我が星を知らしめよ王女 投稿者:Rune
 姫川琴音。
 彼女はヒメカワ星からやって来たプリンセスである。
 どういう経緯で彼女がこの学園に来ることになったかは一部の者しか知らない。
 が、知らなくても別段問題はないのだった。

「来ました……ターゲットです」
 ぼそぼそと呟くルーン。
「あぁ、今立ち止まりました……左右を見ています……誰もいないのを確認して、地面に
うずくまりました――何か苦しげに下腹部を押さえています。ええ、ええ――」
 手にはレシーバーを持っていた。
「あ、何か吐こうとしています。吐こうとしています――すこちゃん、そっちからはどう?
 見える? ――了解。もう少し近づいて観察してみます。太田委員、作戦Bに切り替え
をお願いします――」
 もぞもぞと匍匐前進を繰り返し、ルーンは茂みの中を突っ切ろうとした。
 ちょんちょん。
「あ、悪い。痕に――じゃない。後にしてくれ」
 ちょんちょん。
「あんだよ、今こっちはヒメカワ星人の生態を観察中――」
 ……………………
 そこまで言いかけて。
 固まる。
「……えーと……今の時期って、バードウォッチングにとっても清々しくて思わず茂みに
潜り込んだりとかとっても旬でナイスだよな」
 爽やかに振り返りながら、言い訳してみる。
 相手の顔は逆光で見えない。
「ま、平和の象徴だよな、バードウォッチング。別に鳩を観察するわけじゃねーけど。
 こう、何か心洗われてそのままスープになるって感じ? みたいなー」
 ……………………
 にっこり、と姫川琴音の娘、姫川笛音が微笑み――

「ふーむ。今回も失敗かね……」
 月島拓也は腕を組んでそう呻いた。
 無論、地下に作られた特別生徒会室である。
 ここには、番組の終了間際まで、絶対正義の味方――いわゆる、善玉――は踏み込んで
はならないと校則に定められている。
 正義の味方だけに、校則だけは遵守しなければならず、実に相手の弱点を突いた作戦で
あった。
「ヒメカワ星人について、判明していることは次のことです。
 1。ヒメカワ星人は卵から生まれる。
 2。孵化した直後から、知能を持つ。
 3。糸が作れる。
 4。繭が作れる。
 5。UFOで通学してくる。
 6。コケモモは食べない。
 7。わかめも嫌い。
 8。海苔を醤油で煮込まないと食が進まない。
 9。紫色である――」
 香奈子の列挙する声に、拓也は頭を抱える。
「本当に哺乳類なのかね?」
 それに対してはルーンが答えた。
「一応出るところは出てますから。でも、そうと見せかけて実はオッパ@ミサイルとか、
そーゆー変則的なパターンを使ってくるかも知れませんね」
「るーちゃん……君、何歳……?」
 無茶苦茶古い発言に、健やかがぼんやりと呻く。
 それは無視して、ルーンが顎を撫でた。
「ピッコ@大魔王よろしく卵を吐くことから、おそらく雌性体であることは間違いないと
思います」
「ピッコ@大魔王……?」
 眉を顰める太田香奈子に、ルーンはわざわざ説明しなかった。
「ナ@ック星人も卵を吐きます。ここで考えたいのですが、ヒメカワ星人は、卵を繁殖に
使っているのではないかも知れません」
「ほう」
「つまりですね。ピッコ@がタンバ@ンと@ンバルという全く別の生き物を使うように、
ヒメカワ星人のあのガキは、実はヒメカワ星人ではなく、主に従うガーディアン、付属者
といった存在なのではないでしょうか? 何か小学生の分際でえらいハリセンが強烈っす」
 熱弁するルーンに、拓也はにっこり微笑んだ。
「で、6度目の任務失敗に対する言い訳は終わったかね」

 お仕置きタイムが始まっているその頃。
 中庭で、OLHは見知った後ろ姿を見かけた。
 呼びかけると同時に、抱きつく。
「ふーえねちゃんっ☆」
 ……………………
 ……………………
 ……反応がない。
 ふと、不安になった。
 実は人違いだったりして。
「えーと……」
 おずおずと手を離す。
 少女はゆっくりと振り返った。冷たい視線。
「な、なーんだ。やっぱり笛音ちゃんじゃないか」
 ――そう。姫川琴音を10歳ほど若返らせた感じの、小学生。
 が――
「この無礼者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ヘブッ」
 いきなり鳩尾に回し蹴りが入った。
「私にセクハラを働くとはよい度胸じゃ! そこへ直れ! 手打ちにしてくれるッ!!」
 順にジャンプ強パンチ>近立強パンチ>ボディがお留守だっチに繋がる。
 バグかも知れないが、そこから――
「見せてやる! ヒメカワの拳をぉぉぉぉぉぉっっ!!」
 最終決戦奥義『無式』(しかもMAX)がキャンセルで繋がった。
 一溜まりもない。
 あえなく吹き飛んだ。
「あうう……」
「心配するな、所持金は半分、経験値はそのままにしておいてやる」
 おいおい。
 消えゆく意識の中で、OLHは最後にこんな声を聞いた。
「ここにおられましたか、女王さま!」

 藤田浩之は、その頃姫川琴音と楽しく談笑していた。
「へえ。なるほどねー。じゃ、今日、琴音ちゃんのお母さんが来るんだ?」
「はい。進路指導ってことで……」
「へー。きっと琴音ちゃんのお母さんだから美人なんだろうな」
「私よりも外見が若いですから――」
「ははは」
 今のが琴音ちゃんギャグか。そう思っていた浩之は、まだ中庭での出来事を知らない。

