Lメモ今回は幸せ未来編「誰がために鐘は鳴る」 投稿者:西山英志
 『あの頃』は決して戻ってこない‥‥‥。
 でも、『今から』は沢山作っていけると思うから‥‥‥。

「ひなたさんっ、ひなたさーんっっ!!」
 朝。
 風見ひなたは同居人の赤十字美加香の慌てた声で、目を覚ました。
 もそり、とベッドから躰を起こして、不機嫌そうな顔をする。
 風見は今年で二十二歳になっていた。
 既にLeaf学園高等部は卒業しており、今は大学部で心理学を専攻している。
 昨日も研究レポートを夜遅くまで書いていた為、しっかりと寝不足なのであった。
「ひなたさんっ、たいへ‥‥‥おぶっっ!!」
 ごちんっっ!!
 慌てて風見の寝室のドアを開いた美加香の目の前に火花が、散る。
 アンダースローで投げた風見の目覚まし時計が、美加香に命中したのだ。
「‥‥‥ノックぐらいしなさい、美加香」
 半目で睨み付けながら、風見は溜息をつく。
「‥‥そ、そんな事より‥‥こ、これ‥‥‥‥」
 そう言って、美加香は額から血をだらだらと流しながら、風見に手紙を差し出す。
 招待状だった。
 白さの眩しい封筒には金文字で『寿』と箔押しがされている。
 風見は中の招待状に目を通す。

『拝啓、この度我がLeaf学園内教会にて下記の者達の結婚式を執り行うこととなりま
した。お忙しい中ではありますが、何卒、関係者の方々にはご出席頂けます様、お願い致
します。取り急ぎ、御用件のみにて‥‥。

   新郎  風見 ひなた
   新婦  赤十字 美加香

                        媒酌人  西山英志 柏木楓  』

 招待状を見た風見が、凍り付く。
「美加香‥‥‥」
「‥‥‥はい」
「‥‥‥‥コレは何の冗談ですか?」
「い、いや、そんなこと私に言われても‥‥‥」
 その時。
 どたどたどたどたどたどたっ!
 寝室のドアの向こうから、慌てた多数の足音が風見の耳に届く。
 ばたーんっ!!
 と、乱暴にドアが開かれて、風見の見知った顔が現れる。
「お兄ちゃんっ、美加香お姉ちゃんと結婚するのっっ?!」
 と、ティーナ。
「風見くんっ、とうとう身を固める気になったんだねっっ!」
 ティーナの夫のカレルレン。
「ひなたっっ!!こんな大事な事どうして私に話してくれなかったんだっっ!!」
 大学の同級生のやーみぃ‥‥もとい、Hi−wait。
「風見にゃん、おめでとうにゃっっ!!」
 何故か、猫のエーデルハイドもいたりする。
 やって来た全員の手には、先ほど風見の見た招待状が握られていた。
 軽い眩暈の、後。
「‥‥‥夢なら、醒めてくれ‥‥」
 風見はそう言って、ふらりとベッドに倒れ込んだ。

