうだな。
 覚悟しろ、この場でお前を捕らえる」
 スッとディルクセンの手が上がった。
 それが振り下ろされた瞬間、風紀委員たちがいっせいに動く。
「なんで、ここに出て来るんや〜!」
 身を翻して反対方向に走る来夢の背中めがけて、投網、ボーラ、ゴム弾が襲い掛かる。
「追え、今度こそ逃がすなよ! β班はポイント1−3よりターゲットを挟撃、一気に捕縛
する」
 同行している風紀委員に矢継ぎ早に指示を出すとディルクセンは密かにほくそやんだ。
(これで全部おぜん立ては揃ったな……)


「いたぞ! 追え!」
「逃がすな!!」
「ちぃ、はよ教室いかんと遅刻になってまうのに……。なんでお前らはでてくるんや!!」
 来夢の悲鳴が廊下に響き渡る。
「こら、うるさいぞ! そこ!」
 すでにHRの始まっているクラスからそんな声が届く。が、
「申し訳ありませんが、現在風紀違反者を追撃中です。苦情、非難は後で聞きますので後程」
 ディルクセンがそう答えるだけで事態は収まる様子は見えない。
「お前らは授業に出んでええのか〜!!」
 来夢の的を得た悲鳴も
「風紀違反者を取り締まるのが風紀委員としての使命。そのためなら授業などに出る必要は
ない!!」
 あっさりと言い返される。

「あ、柳川!!」
 来夢の顔がほころんだ。
 前方の階段から柳川教師が降りてきたからだった。
「ん? どうした、もうすぐ私の授業だが……。まさかエスケープをする気か?」
「ちゃうわ! 助けったって! 風紀委員に追われとるんや!」
「風紀委員に?」
 怪訝そうな顔をする柳川の背後に来夢は素早く回り込んだ。
 そのとたんに銃撃が止まる。
「柳川先生。すみませんがそこの違反者を引き渡していただけませんか?」
 他の風紀委員から一歩前に歩みだしながらディルクセンが言う。
「違反者? ああ、こいつか」
「はい」
「ふむ、もうすぐ私の授業でこいつは私の授業を受ける人間なのだが……」
 その言葉に胸をなで下ろす来夢。
「……だが、大抵の場合睡眠で授業を聞いていないことが多かったな。好きにするがいい」
「はっ! ご協力感謝します」
「ちょ、ちょっと待て! お前はそれでも教師か!?」
「授業をエスケープばかりしている生徒を庇う必要はない。それにもうすぐ授業なので時間
がおしい」
 そう言うとさっさと教室に向かって足をすすめる。
「それと……。こいつは反省房行きか?」
「いえ、罰掃除をさせようと思っていましたが……」
「また実験体が足りなくてな……。一人欲しかったのだが」
「わかりました。早急に手配します」
「ちょ、ちょっと待て!! お前らなんの相談している!?」
 柳川とディルクセンの会話に不穏な動きを感じた来夢が悲鳴を上げた。
「既に包囲は完璧だ。もう逃げられんぞ、夢幻来夢!!」
 その言葉とともに風紀委員がなだれ込むように来夢に襲い掛かった。


<蛇足的な事後談>

「あれ? 夢幻くんは?」
「えっとね、柳川先生に呼ばれてたみたいだけど……」
「そっか、じゃあ久しぶりにのんびり食べられるね」
 ゆきの言葉に初音がクスッと笑った。
 いつもと変わらぬのんびりした日常。
 Leaf学園の昼食争奪戦の音が購買部の方から響いてきた。

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<後書き>
 ふみゅぅ……、とりあえずギャグと言うかコメディに挑戦してみたけど……。
 正直言って難しいですねぇ、これ(笑)
 最初の予定ではもう少し大勢のキャラが登場する予定だったのに結局出てきたの3人だ
けだし(笑)
 とりあえずコメディにはこれからも挑戦して行こうと思ってますので何か気づいた点、こ
こを改ざんすると良いよ、みたいなアドバイスがあったらどんどん送ってください。
 最後に、でぃるくせんさん。キャラにこんなイメージ(軍人)があるんですが部下つけま
せん?(笑)名も無き一般生徒たちの部隊でネイビーベレー(紺の帽子)とか(笑)
それと御出演、どうもありがとうございました。