Lメモどうでもいい番外編(笑)「馬鹿騒ぎの後」 投稿者:西山英志



 此処は、私立Leaf学園。
 いわゆる、平行世界である。
 時は、放課後。
 この日、後に「第一次Leaf共同会戦」と名付けられる闘いが始まろうとしていた。
 そう。
 決して、忘れることの出来ない闘いが。

 闘いの始まりは、一つの轟音から始まった。
 ドッゴオオオオオオオオオッッンッッ!!!
 振動が、校舎を震わせた。
「・・・・・・・なんだ?」
 システム3.5の関数と悪戦苦闘していた、Runeがディスプレイから顔を上げた。
 放課後の為か、一年の教室にはあまり人が居らず、Runeの他には同級生の柏木初音とあやとりで
遊んでいる、ゆきがいるだけだった。
「すごい音だったね、何かの爆発かな?」
 ゆきはそう言いながら、器用に初音とあやとりをしている。
「ほら、ゆきちゃん『はしご』だよ」
 天使の微笑み。
 その言葉に相応しい、笑顔で初音は微笑んでいる。
「うーん、そう来たか。なら・・・・・・」
 ゆきは初音の手から、器用にあやとりの糸を紡ぐ。
 初音の手から取り上げられた糸は、ゆきの手の中で形を変えていく。
「・・・・・・できた」
 そう言った、ゆきの手の中では『東京タワー』が完成していた。
 その時。
 ぴーん、ぽーん。
 校内放送のチャイムの音が、響いた。
『緊急放送、緊急放送。校内に居るSS使いの方達は、至急五階大会議室まで来て下さい』
 その声は二人が良く知っていた、声だった。
『繰り返します、緊急事態です。至急、SS使いの方達は・・・・・・』
 声の主はSS使いの一人、久々野であった。

 Runeとゆきが五階の大会議室に着いたとき、既に何人かのSS使い達が来ていた。
 久々野彰。
 ジン・ジャザム。
 岩下信。
 セリス。
 健やか。
 そして、Runeとゆきの七人が集まっていた。
 それ以外にも、何人かの生徒が会議室の巨大管制装置を操作している。
 久々野をはじめとする二年生SS使い達の顔には、苦渋の表情が浮かんでいる。
「・・・・・・これで、全員か」
 ジンが、ゆっくりと口を開いた。
「アルルとFoolは、どうした?」
 岩下が会議室の巨大な管制室で生徒達を統括している、雅史に声を掛けた。
「アルルさんは、『スランプの為に参加が出来ない』との連絡がありました」
「Foolは?」
 と、セリス。
「校内で、現在転校生の鈴木という生徒と交戦中。参戦は不可能かと・・・・・」
「ちっ、なんてこった。こんな時に・・・・」
 健やかは、憎らしげに会議室にある校内の現状を映し出している、巨大スクリーンを睨み付ける。
 スクリーンには、巨大な光点が浮かび上がっていた。
 光点は、ゆっくりと校内を進んでいる。
 その周りには小さな光点が、囲んでいる。
「・・・・・・何があったんですか?」
 Runeは周囲の重苦しい緊張感に、押しつぶされそうになりながら久々野に、問う。
 久々野の視線はRuneを見ずに、スクリーンに釘付けになっていた。
「・・・・・・最悪の、事態が起こってしまったんだ」
 まるで、悪夢の呟きの様に久々野は、言葉を吐きだした。 

 再び、轟音が響く。
「いかんっ!総員、退避ーーっ!!」
 現場で指揮を執っていたdyeが、叫んだ。
 巨大な土煙が、巻き上がる。
 生徒達が土煙を避けるかのように、その場を逃げ出す。
 土煙の中に、一人の人影があった。
「ちっ、なんてこった。足止めすら、できんとは・・・・・」
 dyeはそう言いながら、人影に立ち向かう。
「レミィ、頼むっ!!」
「まーかせてっ、弓道隊っ!!撃てーっ!」
 dyeの後ろから、十数条の矢が人影に降り注いだ。
 誰もが、命中を確信した。
 しかし。
 がああああああああっっーーーーっっ!!
 人影が、吼えた。
 大気が震え上がった。
 空中の矢が、羽をもがれた鳥の様に、落ちた。
「Whatっっ!!」
 レミィが驚愕する。
 叫び声だけで、全ての矢を叩き落としていた。
「・・・・・・なんて、ヤツだ」
「dye、第二射いけるヨ」
「・・・・・・いや、無駄だ。それより生徒の避難を最優先だ。志保と智子に連絡を」
「オッケイッ!!」