 こーんっ、
 庭の何処かで鹿威しの音が、聞こえた。
 Leaf学園の一角にあるSS不敗流の庵の一室に、三人の人影があった。
 広い部屋だった。
 畳二十畳分はある和室だ。
 一人の男が上座で静かに、茶を点てている。
 西山英志、だった。
 正座を崩さずに、ただ静かに其処に座っていた。
 西山も既にLeaf学園を卒業し、去年大学部も卒業。今は学園の古文の教師として、
教鞭を振るっている。
 そして、西山の目の前には風見と美加香が正座をしていた。
 こぽこぽ、と静かに沸騰している茶釜から白い水蒸気があがる。
「‥‥‥師匠、これは何の真似ですか?」
 風見と西山の目の前の畳の上には、先刻届いた招待状があった。
「‥‥‥‥‥」
 西山は、応えない。
「師匠っっ!!何とか言ったら‥‥‥っぶっっ!!」
 べしっっ!!
 言葉を続けようとした風見の顔面に、西山が手首をスナップさせて投げた袱紗(ふくさ)
が見事に命中する。
「‥‥‥風見‥‥」
 じろり。
 と、睨んだ視線は、普通の人間なら気圧される様な圧迫感がある。
 西山は言葉を、続ける。
「俺はな、お前と美加香の今の同棲生活を笑って見ていられるほど、お茶目さんでは無い
んだ‥‥。幸い、来年にはお前も来年には大学部を卒業する‥‥‥良い機会だ、いい加減
覚悟を決めて身を固めろ‥‥‥」
「師匠っっ!!」
「踏み込みが甘いわっっ!!」
 すこぉーーんっっ!!
 身を乗り出してきた風見の頭を、西山の握っていた柄杓がはたき倒す。
「大体、お前は何時になっても子供のような我が儘ばっかり言いおって、もう既にお前と
美加香は学園内でも公認の仲なのだっ!お前達を結びつけた俺の立場ってものも考えろっ
っ!、この師匠不幸者っっ!!」
 逃げようとする風見を頭を柄杓で、ポカポカと叩きながら、西山は一気に捲し立てる。
「‥‥‥‥美加香も、其れで良いな?」
 すっ、と西山は優しい瞳で美加香を見つめる。
「‥‥‥あっ‥‥‥は、はい‥‥‥」
 美加香の頬が真っ赤に染まる。
「うむ、よろしい。‥‥風見、女の子をキズモノにした責任、今こそ精算しろよ」
「‥‥‥‥(くそっ、逃げてやる)」
 そんな、ふてくされている風見を見ながら、西山の口元がニヤリと笑みの形をとる。
「ああ、それから結婚式は明日だからな。ちゃんと式場の予約も関係者の方々の出席も取
り付けてある、安心しろ」
「し、ししょおおおおおーーーっっ!!」
 風見、血涙。
 最大の厄日、である。

 その夜。
 学園の屋上で、むくれ顔の風見は夜空を見上げていた。
 あの後、何度か逃亡を試みたのだが、その度、来栖川警備保障のDセリオやDマルチ、
Dガーネット、へーのき・つかさ等に捕まって連れ戻されていた。
 よしんば、警備保障の連中から逃げても岩下達『ジャッジ』のメンバーや師である西山
が更に監視の目を光らせている。正に鉄壁の防御陣といえた。
「どーしたのよ、か・ざ・み・くんっ☆」
 風見の後ろで甘い声が聞こえた。
 振り向くと其処には虎のマスクを被った巨漢が立っていた。
 SS闘神ライガージョーであった。
 ライガージョーの姿に、可愛らしい少女の声。
 不気味さ核爆発である。
 師である、西山の妹であるEDGEであった。
「‥‥‥‥何の用です?」
「冷やかしに来たって、言ったら?」
「‥‥血を見ますか?」
「やーねぇ、冗談よ☆」
 疲れること、夥しい。
 風見は視線を、夜空に戻す。
 暫くして風見の横にEDGEが、ぺたん、と腰を下ろす。
 その姿はライガージョーの姿でなく、一人の少女に戻っていた。
  視線を風見と同じ夜空に、向ける。
「‥‥‥‥美加香ちゃんと一緒になるのが、そんなにイヤ?」
 EDGEが訊く。
「当然でしょ、なんであんなのと‥‥‥」
「じゃあ、なんで逃げないの?」
 風見の応えがEDGEの言葉に遮られる。
「そりゃ、警備の目が厳しくて‥‥‥」
「そうかな?‥‥‥さっきまで見ていたけど、風見くん、何だかワザと警備の厳しい処へ
行ってばかりみたいだけど‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥怖いの?‥‥‥自分が美加香ちゃんを幸せに出来るのか‥‥‥」
「‥‥‥そんなこと‥‥‥‥ありません」
 風見の顔は相変わらず夜空を見ている為、その表情は伺い知れない。
「‥‥‥‥‥‥ま、他人の恋路を邪魔する心算は無いけどね‥‥‥」
 EDGEはゆっくりと立ち上がって、
「風見くん‥‥‥‥もうちょっと、素直になった方がいいよ‥‥」
 そう言うと、EDGEは軽くステップを踏みながら扉の向こうへと姿を消した。
 後に残された、風見は。
「‥‥‥‥‥‥‥ふん」
 と、言ってその躰を、どさり、と冷たいコンクリートの床に横たえた。

