我が影に踊れ来訪者 投稿者:Rune
 茂みの中で。
「きゅぴーん」
「きゅぴーん?」
「目の光る音」
「なるほど」
 おもむろに呟く傍らの少年に対し、ルーンは特にそれ以上何も言わなかった。
 いつものパートナー、健やかではない。
「なあ、やーみぃ」
「Hi−waitだ」
「そうかやーみぃ。えーとだな」
 ぼりぼりと彼は頭を掻く。
「お前、正義を自称してなかったっけか?」
「うむ。自他共に認める正義の使徒だ」
「パターンが青なんだろ?」
「そうそう……って、何故だ!?」
「隠さなくてもいいぞ。まあ、それはさておきだな、自称正義の人。自分らが今から何を
するか理解ってっか?」
「うむ」
 慎重な顔つきで頷くHi−wait。
「ずばり悪の殲滅だろう」
「いや、目的じゃなくてだな。具体的な行動のことなんだが」
「ふ。皆まで言うな――つまり、今からあれを乗っ取るのだろう?」
 指さした先には、何故かLeaf学園小等部の通学バス。
「ふっふっふ。任せろ。1分あれば十分だ」
「いや、そーじゃなくてだな。バスジャックは悪とか言って、いきなり寝返ったりしねえ
だろうな?」
 まさに最大の懸念がそれだった。
 土壇場で裏切られては元も子もない。
「ふ。安心しろ。日頃から我が儘言い放題の児童の皆さまに、ちょいと喝を入れるためだ。
 これが正義でなくて何だ?」
 単なる横暴。
 喉まで出かかった言葉を、ルーンは無理矢理飲み下した。
 代わりに別のことを口にする。
「……計画は基本的に人目につくところでど派手にやれって月島会長は言ってたからな。
 校門で待ち伏せるぞ」
「ふむ。どうやってバスの足を止める?」
 基本的にこのシリーズでは、ルーンは特殊能力を使わないように作者は心がけていた。
 策士として立ち回れば、戦闘能力などなくても相手を叩きのめせることを実証するため
でもある――というか、それ以前に、番組もそろそろクライマックスに差し掛からないと、
という辺りで初めて悪の幹部はその力を見せるものである。
 その辺、ルーンは徹底していた。
 ……数秒の考慮の末、決める。
「――スパイクでいこう。素早く小回りの利く足を利用して、一気にタイヤを潰す」
「タイヤの弁償費は?」
「それは生徒会に回す」
 悪である。
 ルーンは続けてHi−waitに指示した。
「後部乗車口は任せたぞ。自分は前から乗り込むから。あ、これインカム。着けとけ――
本部の全体把握している太田委員と連絡が取れるからな」
「うむ。ところで、健やか先輩はどうした?」
「土中で待機」
「土中?」
「地面の中を知らんのか?」
「いや、知ってるが。つまり、サンダーバードか?」
 お前は何歳だ?
「轟雷号って知ってるか?」
「――そんなものまであるのか、おい」
「魔装騎兵を待機させてある」
「見せ場というわけだな?」
「そーゆーこと」
 きーんこーんかーんこーん。
 きーんこーんかーんこーん。
「授業が終わったよーだな」
 Hi−waitの呟きに、ルーンは促した。
「――行くぜ」

