=== テニスLエントリー(木神木風&榊宗一) ===  投稿者:OLH
「……温泉……か……」
 その少女はそうつぶやくと、その場所を後にした。

=== テニスLエントリー(木神木風&榊宗一) ===

 やがて、その少女の後姿も見えなくなった頃、その様子を物陰から見ていた
小さな影がいくつか、ゆっくりと表に出てきた。
「…………」
「…………」
 そして何事かを考え込むような表情でお互いの顔をつき合わせる。
「……きかぜちゃん、さびしそうだったね」
 紫の髪の少し神秘そうなイメージの少女がそう言った。
「……木風ちゃんも宗一にーちゃんとテニス大会出たいんだろうね」
 やんちゃそうな瞳をくりくりさせて、隣の少年がそれに同意する。
「よしっ! ボク達が宗一お兄ちゃんに、木風ちゃんとテニスに出るように説
得しようよ!」
 緑の髪、いたずらの好きそうな瞳の少女がそう提案する。
「うん、そうしてあげよ」
 一番小柄な黒髪おかっぱの少女がこくんとうなずいた。
「木風ちゃん、押しが弱いからきっと言い出せなかったんだな」
 少し威張った様子で歯の欠けた少年がそう評する。
「でも、もっときかぜちゃんも、そういちお兄ちゃんにわがままいえばいいの
に」
 紫の髪の少女が言う。
「そんな、笛音ちゃんみたいなこと、木風ちゃんができるはずないじゃない」
 緑の髪の少女がそう、からかうように言った
「あーっ!? ひっどーい! ティーナちゃんのほうがずっとわがままじゃな
い」
「ちがうもーん。笛音ちゃんの方が、お兄ちゃんにいっぱいわがままいってる
じゃない」
「そんなことないもん」
「うん、僕も笛音ちゃんは、そんなにわがままだなんて思わないなあ」
 やんちゃそうな瞳の少年が紫の髪の少女をかばった。
「ほーら、てぃーくんは笛音ちゃんにほんとに甘いんだから」
 やはりからかうような調子で緑の髪の少女が言う。そしてその言葉に紫の髪
の少女とやんちゃそうな瞳の少年は微妙な表情になる。
「ね、そんなことしてないで、早く説得に行こうよ?」
 そのわずかな隙を突いて、黒髪おかっぱの少女がそう皆を促した。
「おう、早く行こうぜ」
 歯の欠けた少年もじれったそうに言う。
「そだね。じゃ、行こっ!」
 そして緑の髪の少女の掛け声で、小さな影はとててててっと移動を開始した。

 〜 〜 〜

「なるほどね」
 来栖川警備保障の控え室で榊宗一は小さな訪問者たちを前にそう言った。
「だからソーイチも木風ちゃんとテニス大会に出てやれよ」
 生意気な雛山良太の言葉に、しかし榊は怒ることもなく、それどころかにっ
こりと笑うと頭をぽんぽんとしてやった。
「君達、友達思いなんだな」
「おう! 当然だろ」
 榊は良太の言葉にわずかに苦笑したが、すぐに表情を引き締め、そしてふか
ぶかと頭を下げた。
「ありがとう。木風はこんないい友達がいて幸せだ」
 自分達よりはるかに年上の人物にこれほどまで真摯に感謝され、子供達は背
中がむずがゆくなるような、それでいて誇らしいような気分を感じた。
「今日の用事が済んだら早速登録に行くことにするよ」
 そして榊は子供達とそう約束した。
「でも……恩は恩としても、試合であたったら手加減はしないからな」
 にやっと笑って言う榊に子供達も口々に宣言する。
「優勝は譲らないからね」
「あたりまえだい。オレだって手加減してやらねーぞ」
「……父上の方が強いもん」
 榊は、木風が本当に良い友達に囲まれているのだと実感した。

 〜 〜 〜

「でも……お兄ちゃん、迷惑じゃないの?」
「迷惑なはず無いだろ……それより、気がついてやれなくてごめんな」
 その夜、榊はテニス大会にエントリーしたことを木風に話した。
「ううん……ありがとう」
「それにしても、木風は幸せだな。あんな良い友達持って」
「うん……でも……」
「……でも?」
「皆とお友達になれたの……もちろん幸せなんだけど……」
「……だけど?」
「……でも、木風の一番の幸せは……お兄ちゃんがこうして、木風のわがまま
を聞いてくれることなの」
 そう言うと木風は顔を伏せた。
「ははっ。馬鹿だな。そんなの当たり前のことなんだから。それに木風はほと
んどわがままなんて言わないじゃないか」
「……だって……もし……そんなことして……お兄ちゃんに嫌われたら……」
 榊は木風をぎゅっと抱きしめる。
「そんなこと、あるはずないよ。うん。絶対無い」
「……お兄ちゃん」
「……木風」

 そして、二つの影が一つに重なった。

=== 了 ===

とゆーわけで、他薦、木風・榊ペアです。
夜の場面は蛇足なんですが、ま、この二人はこんな感じだというサンプルにし
てもらおうかと(笑)
基本ラインはどこまでも木風に優しい榊と、幸せゆえに不安におびえる木風、
といったところですな。


……しかし、どーしてこう、自爆の風味が漂うんだっ、自分っ!(笑)