 そして、結婚式当日。
 空は目が痛くなるような蒼に染まっている。
 快晴だった。

「浩之ちゃーん、はやくはやくっ」
「‥‥‥そんなに走るなよ、あかり」
 礼服に身を包んだ、藤田浩之は神岸あかりに手を引かれながら、歩いていた。
 そして、その後ろから。
「ダアアアアアアアアリイイイイイィィィンッッ!!」
 と、土煙を巻き上げながら追いかけてくる春夏秋雪の姿もあったりする。

「うーん‥‥‥マルチ、ネクタイ曲がっていないか?」
「えっ‥‥‥うううーん‥‥‥‥はいっ、直りましたよ」
「さんきゅ、マルチ」
 マルチにネクタイを直してもらいながら、セリスは窓に拡がる青空に目を細めていた。
 ‥‥‥俺達の結婚式も、こんなに晴れているといいな、と思いながら。

「OLHお兄ちゃん、まだ朝御飯食べていたの?」
「‥‥‥‥んあ、笛音か」
 寝癖の豪快な頭を揺らしながら、OLHは振り袖姿の笛音を見る。
「ほーら、早く食べてっ、今日は二人で着物を着ていくって言ったじゃない。榊お兄ちゃ
んも木風ちゃんも待っているよっ!」
「へいへい‥‥‥」
 そう言いながら、OLHは白無垢の笛音も悪くないかもな、と考えていた。

「ううーん、ご祝儀は幾らにしましょうかねぇ‥‥‥」
「beaker、まだ悩んでいるの?」
 坂下好恵は呆れ顔で、beakerの後ろ姿を見ている。
 かれこれ、二時間近く悩んでいるのだ。
「‥‥‥うーん、やっばりコレぐらいが妥当ですか‥‥」
「‥‥珍しいじゃない、そんなに包むなんて」
「私達の時には‥‥‥‥倍返しして貰いたいですからね」
 その言葉を聞いて、好恵の顔が真っ赤に染まるのに数秒もかからなかった。

「千鶴さ〜ん、このままじゃあ遅刻だよ」
「もうっ、うるさいわねぇ、女の化粧には時間がかかるモノなのよっ!!」
 ジン・ジャザムの言葉に柏木千鶴が応える。
「‥‥‥‥ふつう、二時間もかけないと思うがなぁ‥‥」
 ジンが、ボソリと呟く。
「ジ・ン・くぅ〜ん、何か言ったかなぁ〜」
「ひいいいいいっっ、何でもないですぅ!!」
『口は災いの元‥‥‥だな、ジン』
 ジンの肩の上で超○金魂マジンガーZ(声はやっぱり石○博也)が苦笑気味に言う。
 しかし‥‥‥ジンとマジ○ガーも礼服を着ているのだが。
 ‥‥‥‥やっぱ似合わんわ、あんたら。(笑)

「‥‥‥ところで」
「‥‥‥うん」
「‥‥‥‥なんでお前がこんな所にいるのだ?」
「‥‥‥‥それはコッチの台詞だ」
 来栖川の屋敷の前でハイドラントと悠朔が睨み合っていた。
「ふふふふふふふふふふふふふ‥‥‥‥」
「くくくくくくくくくくくくく‥‥‥‥」
 不気味な笑い声をあげる、二人。
 ‥‥‥‥そして、一時間経過。
 屋敷の扉が開いてスーツ姿の綾香が姿を現す。
「はーい、お待たせ‥‥‥‥って、何やっているの、あんた達?」
「‥‥‥‥いや」
「‥‥‥‥別に」
 二人の躰からは硝煙が立ち昇り、礼服のアチコチが破けていた。
 お互いに怪我もしているらしい。
「‥‥‥‥‥まったく」
 綾香は微笑いながらそう言って、薬箱を取りに屋敷へときびすを返した。