 小等部。
 昔確かチャットできっぱし「ないよそんなもん」と明言した筈の幻の場所。
 ……何でそんなものが認められたのか? 一つには、小学生の増加がある。
 ……大体そんなエスカレーターの学園なんて、ろくな学力使わないぞ。馬鹿の集まりだ。
(偏見一部あり)
 だが。良太の存在もあったし、まー、これはこれでいいだろう。
 タケダテルオ? ああ、奴は一応人じゃないし(みんな人じゃねーじゃねーか、とかの
突っ込み不可。校則で決まり)。
 つーわけで、スクールバスに乗るのは――
 マルティーナシリーズ三人(個体名称を出さないのが実に面倒くさがりの作者らしい)、
雛山良太、精神年齢実は小学生と思われるHMX−12マルチ、きたみち静、てぃーくん
ことてぃー。んで、頭数が足りないので、てきとーに弱い人弱い人――カレルレンさん、
運転手よろしく〜。んーと他には〜……
(セリス:おい。
Rune:はい?
セリス:マルチがいるなら僕もいる筈だ。
Rune:マルチといっしょに人質になるか、それとも外から颯爽と救出するか。どっち?
セリス:人質にされつつ、颯爽と隙を狙って犯人撲殺。
Rune:……………………
セリス:……………………
Rune:えーと。『セリスは通りすがりのジン・ジャザムとメタオ星雲へと帰っていき
ました。マル』――と。
セリス:どーしてだっ!?)
 この前あんまり目立てなかったM・Kさん(伏せ字みたいだな)もクーラーの恩恵とか
に色々預かろうと便乗していました、マル。
 ――こんなところか?(舞台裏を書くなよ自分)
 おし。では、即興な暗躍生徒会、活動開始!

『えー、志保ちゃん・ニュース・ネットワーク! 本日午後、二人組の男子生徒が校門前
でバスジャックを働き、乗客30人を人質に立てこもりましたっ!
 なお、犯人ルーンからは、内職に必死な愛人、来栖川綾香嬢との復縁を条件に――』
 ぷぴゅるっ。
 スポーツドリンクを思いっきり綾香は坂下の顔に吹き付けた。
「汚いわねー……」
 昔は確か存在感のないキャラとして扱われていたけど、もう結構使われてるからあれは
撤回だなー、な好恵がジト目でタオル使って頬をこする。
「ルーンさんって、最近なりふり構ってませんよねー……」
 青い人が何か失礼なことを言った。
 お前相手だと反応が面白くないから、綾香なんだよ。
「うう……何か好き勝手言われてる……(しくしく)」
 それに対し――
 綾香はただ唇を震わせるばかりだった。
「…………あ…………」
 無表情に、坂下が聞き返す。
「あ?」
「…………あ…………」
 しゃっくりでもするかのよーに痙攣った喉から、裏返った声が出てくる。
 と同時に、格闘場に二人の生徒が走り込んできた。
「綾香!? 妊娠一ヶ月って何でだぁぁぁぁぁ!?」
「……ここでのごたごたが終わったら、私と南の島へ行こうと約束したじゃないかっ!?」
 そこで、綾香は意識が白くなった。
 叫ぶ。
「あほかぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」
 昇竜烈破キャンセル裡門頂肘キャンセルシャイニングフィンガーソードキャンセル遠心
連殺拳キャンセルギガデインキャンセルメテオレインキャンセル破邪剣征・百花繚乱。
 とにかく、名前も出なかったけどさようなら二年男子生徒追っかけ二人。
「行くわよ葵!」
「はいっ!」
 二人は胴着姿のまま飛び出した――
「胴着?」
 坂下が疑わしげに呟く。
「道着じゃなくて?」
 キャミソールって萌えますよね☆
「……とりあえず下らないセクハラしてないで素直に誤字ですって訂正しなさいよ」
 ……殴らんでもいーでしょーに……

「えー、警告します! ただちに人質を釈放しなさいっ!」
「今ならまだ執行猶予がつきますよ〜」
 遠巻きにそう言ってくるジャッジの面々を、バスの屋根に立って見下ろすルーンは、ふ、
と鼻で笑った。
 小声で胸元に仕込んだHi−waitに指示を出す。
「……やれ」
「ラジャ」
 予め地面に仕込んでおいた地雷により、ジャッジ用の対策本部のテントが吹き飛んだ。
「さよーなら、岩下先輩他一同☆」(別に恨みはないけど)
 英雄も毒と子供と地雷とプリーストブラスターとグレムリンと魔力がない時のしまった
テレポーターと柏木千鶴には勝てない。
 ……………………
 実は結構弱点だらけなのか?(笑)

