テニス大会協賛L OLH家大反省会の夜 (1) 投稿者:OLH

「というわけで、これより第一回テニス大会反省会を始めます」
 こほんと小さく咳払いして、ティーナが言った。


=== テニス大会協賛L OLH家大反省会の夜 ===


 そこはいつものOLH家の居間であるにもかかわらず、それでもそこは、
いつもとは違う場所だった。

 若干の重苦しさを伴った、緊張感。
 静けさに含まれる、無音のざわめき。
 張り詰めた空気は、心なしか寒気を感じさせる。
 その雰囲気に気圧されたOLHは、躊躇いがちに右手を上げる。
「……あのー……その前に、ちょっと聞いていいかな?」
「なぁに、お兄ちゃん?」
 可愛く首をかしげて、ティーナが言った。
「……なんで……そこに…………勇希がいるのかな?」
 そしてOLHは、右斜め前に視線を走らせる。

 その指す先、OLHから見て右手の椅子に斎藤勇希教諭がちょこんと座っ
ていた。
 ちなみに正面の椅子にはティーナ、左手の椅子には笛音が座っている。

「だって、お兄ちゃんと試合でペア組んでたんだから、当然でしょ?」
「んじゃ、なんでお前達のペアの相手はいないんだ?」
 ティーナの答えに憮然としてOLHは言うが。
「お兄ちゃん、てぃーくんがここに居ていいの?」
「……すいません、前言撤回します」
 ティーナの逆質問にがっくりとうなだれる。

「もういい? それじゃ……」
「あ、ごめん。あと、もう一つ」
 OLHは、慌てて顔を上げると、もう一度手を上げた。
「ん? 何?」
「……なぜに皆さんは椅子にお座りになってるのに、お兄ちゃんだけ正座な
のかな?」
 そう。笛音、ティーナ、勇希の3人は椅子に座っていたが、OLHだけは
床に正座させられていた。
「何言ってるのよ。そんなの、この会が実質OLH君の弾劾裁判だからに決
まってるじゃない」
 その質問には、語尾にハートマークを付けて勇希が答えた。
「だったら、何故お前もこっちで正座してないっ!?」
 半ば叫びに近い声をあげて、勇希をジト目で睨むOLH。
「だって、勇希先生はお兄ちゃんに付き合わされただけだし」
「そうそう。むしろ、ひがいしゃだし」
 だが、返事は他の二人から来た。
「だそうよ」
 そして勇希もにっこり笑い、さらに人差し指を振りながら言う。
「ほら。それに、誰もOLH君を弁護してあげない、って訳にもいかないで
しょ? だから、私がしてあげようって訳よ」
「勇希がぁ〜?」
 あからさまに嫌そうな顔をするOLHを、勇希はつんと横を向いておすま
し顔で無視した。

 納得がいかないといった表情のOLHを尻目に、いつのまに用意したのか
木槌でテーブルを叩いてティーナが宣言する。
「はいはい。そろそろ裁判始めるよ?」
 反省会じゃなかったんかい、というツッコミを、しかしOLHにする事は
できなかった。