「‥‥‥‥智子さん」
「なんや、Fool」
 互いに肩を並べながら、Foolと保科智子が歩いている。
「うん、披露宴の隠し芸だけど、一緒に漫才でもしない?」
「‥‥うん、ええよ」
「今度こそ、絶対ウケると思うんだ」
「へえ、それは楽しみやな」
 楽しそうにネタの打ち合わせをしている二人。
 しかし、この二人の目論見は主催者の西山によって中止されるのであった。
 ‥‥‥‥ご愁傷様。(苦笑)

「結婚式‥‥‥ですか?」
「うん‥‥‥セリオは初めて見るのかな?」
「‥‥‥はい」
 dyeは礼服に袖を通しながら、セリオと話していた。
「『結婚』とは、一体どんなものなのでしょうか‥‥‥?」
 セリオの質問にdyeは少し困ったような顔をする。
「うーん、お互いに永遠の愛を誓う‥‥じゃなくて、契約の儀式、かな?」
「契約、ですか?」
「そ、お互いこれからの人生を共に生きていくっていう、契約さ」
「‥‥‥じゃあ、私達も『結婚』しているのでしょうか?」
「‥‥‥‥‥さてね」
 カフスを止めながらdyeは嬉しそうに微笑んだ。

「あああーーっっ!!ひづきっ、耕一さんから離れなさいよっっ!!」
「いやですっっ!!M・Kさんこそ、離れて下さいっっ!!」
「きいいいいいいいっっ、なんですってーーっっ!!」
 柏木耕一を挟んで、右に隆雨ひづき、左にM・Kが睨み合っていた。
 はっきり言って、一触即発。
 かなり危険な状態を察したのか、佐藤昌斗とデコイは遠巻きに眺めている。
「‥‥‥‥‥なあ」
「‥‥‥‥んっ?」
「ひづきとM・K、どっちが勝つと思う?」
「双方自爆で引き分けだと思うが‥‥‥」
 十分後、その通りとなった。

「ちちうえ、ちちうえ〜」
「ははははは‥‥ほら、転ぶぞ、静」
 娘のきたみち静に手を引かれながら、きたみちもどるは式場へ向かっていた。
「ねえ、ちちうえ‥‥‥」
「うん?」
「静も、早くお嫁さんになりたいな」
「‥‥‥‥‥」
 きたみちの顔が不意に、陰る。
 きっと避けられないであろう、静の結婚を考える。
 その時、自分は笑って見送ってやれるだろうか?
 今のきたみちには、少し自信がなかった。
「‥‥‥‥はやく大きくなってね‥‥静ね‥‥‥」
 静は赤い顔をしながら、モジモジとしている。
「‥‥‥‥静?」
「‥‥静、ちちうえのお嫁さんになるのっっ!!」
 静の言葉に、きたみちは父親失格だな、と思いながら嬉しく思っていた。
 まだまだ、『その日』が来るのは先の話のようである。

 ゆきの側には柏木初音がいた。
 そして、初音の腕の中には白い産着にくるまれた赤ん坊が眠っていた。
「‥‥‥‥よく眠っているね」
「うん、寝る子は育つって言うもんね‥‥‥」
 ゆきと初音は学園卒業後、色々と紆余曲折を経て一年前に結婚をした。
 澄み切った青空の下。
 まだぎこちなさの抜けない、不器用な夫婦は式場に向かって歩いていた。

