我が聖堂に蔓延れ病魔 投稿者:Rune
「はーはっはっはっ!」
「暗躍生徒会、ここに参上!」
「罪もない生徒のみんな、ごめんね……」
 順に、ルーン、香奈子、健やかが口々にそうまくしたててから、三人は改めてその惨状
を見渡した。
 食堂である。
 食堂と言えば千鶴さま。千鶴さまといえば毒料理。
 というわけで、たっぷり全員に毒料理を振る舞ったのである。
 カレーパンだろーが焼き肉ライスだろーが、全メニューをすり替えるのには、さすがの
彼らも苦労した。
 が、計画は成功。
 かくて、食堂のあちこちに、男女の別なく折り重なって倒れまくっているという事態に
なる。
 はっきり言うが、そこここに正義の味方もぶち倒れていた。
 巧妙に隠されたスパイスとその破壊力に勝てる味覚の持ち主は、さすがにいなかったの
だろう。何だか呻き声が止まらないあたり、さながら地獄絵図である。
「しっかし、相変わらず凄い威力ね」
「はっはっは。今回は材料に遅効性のものを用意しましたからね」
「購買部で1カプセル20円で売っていたんだよね」
 香奈子の問いに胸を張るルーン。捕捉する健やか。

・『鈍くなる薬』(にぶくなるくすり)
 感覚神経の伝達速度が遅くなります。
 また、朴念仁になる効能も報告されております(笑)。

「ま、さすがに初陣は勝利を収められたようね」
「次の指令は、太田委員?」
「……そーねー……」
 思案する香奈子。2秒もしてぱちんと指を鳴らした。
「そーだわ。せっかくだから記念写真と犯行声明を撮りましょう。犠牲者一人、まだ息の
あるのを見つけてちょうだい」
『アラホイサッサ!』
 びしり、と敬礼して、ルーンと健やかが食堂内に散った。
「ふふふ……月島会長もさぞお喜びになるでしょう」
 ああ、お約束。
「見つけました、太田委員!」
 ルーンが適当に離れたところから声を上げる。
 その右手に首根っこを掴まれ、ぼそぼそと虚ろな瞳で呟くのは――
「カナコ、ゴメンネ、カナコ、ゴメンネ、カナコ、ゴメンネ、カナコ、ゴメンネ、カナコ、
ゴメンネ、カナコ、ゴメンネ、カナコ、ゴメンネ、カナコ、ゴメンネ――」
 ……………………
 ……………………
 ……………………
 ぎぎいっ、と首を90度、神坂一風にねじ曲げて、彼女は呻いた。
「えーと。できれば、別の人を見繕ってくれない?」
「りょーかい」
 ルーンは適当にぽいと犠牲者を投げ捨てると、再び死体の山を漁り始めた。
(ごめんね、瑞穂……あんたの死は無駄にはしないわ。後でジュースでもおごってあげる
から、心おきなく今は眠って――)
「冷や汗混じりに聞こえよがしで独り言言っても説得力ないと思うよ、太田さん――」
「いーんです、健やか先輩は仕事して下さいっ!」
 突っ込まれた彼女は知らない。
 ジュースも千鶴一撃必殺濃縮ジュースにルーンがすり替えていることを。
 と、その時――
「そこまでだっ!」
 一際高く制止の声が上がった。

