我が氷室を守れ子羊1 投稿者:Rune
「……平和よのう」
 ぽつりと呟くルーン。
 確かに平和だ。
 芝生には陽光と風が優しく緑を彩っている。
 遠くから届く喧噪も。まあ、そんなものだろう。
 実に、静かだった。
 彼の周りだけなら――いや。
 やたら険悪な声が、降ってくる。
「る・う・ん・さ・ん?」
「おや。えーと……」
 突如差す影。
 見上げると、見覚えのあるかも知れない少女が、こちらを見下ろしていた。
「えーと……」
 確か名前は……
 ……………………
 ……………………
「ああ。青い人」
「松原葵ですっ!」
「んなに怒らんでも。実際青いし、いいじゃねえか」
「よくないっ!」
「それもどーでもいーが、何か用件があったんじゃないのか?」
「どうでもよくないけど、そうです」
「何の用だ? 金利20%毎秒で良ければいつでも全財産融通してやるぞ」
「いや、そうじゃなくて……ルーンさんの仕業でしょう、あれ?」
「あれって?」
「ほら、授業参観……」
「ああ。そっちか……いや。仕掛け人は月島会長だぞ」
「どうして反対しなかったんですか?!」
「する理由がないだろ」
「大ありですっ! 保護者来なかったら留年って言ってたじゃないですか!」
「そーゆーこともあるかもなあ」
「他の人とか大騒ぎしてますよ。学校の電話がパンク状態だし――」
「自分にどーしろと?」
「授業参観取りやめにして下さい」
「無理だ。柏木千鶴教師がノリにノリまくってるからな――」
 最後の声は、いかにも愉快そうだった。
「生徒として」
      ・・
「あーら千鶴先生、どーしたんですかぁ?」
「またおばさんがセーラー服来てるー」
 そういう冷やかしの後には――
 通りすがりの一年生女子たちは、既に日本にいなかった。
 某ロリ作家の言。
『だってセーラー服は恋する乙女の服だもの☆』
 千鶴教師はセーラー服を装備し、精神年齢を退化させることによって、戦闘力が100
倍されることを、彼女たちは知らなかったのだった……
 もはや彼女の前に立ちはだかる愚か者は、柏木耕一だろーが久々野彰だろーが風上日陰
だろーがDセリオだろーが、全てスプラッタかスクラップになること請け合いである。

「ど・お・す・る・ん・で・す・かぁ!?」
 一言毎に掴んだ首根っこを揺らしながら、葵は表情を蒼白にして喚いた。
「私たち、終業までに命が幾つあっても足りないじゃないですか!」
「……だから俺に言うなよ青い人」
「葵です!」
「うるせえなぁ。青い人を青いと言って何が青い」
 何が悪い、である。あまりにさりげない間違いに、葵も気づかなかった。
 ……ぜえぜえと息を荒らげる葵に対し、ルーンは実にマイペースに、再び芝に寝転がる。
 ひどく余裕のあるルーンに、葵がふと気づく。
「……そういえば、ルーンさんはどうするんですか、保護者」
「保護者っつってもな。いるわけねえだろ。んなもん」
 ルーンと同じ中学にいたこともある葵は、彼が孤児であることを知っていた。
「ま。自分の場合は未成年じゃないからな」
 彼は、実は日本国籍ともう一つ別の国籍を持っている。
 同じ中学にいたといっても、彼はその中学に招聘された留学生の立場だった。
 日本の法律に照らし合わせれば彼は未成年だが、彼のもう一つの国の法、タフレム法に
基づけば、彼は立派な成年男子ということになっている。
 それを利用する気なのだろう。
「……寂しくないんですか?」
「遠慮なく訊いてくるな、お前」
「ごめんなさい」
「別にいいけどな。
 だからこそ、親ってのがどんなにありがたいもんかも知ってるしよ」
「……………………」
「たまにはいいんじゃねえか、授業参観。どうせここの連中は安穏とてめえ一人で育って
来ました、みてえな顔する奴が多いんだからよ。たまには分相応のガキである現実を実感
すんのも、そう悪いこっちゃねえだろ」
 ……………………
 そういえば。確か、月島現生徒会長も、事故で両親を亡くしていると聞いたことがある。
 眠たげな目を無理矢理釣り上げたような、そんな目つきの少年の横顔に、葵はそれ以上
追及することができなかった。