「‥‥‥‥‥ふう、何とか間に合いそうですね」
 チャーター機のタラップから足早に降りながら、久々野彰は腕時計を見ていた。
 空港の玄関からタクシーを拾おうとするが、
「ショウッッ!」
 自分の名を呼ぶ懐かしい声に、振り向く。
 其処には車の運転席から手を振る、柏木梓の姿があった。
 苦笑気味に久々野は車の助手席に飛び乗る。
 キーを捻って、梓は車を発進させた。
「‥‥‥どう、久々の学園は?」
「何も変わっていませんね‥‥‥ちょっと、嬉しいですよ」
「学園が?‥‥‥‥‥それとも、私が?」
「‥‥‥‥どちらも、ですよ」
 久々野は学園の卒業後、新たな『塔』の創設の為に世界中を飛び回っていた。
 昔の楽しかったあの頃の『塔』の再建を目指して。
「今回は‥‥‥暫く滞在できそう?」
 車を公道へ滑り込ませながら、梓が訊く。
「‥‥‥ええ、何とか創立の目処もたってきましたからね」
「ねえ、ショウ‥‥‥その言葉遣い止めなよ。‥‥今は‥‥私しか、いないんだし」
「‥‥‥そうだな、‥‥‥‥久しぶりに会えたんだからな」
 車のパワーウィンドゥを開けて、吹き込んでくる風を頬に感じながら、久々野は梓にし
か見せない優しい笑みを、浮かべた。

「あっ、光さん、紫音さんこんにちは」
 式場の入り口の手前で西山の養女であるマールは、結城光と結城紫音の姿を見つけた。
 光は学園を卒業後SS不敗流の元を去り、鶴来屋で働いている。
 西山に教えられた格闘術の腕を見込まれて、鶴来屋の警備隊長を務めていた。
 その姿は学園にいた頃の気弱な少年の姿ではなく、一人の逞しい男の姿をしている。
 紫音は来栖川で開発された、次世代メイドロボ‥‥有機生体ユニットによるメイドロボ
の躰を与えられ、相棒の光と共に生活していた。
 最近は、むらさきという少女を引き取ってささやかながらも幸せに暮らしている。
 一方、マールは西山が学園卒業後、正式に西山家の養女となっていた。
 現在も何かと西山の世話を焼いているようである。
「やあ、マールちゃん、師匠は?」
「‥‥‥あれ?さっきまでいたんですけどね」
 マールはEDGEが見立てた、可愛らしいドレスを着ていた。
「西山さんなら、裏庭の方へ歩いていったぞ」
 突然、天井から声が聞こえる。
「あれっ、葛田さん。お久しぶりですね」
「ああ」
「そう言えば、例の政治家の汚職摘発事件。あれ、葛田さんの仕業でしょう?」
「‥‥‥‥さてな」
 葛田玖逗夜は学園卒業後、その隠密行動を買われて諜報機関に引き抜かれていた。
 最近は機関内でも頭角を現して、どこかの支部長に任命されるという噂もある。
 しかし、本人はデスクワークより現場で働きたがっているようだが。

「‥‥‥おい、いつまで拗ねている心算だ?」
 教会の裏庭で西山は風見を見つけて、声をかけた。
 風見はタキシードを西山は略式の礼服に身を包んでいる。
「拗ねたくもなりますよ‥‥‥‥こんな風になるなんて‥‥」
「‥‥‥‥なら、止めれば良いだろう」
 西山は風見に静かに、言い放つ。
「‥‥‥‥‥‥‥」
 風見はその言葉に、ふい、と視線を逸らす。
 西山は苦笑気味に溜息を、漏らす。
 そして、
「‥‥‥‥‥‥風見、俺と闘え」
 と、言って上着を脱ぎ捨てて、構えを取る。
「し、師匠‥‥‥‥?」
「俺と闘って負けたら、何も言わずに式場へ行け‥‥‥‥‥もし、俺に勝ったら‥‥‥」
「‥‥‥‥勝ったら?」
「‥‥‥お前の好きにしろ‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥解りました」
 そう言って、風見もタキシードの上着を脱ぎ捨てる。
 ぴいんっ、と緊張が硝子の糸の様に、張りつめる。
 二人の顔には、笑みが張り付いていた。
 それは、修羅の道を歩んできた男達に許された笑み、であった。
「‥‥‥‥手加減は無用」
「‥‥‥‥承知」
 暫しの沈黙と静寂。
 そして、
 二つの影が同時に、疾った。

