『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』 外伝 〜大好きな人達のために〜(琴音ちゃんエントリー秘話) 投稿者:OLH

=== 『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』 外伝
    〜大好きな人達のために〜(琴音ちゃんエントリー秘話) ===

「琴音ちゃんは俺のだっ!」
 叫んでOLHが腕を横に振るう。と、それに呼応して漆黒の瘴気風が現れ
二つの刃となり、空を切り裂き、突き進む。

 ばしっ。
 乾いた音をたて、しかし、その刃のうちの一つは地面に突き刺さり、消滅
する。
「そんなものが私に通じると思っているのですか?」
 瘴気の扱いに長けた神凪は、その刃をただ無造作に払いのけてみせたのだ。
「手加減するのはそちらの勝手ですが、後でそれを理由にはしないで下さい
ね」
 そう言って神凪は反撃のためコーパルを取り出した。

「『鎌鼬』」
 きんっ!
 金属を打ち合わせたような澄んだ音を残し、そして、もう一つの刃は粉々
に砕け散る。
 東西の前には風を纏った小人が、まるで東西を守るかのように浮かんでい
た。それが見えるものには、その小人が東西の使役する風の精霊であり、こ
の精霊を使って東西も風の刃を作りだし、OLHのそれと相殺したのだとい
う事が分かっただろう。
「あなたに姫川さんを縛る権利はありません」
 そして東西はゆったりと、しかし油断無くOLHに対峙した。

 一度に二人を相手にするのはやはり分が悪いと感じたか、OLHは一先ず
東西を威嚇する。
「テニスでペアを組んだからって、いい気になるなっ!」
「確かに、その点で僕が一歩リードですよね」
 そう言って、東西はにこやかに笑ってみせた。

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 試立L学園の昼休み。それは喧騒に満ちている。
 普通の学園であっても昼休みは騒がしいものとなるのだろうが、L学園の
それは「常軌を逸している」と評されても、何らおかしくはない。
 これはL学園には特殊能力、特に戦闘に有効な能力を有する生徒の多い事
が、その原因の一端である事は疑いない。一般社会では忌避されがちな能力
の使用も、逆に「『能力(ちから)』があるならば使うべし」という精神風
土もあってまったく躊躇される事はなく、むしろ己の能力に磨きをかけるべ
く生徒達は様々に実践を行う。これでは騒動の起きない方がおかしいとも言
えよう。
 しかしそれよりも、望んで騒ぎを大きくしようとする風潮がこの学園にあ
る事の方が、実は本当の理由なのかもしれない。

 そしてその日も、学園内のいたる所で騒動は起きていた。冒頭のOLH対
東西対神凪の対決も、その一つである。
 例えばDセリオ対ジン・ジャザムの決闘等は有名であり、学園中でこれを
知らないものはいないだろう。だがこの姫川琴音の周囲で起こる、いわゆる
「琴音争奪戦」も頻度こそ少ないものの、既にL学園の生徒達に「日常茶飯
事」として認識されるまでに至っている。
 この時も『お昼を一緒に食べよう』と琴音に誘いをかけるため、OLH、
東西、そして神凪の三人が同時に琴音の下を訪れ、鉢合わせてしまったとい
う、単にそれだけの理由で冒頭の風景となったのである。


 そして、その頃。
 その争いの根本原因である姫川琴音は、食堂の校庭の見える窓際の席で、
自らが引き起こした争いを見守りながら友人の松原葵と昼食を取っていた。

 ちなみに件の三人が鉢合わせたのは琴音の教室の前なのだが、さすがに校
舎内では戦闘行為を行わない、というぐらいの理性は残っていたらしく、
『今日こそ決着をつけてあげますよ』
『ふん、それは俺の台詞だぜ。表に出ようや』
『いいでしょう』
 といったやりとりがあり、校庭での決闘となった模様である。
 さらについでに言えば、琴音は以前にも同様のシチュエーションで昼食を
取りそこなった事が何度かあり、その事を知る葵が半ば強引に琴音を食堂ま
で連れてきたのである。決して勝手に戦いを始めた三人を見捨てて自分一人
だけ食事に来たのでは無い事を、読者諸氏には十分ご理解願いたい。

「姫川さん」
 それまで話す事より食べる事に集中していた葵が、唐突に向かいの席に座
る琴音に声をかけた。
「で、誰なの?」
 そして、むぐむぐごっくんと本日のA定食のメインディッシュ、エビフラ
イを飲み込んでから言葉を続ける。

