「はじめてのおつかい」 投稿者:OLH
えー、前回本家に書いてから2ヶ月以上間があいてしまいました。
で、そのためのリハビリ作品です。



=== はじめてのおつかい ===

 とん……とん……とん……とん

 軽やか、とは言いがたい包丁の音が響く。
 もっともそれも無理の無い事で、包丁を握っているのはわずか6才の少女だから
だ。その少女の名は笛音。OLH の養女である。
 彼女がなぜ包丁を握っているのかといえば……

「──どうですか? できましたか?」

 そう聞いてきたのは来栖川警備保証の誇る暴走頭脳、Dマルチだった。
 ちなみに場所は来栖川警備保証の控え室の台所。
 そう、笛音はDマルチに「おりょうり」を教わっている最中なのだ。

 どう戸籍をごまかしたのか、笛音はいつのまにかL学園初等科の1年生となって
いた。当然午前中は学校に通う事になるが、午後は笛音一人きりになり(正確には
ティーナと二人きりになるが、ティーナはカレルレンの「通い妻」として昼はカレ
ルレンの家で家事に勤しむ事も多く、結果、笛音は一人きりとなる)、それを心配
した OLH は、昼の間は比較的暇な来栖川警備保証の控え室に預ける事とした。
 当初はただ預かってもらうだけのつもりでいた OLH だが、Dマルチが家事全般
はもちろん、生け花や茶道、習字等にも精通していると知ると、それらを笛音に教
えてくれるようDマルチに頼み込んだ。
 実はこの依頼には一つ裏があった。すなわち笛音の嫉妬である。
 話は2ヶ月ほど前の事となるが、とある理由でティーナも OLH 達と一緒に住む
事となったのが始まりだった。それまでたどたどしくも家事をこなしていた笛音だ
が、これをティーナにとられる形になってしまったのだ。
 そして笛音は「しゅぎょう」を開始した。しかし、家事などというものが教わる
ものもなくそうそう上達するはずもなかった。ならばティーナに教わるという選択
肢もあったはずだが、この件についてはティーナをライバル視している笛音がその
ような事を望むはずもなかった。これが OLH が笛音をDマルチに預けようとする
少し前の話である。
 このような理由を知ってか知らずか、Dマルチは OLH の依頼を快諾した。
 そして今にいたる、というわけである。


「はい、できました」

 さて、話を戻そう。
 Dマルチの問いかけに笛音は誇らしげに答えた。しかし、乱切りにされたジャガ
イモやらニンジンやらは、いかにも不揃いだ。だがDマルチはそのことは指摘せず、
次の指示を出す。

「──よくできましたね。それでは、それを炒めましょう」
「はいっ」

 どうやら誉めて才能を伸ばそうという方針らしい。
 ここらへん OLH の姑息な意志が感じられないではない。
 ま、そこらへんはともかく、笛音の「しゅぎょう」は続いている。

 大きな中華鍋に今切った野菜をごどろんごどろんと入れ、へらで一生懸命かきま
ぜる笛音。その姿はなかなかに愛らしい。
 ちょっとだぶついたエプロンをつけ、踏み台に乗って料理するその後ろ姿は OLH 
ならずとも、思わずむしゃぶりついてしまいたくなりそうなぐらいだ。それだけで
はあきたらず、唇を奪い、挙げ句の果てにいたずらにまで及んでしまう気持ちもわ
からないでは《ずごがっしゅっ!!》

『こ、こ、こ、このやろおぉっ! なんて事ほざきやがるっ!!』
 え? いつもの事じゃないんですか?
『ば、ば、ばばば馬鹿野郎っ!! んなことするわけなかろうがっ!!』
 違うんですかぁ? つまんないなぁ
『……だーく・ふれあ』(ぼしゅ)



 ……申し訳ございません。ただいま不適切な表現が有りました為、ナレーターを
交代させていただきます。
 さて、笛音さんの方ですが、既に野菜は炒め終わったようです。

「──それでは、その鍋の中に移してください」
「はいっ」

 炒めた野菜を大きな両手鍋に移しています。
 そしてそれにヤカンからお湯を入れ、ことこと煮はじめたようです。

「──このまましばらくアクをとりながら弱火でじっくりと煮ます」
「はいっ」
「──野菜が十分にやわらかくなったら、カレー粉をいれます」
「はいっ」

 どうやら今日はカレーを作っているみたいですね。
 ことこと、ことこと。下味にと1片入れたコンソメの匂いがおいしそうです。

「──すみません、笛音さん」
「はい。なんですか?」
「──カレー粉を切らしているのを忘れていました。
 すみませんが購買部まで行って買ってきてくれませんか」
「はいっ! わかりましたっ!」

 笛音さん、元気よく答えてますね。

「──それから一緒に福神漬とラッキョウもお願いします」
「はいっ!」

 笛音さん、嬉しそうです。
 実は笛音さんが一人でおつかいに行くのは、これが初めてなんですね。
 すっかり自分が一人前だと喜んでいます。
 ……もちろん、これも OLH さんの陰謀です。
 家事のプロフェッショナルであるDマルチさんが、料理をはじめる前に材料を全
てそろえていないはずはありません。

「──では、お願いします。気を付けて行ってきてください」
「はいっ!!」

 張り切って飛び出す笛音さんです。
 さて、初めてのおつかい、はたしてうまくいくのでしょうか?