「弓道隊の攻撃、通用しませんっ!」
「現在、レスリング・空手共同隊が目標に接近しています」
「野球部・サッカー・テニス狙撃隊による、援護射撃、開始します」
「アメフト隊、剣道隊の準備、出来ました。指示を願いますっ!」
 SS使い達の目の前のスクリーンが、校内の状況をモニターする。
「一体、何が・・・・・・・・」
 ゆきは、ただ呆然とスクリーンを見ていた。
「・・・・・・・・西山が、暴走したんだ」
 ジンが静かに言い放った。
 西山英志。
 彼もこのLeaf学園のSS使いの一人であった。
「・・・・暴走って・・・・・・?」
「それは、俺が説明するよ」
 Runeの問いに、健やかがスクリーンから目を離さずに、答える。
「元々、俺達SS使いってヤツは少なからず、この世界に影響力を持ってしまうのは、知っているな」
「ええ」
「その力が、暴走すれば・・・・・・どうなると思う?」
「!!」
 Runeの顔が、蒼白になる。
「西山は、俺達SS使いの中でも穏健派なんだが、その分暴走するとタチが悪い」
「他のSS使いの様に、分け隔て無く登場人物に愛情を持っていれば良いのだが・・・・・」
 岩下とセリスが、言葉を続ける。
 その時。
「久々野さんっ!!」
 携帯電話を掛けていた、雅史が久々野を呼んだ。
「・・・・・・雅史、どうだった?」
「やっぱり、貴方の予想通りでしたよ」
「どうしたんですか?」
 二人の会話に、ゆきが気付く。
「やっこさんの、暴走の原因が解ったんですよ」
 雅史が静かに、言う。
「・・・・・・・えっ?」
「暴走の原因は・・・・・・・」
 ごくり。
 久々野の言葉にRuneとゆきは、生唾を飲み込む。
「本日、同じクラスの柏木楓が、風邪で休んでいるのが原因だ」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・冗談でしょ?」
「・・・・・・・・いいや」
「そんな・・・・・」
 馬鹿な、と言おうとしたRuneの言葉を再び轟音が、かき消した。
「レスリング・空手共同隊、壊滅っ!」
「野球・サッカー・テニス狙撃隊、壊滅っ!」
「そんな・・・・・・、まだ五分と経っていないぞっ!」
 水中の金魚の様に口をパクパクとしているRuneの肩に、岩下は、ぽん、と手を置く。
「一年の君達は知らないだろうけど、去年の『炎宴の文化祭』事件ってのがあったんだ」
「あっ、それ知っています」
 と、ゆきが答える。
「確か、去年の文化祭で原因不明の爆発と落雷があって、死傷者が多数出たとか・・・・」
「その原因が・・・・・・・」
 岩下の視線が、スクリーンの光点に注がれる。
「・・・・・・まさか」
「その通り、あの事件も西山が引き起こしたんだ」
「原因は?」
「柏木楓嬢と前夜祭のフォークダンスで一緒に踊れたから、だそうだ・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
 誰も、返答出来る者は、居なかった。

「・・・・・・・・では、作戦会議に入る」
 久々野は、モニターに写る光点を指さす。
「暴走した目標・・・・・・・以後、<ブラッツ−K>と呼称する、は、もうすぐこの本部に到達するものと
思われる」
「ねえ、久々野さん、その<K>って・・・・・・」
 セリスが、質問する。
「もちろん、楓の『K』だ」
「・・・・・・やっぱり」
 当然である。
「現在、格闘系共同戦線の柏木梓君と松原葵君、坂下好恵君が立ち向かっている」
「現状は?」
 これは、ジン・ジャザム。
「流石にウチの強豪三人を相手にしているから、そう簡単にはやられないだろうが・・・・・・」
「時間の、問題か」
「その間に、オカルト研究会の来栖川芹香嬢が召還陣を、制作中だ」
「・・・・・・・・一年前と同じだな」
 一年前。
 同じく暴走した西山を止める為に、同じ作戦をやったのだ。
 その時は、梓、葵、好恵、綾香の四人で足止めをした。
 そして、芹香の魔法陣で召還した闘神『オーディーン』をぶつけたのだ。
 その上に、国語教諭兼、保健室の女医さんの柏木千鶴先生の『軽い』ビンタが勝負を、決めた。
「・・・・・・・・そういえば、千鶴先生は?」

 一方、こちらはLeaf学園の校内にある保健室。
「随分と騒がしいわねぇ?」
 そこには、国語教諭兼、保健室の女医さん兼、本人たっての希望(脅迫とも言う)である謎のセーラ
ー服美少女生徒の柏木千鶴がいた。
 窓の外では、耳も裂けよと言わんばかりの轟音が、響いていた。
「・・・・・・ま、いいか」
 涼しい顔で千鶴は、ゆっくりと保健室の一角にある寝室のカーテンを開けた。
 其処には、学園の社会教師の柏木耕一が居た。
 ご丁寧にも、その躰は頑丈なワイヤーでベッドに縛りつけている。
「・・・・もう、耕ちゃんったら、こんな所に連れ込んで、強引ね」
(もごもごもごーーっ!!)
 耕一の口には、猿轡が噛まされていた。
「さ、ここなら、誰も来ないわ・・・・・・でも、優しくしてね」
(もごごごごーーーーっっ!!)
 言葉は出てないが、耕一の言葉はよく解る。
 千鶴の躰が、ゆっくりと耕一に近付いてくる。
 保健室の花瓶の花が、ぽとり、と落ちた。
 ・・・・・・合掌。