 余談ではあるが、葵は何か深い理由があるらしくカツを苦手にしているの
だが、不思議な事に何故かフライならば食す事ができる。これはL学園裏七
不思議の一つに数えられている。ただし、葵自身にはその事は知らされてい
ない。
 ちなみに葵がどれほどカツを苦手にしているかといえば、これはあまりに
もエピソードが多すぎるため、ここで全てを語る事はできない。ただその中
でも、大量のカツを前に暴走していた葵を『松原っ! よく見ろっ! それ
は豚肉のフライだっ!』という一言で山浦がくいとめたという逸話が有名な
ところとなっている。もっとも、同じ手段で葵の暴走を止めた例が他にない
ため、真偽のほどは定かではない。
 ともあれ、葵と一緒に食事をする限りカツを食べる事はできない、という
事だけは間違いなく、また、葵の知人にとってはその事さえ忘れなければ、
別に問題は発生しない。
 このため、葵とよく一緒に昼食を取っている琴音は、ここしばらくカツを
食べた事が無い。が、もともと小食の琴音には、別にそれは苦にはなってい
ないようだ。その日もうどんを一杯だけという(もちろん、宮内レミィ風ケ
チャップマスタードうどんなどではなく、ごく普通の素うどん)、極あっさ
りとしたもので済ませていた。
 また葵がよく琴音を食事に誘うのは、こういったところで特に気を使う必
要が無いというのも理由の一つらしい。
 余談が長くなってしまった。話を元に戻そう。

「え?」
 既に自分の食事を終え窓の外を心配そうに見ていた琴音は、葵の質問の意
味を捕らえきれず頭の上に疑問符を浮かべた。
 葵も自分の言葉が足りなかった事に気づき、聞きたかった内容を簡潔に補
足する。
「姫川さんの意中の人」
 そして窓の外の三人をちょいちょいと指してみせた。
 葵の質問を理解し、琴音はぱっと顔を赤らめ、恥ずかしそうにうつむく。
「そんな……みなさん、とてもいい人達ばかりで……」
「でも、いるんでしょ? あの人達の中に」
「ええと、その……秘密です」
「うーん、姫川さんのけちんぼ」
 自分の知りたい事を教えてくれない琴音に、葵が口を尖らせる。
 しかし、すぐに真剣な表情に戻り、琴音に忠告する。
「まあ、私に言うのはそれは恥ずかしいのかもしれないけど、でも、もっと
ちゃんと自分の気持ちをはっきり見せておいた方がよくない?」
「……そうですか?」
「うん。今のままじゃ、あの人達にとって蛇の生殺しみたいなものだろうし」
「そうなん……ですか?」
 不安げな面持ちになって琴音が葵に尋ねる。
「あんまり長い間、変に期待持たされておいて、それで振られちゃったって
分かったら、とっても辛いんじゃないかなぁ」
「…………」
 葵の率直な意見に琴音は返事をしなかった。そして琴音は視線を校庭の方
へと向ける。
 葵もそれに釣られるように窓の外へと視線を向けた。
 そこには、じゃれあうようにいまだ戦いを続けている三人がいた。

 そんな三人を見て、葵は先程までとは異なる感想を口にする。
「でも、あの人達だったら、案外なんともないのかな?」
「…………」
「むしろ、姫川さんが誰かに決めちゃったとしたら、その人を倒して姫川さ
んを奪おうとしたりなんかして」
「…………」
 軽い冗談のつもりで葵はそう言った。
 だが視線を戻した琴音の表情に、それを冗談と受け取った様子は無かった。
「……そういう事って、ありそうかな?」
 別に何をはばかるような質問でもないのではあるが、何となく小声になっ
て葵が琴音に尋ねてみる。
「……あるかもしれませんね」
 琴音も真面目な表情のまま答えた。
「あ、あはは、そっかあ。あるかもしれないかぁ」
 葵は乾いた笑い声をあげる。
 そして、二人の間に少し沈黙が降りた。

「はぁ……みなさん、もっと仲良くしてくれるといいんですけど……」
 悲しそうに、窓の外の三人を見守りつつ琴音がつぶやいた。
「でも、ほら。『喧嘩するほど仲が良い』って言うじゃない」
 琴音を安心させるためか、やや過剰なほどお気楽に葵が言う。
「それはそうかもしれませんけど……怪我とかをしてしまわないかと心配で」
「それなら大丈夫じゃない? あの人達だってSS使いなんだし、少々の怪
我ぐらい別になんともないと思う」
「……でも……やっぱり心配です」
 葵がふうっとため息をつく。
「でも、あの三人が仲良くするなんて、よっぽどの事がないと無理っぽい気
もするんだけど」
「ええ……松原さんも、やっぱりそう思いますか?」
 今度は二人そろって、溜め息をついた。

「あ、じゃあ、こういうのはどう?」
 ぱっと明るい表情に戻って、葵が言う。
「え?」
「『姫川さんを守る』っていう事ならいくらあの人達でも協力しあうだろう
し、そうしたらそこから友情が生まれるかもしれないじゃない」
「えっと……何をするんですか?」
「あのね(ごにょごにょ)」
 にやっといたずらそうに微笑って葵が琴音に耳打ちした。

