自己紹介L・かいのふゆものがたり(中版) 投稿者:猫町櫂
「・・っくしゅん」
  ちゃんと復元されているとはいえ、やっぱり冬はテントは冷える。
  しずしずと近づいてきて防御出来ない足下からの冷えと、さらに雪でも降るん
じゃないか・・・っていう位どんより曇った空が寒さを演出している。
「・・・寒いですね・・・でも、今日はお客さんは来そうですね・・・」

===自己紹介Lめも「かいのふゆものがたり」中版===


「どうかな、櫂?」
  ここは占い用のテントの中。二人の男が向かい合っている。
「・・・そうですね・・・最近、運気が下がってますね。ですから、ちょっとだ
け女の子から警戒されやすくなってるみたいですね」
「で、俺はどーすればいい?」
「運気が変わるまで控えるのが本当は一番なんですが、そうは出来ないでしょう」
  苦笑いを浮かべ、短くカットしてある頭をぽりぽり掻く依頼人さん。
「運気を変えるような心の変化が出来ればそれでいいんですよ。それだけです」
「ん〜、そっか。ありがとう」
「いえ、お構いなく。たまにお客さんを紹介して貰っている恩もありますし」
「いや、おいしいしね、実際」
「・・・そう言われたら見料取れないですね・・・。今回はタダでいいですよ、
大した占いじゃないですから」
「・・・いいのか?」
「お構いなく。また表の店にも来てくださいね。YOSSYさん」
「ああ、また来るよ・・・と言っても何か悪いなぁ。テレカ手元にあるし受け取
ってくれ」


  所変わってここは学園近くのマーケット。貧乏人の常として、閉店約30分前
になるとついつい足が向いてしまう。
  ・・・生鮮食料品が安くなるから。
「はぁぁぁぁぁぁぁ・・・。ついタダで見てしまいましたねぇ・・・」
  財布には生活費として(屋台の材料費抜きで)参百七拾四円。
「鳥胸肉と・・・もやしですね・・・今日は・・・」
  しかも・・・米も切れている。
「・・・今日はおとなしくウドンとダシでも買って・・・はぁぁぁぁぁぁぁ」
  ふと気付くと、周りが何故か騒がしい。・・・と言うか、「何か純然たる興味
対象が存在する」といった感じの騒がしさ(野次馬の騒々しさ)がある。
  しかもレジ前。避けては通れない。
「一体、どうしたんですか?」
「いや、あの子が財布落としたらしいんだ」
  あれは・・・確か、・・・良太さん、でしたっけ。靜さんの知り合いでしたね。
お店にも(たまに)来ていた様な・・・。
「えと、良太さん・・・でしたっけ、どうかしましたか?」
「やたいのニーチャン・・・おれ、お金おとした・・・どうしよう・・・」
「いくら足りないんです?」
「350円・・・」
「・・・・・・ま、いいでしょう。貸してあげますから大きくなったら返して下
さいね。はい」
「・・・」
  だが、良太さんは無言でこっちを見ている。困っているらしい。
「・・・あげるんじゃないですよ。あくまで貸しですから、心配しないで下さい」
「・・・分かった。ありがと、ニーチャン」
  そう言うと、子供らしい笑顔で笑った。
「じゃ、買ってらっしゃい」
「おう」
  ま、いいか。一晩くらいご飯抜きでも・・・いい事したし・・・
「・・・ニーチャン・・・」
「・・・おや、まだ足りませんでしたか?消費税分?」
「・・・おれのネーチャン、カゼで寝てるから・・・メシ手伝ってくれー」
「・・・いいですよ。その位なら。じゃあ、薬になりそうな物は買いましたか?」
「・・・」
  首を横に振る良太さん。
「・・・分かりました。30分だけ待ってもらえますか。そこの信号で待ち合わ
せしましょう」
「ニーチャン、ありがとー」
「いえ、いいですよ」


「・・・しかし、いきなりYOSSYさんに頂いたテレカが役立つなんて・・・
世の中分かりませんね・・・」
  ぴ・ぽ・・ぱ・・・のぱ。
「あ、夜分恐れ入ります、猫町です。・・・はい、いつもお世話になってます。
実は・・・はい、はい。じゃ、お願いします。すぐ受け取りに行きます・・・こ
ちらに届けてくれる?いえ、そんなの悪いですから・・・」


  30分後。
「やたいのニーチャン、まだかー」
「お待たせしました」
  そういう後ろには自転車・・・と、色々入っている袋。
「おそいぞー、ニーチャン」
「すいませんねぇ、自転車はあまり慣れていないんで・・・」
「なにつんでるのー?」
「風邪薬と、お粥の用意ですよ」
  ・・・と、あと一つ。風邪対策の「とっておき」が。説明しにくいから言わな
いですけど。
「・・・そう言えば、他のご家族の方は?」
「おれのカーチャン、病院だぞ。妹はカゼがうつるといけないからってトモダチ
の家に泊りにいったぞ」
「・・・大変ですね・・・」
「おう。でも、普段はネーチャンがいるから平気だぞ」
「えらいですね、良太さんは」
「おう・・・ここが家だぞ」
  ・・・これはアパート・・・と言うよりは文化住宅・・・しかもぱっと見た所
築30年は固そう・・・
「なんか、キャプテ○翼(旧バージョン)の日向くんの家みたいですね・・・」
  ・・・と言う所まで来て、表札を見て、疑問に思った。

