体育祭Lメモ「玉入れと見せかけて実は玉入れ」 投稿者:Rune
 ふぁららふぁらら〜。

 ラッパを吹きながら誰かがバイクでグラウンドを前転していく。
 平和だった。
 つまり、まだ。
「ルーンくん、ルーンくん」
「何でしょーか?」
「次は何か特殊ルールを採用すると聞いたルリコ。
 一体何なのかルリコ?」
「へっへっへ……それは見てのお楽しみってやつですかね」
「それじゃわからないアルルリコ〜〜〜☆」
 じたばたじたばたじたばたじたばた。
 レレレのおじさんよろしく左右に動きながら手足を「丸」にする拓也を、適当に久々野
彰が引っ張っていった。
「ほら行くぞ」
「駄目だぁぁぁぁぁルリコ。瑠璃子にこっそりリークするんだルリコぉぉぉぉぉ……」
 まあ、そんな喧噪も遠ざかり。
 後はざわめきのみが残る。
 第二競技までにグラウンドを整備し直すので、生徒たちが暇なのだ。
 溜め息を吐いて、おもむろに近くのぼた餅を頬張る。
 刺激臭のするそれを飲み下すと、Runeはうっすらと微笑した。
「せいぜい頑張ることだ……お前らが強ければ強いほど。
 凌ぎを削り合えば削り合うほど。
 自分の策はより深くお前らを穿つことになるんだ……」
「ジャンプかい」
 あまりそっちの週刊誌には詳しくない筈の健やかが突っ込んだ。

「では」
「では」
「玉入れの参加者は」
「前に出てきて下さい」
 やたらちっこいの二匹が呼びかけると、適当にぞろぞろと入場口から選手が入ってきた。
 以下にリスト化しておく。

1年生:Hi−wait
    まさた
    葛田玖逗夜
    TaS
    柏木初音
    ワルチ
    EDGE
2年生:ひめろく
    西山英志
    Fool
    dye
    神岸あかり
    保科智子
    藍原瑞穂
3年生:月島拓也
    幻八
    OLH
    健やか
    きたみちもどる
    UMA
    来栖川芹香

「ちょっと待てぃっ!」
 何でげしょ。
 Hi−waitが喚くよーに続ける。
「3年、女子が一人だけじゃないかっ!? 正義に反するぞそれはっ!」
 あ。気づいた。
 そのとーり。他学年は4:3で男女を割り振っているのに、3年は芹香一人しかいない。
 男女差はそのまま持久力の差に繋がる。短期決戦ではない玉入れではちょっと分が悪い。
「まあ、落ち着きたまえ、Hi−wait君。これはキャラの都合なのだよ」
 そこへ拓也が出てきてHi−waitを制する。
「……キャラ?」
「そう。女生徒は3年には少ないのだ。限りある資源を有効に使わないと」
「理由になってないッ!」
「仕方ないねぇ……」
 す、と拓也が目を細めると、Hi−waitの身体がぴくりと震えた。
 そのままおもむろに、虚ろな目で開脚前転を始める。
 東へと。
 やがて適当に道行く謎の大八車に轢き殺され、Hi−waitの遺体の痙攣がぴたりと
止まってから。
 拓也はおもむろに振り返った。
「まだ他に貴重な意見はあるかな? つまり根絶やしにするという意味で絶滅指定な貴重
さということだけど」
 葛田と幻八と瑞穂と初音がぶんぶんと首を横に振った。

 かくて、1年生は一人欠員が出たままになった。

Hi−wait「待てぃ。」
 何か?
Hi−wait「まさかこれで終わりかっ!?」
 勿論。あ。何ならケチャップによる演出もつけておきましょうか?
Hi−wait「いるかいっ!」
 まあ、そう遠慮しないで。
 えーと……
『Hi−waitは哀れ、姫川笛音他幼児軍団にケチャップとマスタードで落書きされ、
短い一生を遂げました』
Hi−wait「あああああっ! こいつはぁぁぁぁぁっっ!」
『ついでにみょうがと100%レモン果汁を耳に詰められて薫製にしたら何かいい感じ。
 早速バター醤油を眼球に塗り込んでオーブンで30分待つでーす。
 待っている間退屈なので、冷蔵庫にある完成品をお召し上がり下さい。マル』、と。
Hi−wait「しくしくしくしく」

 まさか第一競技でラブラブのまま終わるなんて誰も信じてないだろーしねぇ(けけけ)。

 さて。
「はいはいは〜い。解説はこの長岡志保ちゃんが務めちゃうわよーん☆」
 そですか。ではよろしく。
「ほいほい。さーて、では、まず各学年から一人ずつ、代表者を選抜しま〜す☆
 選抜課程は面倒だから端折るわね。
 えーと、1年、EDGE嬢!
 2年、dye君っ!
 3年、UMA先輩っ!
 さーて、三人にはいわゆるカゴが与えられますっ! この中に玉が入れば得点ってわけ!
 で、ここでうちの学校お馴染みのルールとなるわけだけど、気になるその内容はっ!
『他人のカゴ持ちシステム』採用! つまりっ! 1年のカゴは3年が、2年のカゴは1
年が、3年のカゴは2年が持って逃げ回ることが可能っ! まあ、トラックの外へと出た
チームは自動的に失格と見なすから、気をつけてちょーだい。
 では、Are you ready!?」
 ぺらぺら述べ立てた志保が、そこでマイクに向かって人差し指を立てる。
 それに間髪入れず――
『GO!!!!!』
 生徒たちが一斉に叫び返して、その闘争は始まった。

