この話は悠朔さんの「Lメモ魔王大戦」を読んで思い付いた話です。 当然ダーク話ですので、そういったものが苦手な方は読み飛ばしてください。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「……ひっく……ひっく……お兄ちゃん……ひっく……」 物陰から聞こえる低いすすり泣きの声。 だが、そのそばを通る者はいない。 「……ひっく……お兄ちゃん……ひっく……ひっく……」 そして彼がそこへ訪れるまで、その声は絶間なく続く。 === Lメモ魔王大戦 枝話 「闇想」 === 「はあ……いったい何が起こってるんだろう……」 へーのき=つかさは、ぼやきながらも見回りを続けていた。彼は来栖川警備保障 のアルバイトという身分ではあるが、実質この学園支部の責任者だともいえる。本 来は警備保障から来ているメンバーの筆頭Dセリオがその役にあるのだが、組織上 HMがすべての責任を負うわけにもいかない。必然的に本部とのやり取りやデスク ワーク、各種書類の決済、そういったものの一部も彼の分担となる。そのためそれ まではアルバイトの増強により彼の負担は減らされていた。 しかし、ここにきて一連の殺人及び失踪事件により警備保障にも負荷がかかって きた。さらにOLHの失踪がそれに拍車をかけ、結果、へーのきにかかる負担は通 常の倍以上のものとなっていた。そして今も、本来ならOLHの分担である場所を 見回っているところなのだ。 人気の無い校舎を一人歩いていたへーのきの耳に、普通ならありえ無いすすり泣 く声が聞こえてきたのはその時である。 「……誰? 誰かそこに居るんですか?」 へーのきもSS使いと呼ばれる存在である。通常の人間では持ち得ない様々な特 殊能力を持った者の一人として、それなりの自負を持っている。だが最近の事件の 事を考えるとわずかに及び腰になっていた。SS使いと言えど無敵というわけでは ないのだ。しかしへーのきは自分の役割を思い出し己を叱咤すると、ゆっくり声の 方に近づいていった。 「誰か……居ますか?」 「……お兄ちゃん……ひっく……」 「ふ、笛音ちゃん!?」 へーのきがそこで見つけたのは行方不明になっていた笛音であった。 「笛音ちゃん、大丈夫かい? 怪我は? それとOLHさんは?」 「……ひっく……ひっく」 しかし笛音はへーのきの立て続けの質問にも答えずうずくまって泣くばかりだっ た。しかたなくへーのきは笛音のそばによるとそっと震える肩に手をやった。笛音 は一瞬びくっとしたが、へーのきを見とめるとそれまでしていたすすり泣きを止め た。 「笛音ちゃん、オレがわかるかい?」 「……へーのき……さん」 「ふう、とりあえず身体は無事かな?」 取り敢えず笛音は無事そうであると判断したへーのきは小さなため息をはくと、 そう念のため聞いてみた。その質問に笛音は無言でこくんと小さくうなずく。 「そうか、じゃひとまず安心だな。……で、OLHさんは?」 「……う……お兄ちゃん……いないの」 「いない? 一緒じゃなかったの?」 「ひっく……どこかいっちゃったの」 また泣き出しそうな気配の笛音に、へーのきは精一杯やさしい微笑みを向けて安 心させようとする。 「どこかって……うん、大丈夫だよ。あの人が笛音ちゃんをおいて、どっかいくは ずがないよ」 「でも……」 「でも?」 「お兄ちゃん……わたしが……ちゃんと……」 「ちゃんと?」 「ちゃんと……おしごとしないと……かえってきてくれないの……」 「お仕事?」 そしてまた、無言でうなずく笛音。 へーのきは心身共に疲れきっていた。だから笛音のその異常さには気付いていな かった。いや、笛音の様子がおかしい事には気付いていたのだが、それはOLHが いないせいだと思い込んでいた。へーのきはあまりに笛音に対し無防備だった。 「お仕事って……OLHさんが笛音ちゃんに何か頼んだの?」 「うん……」 「じゃあ、やっぱりOLHさんは帰ってくるよ。」 「うん……」 「それで、何を頼まれたの?」 へーのきはあまりに無表情な笛音を一生懸命慰めようとしていた。 「へーのきさんを……」 「……オレを?」 突然出てきた自分の名前をいぶかしく思いながらも、へーのきは先を続けさせる。 「へーのきさんを……ころすの」 「は?」 へーのきは笛音が何を言ったのか、すぐには理解できなかった。だが身体はすぐ に理解していた。焼けるような痛みが腹部を襲っていた。 「え? こ、これ、は?」 「でもね……お兄ちゃん、やさしいんだよ……わたしがちゃんとおしごとできるよ うに……どくつきのほうちょうを、かしてくれたんだよ」 腹部の痛み自体は、じつはそれほどのことはない。四六時中Dセリオと共に行動 していれば多少の怪我には耐性ができてしまう。だが既に全身にまわった即効性の 毒がへーのきの神経を蝕んでいた。 「ふ、笛音ちゃん……なんで……」 「お兄ちゃんね……わたしのこと……あいして……くれてるんだよ……」 しかし、笛音はへーのきの事は既に気にしていなかった。うつろな表情で独り言 を呟いていた。 「笛音……ちゃん……冗談は」 「よくやったな、笛音」 へーのきの言葉は突然後ろから現れた気配に遮られた。全身の力を振り絞りその 声の主を確認すると……やはりOLHだった。 「OLHさ……いったい」 だがOLHもへーのきを無視すると笛音に歩み寄り、そっと抱き上げる。 「笛音……偉いぞ……それでこそ俺の可愛い笛音だ」 そして、いとおしげに頭を撫でてやる。 「OLHいぃぃ」 「笛音……ご褒美だ」 へーのきの最後の叫びさえ無視するとOLHは笛音に長いキスをする。笛音はう つろな眼をして、それを受け取る。 そして傀儡と化した少女を連れ、男は影の中に消えていった。 === 了 === 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 よーするに、OLHは笛音を傀儡としてしまったとゆーお話。 で、悠朔さんに読んでいただいて問題ないという事なのでアップしました。 また、この話は「Lメモ魔王大戦」の更に枝時空というつもりで書いたのですが、 悠朔さんから魔王大戦では、この話の後OLHはどうしたかに繋げられそう、との お言葉をいただけまして、本筋に組み込んでいただけるそうです。 というわけで、悠朔さんに感謝します。 それからへーのきさんには勝手に被害者になっていただきましてすいませんでした。 いじょ!