「師匠! どーしまししょう!?」
 さりげなく言う結城光を、西山英志が裏拳で殴った。
 葛田が呻く。
「それは駄洒落になってないと思うよ、ひかりん……」
 それに英志がジト目を向けた。
「ていうか、何で君がここにいるのかね、妹の詐欺相手の弟子」
「んっんっんっ……導師が何故か帰ってこないのでねぇ……」(遠い目)
 だって、今ハイドってば『赤い』んだもん。
「って、何で私が詐欺なのよ!?」
 EDGEが怒った。
「兄さまなんてそれ言ったら単なる正当化じゃない! 心おきなく妹以外の女で暴走して!」
 本音はそれだったんかい、神威の師匠(今は既婚者でしたっけ。でも遠慮なく使わせて
いただきますです。笑)。
「……なっ、そ、それはだなっ! 楓をより高尚に愛でるための――」
「詭弁よっ!」
「愛は地球を救うと言うし――」
「専らあの女以外は破壊してるじゃないのっ!」
「破壊こそ救済という考え方も――」
 それはダークでしょーが。
 という会話に、いー加減切れた風見が怒った。何か文法違うけど。
「だ・ま・れぇぇぇぇぇっ!」
 ついでに美加香を投げる。
 がしゃこぉぉぉぉぉん!
 ストライクだ、風見!
「人の娘が人質に取られてるってのに、背後で気楽に騒ぐな! 理解ったか! そのくそ
ボケた頭にとくと理解できたら黙ってろ! 喋るな! 呼吸も禁止です! ゆーしー!?」
 こくこくこくこく。
 娘を案ずる父の前にはさすがに不敗流の始祖も必死に頷くだけだった。
「ったく」
 親指の爪を噛みながら振り返る。
 その視線に当てられ、ルーンも頷いた。
「そーそー。できれば主犯を無視しないで小ネタで盛り上がらないで欲しいぞ」
「事件が終わったらあんた殺ス」
「たかだかバスジャックでそゆ不穏な発言をしないで欲しいなぁ――っていうか、立場が
飲み込めてないよーだね、ひなたん」
「誰がひなたんだ」
 あ。本気で怒ってる。
「ふー。しょーがないなー。我々が本気であると言うことを見せねばなるまい――
 Hi−wait! 人質を10人出せ!」

「これは由緒正しき(らしいけど出身者に言わせれば創立百年だろーが何だろが要は生徒
の質であって歴史を誇ってどーすんだよ、ってな鼻持ちならない)鹿児島県立加治木高校
山岳部の、名誉ある公開処刑である!」
 宣言すると、ルーンはカレルレン教師を引き出した。
 後ろ手に縄で縛ってある。
「すいませんね、カレルレン教師」
 ぼそりと耳元で囁くルーンに、カレルレン教師は軽くウィンクした。
「……まあ、生徒のわがままに付き合うのも教師の役目さ。見せしめなら、男の方がいい
しね」
「恋愛勇者は伊達じゃないですね」
「ま、ね」
「じゃ、目を瞑って歯を食いしばって下さい」
「ん」
 そこで、ルーンが高らかに声を張り上げた。
「見よ! これが末路だ!」
 唇が塞がれる感触――
 口の中を掻き回される感触――
 数秒後、カレルレンは絶叫を上げた。
「ぎぇぇぇぇぇ!?」
 そのまま悶絶して倒れ込む。
 白目を剥いて泡を吹いた。

 ……………………
 全員が固まる。
 ……………………
「…………鬼…………」
 ゆきと並んで見ていた初音がぼそりと呻いた。
 あんたに言われたくはないって。

「って、ルーンさん、薔薇だったんですかぁっ!?」
 傍観者・葵が悲鳴を上げた。
 ルーンがたまらず叫ぶ。
「何でだっ!?」
「だって、あの描写からすればどー考えても――」
「唇と舌先にわさびの塊を叩き込むことの何処が薔薇だっ!?」
「見損ないまし――え?」

