我が策謀に殴り込め宿敵2 投稿者:Rune
 そして、全てが渦巻き始めていた。      
「月島会長――」
 その声にも、彼は閉じ合わせた睫毛を離そうとはしなかった。
 瞑目したまま、答える。
「どうしたのかね? Rune君――」
 闇一色の生徒会室。その一角から滑り出すように、一人の少年が、現れる。
『現れた』のだ。控えていたのではなく。
「例の草案、完成を見ております」
「そうか」
 そこで、初めて彼は物憂げな視線を世界に解放した。
 見える筈もない暗闇に、見られる筈もない不敵な笑みと共に囁き返す。
「書類、見せて貰うよ。後で、ね」
「かしこまりました」
「では、もう計画は――」
「動いております。健やか書記と、太田委員が」
「彼ら、か……そうか。それも、そうだな」
「はい。ていうか、彼らしかいないんですけどねー」
「それは言わない約束だろう、Rune君? だからこそ、君にこの件を任せたのだから」
「ま、そりゃそーなんですけど。しかし、現役の生徒会役員の内、太田委員だけが戦力、
なーんてのを知った時ゃ、一体どーしよーかと思いましたよ」
「実働は全て久々野に任せていたからね。僕は専ら頭脳プレーだし」
「じゃ、そろそろ自分も現場に戻ります。ま、昼休みまでお待ち下さい」
「うん。良い結果を期待しているよ」
「りょーかい。ところでですね、月島会長?」
「何だい?」
「見えないからって、にらめっこの真似事はよしません?」
「……見えてた?」
「鼻息荒いからすぐに理解りますよ」
「うーむ」


「おつかれー」         <初音のないしょCD5トラックめが嬉しいぞ>
 Runeが魔術文字で転移、その場に具現すると同時に、そんな声が彼を出迎えた。
「あ、太田委員。どうすか、進行具合は?」
「まあまあ、ね。それよりも、あれで、月島さん、喜んでくれた?」
 意気込んで尋ねる香奈子に、Runeは、にゅっ、と親指を立ててみせる。
「本当!?」
「勿論。何てったって、前々風紀委員長の久々野彰とのコンビを解消してからというもの、
得意の悪巧みも実際にやってくれる人がいませんでしたからね。かなりストレス溜まって
るんじゃないすかね」
「ふふふ……これも、健やか先輩とRune君のおかげ、ね」
「ま、謙遜はしませんよ。さすがに骨が折れました……今回の立案は」
「ほんとねー。ま、これでまた、活気が戻るといいな」
「個人的には太田委員に藍原先輩を引きずり込んで欲しいんですがねー」
「無茶言わないで。瑞穂には瑞穂の生き方があるんだから」
「自分らはやくざですかぁ? ったく」
「似たようなもんでしょ?」
「ひでーこと言いますねー。ま、そりゃ、二心がないとは言わないけど。すこちゃんとか
には言わないで下さいよ? すこちゃんなんか、結構本気で心配してるんですから」
「そうよね。健やか先輩は、ね」
「あうっ」
「やっぱり何だかんだ言っても、月島さん、心配されてるのよね」
(…………いや…………すこちゃんが心配してるのは、主にあんたなんだけど…………)

