「かいのふゆものがたり」表版 投稿者:猫町櫂
  冬の訪れは今年は早いようだ。

  ニュースを点けたらその様な事をなんか偉そうな気象予報士の人が言っていた。
屋台で生計を立てている人間には、微妙な季節だ。
  食品は儲かるけど、占いのお客がゆっくり出来ないからなぁ。


===自己紹介Lめも(遅いって)「かいのふゆものがたり」表版===


  放課後。いつもの通り素早く学校を出て、外に停めてある台車(と言うか屋台)
の被いを外し、プロパンガスの残量と材料をチェックする。火を入れる。
  そして・・・今日もたこ焼きからたい焼き・クレープまでこなす万能屋台店舗
がオープンする。 

「櫂くん、どう?」
「かいおにいちゃん、こんにちは」
「・・・あ、きたみちさんに靜さん。こんにちは。何か食べていきますか?」
  きたみちさん親子は、言ってみれば命の恩人だ。
「えと、それじゃあ・・・クレープ2枚ね」
  笑いながらクレープを注文しているこの青年がいなければ、今こうしている事
はまず無かっただろう。学校近くで血まみれ傷だらけで倒れていた所を、拾って
くれていなければ・・・。
「あ、はいはい。それじゃあ、腕によりかけて作らせてもらいますね」
  ・・・こうやって笑って商売なんて出来なかったに違いない。

  んじゅ〜。じゅわ、じゅわ。ごそごそ。ぺたん。
「はい、どうぞ。靜さんも。・・・熱いですよ」
  にこっ・・・と笑いながらクレープを手渡す。中身はブルーベリーのジャムと
ヨーグルトをミックスした独特の物だ。
「・・おいしい」
「・・・ところで、占いの屋台の方はいいのか?」
「ええ、学園祭の時にテントが壊れてから(YOSSYさんのL参照)すきま風
が多くって・・・それに・・・」
  紅茶を二人分煎れながら、言葉を続ける。
「占い師に頼るほど追いつめられている人って、いないんですよね。この学校。
だから・・・本当に必要な人が来そうな日だけやってます。はい、熱いですよ」
  紙コップに紅茶を注いで手渡す。
「それに、きたみちさんにお客さんを紹介してもらってますから、屋台で何とか
なっていますから。・・・生活の方は」
「・・・そうか」
  砂糖を掻き混ぜながらもどるさんが呟く。慌てて手を振りながら付け加える。
「・・・あ、でも、館自体を閉めた訳じゃないんですよ。小さな占いなら希望す
る方たちはたくさんいらっしゃいますから」
  一つため息をつくと、言葉が途切れる。不景気だから・・・じゃない。
心を傷つけている人がいない。これは、いい事じゃないか。
  ・・・おかげで収入は無いけど。

「すいませ〜ん、たこ焼き2皿下さい〜」
「・・・あ、いらっしゃいませ。たこ焼きですね。はい、少々お待ち下さいね」
「こっちはたこせんとミニ焼き蕎麦な」
「特製クレープ3枚ね」
「は〜い、少々お待ち下さい」

「混んできたみたいだし、邪魔だろ。また出直して来るよ」
「あ、きたみちさん。またどうぞ」
「かいおにいちゃん、ありがとう。ごちそうさま」
  手を振り二人を見送る・・・余裕は(混んでいたので)全く無かった・・・。

「たこ焼2舟頼むわ」
「はい、たこ焼2舟・・・って、関西の方ですか?」
  ※関西の一部地域では、たこ焼を舟状の容器に入れる。だから、関西人の一部
はたこ焼を「舟」という単位で計算する事がある。
「おいしい言うて評判の屋台やから食べにきたんや。作業工程から見せて貰うで」
  微妙に大阪とはイントネーションの違う発音。どちらかと言うと西寄り。
「・・・分かりました。満足していただけるかどうか分かりませんが・・・」

「・・・こ、これは凄い・・・」
  そんなに近づいて見たら、眼鏡曇りませんか?・・・と思ったが、閑話休題。
「関東もんみたいに一個一個に生地を流し込むんやなくて、豪快かつ一気に生地
を流し込んでる。これなら出来上がりに差が出ぇへん」
「・・・」
  ・・・ん〜、なんか緊張しますねぇ。
「具に桜海老が入っとるし、「入れる」というより「撒く」に近い具の入れ方。
まさに関西式や。タコ自体も結構ええ物使ってるみたいやし・・・」
  ・・・普段通りのやり方で作ってるだけなんですけど・・・
「返し方も鮮やかやなぁ・・・ソースたっぷり、あと青海苔とかつを粉末、マヨ
ネーズで頼むわ」
  結構「通」な頼み方ですね・・・かつを粉末を指定するあたり・・・
「はい、出来ました」
「どれ・・・」
  沈黙。客として来ている生徒達も固唾を飲んでこの結果を見守っている。

  ・・・ぱく。

「・・・!!?」
  ・・・ひょいぱく。ひょいぱく。ひょいぱく。ひょいぱく。ひょいぱく。

「・・・ごっそさん・・・」
「えと、お味の方はどうでしたか?」
「・・・49点やな」
「・・・はぁ、そうですか・・・」
  やっぱり見様見真似だけじゃ駄目だったかな?
  正直、そう思った。
  しかし・・・奇跡は起こった。
「・・・50点中のや!!また来るわ。期待してんでっ」
  何故か巻き起こる拍手の嵐の中、頭を下げてこう言った。
「あ・・・ありがとうございましたっ。またのお越しをお待ちしてますっ!!」

  その後数日、「保科智子が認めたタコ焼き屋」として、屋台は常に無いほどの
売り上げを出す事になった。

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 あけましておめでとうございます(苦笑)
 恥ずかしいですね、なんか私みたいなんが投稿するなんて(苦笑)。

 あと、保科さんFANの方、ごめんなさい。神戸なまりって表現出来ないんです
 かなり河内なまり入ってます。