楽しい丑の刻参り 投稿者:OLH

=== 「風に舞え」外伝「楽しい丑の刻参り」 ===

  夕焼けに
    自業自得の
      影二つ

 とある理由により(山浦さん作「風に舞え」参照)風紀委員の連中に、よってた
かってぼこぼこにされ地面に突っ伏している漢が二人、いた。「ちゅるぺた番長」
こと平坂蛮次とその舎弟(と書いて『ペット』と読むらしい)戦場鋼である。
 さすがにしばらくの間は二人ともぴくりともしていなかったが、さすがに夕焼け
が二人を茜色に染める頃にはなんとか復帰したようで、戦場が顔をしかめながら上
半身を起こしたところから、この物語は始まる。

「……いやあ……失敗したっスね」
「……失敗したのは、ぬしが邪魔をしたからじゃろうが」
「……でも自分には理緒ちゃんに不埒な事なんてできないっス……」
 涙ながらに訴える軍畑。
 さすがにそれを哀れと感じたか、平坂はその怒りの矛先を他に転じることにした
ようだ。
「まあ、ええ。それは貸しにしといちゃる。……それよりも今はディルクセンじゃ。
まずはきゃつをなんとかするぞ。きゃつになんとか一泡ふかせんとワシの沽券にか
かわるっ!」
「……アニキぃ、もう止めましょうよう」
 先ほどの仕打ちを思い出したか、情けない声をあげる軍畑。
「ええい、バタ子っ!! ぬしはこんな目におうて口惜しゅうないんかっ!?
 ぬしも漢なら自分一人でも復讐しちゃるぐらいの事を言わんかい!」
「無理っスよぉ。オイラ腕っ節はからっきりなんスから」
 しかし軍畑も平坂の言う通り、この仕打ちに怒りを感じている事は確かだった。
 確かに直接対決では分が悪過ぎる。だが、間接的ならば?
 軍畑は頭をフル回転させた。
 そして何を思いついたのか、先程までの情けない表情から一転、にやりとずるが
しこそうな笑みを浮かべる。
「そうだ! あるっスよ、良い手が!」
「ほう? どんな手じゃ?」
「それは後のお楽しみと言う事で……まずは支度してくるっスから、アニキは先に
部屋に帰っててくださいっス」
「よし。ならば期待しちょるぞ」
 むくりと立ちあがると、平坂は鷹揚にうなずいた。

 そして時は一時間後。
 場所は所狭しとセガランクの写真の並べられた、およそ『番長』というイメージ
からかけ離れた寮の一室に移る。

「これっスよ、これ」
「なんじゃ、これは?」
 なにやら中くらいのダンボール箱を抱えて入ってきた軍畑に、平坂はぎろりんと
鋭い視線を投げつける。
「第二購買部で最近売り出してるんスよ、これ」
「だから、なんじゃち言うとる」
「学園呪術界のアイドル、川越たけるさんの『よく効く丑の刻参りセット』っス」
 軍畑は誇らしげに箱を掲げて横にプリントされた文字を平坂に見せた。
 某猫型自動人形が謎のアイテムを出すときの音が無いのが少し残念なところだ。
「ほお。あの、たける姐さんの?」
「そうっス。最近、密かに評判になってるんスよ」
「なるほど……これなら確かにうまいこと復讐できそうじゃな。よし、早速開ける
んじゃ」
「了解っス」
 そして軍畑は嬉々として、中に入っているものを順番に取り出しはじめた。
 それは藁人形、杭から始まって、木槌、蝋燭、白装束から夜道を歩くための懐中
電灯までそろった、まさに至れり尽せりのセットだった。
「見てくださいよ。ほら『初めての丑の刻参り解説ビデオ』までついてるんスよ!」
「よし。ならばビデオの準備をせい!」
「了解っス!」
 腕を横に胸の前に置く某宇宙戦艦風の敬礼をして軍畑はビデオをセットした。

 がちゃ、うぃぃぃん

 ビデオが回り始めると、ノイズに続いて画面に横を向いてカンニングペーパーら
しきものをじっと読んでいる川越たけるの姿が映った。どうやら撮影が始まってい
る事に気づいていない様子で、たけるは時折上を向きながらぶつぶつとセリフをつ
ぶやいている。さすがにこのままではいけないと判断したか、横に控えていた電芹
が手にした電柱でちょいちょいとたけるをつついた。
『もう電芹〜、くすぐったいよ〜』
 電柱でつつかれて『くすぐったい』で済むあたりは、さすがL学園の生徒と言う
ところか。それとも単なる慣れなのか。
『あの、もう始まっていますが?』
『始まってるって、何が?』
 その質問に、電芹はカメラの方をすっと電柱で指した。
『あれ?』
 自分を見つめるレンズを確認して、たけるもようやく撮影が始まっている事に気
がついたようだ。
『……え? 始まってる?』
 呆然とつぶやくたける。そして電芹はこくりとうなずいて見せた。
『……どうしよどうしよ失敗だよNGだよNG集で後でまとめて放送されちゃうよ
でも私はカメラ映り悪いのにだから右から撮ってねそっちの方がかわいく写るから
だけど電芹はどんなポーズでもきれいに映るからいいよね羨ましいよねでもでも恥
ずかしがって電柱の影に隠れるのはもったいないよね……』
 例によって例のごとくパニックに陥るたけるである。
 だが、すっと後ろにまわった電芹がたけるにチキンウイングフェイスロックをか
ける。
 1・2・3
 かんかんかーん
 どこかで鐘が鳴り、画面下には『78回目防衛成功!』のテロップが流れた。

