Lメモ外伝「お泊まり会の夜−後日談」 投稿者:OLH
 それは一枚の写真から始まりました。
Lメモ外伝「お泊まり会の夜−後日談」


 その日OLHさんがお家に帰ると、なにやら笛音ちゃんとティーナちゃん宛
ての郵便が届いていました。封筒の裏側には『河島はるか』とあります。
「笛音〜、ティーナ〜。はるか先生から何か届いてるぞ〜」
 OLHさんがお家の中に入りながらそう言うと、笛音ちゃんとティーナちゃ
んが、とててててっと駆け寄って来てその封筒を受け取ります。
「なんだろうね?」
 笛音ちゃんがびりびりとその封筒を空けると、中からは1枚の写真が出てき
ました。
「あ、この前のお泊り会の写真だっ」
 ティーナちゃんがそう言うと
「どれどれ。お兄ちゃんにも見せて」
 OLHさんが近寄ってきて、その写真をのぞきこみました。

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 約5分ぐらいでしょうか、OLHさんが硬直から解けると、既に笛音ちゃん
とティーナちゃんは家庭用ゲーム機で、最近出たダンスゲームをしていました。
「えと……ちょっと二人ともいいかな?」
「ちょっとまってっ!」

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「ふう。クリアー! はい、いいよ。なに、お兄ちゃん?」
「えと、この写真だけど、これは?」
「この前のお泊り会の写真だよ? さっき言ったでしょ?」
 ティーナちゃんが『なんでそんなこと聞くんだろう』といった感じで答えま
す。
「えっと、だから、この写真……」
「あ、はるかせんせいのおうちだよ、これ。わたしもおふろおおきいから、さ
いしょはびっくりしちゃった」
 笛音ちゃんもにこやかに答えます。
「いや、だからそうじゃなくて、これてぃーくんだよね?」
「うん、そだよ? みんなでおふろにはいったんだよ」
「面白かったよねぇ。最初、はるか先生、間違えて水かけちゃうし」
「えへ、わたし、すこしおよいじゃった」

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 次にOLHさんが硬直から解けたのは夜中でした。

 〜 〜 〜

「おはよー、てぃーくん」
「おっはよー」
「あ、笛音ちゃん、ティーナちゃん、おはよー」

 翌朝、元気に登校する笛音ちゃんとティーナちゃんは、てぃーくんと校門の
ところで会いました。

「てぃーくんの所にもこの前の写真、届いた?」
「うん、届いたよ」
「てぃーくん、またぼーっとしてるんだもん、ちょっとわらっちゃった」
「え? ぼーっとしてたかなぁ?」
「してたしてた」

 ところが、楽しそうにおしゃべりする3人の前に、突然黒い影が沸きます。
「く……くく……くくく……てぃーくん、殴らせろぉぉぉぉぉ」
「あ、お兄ちゃん」
「と、笛音、ティーナ。その危険人物から離れるんだっ」
「きけんじんぶつ?」
 笛音ちゃんが首を傾げます。
「いいかっ! 古来より『男女七歳ニシテ、風呂ヲ同ジュウセズ』と言ってだ
な、小学生になったら男の子は女の子と一緒に風呂に入ってはいかんのだっ!
よって、これよりてぃーくんを成敗するっ!」
 大人気無いOLHさんの言葉に笛音ちゃんが突っ込みを入れます。
「でも、わたし6さいだよ?」
「だああああ、数えで7歳とゆーことにするっ」
「そしたら……わたし、お兄ちゃんといっしょに、おふろはいっちゃいけない
の?」
「それは『補足ノ1。夫婦ニオイテハ、コノ規定ヲ適用スルコトアタワズ』で
OKっ!」
「なんだ。ボク心配しちゃったよ」
 ティーナちゃんがそっと安堵の溜息を漏らします。
「とゆーわけでっ! てぃーくん、そこになおれっ!!」
 びしっ、と、てぃーくんに指をつきつけるOLHさんを見て、3人はこそこ
そと内緒話です。
「……お兄ちゃん、めがいっちゃってるね」
「……はるか先生のところにお泊りできなかったのが、よっぽど口惜しかった
んだね」
「……とりあえず、てぃーくん逃げたほうがいいかも。ボクがお兄ちゃんを押
さえてるから、笛音ちゃん、てぃーくん連れて逃げて」
 ティーナちゃんがそう提案します。
「うん、そうする。ほら、てぃーくん、行こっ」
 そして、笛音ちゃんは、てぃーくんの手を取って駆け出しました。
 ちなみに、こういうのを『火に油を注ぐ』といいます。
「うらあああっ!! てぃーくんっ!! 笛音をさらうなっ!!」
 ほらね。
 とにかく。こうして、ちょっとだけ奇妙な鬼ごっこが始まりました。

 〜 〜 〜

 さすがに運動不足とは言え、OLHさんも高校生です。すぐにてぃーくんと
笛音ちゃんは追いつかれ、壁際に追い詰められてしまいました。ですが……
「こっちこっち!」
 壁の下のほうに小さい穴を見つけ、二人はそこをくぐって表に飛び出します。
「ちっ」

