体育祭Lメモ「借り物競走〜それぞれの想い」 投稿者:西山英志
『借り物競走の参加者にお知らせいたします、まもなく始まりますので指定の集合場所へ
お集まり下さいますよう‥‥‥‥』
 体育祭実行委員会の放送が、グラウンドのスピーカーから流れ出す。
「おーい、借り物競走の封筒ってこれか?」
「ああ、そうだよ。早く準備に取りかかってくれよ」
「へいへい‥‥、あっ、ミニセリ達、コレをグラウンドまで持っていってくれないか?」
「はーい」
「はーい」
 体育祭の実行委員達が借り物競走に使う、借り物の内容を書いた封筒の入った箱をミニ
セリ達に手渡す。小さな躰のミニセリ達がとたとた、と箱を抱えて歩いていく。
 その後ろ姿を見て、物陰からニヤリと笑う人影があったことに実行委員達は知る由も無
かった。

『はいっ、遂に始まりましたLeaf学園学年対抗大体育祭っ! 司会は私、みんなの情
報アイドル長岡志保ちゃんがお送りしまーすっ!!』
 おおおおおおおおおおおおおおーーーーっっ!!
 場内から歓声が、上がる。
「凄い歓声だな‥‥‥」
「ウチ学園の生徒って、基本的にお祭り大好き人間だからね」
 歓声のあまりの大きさに耳を塞いだ藤田浩之の台詞に、佐藤雅史が苦笑気味に答える。
『さーてっ、でわっ、今体育祭の第一競技「借り物競走」が始まりますっ!!』
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーっっ!!
 更に大きな歓声が、澄んだ青空に響き渡った。
「よーし、じゃあそろそろ行くか、雅史」
「うん、そうだね」
 はちまきを締め直しながら、浩之達がゆっくりとグラウンドへ歩き出す。
 と、その時。
『えーと、尚、今回の借り物競走は「ルール無用!妨害・私闘・策略何でもありよ(はぁ
と)デスマッチ・モード」になっておりますっ!!』
 イヤに嬉しそうな声の放送が参加者達の耳朶を打った。
「なんぢゃ、そりゃああああああああああああああああっっっ!!」
 そんな絶叫が歓声に埋もれながら、響いた。

「位置について‥‥‥‥‥」
 審判員が空砲を構える。
 スタートラインにはSS使い達を始めとする、名も無い生徒達も含めて数十人がスター
トの構えを取っている。
「‥‥‥‥‥なぁ、冬月」
 ディアルトが隣にいる冬月に問いかける。
「‥‥なんです?」
 さして、興味もなさそうな声で冬月が応える。
「‥‥‥‥‥俺はもの凄くイヤな予感がするんだが」
「‥‥‥‥‥偶然ですね、私もですよ」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥逃げるか」
「‥‥‥そうですね」
 審判員がゆっくりと空砲の引き金を引く。
「‥‥‥‥‥‥よーい」
 ぱんっっ、
 と、空砲が鳴り響いたとき。
 づごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんんんっっ!!
 スタートラインの付近から巨大な火柱が巻き上がって、冬月とディアルトはその躰を頭
上五十メートル上空に吹き飛ばされた。

『おおーっとっ!、いきなりスタートラインの生徒達が数名吹き飛ばされた模様っ!! 
しかし残念っ、流石は我がLeaf学園の生徒っ、大多数がこの爆発をモノともせずに走
り出しましたーーっっ!!』
「まっ、大体こんな事は予想できるからな」
 そう言いながら、観客席で爆風の余韻覚めやらぬグラウンドを見ながら、悠朔が呟く。
「なんか段々非常識に感化されてきているんじゃ無いんですか? 私達‥‥‥」
 その横でbeakerが苦笑混じりに、応える。
「確かにな‥‥‥‥‥‥おっ、先頭のメンバーが封筒を取ったぞ」
 悠が指差した先で、走者達がそれぞれ思い思いに地面に置かれた封筒を取り上げる。
 しかし。
 その封筒の中身の紙を見た途端、全ての選手の足が止まる。
 封筒の中の紙に書かれた内容の為に。
 その内容とは‥‥‥‥‥。