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「と、いうわけで、姫川さんが『どよめけ! ミス・Leaf学園コンテス
ト!』に参加する事になりました」
 もうそろそろ昼休みも終わろうかという頃、琴音と一緒に現れた葵が、ぼ
ろぼろになった三人にそう宣言した。それまで地面に横になりへばっていた
三人ではあるが、それを聞いた途端がばっと起き上がり、まるで襲いかから
んばかりの勢いで葵に詰め寄る。
「おいっ! それって、あのお互いに裸にひん剥くってやつの事かっ!」
「違いますよ。ちゃんと下にはビキニつけてますし、別に裸にするわけじゃ
ありませんよ」
 傍目にはそれこそOLHが葵をひん剥こうとするかのように肩口を掴んで
いるのだが、葵はまるで気にせず、涼しげに答える。
「なんでそんな事を……姫川さん、止めましょう」
 東西が琴音に哀願するように言った。
「でも……もうエントリーは済ませてしまいましたし……」
 申し訳なさそうな琴音のその言葉に、男共三人は短い悲鳴を漏らす。
「どうしてなんですか? なぜ、琴音さんがわざわざあんなものに参加しな
ければならないんです?」
 神凪がそれでも納得いかずに琴音に尋ねる。
 しかし、その質問には葵が半ば威張るようにして答えた。
「それはもちろん、姫川さんがあなた達が喧嘩するのを止めさせたいからに
決まってるじゃないですか」
 そして一気に怒気が削がれた三人に、葵は諭すように言葉を続ける。
「この機会に一緒に姫川さんを守ることで、もっとお互いの事を知って仲良
くなってほしいんです。もう姫川さんが、自分のせいで誰かが怪我とかする
心配をしないで済むように」
 こう言われては、さすがに三人に返す言葉は無かった。
「あの……わたしを守って……くれませんか?」
 そして、おずおずと琴音が三人にお願いする。
 もちろん、琴音にそう言われて嫌と言う者は、この三人の中にはなかった。


 翌日。
 昼食を兼ねてコンテストへの対策会議が開かれた。

「……それでは、これより『第一回琴音ちゃんを守ろう対策会議』を開催さ
せていただきます。司会は不肖この私、OLHが勤めさせていただきます」
「くだらない挨拶はいりませんから、とっとと始めましょう」
「大体、なんです、その『琴音ちゃんを守ろう対策会議』って言うのは。セ
ンスのかけらもありませんね」
 軽い挑発を含んだ東西と神凪の言葉にも、しかしOLHは険しい視線を向
けるだけで済ませた。これはオブザーバーとして琴音と葵が隣に座っている
のが、その理由だろう。
 もともと琴音がコンテストにエントリーする事になったのは、自分達の不
和が原因なのである。ここで例え口喧嘩程度でも諍いを起こすのは、琴音の
気持ちを考えれば絶対に避けねばならなぬところなのだ。
 もちろん、東西にしても神凪にしてもその事は十分、承知している。
 だからこそ、反撃不可能だとわかっているからこその嫌みでもあるし、ま
た、それ以上にはOLHを刺激するような態度を取る事も二人はしなかった。
 のではあるが……

「よし、ではまず神凪君は前線で盾になるという事で」
「まあ、琴音さんのためならそれに異存はありませんけどね。で、OLH先
輩はどうするんです?」
「もちろん、俺は最後の砦として琴音ちゃんの側を離れずガードする」
「却下。それは僕の方が適任でしょう。テニスの時の経験も活かせますし」
「いや、でしたらそれは私が引き受けましょう。おそらく琴音さんの超能力
をサポートするのは私が一番適任でしょうし」
「何を根拠に? 変に闇だの瘴気だのを使うOLHさんや神凪君より、僕が
姫川さんのそばにいる方が良いと思いませんか?」
「だああっ、琴音ちゃんは俺のだっ!」

 ひとたび議論が始まってしまえば、その内容は口喧嘩とさほど変わりなく
なる。

「……大丈夫、なんでしょうか?」
「…………」
 その白熱する会議(?)を横で傍聴しながら、琴音は不安そうに、葵はば
つが悪そうに顔を見あわせた。
 前日はその場の勢いで琴音もコンテストへの参加を決めてしまっていたが、
一晩たって冷静に考えてみれば、いくらビキニとはいえ他の人間に服を剥か
れ肌を無理矢理さらされるというのには、やはり嫌悪感がある。
 むろん、琴音自身にも今回の行事にそれなりに対応する『能力』はある。
が、それでも下手をすれば学園中の人間から標的にされてしまう可能性があ
るし、なにより他の参加者の能力を考えれば、一人でできる事には限界があ
る。
 また、琴音とは違った事で葵も後悔していた。
 自分のほんの思いつき、それもどちらかと言えば軽いいたずらみたいな行
動が思いがけず大事になってしまっているからだ。
 少し考えれば、この三人がそう簡単に協力しあえるわけがない、というの
は誰でも分かるところだろう。もちろん、まったく協力関係が築けないわけ
でもないのだろうが、それにはある程度の準備や状況が必要だと思われる。
 葵は自分の軽率な行いに、少なからず罪悪感を感じていた。

 そして葵は決心した。
「姫川さん! 私もあなたを守ってあげる!」

=== 了 ===

とゆーわけで、何故に琴音ちゃんがコンテストに参加したかという理由でご
ざいます。
……まー、それだけにとどまらず、なんかいろいろとお話を作っちゃってま
すが……(笑)
で、何か勘違いとかありましたら、ご指摘のほどよろしくです。