どででででででででででででででで

 OLHさんは舌打ちをすると、慌てて校門の方に駆け戻り二人を追跡します。

 その後もOLHさんの通れないような細い路地や抜け穴を駆使して、二人は
息を切らせて逃げ回ります。
「笛音、待ってろおおっ! 今、お兄ちゃんが助けてやるからなああっ!」
 それでもOLHさんは諦めません。後ろから雄たけびが聞こえてきます。
 てぃーくんと笛音ちゃんは、しっかり手をつないで走り回ります。

 やがて。OLHさんも疲れたのか、二人とOLHさんの間の少し距離が開い
てきました。それで気が緩んだのでしょうか。笛音ちゃんが石につまずいて転
んでしまいました。
「きゃっ!」
「あ! 笛音ちゃん、大丈夫!?」
 見ると、笛音ちゃんの膝からは少し血がにじんでいます。
「笛音〜〜〜っ!!」
 それを見たOLHさんが慌ててダッシュをかけてきます。
「てぃーくん。わたしはいいから、はやくにげてっ」
「でも、笛音ちゃんを置いてけないよっ」
 てぃーくんは笛音ちゃんに肩を貸すとまた、走り始めます。笛音ちゃんも足
が痛いのを我慢して一緒に走ります。
 そして、また小さな抜け穴を見つけると、二人は慌ててその中に飛び込みま
した。

 〜 〜 〜

 それは薄暗い倉庫の中でした。
 どうやらOLHさんは二人がその穴に入り込んだのに気づかず、走り去って
しまったようです。二人はほっと溜息をつきました。
「あ、いたっ」
 安心したせいか、笛音ちゃんにさっきの怪我の痛みが襲ってきました。
「笛音ちゃん、大丈夫?」
 てぃーくんが心配そうに笛音ちゃんにたずねます。
「うん。ちょっといたいけど。へいきだよ」
 笛音ちゃんも心配させないように、にっこり笑って答えます。
「ちょっと我慢してね」
 てぃーくんは笛音ちゃんの膝を軽くはたくと、すりむいた部分をなめ始めま
した。
「あ、てぃーくん」
「こうしておかないと、ばい菌が入っちゃうかもしれないから」

 その後。
 二人は並んで座って、じっとしてました。
 てぃーくんは、またぼーっとしてるようです。
 突然、笛音ちゃんが口を開きます。
「あ、あの、てぃーくん……」
「……え? あ? 何、笛音ちゃん?」
 ちょっと遅れて、てぃーくんが答えます。
「……さっきは……ありがと」
 それだけで、また辺りは静かになりました。

 寄せ合った肩と肩があたたかく感じられます。
 お互いの息遣いが聞こえてきます。
 なんとなく、心臓がどきどきしてるような感じです。
 ふと気がつくと、お互いの顔がそばにあります。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

「ああっ! こんなとこにいたっ!」
「うひゃうっ!?」
 突然光が差して、大きな声がして。
 笛音ちゃんは驚いて、てぃーくんに抱き着いてしまいました。
 ゆっくりと振り返ると、そこにはティーナちゃんと、ぐるぐる巻きにされた
OLHさんと、斎藤勇希先生がそこにいました。
「……(もがががががががががががががががが)」
 二人の様子を見てOLHさんは何かうめいています。
「笛音ちゃんもてぃーくんも、もう大丈夫よ。私がしっかりOLH君に釘さし
ておいたから」
 勇希先生が二人に微笑んで言います。
「そなの? もう、お兄ちゃん、てぃーくんのこと、いじめない?」
「ええ、大丈夫。それよりいいかげんこれがうるさいし、てぃーくんから離れ
てあげたら? てぃーくんも固まっちゃってるわよ」
「ほえ?」
 笛音ちゃんは慌てて、てぃーくんから身体を離します。それでもてぃーくん
はぼーっとしたままです。笛音ちゃんは、ちょっとだけ赤くなって、もじもじ
してます。
「ティーナちゃん。そろそろ、それ、ほどいていいわよ」
 勇希先生にそう言われてティーナちゃんはOLHさんの猿轡をはずします。
「せめて一回、てぃーくんを殴らせろおおおおおぉぉぉぉ!!」
 OLHさんは血の涙を流しながら叫びましたが、何か勇希先生に耳打ちされ
て、がっくりとうなだれて静かになりました。

「てぃーくん、てぃーくん」
 笛音ちゃんがゆさゆさとてぃーくんの身体を揺らします。
「……あれ?」
「もう、あんぜんだって」
「……ふーん……」
 どうやら、てぃーくんはまだ少しぼーっとしてるようです。
「それでね、さっきのおれい」
 そういうと、笛音ちゃんはてぃーくんのほっぺに、ちゅっとしました。

「うがああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
 大音量の雄たけびにも、てぃーくんはまったく動じませんでした。

 〜 〜 〜

 結局、OLHさんはそれから3日間、ぐるぐる巻きで反省房に閉じ込められ
たそうです。

=== 了 ===

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<ふぉんと おおきさ=ふじさんぐらい いろ=血のいろ>
やっぱり、てぃーくん、殴るっ!!!
</ふぉんと>

(笑)