<その一 ハイドラントの場合>
「‥‥‥‥‥‥綾香」
「あれ? ハイド、どうしたの?」
 ノロノロと歩いてきた、ハイドラントに綾香は不思議そうな顔をする。
 その顔は、なんだかとっても死刑囚な表情をしている。
 ハイドラントはゆっくりとその手に握られた借り物内容のメモを綾香の前に出す。
『来栖川綾香のハイキック乱舞』
 と、書かれている。
「‥‥‥‥‥‥‥」
 無言の綾香。
「‥‥‥綾香、お前の気持ちも解るぞ。愛しいこの俺を足蹴にするなんて、とても心苦し
いだろうっ!! ああっ、なんて運命とは皮肉なのだろうっ! 愛し合う二人が策略のた
めにこんな悲劇‥‥‥」
「手加減しなくても‥‥‥‥良いのね」
「だから少し手加減して‥‥‥‥‥‥‥って、え゛‥‥‥?」
 ボソリと呟いた、綾香の台詞にハイドラントが凍り付く。
 冷や汗混じりに綾香の方を向けば、嬉しそうに指をボキンボキン、と鳴らす綾香が立ち
上がる。その口元には少し物騒な微笑が浮かんでいる。
「あ‥‥‥、あの‥‥‥綾香さん?‥‥‥」
「ふふふふふふふ‥‥‥‥‥安心して、ハイド。ちょっと最近ストレスが溜まっちゃって
ねぇ‥‥‥ふふふふふ」
 怖い。滅茶苦茶、怖い。
「さぁ、ハイド‥‥‥‥‥」
「みっ、みぎゃああああああああああああああああああああっっ!!」
 惨劇。
 しかし、それ以前にコレ「借り物」なのか??

<その二 ジン・ジャザムの場合>
「えーと‥‥‥‥‥‥俺の中身は‥‥‥‥」
 そう言って、ジン・ジャザムが手の中の封筒を開けて中身を取り出す。
 中には。
『エルクゥ・ユウヤ(はぁと)』
 と、書いてあった。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 ジンは暫くそれを見つめていると。(硬直しているとも言うが)
 ぐしゃぐしゃぐしゃっ!
 メモを入念に握りつぶして。
 だんっだんっだんっだんっだんっだんっだんっっっ!!
 入念に踏みつけて。
「ガイド・レーザー照射っっ!!」
 月面基地からガイド・レーザーが届き、ジンの躰にマイクロウェーブ波が到達する。
 背中から出現した放熱板が銀色の輝きを放つ。
「ぅおらああぁぁっっ!! サテライト・キャノンッッ!!」
 ずばしゃゃあああああああああああああああああああああっっっ!!!
 目の前のメモを問答無用の高熱マイクロウェーブ波で、焼き尽くした。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ふう、今のは無かったことにしてと」
 と、言って振り向いた目の前には。
「体育祭の男性の視線は私の釘付けっ(はぁと)、エルクゥ・ユウ‥‥‥」
「それ以上言うんぢゃねええええええええええええええええええええっっっ!!」
 再び背中の放熱板が輝き、今度はダブルサテライト・キャノンが目の前の物体(口にす
ることすら、悪夢なので書かない・作者談)を吹き飛ばした。

<その三 ゆきの場合>
「あっ、初音ちゃん」
「あれ? どうしたの、ゆきちゃん」
「‥‥‥‥‥‥うん、実は」
 そう言ってゆきはメモを、柏木初音に見せる。
 ちなみに内容は(まぁ、予想はつくでしょうが)
『犬耳付きの柏木初音』
 と、書かれていた。
「‥‥‥で、コレも持ってきたんだけど」
 そう言って、既にその手には犬耳セットが握られている。
 ちゃっかりと、用意が良い。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 互いに見つめ合って、黙り込む。
「‥‥‥‥‥‥‥‥ゆきちゃん」
「‥‥‥‥‥‥‥‥なっ、なに?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥うっ(じわっ)」
「‥‥‥‥‥‥‥‥あっ、あの、初音ちゃん」
 突然初音は後ろから、お弁当箱を取り出す。
 そのお弁当箱には、
『ちーちゃん特製・キノコの炊き込みご飯』
 と、書いてある。
 それを初音は躊躇いもなく、ばくばくばく、と口の中に放り込む。
 ‥‥‥‥‥そして。
「うらぁぁあああああああああああっっ!! ゆきいいいぃぃぃぃっっ!!」
 どばきいいいいいいぃぃぃぃぃぃっっ!!
「へぶううぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!!」
 秋晴れの青空に、人間ロケット『YUKI』が月に向かって飛び立った。