「それじゃ、まず検察官から」
「はーい」
 ティーナの指示に、笛音は右手を高々と上げ元気な返事をしてから立ち上
り、告訴文を読み上げ始める。
「えっと、お兄ちゃんはわたしたちがいやがるのに、ほかのひととペアをく
んでテニスたいかいにでました。で、そのじょうけんに、ぜったいぜったい
ぜーったい、ゆうしょうしておんせんりょこうをゲットするってやくそくを
したのに、まけちゃったので、やくそくやぶりのつみです。だから、ごはん
ぬきいっしゅうかんのけいを、きゅうけいします……で、いい?」
「うん、おっけー。それじゃ今度は被告は、今の内容を認めますか?」
「……えー……いや、そりゃ負けたのは悪いと思うけど、でも……」
 ぼそぼそと言い訳を始めるOLH。しかし。
「いぎありっ!」
「検察官の異議を認めます」
 笛音の異議に、あっさりそれは中断させられる。
「……おおいっ!? いくらなんでも……」
「はいはい、被告は許可無くしゃべらないように。それでは判決を……」
 こんこんと木槌を叩いて、今度はティーナがOLHの発言を遮る。
「おーいっ! 弁護はっ!? 弁護も無しっ!?」
 まあ、意図的なのだろうが、間をすっ飛ばして判決に入ろうとするティー
ナにOLHはうるうると哀願の瞳を向ける。
「もう、しょうがないなぁ……んじゃ、勇希先生。何か弁護は?」
 さすがにそれは可哀想と思ったか、ティーナは勇希に発言を求めた。が。
「ありませーん」
 無情にも勇希は、にっこりと笑いながらそう言った。

「……おいっ!」
「だって、OLH君、私に弁護されるの嫌なんでしょう?」
 若干間をおいて発せられたOLHの叫びも、しれっとした態度で勇希は受
け流す。
「ぐぐぐぐぐ」
 そして、唸り声をあげながらも、OLHはそれ以上、何も言う事ができな
かった。
「素直に『弁護してください』って言えば、少しは弁護してあげるわよ」
 悔しげに顔を歪ませるOLHを横目で眺めながら意地悪げに言う勇希は、
結構楽しそうだったりする。
「うぐぐぐぐ」
 呻きながらちょっと泣いてたりもするが、それでも勇希に弁護を頼まない
あたりは、OLHの意地なのかもしれない。
 まあ、他人から見れば下らない意地というか、むしろ罵声を浴びせられる
代物でしかないだろうが。

「……ふう。もう、ほんと意固地なんだから、しょうがないわねぇ……はい、
裁判長」
 それでも、そんなOLHの態度も慣れたものなのだろう。
 見かねた勇希が手を上げ、発言権を求める。
「はい、弁護人どうぞ」
「えー、本人も今回の件は素直に自分が悪いと認めてますし、このように、
泣いて反省もしています。だから、情状酌量の上、ご飯抜き3日ぐらいにし
てあげてもいいんじゃないかと思います」
 OLHは、泣いているのは誰のせいじゃぃ、と思ったが、あえて訂正はし
なかった。

「うーん……どうしようか、笛音ちゃん」
「んー……」
 勇希の弁護に、部屋の隅に行ってごしょごしょと内緒話を始める二人。
 その間も二人の同情を買おうかと、OLHは泣き真似を続けてたりする。

 2分程、話し合っていた二人だが、結論が出たのか改めて椅子に座りなお
し、ティーナがこほんと咳払いをした。
「それでは判決を言い渡します。被告のした事は許されざる犯罪ですが、被
告も反省しており、それにやっぱりちょっと可哀想なので、ご飯抜き3日に
しようかと思ったけど、泣き真似してたので、ご飯抜き5日間の刑に処しま
す」
「だぁっ? 裏目!?」
 失敗したと頭を抱えるOLHに、あきれたような勇希のため息が追い打ち
をかける。
「……馬鹿ねぇ」
「……うぅ……うっうっうっ……どうせ、馬鹿だよ……うっうっうっ……」
 今度こそ本当に泣いてみても、所詮、後の祭であった。


 一方、裁く方の立場の者達は、一段楽して重荷が取れた様子で、晴れやか
な表情をしている。
「まあ、裁判も無事に終わったし、それじゃ第二部の残念パーティを始めま
しょうか」
 そしてこちらもノビをしながら、勇希が笛音とティーナに声をかける。
「うんっ!」
「さんせーいっ!」
 嬉しそうにうなずく二人。
 勇希もうなずくと軽い足取りで部屋の入り口に向かい、廊下に顔を出す。
「はーい、みんなもう入って来てもいいわよ」
「はーい」
 そして、元気なお子様たちの声が響いた。