「……のう……これは女子プロのビデオなんか?」
「……いや、違うんじゃないかと思うんスけど……」

 そんな感想を漏らしている間に、ビデオの方はようやく本題に入ったようだ。
『というわけで、みなさん今日は。講師を務めさせていただく川越たけるですっ』
『アシスタントの電芹です』
 さきほどのパニックが嘘のように、しっかりとカメラ目線で解説を始める川越た
ける。やはり並の神経ではない。
『ではまず、衣装の着かたからだよ』
 その言葉にアシスタントの電芹が、するするとたけるの着ているものを脱がせ始
めた。
「「おおっ!?」」
 思わず画面に近づく平坂と軍畑。
「アニキっ!! 川越さんは実は着痩せするタイプらしいっスよ!
 ですからアニキのタイプじゃないはずっス!!」
 意外なところで情報通な軍畑が平坂を牽制する。
「いんや、それを確かめるためにもじっくり確認する必要があるんじゃあああ!!」
 しかし平坂も場所を譲ろうとはしない。
 TVの前でお互いを睨み、目からばちばちと火花を飛ばしあう二人。
『はい、ではこちらを見てね』
 一触即発のその状況を回避させたのは、その声だった。慌てて二人はぐるんと首
を九十度回す。
 画面には、今まさにセーラー服を脱がんとしているたけるの姿があった。
 二人の喉がごくりと鳴る。
 乙女の柔肌を優しく包むその布がついに取り払われ……そしてその下には……
 ……きっちりと着込まれた白装束があった。
「「だあああ」」
 思わず突っ伏す、平坂と軍畑。
『和服の着つけは時間かかるから省略するので、できあがったものを参考にしてね。
でも、普通に着れば良いだけだから難しくないよっ』
 言いつつ、くるりんと一回転するたける。着物のすそがわずかに跳ねる様子が結
構、愛らしい。
 だが、そのシーンをもったいない事に二人は見逃してしまったようだ。真に不幸
である。


 その後。何とか立ち直った二人は熱心にビデオを見ていた。

『……それから、この時の手首の角度に注意してね。木槌と腕の角度は60度』
「ふむ……バタ子、こんなもんかの?」
「ええ、それぐらいっス」

『杭を打ちつけるタイミングは二秒に一回
 (こーん……こーん)
 これぐらいでねっ』
「ほうほう……
 (こーん……こーん)
 どうじゃ、バタ子?」
「いいんじゃないスか?」

 時々ビデオを止めつつ練習する姿は、かなり真剣な様子だ。
 そしてビデオもいよいよ終盤に差し掛かった。

『……と、後始末はこんな感じでね。証拠を残すと後で大変だよ』
「ほう……なかなか、ためになるのお」
「さすが、川越さんっスね」
 たけるの細やかな注意に感心する二人。
『大体こんな感じかな? あ、そうそう。それからもう一つ大事な準備があるの忘
れてたので、最後にそれの説明をするね』
「なんじゃろうな?」
「さあ?」
『今回のセットは汎用にするため、人形には最終処理をしていません。つまり人形
に呪いの対象となる人の特徴を埋めこんでいないんです。ですから、これはみなさ
んでやってくださいね』
「おお、なるほどのお」
「確かにそうじゃなきゃ売り物にならないっスもんね」
 たけるの言葉を引き継いで電芹も注意事項を述べる。
『この処理を忘れてしまいますと、呪いが自分に跳ね返る事がありますのでご注意
下さい』
 さらっと怖い事を言うが、どうもこれはPL法対策らしかった。
『やり方は初心者の貴方でもとっても簡単! 対象になる人の髪の毛を手に入れて、
こんな風に藁人形の背中の部分から埋めこんでやるだけだよ。(ごそごそ)
 ね? 簡単でしょ?
 それじゃみなさんも頑張って丑の刻参りを楽しんでねっ!』

 がちゃ

 そしてエンディングテロップを表示して、ビデオは再生を止めた。

「…………」
「…………」
「どうしろっちゅうんじゃああああっ!?」
「ぎにゃああああああああああ、チョーク、チョークっ!?」

                           ――どっとはらい――

=== 了 ===

とゆーわけで、山浦さんの「風に舞え」の続きです。
なので各種設定等はこれに準じています。
……各種責任はできたら山浦さんの方にどーぞ。
(そそくさと退場(笑))