 その頃、当の健やかは、というと……
「えーと、はい、どうぞ。はい、受け取ってねー。はいはい? 友達の分? うんうん、
おっけーおっけー。どぞどぞ持ってって。ていうか、持ってって貰った方がノルマが減る
から、お願い(笑)」
 校門前でビラを配っていた。
 桜なぞとっくに散りきって、まるで時季外れの部活勧誘の様である。
 が、本人は全く頓着せずに、校門前に教卓一つ置いて、次々とノルマをこなしていく。
 実はなかなかできることではない。
「はーいはいはい、そこの彼女――えーと、赤十字さんだっけ? うんうん、久しぶり。
 そ。今ビラ配ってるの。ま、持ってって持ってって」
 何と、彼は全校生徒の顔と名前と性格を一致させていた。誰にでも気安く話しかけると
いうことには、こんな副産物もある。
 そして、それを最大限に活かした役回りだった。彼に手渡されるのと、見知らぬ誰かに
手渡されるのとでは、受け取られる確率も、熟読してもらえるかどうかも違ってくる。
「はいはいはい。これ受け取っていってねー。読まなくてもいいけど、読んでくれるとね、
少ーし。少ーしだけ嬉しいんだけどねー」
 いそいそと立ち回るそんな彼に素っ頓狂な声がかけられたのは、そろそろ登校時間制限
も近づこうとしている時――つまり、遅刻間際――だった。
「あれ、健やか先輩? どしたんすか、こんなとこで?」
「ああ、藤田君か。お、神岸さんも」
「おはようございます、先輩」
「今ビラを配ってるんだ。ま、二人も読んでよ。歩きながらでいいからさ」
「はあ」
「ありがとうございます」
「はい。んじゃ、またねー。あ、そこの彼女――」
 二人は健やかと別れると、ビラを片手にやや前方不注意で脱靴場へと向かった。
 その途中であかりは、彼女と同じタイミングでビラの全てに目を通したらしい、すぐ隣
の少年の呟きを耳に留める。
「へえ……なるほどな。面白くなりそうじゃねーか」
 とりあえずあかりは、聞こえなかった振りをしてもう一度ビラの頭から読み返し始めた。

「大ニュースよ! 大ニュース!」
 喚きながら今日も今日とて彼の教室に飛び込んできたのは、長岡志保だった。
「志保ちゃんニュースは間に合ってるぞ」
 無駄だと知りつつもささやかな抵抗を試みずにはいられない浩之である。
「なぁーに言ってるのよ!? ついに活動を再開したのよ、生徒会が!」
「…………だから?」
「つまり! 生徒会のこれからの野望をいち早く掴もうと思ったら、この志保ちゃん情報
を置いて他に手段はないのよ!」
「別に興味はねーぞ、んな野望」
「そんなのんきな――」
「大体百歩譲って生徒会の動きが理解ったとしてだ。絶対お前の情報と180度の方向を
指し示してるぜ、きっと」
「何でそう、人が持ってきてあげる情報をガセネタみたいに言うのよ!?」
「一応自覚はあったんだな」
「うきぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜! ムカつくぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「とゆーわけでオレは聞かない。聞かないってことはお前に用がないってことだ。つまり
行っていいぞ、ほら。しっしっ」
「浩之ちゃん……それじゃ志保が可哀想だよ」
 苦笑しながら、助け船を出すあかり。それによよと泣きながら抱きつくふりをする志保。
「さすがあかり! どこかの薄情な女たらしと違うわ! やっぱ持つべき者は親友よね!」
「お前なぁ。そーゆー風に甘やかすから……」
 浩之の呆れたような呻きに、あかりはどことなく困った顔で志保を抱き留めながら……
「私が勇者だとするでしょ?」
 唐突にそう切り出してきた。
「はぁ?」
「勇者ぁ?」
 浩之と志保が口々に語尾を高くしてそんな声を洩らしながらあかりをまじまじと見直す。
 それに対して、あかりはいつもの気弱な笑顔で頷いてみせた。
「うん。私が勇者だとしたら、浩之ちゃんは商人。そしたら、志保は村人なのよ」
「……………………」
「……………………」
 二人とも、ぽかんと開けた口が、落ち着き場所を失っている。いや、動かないのだが。
「村人の話を聞くのは、主人公である勇者として当然じゃないかな」
「……………………」
「……………………」
 顔を見合わせる二人。
 だがアイコンタクトしようにも、あまりに呆然としてしまっていて、言語思考そのもの
ができなかった。
 そんな中で、あかりがはにかみながら続ける。
「やっぱり、それって主人公の星の下に生まれてきた者の義務よね。脇役を生かさなきゃ」