 既に予定の時間を三十分も過ぎていた。
 教会には出席者が全員揃っていた。
 いや。
 まだ、新郎と媒酌人の一人が到着していなかった。
 真っ赤な絨毯の、バージン・ロード。
 其処で美加香は純白のウエディング・ドレスを着て、佇んでいる。
 しかし、その顔は花嫁には相応しくない暗い影があった。
「ひなたさん‥‥‥‥やっぱり‥‥‥私となんか‥‥‥」
 美加香が、呟く。
 その時、
 バターーーーンッッ!!
 教会の扉が乱暴に、開かれる。
 一同の視線が、扉に注がれる。
 風見ひなたが、其処に立っていた。
「ひ、ひなたさん‥‥‥‥?」
 美加香が驚いた表情をする。
 無理もなかった。
 風見の顔には何カ所か青い痣が浮かんでいたのだ。口元には赤い血も滲んでいる。
 ざわざわ、と騒ぎはじめる出席者の中を風見は、ずんずんと大股で歩いていく。
 そして、美加香の横に立つ。
「‥‥‥‥美加香」
「は、はいっ」
 風見の言葉に美加香が慌てて、応える。
「‥‥‥‥幸せに出来るか、どうか自信がないけど‥‥‥頑張りましょう」
 そう言う風見の口元には何か吹っ切れたような、優しい微笑みがあった。
 美加香は風見のその言葉を理解するのに、数分を要した。
 そして、その瞳に大粒の涙を浮かべながら、
「‥‥‥‥‥‥はいっ」
 力強く、頷いた。

 一方。
 裏庭で西山は大の字になって地面に寝ころんでいた。
 その顔は風見なんかとは比べモノにならない位の青痣と傷がある。
 どちらが勝ったのかは、一目瞭然といえた。
「痛っ‥‥‥‥アイツめ、本当に手加減無しでやりやがって‥‥‥‥‥」
 痛みに顔を歪めながら、西山はゆるりと半身を起こす。
「随分、派手にやられたわね‥‥‥‥‥」
 西山後ろから、そう言いながら独りの女性が現れる。
 その顔は風見ひなたと同じ顔をしていた。
 風見日陰。
 かつては『魔王』と呼ばれた、もう一人の「風見」である。
 黒いスーツに身を包んだその姿は、深窓の令嬢のようであった。
「‥‥‥‥ま、これでこの世界は『安定』へと向かうじゃろうな‥‥‥」
 声がもう一つ、現れる。
 裏庭にある巨木の枝に座っている影が、一つ。
 真白な髪と羽を持つ少女。
 遊輝。
 ジンの体内にいる『陵辱者』と呼ばれる存在である。
 輝く日差しの中にいるその姿は、正に天使といえた。
「‥‥‥‥‥これからは、あの者達がこの世界を創っていくだろうよ」
 遊輝の座っている巨木の根本に、もう一人現れる。
 黒い服に身を包んだ、中年の男であった。
 柏木賢治。
 『塔』に於いて、最強の実力者であり久々野やハイドラント達を育てた『教師』である。
 西山の周りに三人の姿が、立っていた。
「久しぶりですね‥‥‥‥『書を護る者達』よ‥‥‥‥」
 そう言って、西山は微笑んだ。
 まるで、かつての親友の様に。
「‥‥‥‥ふふ、その呼び名で呼んでくれるのも、もう貴方だけになったわね」
 と、風見日陰<黄金(きん)の瞳>も微笑う。
「これから‥‥‥どうする心算ですか?」
 西山が訪ねる。
「この世界での、妾達の役目は終わった‥‥‥次なる世界へゆくさ‥‥‥」
 遊輝<白き双翼>が、応える。
「後は、我らの子供達が‥‥‥より良き方向へ導くだけだよ‥‥」
 柏木賢治<黒き爪>が肩を竦める。
 もう、自分達は用無しだ、と言う様に。
「貴方こそ、どうするの‥‥‥‥我々と共にゆくの?<銀の顎(あぎと)> よ‥‥」
 日陰の言葉に、西山英志<銀の顎>は静かに首を振る。
「私は此処に残ります‥‥‥‥その為にあなた達と袂を分かつたのですから‥‥‥」
 その瞳は静かな光を湛えていた。
「そう‥‥‥‥じゃあ、ここでお別れね‥‥‥」
 風見日陰の姿が、すうっ、と消えていく。
「‥‥‥‥‥いつか、時の彼方でまみえる事を楽しみにしているよ‥‥‥」
 柏木賢治は、背中を向けて歩き始める。
「‥‥‥‥さらばじゃ、古き親友よ‥‥‥」
 遊輝は、ばさっ、と背中の羽を拡げて青空へと飛ぶ。
 そして、その場には西山だけが取り残された。
 ふうっ、
 と、西山は大きな溜息を空に向けて、吐き出す。
 その顔は何だか、清々しいモノがあった。
 西山は後ろを振り向く。
 其処には、一人の少女の姿があった。
 柏木楓、である。
「‥‥‥‥いいんですか?」
 楓が、訊く。
「いいさ‥‥‥‥‥俺がこの世界に残ることを決めたのは、世界の為なんかじゃないよ」
 西山は、上着を取り上げると袖を通しながら歩き始める。
 その横を柏木楓が並んで歩く。
「じゃあ‥‥‥‥何の為に?」
「‥‥‥‥‥‥それは」
 と、言いかけて西山は楓の横顔を見る。
「‥‥‥‥?」
 不思議そうに、楓は首を傾げる。
「‥‥‥‥それは」
 言葉を切って、西山は大きく澄み渡った青空を、吸い込んだ。