「な! あんたは!」
「現れたな、藤田浩之!」
「実はあんまり出番がないからこのシリーズでは毎回登場することにお情けで決まったん
だよね」
「そこ、余計なことをバラすんじゃねえっ!」
 太田香奈子、ルーンと続いて健やかの指摘に、浩之はちょっと顔を赤らめて怒鳴った。
「と・に・か・く! またはた迷惑なことやっているよーだが――」
「あ、藤田先輩」
 前口上の途中を無遠慮に遮ったルーンに、浩之は憮然とした表情で応えた。
「何だ?」
「そろそろクライマックスにしないと30分の枠に収まらないんですよ」
「……何で30分なんだ?」
「CMも入りますから、正確には30分よりも短いんですけどね」
「訳の理解らんことを――」
 ぶつぶつ言いながら、浩之は指示に従った。
「えーい、とにかくかかってきやがれ!」
 わー、と健やかが躍りかかっていった。
 ぺち、と殴り倒される。
 とー、とルーンが躍りかかっていった。
 ぺち、と殴り倒される。
 やー、と香奈子が躍りかかっていった。
 ぺち、と殴り倒される。
 ……………………
 ……………………
 ……………………
「……な、なかなかやるよーね、藤田君!」
「く。こーなったらアレを使うしかないですな、ド@ンジョさま!」
「……段々パターンってものが見えてきたね」
 口々に言って、ややぼろぼろの衣装で三人が復活する。
 浩之が疲れたような表情で呻いた。
「……何か緊迫感とかないよーな気がするのはオレだけか?」
 が、それに対するはルーンの余裕の笑み――
「これを見てもまーだそんなことが言えますかね?」
 ぱちん、と指を鳴らす。
 健やかが投げ遣りに叫んだ。
「今週のビックリドッキリメカー!」
 ごごごごごごごごごごごごごごごごご…………!
 突如食堂を襲う大振動。
「な、何だっ!?」
「鹿児島県名産、H−2ロケット!
 ちなみに2はローマ数字だけど機種依存文字だから使ってないんですバージョン!」
「ふふふ。これで、悪玉に立ち向かう善玉をまとめて宇宙に吹っ飛ばそうって腹なのよ!」
「ちなみに予算は科学部の協賛で8000円になっております」
 解説する三人に、ぞっとした顔色で浩之が叫んだ。
「ちょっと待て! それって一緒に乗ってるお前らも一蓮托生じゃねーか!」
「あ。」
「そーいえばそーですね」
「……っていうか、気がつかない方がどーかしてると思うんだけど」
 顔を見合わせる3人と浩之。
 その時だった。
『発射シマス。発射シマス。秒読ミ1秒前。発射シマシタ』
 ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご。
『どひいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっ!?』

 ……中庭。

「――神岸さん」
「あ、何? セリオちゃん」
「――警備保障のDセリオです」
「あ、ごめんなさい。最近セリオちゃんって、多いから。
 やっぱり細胞分裂なの?」
「――いえ。それはとにかく、Dボックスさんをご覧になりませんでしたか?」
「箱の人なら、今頃遠いところにいるよ。きっと」
「――はあ。ではお見かけになられましたら、お手数ですが警備保障の方へご一報を願い
ます」
「うん。でも、きっと寂しくないよ。1000人近くと一緒に、イスカンダルへ向かって
いると思うから」
「データベースにない言葉です」
「うん。かもね」
 しゅっ、と。
 彼女はマッチを擦ってその赤い赤い炎に魅入った。
「ふふ。ロケットって、マッチでも火がつくんだね」
「はあ」
 空は相変わらず青かった。

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 ちは。暗躍生徒会暗躍編、8月強化月間です。
 ほんとは6月にこれを行う筈だったんですが、データベースの整理からやらんといかん
ということになりまして、延び延びになっておりました。
 ネタが溜まりまくっております。
 現時点30はあるので、上手く時間がとれれば一日一本出そうと思います。

 次はヒメカワ星人の話でお送りしたいと思っております。前後編は基本的に嫌いなんで
(というか、前後編は前の話を覚えて貰える自信がない。笑)、少し長めになるかも……
知れないです。その時は、ごめんね(笑)。

『今日のハイドくん』
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!」
 ハイドラントは燃えていた。
 どーしよーもなく燃えていた。
「どぉぉぉぉぉぉぉしぃぃぃぃぃぃぃぃ! どぉぉぉぉぉぉしぃぃぃぃぃぃますぅぅぅぅ
ぅぅぅぅっっっっ!?」
 彼の忠実なる手下、燃える葛田玖逗夜が下らない駄洒落を言ってくる。
「床に潜んで相手の動向を探るという発案まではよかったのですが……」
 同じく燃える飯塚弥生。髪をかきあげて、ふっと冷たい微笑。
「……まさかロケットのブースターの真ん中だとは考えませんでしたね」
「……ま、ハイドくん、たまにはいい修行よね☆
 心頭滅却すれば火もまた涼し。頑張ってダークを極めるのよ☆」
 EDGEが無責任なことを言ってぱたぱたと団扇で自分だけ仰いでいる。
 しかも、何故か浴衣だ。
 燃えていることには変わりないが。
 妹に無理矢理引きずり込まれてきた西山英志は既に物言わぬ炭と化していた。
 今は楓楓と譫言のよーに心で助けを求めるのみ。
 同じ引きずられてきた結城光は、炭とか灰とかいう以前に気化(プラズマ化)していた。
 精神体の紫音は、何も言わずに発光する球体に一条の冷や汗が垂れている。
『ロケット、第一末尾、切捨シマス。永劫回帰軌道ニ射出』
 永劫回帰軌道。
 つまり、地球から本格的に投げ捨てられる軌道だ。
「ちっくしょぉぉぉぉ! 私は必ず還るぞぉぉぉぉ! 綾香ぁぁぁぁぁぁ!!(涙)」
 さようなら、ハイド! 君の犠牲は忘れない!(笑)