 おや、いきなりお友達に会ったようですね。
 赤い髪の7才ぐらいの女の子。マールさんです。

「マールちゃん、こんにちは!」
「こんにちは、笛音さん。どちらへ行かれるんですか?」
「んとね、おつかい!」
「そうですか、頑張ってくださいね」
「うん☆ まったねぇ」

 マールさん、優しい笑顔で笛音さんを見送ります。
 マールさんにとっては、笛音さんも妹みたいなものなのかもしれませんね。

「ところで、あなたは何をしてらっしゃるんですか?」
 ……おや、見つかってしまいましたか。
 ええと、私は草の一人で今はアルバイトでナレーターをしてるんです。
 笛音さんの取材なんです。
「そうなんですか」
 ええ。
 そうだ、良い機会ですから少しインタビューさせてもらいましょう。
 マールさんは笛音さんと一緒のクラスなんですよね?
「はい、そうです」
 普段の笛音さんはどんな感じですか?
「とても活発で明るいですね」
 お勉強なんかはどうですか?
「国語なんかは苦手みたいですね。
 でも決して頭が悪い訳ではなく、好きな算数とかはよくできるみたいです」
 はぁ、なるほど。
 そうそう、お勉強といえばマールさんに授業は必要なさそうですよね。
 いつも難しい本を読んでますもんね。
「……確かに私には1年生の授業はいりません。
 いえそれより私は授業中いない方が良いのかもしれません。
 先生もそれがわかっているのか私をさけているようですし。
 いえ、もっと根本的に私が学校に行くのは間違っているのかもしれません。
 私はHMですから、本来人間の方達が集団生活の実習の場とする学校には来ない
方がいいのではないでしょうか。私はそれを無視して………(ぶつぶつぶつ)」
 あ、あのぉ、マール、さん?
「……私は幸せになっていいんでしょうか……」(既に泣き声)
「マールを泣かせるんじゃないぃっ!! 超・級・覇王・デンパ弾んんっ!!!」
 え?(ずどがしょべしゃぐて)



 ……………
 ……………
 ……………
 ……………
 ……………
『……おい。ナレーター、どうした』
 ……ごめんなさい。こんな時どうしたらいいか、わからないの。
 私、きっと3人目だか(どげしっどげしっげしっげしっ)



 あ、どもー、すいませんねー。なんか立て続けにナレーター変わっちゃって。
 いや、3人目なんか、意味不明のギャグとばすし。
 あ? はいはいはい。わかってますって。続きでしょ?

 おっと、笛音ちゃん、もう随分先に行っちゃいましたねー。
 すきっぷ、すきっぷ、らん、らん、らん、てな感じで購買部に向かってます。
 さあ、その先に待ち受けるのはいったい何かっ! いや、わくわくしますねー。

 あ、現れました!! 次の障害は藤田浩之です。これは誰も予想していなかった
のではないでしょうか。!!
 おっと浩之氏、笛音ちゃんに声をかけようとしてます。

「よっ! 笛……」(びしゅううぅぅぅ)

 ……浩之氏、突然黒い旋風に吹き飛ばされてしまいました。
『……あんな無節操すけこまし野郎を笛音に近づけられっかよ』
 ……気持ちはわからんじゃ……はいはい、今のは見なかった事にしますって。

 えー、何かあったような気もしますが、当の笛音ちゃんが何も気がついてないっ
て事は、やっぱり何も無かったみたいですね。うん。世の中、平穏が一番ですな。

 さて気を取り直してまいりましょう。
 おや、今度現れたのは榊宗一さんですね。

「やあ、笛……」(ばしゅううぅぅぅ)

 ……
『あんな少女の敵を笛音に近づけるわけにはいかん』
 ……いや、それを言ったら、あなた……はい、あんな少女の敵は排除しなければ
ならないですね。


長瀬佑介「ん? 笛」(ぼしゅううぅぅぅ)
『あんな毒電波男を笛音に近づけ……』

結城光「笛音ちゃ」(べしゅううぅぅぅ)
『笛音をたぶらかそうとした奴を近づけ……』

佐藤雅史「どうし」(ぶしゅううぅぅぅ)
『薔薇を……』

TaS「おや、笛」(どしゅううぅぅぅ)
『アフロを……』

 ……なんか、見境なくしてますね……
 だあああぁぁ、待った待った、待ったあぁ!!
『なんだ、俺は今、笛音に群がる害虫退治に忙しいんだぞっ』
 って、今度の相手は beaker さんでしょ?
『そうだ、あんな誰にでも粉かけるようなやつなど……』
 だから、もう購買部なんですってば!!
 beaker さんまでやっちゃったら笛音ちゃん買い物できなくなっちゃいますって!
『……ちっ、運の良いやつめ』

 ふう。と、とにかく笛音ちゃん、無事に買い物はできたようです。
 さて、残るは帰り道ですが……

『……くっくっく、笛音に近づくやつは誰であろうと容赦せん!』

 ……いっちゃってます(はうぅ)

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 その晩、ティーナはカレルレンの家で夕食とのことで、二人きりの夕食となった。

「うん、おいしいよ、このカレー」
「よかったぁ」

 OLH の言葉に、にっこりと笑う笛音。その笑顔もやはり愛らしい。
 そしてカレーを食べつつ、笛音はその日の「しゅぎょう」でどんなことをしたの
か、身振りを加えながら OLH に説明する。

「でね、カレーことふくじんづけとらっきょうがなかったの。
 だから、わたしがひとりでおつかいにいって、かってきたんだよ」
「そっかぁ。もう一人でおつかいできるんだね」
「うんっ!」

 とても穏やかな優しさに包まれ、二人は幸せなひとときをすごした。

=== 了 ===



あ、飛ばされた人、ご愁傷様です。(笑)
……しかし、これじゃ私、琴音属性じゃなくて笛音属性じゃないかよ。
今度こそ、こ〜ん〜ど〜こ〜そ〜琴音ちゃんとからむSSを(すぱーん)

(すまん、最近お約束の落ちだ)