 表で、喧噪が聞こえる。
「はーっはっは! ついに暗躍生徒会復活!」
 彼は、そのネーミングに少しく不満を覚えたが、とりあえず我慢することにした。
「さあさあ善良なる生徒たちよ! 再び我らの時代がやってきたのだ! とゆーわけで、
まずは女子のスカートの丈を8mに統一する! これは至上命令であるから、たこ焼き屋
さん全ての生タコを抜き去り殺してでも死守するよーに!」
「るーちゃん、それじゃまるで悪役……」
「それでいいんですって、健やか先輩」
 彼は、その喧噪をよそに、くすくすと笑っていた。
 片手にはワインのグラス。
 なみなみと注がれたそれは、彼の鼻腔を豊熟の香りで彩る……
 何か意味深な台詞でもあれば、気が利いているのだろう。
 だが、特に彼は何も口にすることなく、ただ、闇に香る葡萄に目を細めていた。

 ……………………
 余談だが、飲酒の気配に気がついた柏木千鶴教師が『おしおき』に来るのは、これから
約2秒後のことである(笑)。

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 さてさてさて! 長々考えていた企画がまた一つ、ようやっと動き始めました!
 どうも勢力の分散が著しい。
 しかも、正義の味方が多すぎる。
 ハイドラントさま率いる13使徒は面白いのですが、なにぶんその性質のために、少し
ギャグが効かない。彼らが本格的に悪役を始めたら、シリアスモードになるだけという、
ちょっち恐ろしい事態待っております(笑)。
 それはそれで望むところなんですが(笑)。

 で、話を修正しますと、考えたこと。
 中心勢力を作ればいい。
 勢力争いの中心に、でんとでかい悪の組織があれば、やはりそれが一番覚えやすい。
 しかも、そのことによって、各勢力が引き立つ。
 まさに一石二鳥。
 で、Runeが何を考えたか、というと……

「暗躍生徒会活動再開!」
 本作品のビラです(笑)。
「暗躍生徒会は、本日をもって、構成員を大々的に募集する!
 来たれ! 悪の道を極めんと欲する者よ!
 条件は2つ!
『どの正義の勢力にも属していないこと!』
 そしてっ!
『Leafキャラを一人巻き込むこと!』
 であるっ!
 なお、通常の生徒会は決して悪の組織ではないっ! 我々は学校に刺激を与えるべく、
日夜陰謀に勤しむ健康な10代の生徒を求むっ!
 応募は掲示板で、1学年のRune生徒会臨時書記宛に!」

 ふふふふふふふ。意図が露骨ですか?(笑) でも、これは前作『我が策謀に殴り込め
宿敵(笑)』の続き物ですから、決して突発案でもありません(笑)。
 この組織、はっきし言って全く裏がない!(笑) ただ、やられ役の組織というのが、
本音(笑)。プレ修学旅行が終わってから出す予定だったんですが、少し内容を削らない
といけない羽目に陥ったので、まずはこちらからです。多少時間が前後していることを、
お断りしておきます。
 さて、以後、この『策謀』編は、1話完結のスマートなSSになる予定です。学内の、
運動会やらの運営や、学規などの追加に常に絡んでいく、いわば「タイムボカン」クラス
のものに仕上げていければ、と、そう思っております。
 更に、当然ですが、こっちはLeafキャラメインです。SS使いの比重は、かなーり
削られていきますんで、お許し下さいませ(笑)。まずは使わないと、設定だけじゃあ、
張り子の虎も同様ですからね。基本的に短めのギャグで、HP強化月間の6月、出せる日
に出せるだけ出そうと思っております。軽めのタッチですから、そう負担にもならないの
ではないかとも思っております。実験の色合いが強いですから、こちらは、もしいただけ
るのでしたら、「感想」というよりも「反応」と言ったレベルでのリアクションがあると
嬉しいです。このキャラ、もうちょっとこう壊せないか、とか(笑)。

 今日あった心理戦。冒頭シーン1。
>「暗くて見えないからって、にらめっこの真似事はよしません?」
>「……見えてた?」
>「鼻息荒いからすぐに理解りますよ」
>「うーむ」
 月島会長、Runeの暗視能力を探る。
 んで、「鼻息」なんてもっともらしいことを言うRune。
 この二人は強調ではなく、常に出し抜き合う関係なんですねー(笑)。