<その四 結城光の場合>
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 結城光は既に誰に殴られたのか、ボコボコにされて今、正に涅槃の世界へと旅立とうと
していた。その手には借り物のメモが力無く握られている。
 そのメモの内容は‥‥‥、
『猫耳ぶるまぁの柏木楓』
 と、書かれていた。
 運がなかったね、結城くん(にやり)

<その五 秋山登の場合>
「あずさぁぁあああああああああああああああああっっっ!!」
「呼ぶなっ、来るなっ、近寄るなぁああああああああああああああああああっっっ!!」
 ばきっ、ぐしゃ、どごっ、げしっ、げごおおおおおおおんんっっ!!
 以下略。

<その六 YOSSYFLAMEの場合>
「うああああああああああああっっ!!どぉすればいいんだああああああっっ!!」
 YOSSYは頭を抱えていた。
 その手には件の借り物のメモが握られている。
 その内容は‥‥‥、
『あなたの付き合っている人』
 と、書いてある。
「あああああ、理緒ちゃんにしようか? イヤ、ひづきちゃんも捨てがたいっ!! イヤ
イヤ、やっぱり葵ちゃんが、イヤやっぱり‥‥‥‥‥」
 などと大声でのたまわっているYOSSYは気がついていない。
 YOSSYに名前を言われた女生徒と一部の男子生徒達がゆっくりと金属バットをYO
SSYに向かって振り下ろそうとしているのを‥‥‥‥。


 で。
『さーてっ、阿鼻叫喚の地獄絵図から最初に出てきたのは‥‥‥』
 そんな放送の志保の声に応えるように、何人かの生徒がゴールに向かって走り出す。
『おおっ、どうやら三人が目的を果たしたみたいですっ! そして、その三グループがた
った今、ゴールへ‥‥‥‥』
 そして。
 ぱぁんっっ、
 競技終了の空砲の音が、響いた。
 と、同時に。
 ちゅごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんっっ!!
 後に残された競技者を吹き飛ばすかのような、大爆発がグラウンドの中心に炸裂した。

「ふーむ、三人も生き残ったか‥‥‥」
 そんな惨劇の光景を「暗躍一代」と汚い毛筆で書かれた扇子でパタパタと扇ぎながら、
Runeは見つめていた。
「全員が無事にすまないようなメモばっかりにしたのにねぇ‥‥」
 そう言って、健やかが双眼鏡から目を離す。
「‥‥‥‥‥私の書いたメモも少しいれといたわよ」
 後ろから、次の競技の妨害工作の準備をしながら、太田香奈子が言う。
「なんで、そんな事をしたんです‥‥‥‥?」
「あら、‥‥‥‥‥‥私の書いたメモも見た人によっては十分無事にすまないものよ」
 くすり、と微笑みながら香奈子は健やかの問いに、応える。
「‥‥‥‥でも、ちょっと妬けちゃうかな?」
「‥‥‥? 何のことです?」
「ううん、コッチの話。さっ、次の準備に入りましょう」
 そう言って健やかの背中を軽く叩いて、歩き出す。そして香奈子はグラウンドの向こう
で表彰台に立っている親友に、
「上手くやりなさいよ‥‥‥」
 小さく、呟いた。

 結局、この競技を無事に完遂できたのは、三人だけであった。
 一位の三年生の岩下信は、藍原瑞穂を。
 二位の一年生のやーみぃは、月島瑠華を。
 三位の二年生の西山英志は、柏木楓を。
 それぞれの表情は、同じようにお互いに顔を赤くして俯いている。
 そして、その手に握られた借り物のメモの内容も三人とも同じ内容であった。
 そのメモには簡単な言葉しか書かれていなかった。
 ただ、一言。

『あなたの好きな人』

 と。


             Lメモ体育祭「借り物競走〜それぞれの想い」 <了>


   あとがき〜又の名を戯れ言。

さて。
いやぁ、今回は焦りました。マジで。(苦笑)
この体育祭Lメモの締め切りが二十日と知ったのが十九日の真夜中だったんですから。
んでもって、大急ぎで書いた為になんか変な内容になってしまいましたね。
ラストは私の好きなラブコメモードになっているし。(爆)
本当は「楓解放戦線」の人達を交えたドタバタモノにする心算だったのになぁ‥‥。
まっ、「楓解放戦線」の方達には現在進行中のリベンジLメモに出て頂きましょう(邪笑)

それでは次の競技の担当の方、お願いいたします〜(ぺこり)