  「雛山」。

「・・・・・・ところで良太さん、お姉さんの名前は?」
  ひょっとして・・・という考えの下、尋ねた。多分、他の人が聞いたら声が裏
返っていたかも知れない。
「りおネーチャン」
「・・・やっぱり」
「ネーチャン知ってるのか?」
「ええ・・・一応・・・」
  そこまで家の前で喋っていた時だった。

  がちゃり。

  ドアが開いた。内側から。
「良太!いつまで買い物に行ってるのヨ。心配したじゃ・・・」
「・・・あ、ど・・・どうも」
「・・・え?猫町くん・・・」
  そこまで言った時、雛山さんの足が「かくん」と崩れた。
  そのまま前のめりに倒れ込む。
「・・・雛山さん・・・大丈夫ですか?雛山さん!!」
  既に意識は無いようだった・・・。
「ネーチャン!!」
「と・・・とりあえず布団に。良太さんは荷物を」
「わかった・・・ネーチャン・・・」
  心配する良太さん。
  私は精一杯の笑顔を浮かべながら、安心させる様にこう言う。
「大丈夫ですよ。私がついていますから。さ、運びましょう」
「おう」

「ネーチャン・・・」
「まだ起きられませんか?」
  台所から声をかける。心配ではあるが、手が離せない。
「・・・・・・」
「大丈夫ですよ。無理に起きたから身体に障ったんでしょう、多分」
  お盆にお粥を二人分載せて運びながら声をかける。
「さ、良太さんも食べてないんでしょ?どうぞ」
「・・・でも」
「デモもストもありません。良太さんまで倒れたらまた心配かけちゃいますよ」
「・・・。そうする・・・」
「後はまかせて、早く寝た方がいいですよ。今日は疲れたでしょう」
  まかまか。しゃこしゃこ。
「ニーチャン、うまいぞ」
「そうですか?嬉しいですね」

「おやすみなさい、良太さん」
「ニーチャン・・・ネーチャン頼むぞ」
「はいはい、任せてください」

「・・・はぁ、はぁ・・・」
  任せろと言った・・・とはいえ、苦しそうですね・・・。
  額の手拭いを濡らし直しながら、そう考えた。・・持ってきたのは飲み薬だけ。
・・・当然、意識の無い時には使えない。
  「癒しの力」は、病気の時に使うと危険だし・・・。
「・・・はぁ、はぁ・・・」
  しんどそうなのだけは伝わって来る。側で同級生が、いつもこんなに苦労して
いる人が苦しんでいるのに、何も出来ない。何一つしてあげられない。
「・・・・・・」
  とりあえず、手拭いを替えよう・・・。
「・・・・・・??」
  彼女は、薄ぼんやりと目を開けていた。
「雛山さん、大丈夫ですか?」
  小さな声で聞いてみる。彼女は、まだはっきりとは覚醒していないのか、
「・・・ん」こくん。
  小さく肯いただけだった。
「何か、食べますか?」
「・・・」ふる。
「おトイレとか、大丈夫ですか?」
「・・・ん」こく。
  ・・・半分、寝てますね、これは。
  待てよ・・・半分寝てる状態・・・なら、多少なりともしんどさを解消出来る
かもしれない。やれるだけ、やってみよう。

  ごそ・・・ごそごそ・・・。
  持ってきた荷物の中から、メトロノームを取り出してゆっくりとしたリズムで
鳴らす。
  安心させ、楽にさせる「言葉」と共に・・・。


  ちゅんちゅん。ちゅん。

  朝日が窓から入ってくる。どうやら、うたた寝してしまっていたらしい。
「・・・んっ」
  大きく伸びをする。体中がぎしぎしという擬音と共に動く。正直、痛い。
  自分がどてらを肩からかけているいるのに気付く。
「寝る時に雛山さんの布団の上にかけておいた筈なんですが・・・」
  ・・・と言うか雛山さんいないし。
  書き置きはあるけど。
[新聞配達あるんで先に行きます。ゆっくりして下さい。    理緒]
「・・・全く・・・病みあがりに無理して・・・」
  苦笑しつつ書き置きを裏返す。
[追伸:ありがとう]

  私は、その書き置きにこう書き加えて雛山さん宅を後にした。
[どういたしまして。    櫂より]

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  出来はしたが・・・雛山さんネタなのに雛山さん喋ってないよこれ(苦笑)。

  改めまして、初めての方もそーでない方もこんにちは。猫町です(ぺこ)。
  これからもこんな感じで一人称で頑張っていきたいと思ってます。
  よろしくお願いします(ぺこ)。

  前回の小ネタの解説を一つ。
  「たこやきに粉末かつを」。普通のかつをぶしをかけてはいけないのかという
  つっこみがあったらしいので一席。
  粉末かつをを使うと、普通にかつをを使うよりも均等にたこやきにかつを味が
  付く事になります。
  ・・・と言うか、普通のかつをを使うと味が大雑把になってしまうんですね。

  前回および今回出演のきたみち様、YOSSYFLAME様。
  拙い文体ですみません。イメージ壊してましたら、ごめんなさいね(深々)。