 またまたもう一方では・・・・・・。
「ねぇ、祐クン。なにがあるんだろうね?」
「・・・・・・さあね」
「・・・・・・・・私達の出番、これだけ?」
 闘いの広場の遙か彼方の、高台で長瀬祐介は新城沙織と月島瑠璃子と一緒にお茶を飲んでいた。
 なお、その後ろには嫉妬の炎にその身を焦がす、月島生徒会長の姿があったことも付け加えておく。

「松原、坂下両名、活動限界ですっ!!」
「芹香嬢の状態はっ!」
「あと、十分は必要かと・・・・・」
 緊迫した空気が、会議室を支配する。
「・・・・・・・・・」
「松原、坂下、柏木、の三名活動限界突破っ!!撤退します。」
「・・・・・・・・・」
「<ブラッツ−K>、トラップ範囲に入りますっ!」
「・・・・・・・・・」
「駄目ですっ!一切、効果無しですっ!!」
「・・・・・・・・やむを得まい」
 ゆらり、と久々野彰が立ち上がる。
 ジン・ジャザムも。
 岩下信も。
 セリスも。
 健やかも。
 Runeとゆきも立ち上がった。
「生徒全員、本部を撤退せよ。後に此処を爆破する」
 SS使い達が、扉へ歩み出す。
「・・・・・・皆さんは、どちらへ?」
 雅史が、問う。
 SS使い達は、誰一人振り向かなかった。
「・・・・・・我々、自ら打って出る。なるべく遠くへ全員を撤退させてくれ」
 Runeの言葉を残して、SS使い達は扉の向こうへ、消えた。
 闘いの場へ、と。

 楓。
 『奴』の頭には、その単語しか無かった。
 楓。
 楓。
 かえで。
 カエデ。
 かえで・・・・・・。
 <ブラッツ−K> 
 それが、現在の『奴』の呼称だった。
 危険な、存在だった。
 しかしその瞳は、純粋だった。
 その前に、人影が降り立った。
 七人。
 いや、八人いた。
 SS使い、と呼ばれる人間達だ。
 『奴』が吼えた。
 それが闘いの合図かの様に、八つの影が踊り出す。
 技を、繰り出す。
 衝撃波が、疾る。
 炎が、巻き上がる。
 風が旋を、巻く。
 闘う。
 戦う。
 吼える。
 叫ぶ。
 ・・・・・・・・そして。
「全員、下がれええぇぇぇーーっ!!」
 誰かが、叫ぶ。
 同時に。
 『奴』の周囲が、輝く。
 召還魔法陣が、描かれる。
 美しい黒髪の少女が、呪文を唱えていた。
 輝きが、増す。
 そして、『召還』。
 目の前に歴代のSS使い達が、現れた。
 それは『SSの円卓の騎士達』。
 別名『ナイツ・オブ・ラウンド』。
 最強の召還呪文。
 ・・・・・・・・勝負は一瞬で、決した。

 数日後。
「我は放つ――」
 右手をかざして、藤田浩之は高らかに叫ぶ。
「――あかりの白刃っ!」
「ちょっと待てぃっ!」
 扉を通り抜けようとしたRuneと健やかを巻き込んで、九条の同時に繰り出された白銀の斬撃が、
扉を易々とぶち抜いた。
 召喚された偽あかりは、頬の十字傷というある意味コスプレな残像を残して、虚空へと消え去る。
「おっしゃっ! 行くぞ雅史っ!」
「うんっ! チャイムダッシュだね!?」
 御丁寧にも出血多量で三途の川一歩手前どころか、一歩踏み出した後状態の被害者二人をきっちり踏
みつけて二人は食堂に走り去った。
 久々野彰が、二人を見下ろしながら、何事か呟きながらメモ帳に万年筆を走らせる。
「ええと……『授業終了直後に、背後から包丁で9回斬られる。出血、約10リットルの時点で数回踏
まれて、さらに数リットル増える。死なず』」
「死ぬかっ! こんなあっさりと片付けられてっ!」
 喚きながら、がばっと跳ね起きるRuneに、久々野は冷たい瞳で一瞥をくれてから、
「さらに岩下信に葵花を喰らう、と」
「ヘブッ」
「なおかつ同じクラスの可憐な美少女、柏木楓を飽かず眺む西山英志の視界妨害を為したため、空手技
の実験台」
「ひぃぃぃぃぃぃ……」

 ・・・・・・・・いつもと変わらない、騒がしい日常が始まる。
 ここは、私立Leaf学園。
 SS使い達に守られた、至福の楽園・・・・・・・。

                                        <了>
 98.1.23.UP