・購買部特選鬼わさび「ちづる」
 タウリン1000mg配合。効能は名前の通り。

「ふっふっふ……さーどーだ?! 児童ちゃんの唇を真っ赤に腫れ上がらせたくなければ、
こっちの要求通り、綾香の水着ショットぷりーづ!」
「…………水着くらいどーってことはないけど、あいつに言われるとひじょーに見せたく
なくなるわね」
 そこへセバスチャンが現れる。
「……お任せ下さい。このセバスチャンがしっかりスクールみじゅぎの神髄をご覧に入れ
ましょうぞ」
「ボケ老人は引っ込んでていいわよ」
 身も蓋もない綾香の言葉に、セバスチャンは号泣した。
「さー、どーします綾香!? ちなみに校庭でのサービスポーズありーのということで、
購買部に定価4000円で限定発売してもらい、資金もひじょーに潤う予定! 買い占め
は30%増しとなっております」
「興味はあるけどな、ルーン」
 綾香を押しのけて、浩之が前に出た。
「もう無理じゃねーか?」
「――何ででしょう?」
「お前さ、作者が何て書いたか覚えてるか?」
「――ええ。人質は全部で9人を厳選」
「んで、あの志保のニュースでは何人捕まったか覚えてるか?」
「30人」
 ……………………
 ……………………
「そーいえば、人質も10人バスの上に引きずり出したっけ」
 バスの中からくぐもったHi−waitの声。
「これはどーゆーことだと思う?」
 静かな浩之の声に、ルーンはぎぎい、と首を横に向けた。
 そこには、ヒメカワ星人が7人。
 さっきカレルレンにとどめを刺したから、残りは9人でないといけない筈だが――
 ふと、左手に違和感。
 見ると、ヒメカワ星人の最期の一匹が熱心にじゅるじゅる特選わさびを啜っていた。
 恍惚として。
「えーとー……」
 余った右手で後頭部をぼりぼり掻く。
 ……この一匹を入れても、全部で9人。残るは――
 そう思考が続けようとした時、M・Kのマルチから強奪したモップが、後頭部に見事に
突き刺さった。
                                  <おしまい>

****************************************

 えー、やはり幼稚園バスジャックだな、と我孫子武丸ファンは思う次第(笑)。結構、
伏線っぽい伏線も張ったので、これはある程度自信作です。さすがに1日作りですから、
練り込みは甘いんですが。
 伏線のない小説というのは、書いていてどーも物足りない。
 でも、伏線作ると辻褄合わせが面倒くさい。
 ……悩みです。ぱっと書く話に慣れたいんですが、どーも無理くさいですね、自分は。
 この辺、アマチュアの弱点です。プロになればいい面なんでしょうけどね。
 にしても、いつになく長いなぁ。前後編に切り分けてもよかったんですが、狩人の2の
前に挟まる形でしたから、ばらばらになって記憶が途切れてしまうのを避けたかった。
 一口サイズと言えず少し反省。余計な小ネタを出しすぎたかな? 少なくとも不敗流の
下りは要らなかったよーな気も……(実はこれは後から削ると他と辻褄が合わなくなって
仕方がなかったんです。他の小さいのは削りました)

『今日の背約者』

「やあ、ハイドラント」
 五体満足になったハイドラントの前に現れたのは言うまでもなくルーンだった。
「今日は裸エプロンであんたの師匠の前でこいつといちゃついてもらうから」
「離せぇぇぇぇぇ!」
 血涙のHi−wait。
 疲れたよーに彼は嘆息した。
 彼の師匠の怖さは彼自身が知っている。
 逃げてもきっと彼女ならウルトラ星まで追いかけてくるだろう。
「なー、ルーン……」
 ぼんやりと、呻く。
「ひょっとして、そいつも……?」
「おう」
 ルーンは嬉しそうに頷いた。
「見事に自分にオーフェンのネタばらしをやった一人だ」
「…………そか」
「一応三角木馬とか向こうで用意してあったぞ。男物のボンテージも」
「……………………」
 ハイドはしばらく涙ぐんでいた――泣き出すほどに弱くはなかったとしても。