「‥‥‥‥‥君と、少しでも一緒にいたかったから‥‥‥」

 鐘が鳴った。
 『あの時』へ別れを告げる為、に。
 『これから』を祝福する為、に。

                                <了>

     あとがき〜又の名を戯れ言。

と、言うわけで自分勝手な「Lメモ・未来編」をお送りします。(笑)
始めに断っておきますが、この設定は私が勝手に決めたモノですので、これからLメモを
書く上で別にこの設定を守らなくてはならないって事はありませんので、あしからず。
ラストに出てくる『書を守る者達』は元ネタは私の好きな漫画「超人ロック」からとって
おります。(笑)それにしても、柏木賢治や風見日陰、遊輝さんにこんな設定つけちゃっ
て、ジンさん、風見くんゴメンナサイ。(だったら書くなって・汗)
私としては、こんなハッピーな未来があっても良いじゃないかと言うことで、書いてみた
んですけどねぇ‥‥‥何時の間にやら、余計な設定が付いてきているし(苦笑)

レスです。

ジンさんへ
「エルクゥ同盟編」‥‥‥うわぁぁっ、何かものすごく格好いいぞっっ!!(喜)
しかし、その格好良さと学園の私の姿のギャップが(汗)次回は私が紋章を捨てたお話で
すか‥‥‥ものすごく期待していますよっ!!
それより、自分のLメモ過去編、早く書けよ(大自爆)

beakerさんへ
「グラップラー・Lメモ」‥‥‥良いですねぇ(笑)私自身、格闘が大好きなタイプです
のでいつも楽しく読ませていただいております。しかし、読んでみて殆ど元ネタが分かる
私って‥‥‥‥(汗)

ハイドラントさんへ
「Lメモ・弔歌編」‥‥‥うーむ、さすがはダークの首長、書くものが違いますな(笑)
しかも、風見くんは貴方の影響をうけて、鬼畜からダークになっていくし(汗笑)
しかし、巻末の私のステータスでEDGEが「風」属性(鬼に強い)を見て、妙に納得し
てしまいました。(EDGEに言われるまで気がつかんかった・笑)

それでは、今回はこの辺で‥‥‥‥ええ加減、楓長編SS書けよ、自分(爆)