 健やかはというと――
 体育コートにいた。
 呻く。
「あのー……僕は三年で授業参観があるわけでもなく、ついでにちゃんと授業もあったり
するんですけど……」
「サボりたまえ」
 きっぱりと月島拓也が言い切った。
「しくしくしくしく……」
「心配するな。僕も一緒に休むんだ」
「っていうか、月島君は成績トップだからいいけどね……僕は極めて普通の一般人で……」
 ちりちりちりちり。
「サ・ボ・っ・て・く・れ・る・よ・ね?」
「あああああはははははいいいいいぜぜぜぜぜひひひひひサササササボボボボボらららら
らせせせせせててててていいいいいたたたたただだだだだきききききままままますすすす
すぅぅぅぅぅ!」
 虚ろな目からぼろぼろ涙をこぼしながらかくかく頭を振る健やか。
 香奈子はそんな二人を横目にくすくす笑いながら、体操着でグラウンドの線引きを行う。
 健康的な陽射しは、三人の影をくっきりと大地に刻んでいた。
 もうすぐ、3時間目が始まる――

「えーと」
 じゃらぁぁぁぁぁん(ギターの音)。
「というわけでだね〜」
 じゃらじゃらぁぁぁぁぁん(くどいけどギターの音)。
「やはり授業参観と言えば体育! 体育と言えばドッヂボール!」
 そのままアルペジオに移る。
「今日の体育は全クラス合同ドッヂボールに変更になったのさ、ベぇぇぇイベぇぇぇー!」
 そのままストロークに戻り、ギターを垂直に持って凄まじい速さで弾きまくる。
 感極まって踊りだした。
 クラシックギターの筈なのに、何故かアンプを蹴飛ばし、そのまま絶叫する。
「いいいいいいいいやっっっっほぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!
 みんな! 俺の歌を聴いてく」
 ごがすっ。
 つかつかと歩み寄っていた風見が、隠し持っていたスパナでがつりと眉間を一撃した。
 沈黙。
 やがて、吐血して倒れる。
 ……誰も突っ込まなかった。
「……自習に賛成の人は?」
 はーい、と、後ろの保護者までもが手を挙げた。

「頑張りなさい、琴音!」
「一撃必殺よ、姉さま!」
 どう見ても双子としか思えない琴音小学生バージョンが二人、メガホンもって応援。
「未来の女王の座を手に入れるための第一関門です、琴音!」
「笛音もドッヂやりたいから、一人欠員作って〜!」
 ……無茶苦茶である。
 無論、序の口だが。

 Cコートでのこと。
 ふふふ。
 Hi−waitは特殊スパイク付きのボールを片手に、佇んでいた。
「敵、即ち、悪。
 悪く思うな。正義を遂行するためだぁぁぁぁぁっ!」
 大きいモーションで放ったそれが、なかなかのスピードで敵コートに飛来する。
 ……みんなかわした。
 当然だが、仲間の方へと向かい――
 仲間もかわす。
 するとその先には――
 保護者。
 10人が吹き飛ばされた。
「よっしゃ、ストライク!」
 だが、作者はこめかみの汗に気づいているぞ、Hi−wait。