「あ、すみません。お母さん見かけませんでしたか?」
 柏木初音はそう声を掛けられて振り返った。
 そこには、姫川琴音の妹(だと彼女は思っていた)である笛音(らしき少女)がいた。
(ああ、そういえば、今日は進路相談だっけ……)
「あ、ううん。見てないよ。一緒に探してあげようか?」
「……あ。そうしていただけると助かります。
 他にうちの孫も一緒に探さないといけないので――」
「?」
 初音は多分自分の聞き間違いだと思った。

「あ、姉さん。いいところに来たわね」
 来栖川綾香は、廊下の角でばったり会った姉、来栖川芹香に、そんな言葉で用件を切り
出した。
「ほら、この子、迷子みたいなの。浩之の知り合いに確かこの子によく似た一年生がいる
でしょ? その娘のところへ連れていってあげて欲しいのよ。私、これから葵と組み手で
道場へ行かないといけないから――」
「……………………」
「あ。そう? じゃ、お願いするわね!」
 そして、後ろの子を前に押し出し、じゃーねー、と片手を去り際に軽く振ってその場を
駆け去った。
 ……やがて。
 ぴょこん、と芹香のスカートの影――綾香からは廊下の角が死角になって見えなかった
――から、同じ顔の子供が顔を覗かせる。
「あ、おねーちゃん」
「こんなところにいたの、お前」
 ぴょこん、と芹香の頭から顔を覗かせる子供がまた一人。
「あー、おばーちゃんだー」
 やがてわらわらと出てくる。
「あれ? おかーさんは?」「ちょっとトイレに行って来るって」「えー」「ひーひーの
おばーちゃんはどこに行ったの?」「あ、きょうだい見っけー」「きょうだいじゃない。
せいぜい、いとこかはとこだよ」「じゃ、はとこ、これからどーする?」
 わらわらどころではなく、既にうじゃうじゃになりつつあった。

 梓はとっくに気を失っていた。

「あうう〜痛いです〜」
「何で髪が緑なの〜?」
「紫でないと夜に光らなくて不便だよ〜?」
「あ、あの、私、ロボットですから……」
「へー、ロボットって言うんだ〜」
「変な耳〜とっちゃえ〜」
「あ、駄目だよぉ。それ私が食べるの〜」
「繭に入れて増やせばいーじゃん」
「冷たくなっちゃうから駄目〜」
「あうう〜」
 セリオはとっくにシステムダウンしている。
 他のSS使い? みんな個別に撃破されております(笑)。

「ふふ……凄まじい威力を発揮していますね……」
 各種ビデオカメラを兼ね備えた地下生徒会室。
 そこで、ルーンは含み笑いを洩らしていた。
「幼児に暴力を振るえば悪ですからね……つきまとう幼児を無理矢理引き離すのも悪です
し。くっくっく……善玉の諸君も、この天災には為す術もなく翻弄されておりますな……」
「私たちの実力じゃないけどね」
 ぽつりと呟く香奈子に、ルーンはちょっとだけ沈黙した。
「で、でも、これは千載一遇の機会ですし、逃す手はないですよね」
「……具体的に何をするわけ?」
 健やかの突っ込みに、ルーンは胸を張る。
「何か。」
 ……………………
 ……………………
「いや、お願いだから日本刀とか抜かないでってば。
 つまりだね、この事態に乗じて何か生徒の皆さんが更に困るような事態を引き起こして
民衆に恐怖を植え付けてもいいし、逆にこの事態を収拾して我々の悪の組織力をアピール
してもいい。
 とにかく、黙って見てるより何かした方がいいってことだよ」
「ふむ……」
 そこで、拓也が初めて言葉を発した。
「こういうプランはどうかね?」

『ぴーんぽーんぱーんぽーん☆』
 何故か肉声で、チャイムの擬態が放送で流れた。
 やたら脳天気な声で、それは告げる。
『えー、本日、一年生は急に授業参観も執り行うこととなりましたっ☆
 生徒の皆さんは保護者の方によーく連絡をしておいてね☆
 放送部若手一年生部長、柏木ちーちゃんからの、お・ね・が・い☆ なお――』
 そこで、いきなり声質が変わった。
『保護者のいらっしゃらない生徒は問答無用で留年とします』

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 はいはいはい。
 お待たせしてないと思いますが暗躍生徒会暗躍編、ヒメカワ星人侵略の巻です。
 うーむ。ほんとはこれ、不意打ちで書く予定だったので、あんまし驚く方いないよなぁ。
 でもヒメカワ星人には、いわば@@――みたいな役割を演じて貰う予定ですんで、これ
はまだまだ序の口の筈――です。作者が飽きなければ、ですが(笑)。
 さて、いきなり続きものになっています(笑)。が、例えば「我が過去を消せ暗殺者」
と「我が塔に来たれ後継者」のよーに、ある程度独立して読める話になる筈です。
 ――だから、次にもヒメカワ星人が出るかどうかは全く謎です(笑)。

『今日のハイドくん』

「ああああ! それ返せぇぇぇぇ!」
「きゃははは☆」
「このおねーちゃん、私見たことあるよ〜」
「あー、写真の裏にポエムが書いてあるぅぅぅぅ」
「読むなぁぁぁぁ!」
「おねーちゃんに見せてくるね〜」
「若いっていうのはええのう」
「にーちゃん、こっちお茶足りんゾイ」
 さあ、どんどん不幸だハイドラント! 頑張れハイドラント!
 自分ことるーんがオーフェン無謀編の新刊を手に入れる日まで!(笑)