テニス大会エントリーLメモ OLH Version 投稿者:OLH
 夕食の後片付けも終わり、後はTVでも見てゆっくりしようかというところ
で、OLHがその話を切り出した。
「笛音、ティーナ。ちょっといいかな?」
『だめっ!』
「…………」
 そして、沈黙が訪れた。

=== テニス大会エントリーLメモ OLH Version ===

「……えーっとさ、いきなりだめって……」
「どうせ、これなんでしょ?」
 ようやく口を開いたOLHに笛音が一枚の紙をぴらぴらとつきつける。
「男女混合テニス大会エントリー用紙……って、もしかして?」
「お兄ちゃんの考えてることなんか、ボク達にはお見通しだもんね」
「どうせ、ことねおねえちゃんと、でたいっていうんでしょ?」
「……わかる?」
『とうぜん!』
 またもやハモって答える二人。
「……だめなの?」
 うんうんとうなずく二人。
「……どうしても?」
 さらにぶんぶんとうなずく二人。
 しばしのにらみ合い。当然これに負ける者は決まっている……のだが、今回
だけは何故かOLHもしぶとかった。
「……絶対に?」
 うんうんうん。
「……なんとしても?」
 うんうんうんうん。
「……泣いて頼んでも?」
 うんうんうんうんうん。
「……逆立ちしても?」
 うんうんうんうんうんうん。
「……鼻からうどん食べるって言っても?」
 うんうんうんうんうんうんうん。
「……どんな理由があっても?」
 さすがにいつもと様子が違うことに気がついた笛音とティーナは、お互いに
顔を見合わせた。
「……なにか、りゆうあるの?」
 ようやく出た笛音の譲歩の言葉にOLHは溜息をつく。
「うん。いやさ、お前達に優勝賞品の温泉旅行をプレゼントしようかなって」
「でも、あれはペアでのご招待でしょ? それにどうせならボクはお兄ちゃん
と行きたいもん」
「わたしも、お兄ちゃんといきたい! だからわたしとたいかいにでようよ」
「違うよ、ボクと出て、それで二人でラブラブ旅行にするんだもん!!」
「ああ、待てってば」
 いつもの言い争いに入りそうなところでOLHが二人を止めた。
「旅行に行くのは3人一緒で行こう。一応、お兄ちゃんの分は自腹切るつもり
だし、うまく行けばお前達二人の分は子供料金で3人分て事になるかもしれな
いだろ」
「だったら大会はボクと出て、旅行は3人で行けば良いじゃない」
「ちがうもん。わたしとだもん!」
「いや、だからさ、この大会にお前達は……」
『でられるよ』
「……ほへ?」
 またもハモって答える二人に、思わずOLHは間抜けな声を出した。
「だってこのもうしこみようし、しょとうぶでもくばってるんだよ」
「別に年齢制限があるなんて書いてないしね」
 内心、図りやがったなと思うOLHだったが、それでもそんなところをおく
びにも見せず、すぐに別の説得手段に出た。
「でもさ、出るのは高校生が多くなるだろうしさ、それでお前達じゃ……」
『やくにたたないの?』
 うるうるとした瞳で二人に迫られてOLHは一瞬返答に窮したが、それでも
なんとか言葉をつむぐ。
「いや、普通の高校生相手ならお前達でも十分役に立つさ。でも出てくるのが
予想される人を考えてみろよ」
『…………』
「……だめ?」
「……どしよか?」
「……しかたないから、今回だけ許してあげる?」
 日ごろは二人の意見にあわせてくれるOLHが、これほどまでに自分の意見
を主張することは珍しい。その事を二人はよく理解していた。それに、それほ
ど無理をしてまで、自分達に温泉旅行をプレゼントしたいという気持ちも嬉し
かった。
「しょうがないか」
「うん、いいよ。その代わり絶対優勝してボク達と3人で温泉旅行だよ」
「ただし、ことねおねえちゃんがそのじょうけんでいいってゆったらだからね」
「……ありがとな」
 OLHは二人を抱き上げると、交互にその頬にキスをした。
「お兄ちゃん、頑張るからな。応援してくれな」
 笛音とティーナは複雑な表情でうなずいた。

 〜 〜 〜

 翌日、OLHは校舎裏に琴音を呼び出した。
「……ということで、俺と一緒にテニス大会に出てくれないかな?」
「え、ええ……その……」
「ああ、もしかして旅行のことが気になる? いや、さすがにさ、琴音ちゃん
と二人きりで旅行ってのも、その、なんというか……俺としては行きたい気も
するんだけど、たださ……でも……だから」
「え、ええ……」
「で、その、それは心配しなくて良いよ。それは笛音とティーナにプレゼント
しようかなって……琴音ちゃんにはちょっと悪いけど、俺なんかと二人で旅行
じゃかえって迷惑だろうし……俺は琴音ちゃんと大会に出られればそれで十分
だし……」
 OLHは精一杯の笑みを浮かべて、そう琴音に言った。
「……で、どうかな? 一緒に出てくれないかな?」
「……あの、そういうことでしたら……」
 その少しの間に、OLHは思わずつばをのむ。
「やはり笛音かティーナちゃんと出るべきではないかと……」
「……へ?」
「それに、わたし、もう他の人とエントリーしてしまっていますし……後もう
少し早ければ、まだ考えたんですけど……」
「……だ、誰と!?」
「……もしかして、その人に何かしようとか考えてません?」
 その指摘にOLHは脂汗を流した。
「とにかく、今回は申し訳ありませんけど……またの機会に誘ってください」
 そう言うと琴音はOLHに会釈して、その場所を後にした。

 1時間ほど経った頃、斎藤勇希教諭がその場所を通りかかった。
「あら、OLH君、どうしたの?」
 しかし、OLHは目をうつろにしたまま、ぶつぶつとつぶやくだけだった。
「テニス大会……出たかった……」
「なんだ、パートナーを断られでもしたんだ」
 勇希教諭はからかい気味に言ったが、OLHはそれにも無反応だった。
「優勝……温泉旅行……笛音とティーナに……プレゼント……」
「ふーん、結構いいこと考えてるじゃない。笛音ちゃんとティーナちゃんに温
泉旅行プレゼントしようと思ってたんだ」
「大会……笛音……旅行……ティーナ……」
「まったくしょうがないわねぇ……よし、こうなったら私が一肌脱いであげる
わよ」
 そして勇希教諭はずるずるとOLHを引きずっていった。

=== 了 ===

………………あれ?(滝汗)