「いきますよ美加香!」
「はいっ、ひなたさんっ!」
 適当にどっかの少女を踏み台にし、だんっ、と風見が上空5mにまで舞い上がる。
「だりゃぁぁぁぁぁっ!」
 そこから放つ疾風さえともなった渾身の一球!
「ひぇぇぇぇぇ〜」
 反応すらできず、マルチが吹き飛んだ。
 上空に跳ね上がったボールは、再び地面に落ちれば、マルチがアウトである。
 だが、それは計算ずくなのか?
 ボールは上空高く浮き上がり、何と風見コートへ戻っていく!
 これでは、取れない――?
 いや!
「セリオさんっ!」
「――はい」
 レッドテイルの意図を素早く察すると、彼女もまた、レッドテイルを踏み台にして跳躍
する。だが、やはり届かない――そこへ。
「ガンブレードよっ!」
 そう。レッドテイルの愛剣(銃?)が、セリオをオートモードで背後から狙い撃ちした。
 純粋なエネルギーだけの砲射は、ダメージのない颶風としてセリオを後押しする!
 そして、セリオが届いた。
 ぱし、と自サイトに軽く打ち、そのまま着地する。
 うむ。やはりセリオのブルマはなかなかいい(結局それかね、自分)。
「やりますね……」
 初音がボールをキャッチするのを見て、風見は呻いた。
 せっかく一番弱いマルチを狙って打った初策があっさり破られてしまった。
「来ますよ、ひなたさんっ!」
「理解ってます、美加香!」
 が、別の処からそれは飛んできた。
「あfほwtる0あえtんう゛ぁjんbさl!?」
 凄まじい音を立てて、モップの柄が風見のほっぺにめりこむ。
 そう――
「ひ〜な〜た〜く〜ん〜?」
 凄絶な笑みを浮かべながら、ゆらりとセリスが現れた。
 あんたは授業中だろうが。
「マルチを狙ったね? 故意に。勿論事故でも許さないけどねぇぇぇぇぇ」
「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
 失神した風見の代わりに、美加香が悲鳴を上げて後ずさる。
 そのまま暴走するかと思われたが――
「セ・リ・ス・せ・ん・ぱ・い☆」
 後ろから掛けられた声。妙に若々しい声だが――
「こ〜んなところで何をしてるんですかぁ?」
 くす、と笑う。
 対照的にセリスはひきりと固まった。
「ここは一年生のクラスですよぉ? やだなぁ☆
 授業サボって来られたんですね?」
 そこで、不意に口調が変わった。
「内申書に付けておきます。放課後、校長室までいらっしゃい」
 くるりときびすを返す千鶴に、セリスは慌てて追いすがった。
「ま、待って下さい、柏木『先生』! これにはりゆ」
 彼は忘れていた。彼女は、今は柏木千鶴ちゃん一年生であることを。
 合掌。

 リタイア:
・Hi−wait:八百屋のお父さんに叱られてリタイア(生家が八百屋なのか? 謎)。
・風見ひなた:セリスに誅殺。
・赤十字美加香:ひなたの付き添い。
・セリス:乱入した挙げ句、スープに。

<あまりに長くなりそうなので続く>

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 えーと。どもども。るーんでございます。暗躍夏休み企画3日目です。
 例によって一口サイズを目指したこのシリーズ、結構長くなりそうなので一度切ること
になりました。
 次で落ちが着くのかな?
 ま、着かなければ着かないでそれもまたよし(笑)。
 今回は一年生を中心に話を組んでおります。
 Lキャラが少ないので、どーしてもSS使い中心ですけど。
 あ。ただし、出ない人は出ないです(笑)。今一つ使い方の理解らない人とか、無理に
使う気はないので……失格とかいう訳じゃないんですが、どういう場面で使っていったら
いいのかが理解らないキャラは、とりあえず様子見です(笑)。チャット中心に活動して
おられる方もいるよーですし、無理に使うこともないんじゃないかと自分は思っとります。

『今日のハイドくん』

「綾香ぁぁぁぁぁ、お前子持ちだったのかぁぁぁぁぁ」
 恨めしげな声で、ハイドラントが這い蹲ったまま呪詛を上げた。
「だっ……誰が子持ちよっ!?」
「そーだそーだ。綾香は『これから』私とハネムーンなんだからな。瘤つきじゃないぞ」
「あんたもよ、ゆーさく!」     ・
 そーだ、厚かましいぞゆーさく(綾香も自分のだい<こらこら)。
「悠朔(はるか はじめ)だっ!」
「葵ちゃん、頑張ってるなー。結構はりきってるじゃねーか」
 保護者席から同じく観戦する浩之に、綾香は頷いた。ハイドラントの声が未練がましい。
「あああああ、一歳違いの親子なんて、不潔だぁぁぁぁぁ」
「何で後輩の保護者役を引き受けただけでそこまで言われなくちゃなんないのよっ!」
 嘆くハイドラントの脇腹をさらに踏みにじる。何故か綾香は今日に限ってスパイクだ。
「ぁぁぁぁぁ〜、世は理不尽だぁぁぁぁぁ」
 血反吐と共に出る悲痛な叫びは、末期のものにしては弱々しかった。