 まずはUMAが真っ先に逃げ出した。
 その通り。ずばり距離を離してしまえば背負ったカゴに入れるのは至難の業だ。逃げて
しまえばかわすのは実に容易い。
「待てぇぇぇぇぇっ!」
 それを元気にワルチが追いかけていく。両手に沢山お手玉抱えて。
 その後を初音が両手に一個ずつお手玉を握ってついていった。
 だが、あっと言う間に距離を離していくUMA。
 それを、まさたは追わなかった。代わりに引き留めておいた玖逗夜に耳打ちする。
 玖逗夜の顔が驚きから次第に不敵な笑みへと変わっていくのはまあお約束だった(笑)。

 dyeも逃げだそうとはしていた。
 問題は逃げ出す前に囲まれてしまったことだった。
 きたみちが白々しくぽつりと呟く。
「そーいえば最初から戦闘不能にしてしまえば入れ放題だなぁ……」
(がっでむぅぅぅぅぅ)
 幾ら彼が昼寝好きとはいえ、保健室の上で包帯まみれになって寝るのは勘弁して欲しい。
 つーか、何で体育祭なんぞに参加してしまったのだろうと、彼はつくづく己が身の不幸
を顧みた。

 EDGEは。
「ふっふっふ……兄様、決着を着ける時が来たようね……」
「我が楓の愛にかけてそのカゴは置いていって貰おうか……」
 西山英志と含み笑いといっしょに対立していた。
 が、しかし。
 その後ろからこっそりとひめろくやFoolや瑞穂がぽとぽとお手玉をつま先立ちとか
でそっと放り込んでいる事実に、まだ彼女は気づいていない。

 ワルチがコケた。
 さああああ、とお手玉が放射状に飛び散る。
「あう…………
 う……
 うう……」
 あ。泣き出した。
 次第にしゃくり上げるその様に、何だかUMAの足も止まる。
 言い様のない罪悪感が胸を襲った。
「うぇぇぇぇぇ…………」
(う……し・しかし……)
 その想いを見越したように――
「あーあ。なーいちゃったないちゃった」
「先輩が女の子泣かした〜」
「針千本だ〜」
 川越たける、M・K、降雨ひづきがどこからともなくチアガール姿で現れて、躍りつつ
冷やかしていく。
 UMAの膝がついに地面に屈した(笑)。

 ていうか、あんたら競技者でもないのにグラウンドに立ち入るなよ。
たける「大丈夫。だって床上2センチで浮いてるし」
 そーゆー問題じゃない。
 ていうかどーやって浮いてるんだよ。
M・K「某猫型ロボットと同じで……」
 メカか。おのれらは。
ひづき「小さいことは気にしない気にしない」
 ルール違反だっつーとるんだってば(笑)。

 じりじりと狭まる包囲網。
 dyeの顎から汗がぽたぽたと滴り落ちた。
 やがて後ずさりする彼の背に、どん、と何かがぶつかる。
 振り返ると、いつもの制服に黒マントの芹香だった。
 制服着ろよ。お前。
 何にせよ、彼女は彼の頭を優しく撫でると、そのまま後ろへ――包囲網の外へ――道を
開く。
 dyeの瞳にはその時芹香に後光が差して見えたというが、宗教の話はまた今度。

「だぁぁぁぁっ! な・に・やってるのよっ!」
 さすがにいー加減、EDGEも気がついた。
 後ろ回し蹴りがたまたまひめろくにクリティカルヒット。
 鳩尾にまともに入ってもろくの字になったところに踵落とし。
「くぅらぇぇぇぇぇっ!!」
 &毒咬派生>罪詠>罰詠――大振りフックから反転肘、その勢いで更に肩掠めつつ背中
をぶち当てるという高等技術をかます!
 だが、やはりその背後に迫るあかりの白球――
 ……………………
 待てぃっ、硬球投げるなっ!
 しかしそこへTaSが現れるっ!
「Hi! 皆さんお元気ですカ? 故郷のことを思うといつも味噌ラーメンが食べたくな
――」
 手紙を一生懸命書く机付きの彼の頬にしっかりと命中して、あかり渾身のストレートは
見事に外れた。
 一応体を張って守って貰ったわけだが、EGDEは何故か素直に礼を言う気にはならな
かったと言う(笑)。

 UMAの視界に影が落ちた。
 初音が立っている。
 手にはお手玉が二つ。
 しばしの逡巡。
 そして、初音はお手玉を捨てて、膝を着くUMAに手を伸ばした。
「大丈夫ですか、UMA先輩」
 ……………………
 ……………………
 ぶわ、と溢れる涙。
「は、初音ちゃん……」
 そのまま、ひし、と抱き締める。
 後ろの方から「あー、初音ちゃんに何してるんですかぁぁぁぁぁっ!?」とか、「ゆき
くん、落ち着けってばぁぁぁぁぁ」みたいなやり取りが聞こえてきたが、もはやどうでも
よい。
 彼は泣いた。
 ひたすら泣いた。

 幻八ときたみちはブロックしたTaS(の残骸)を見て、頷き合う。
 そーか、妨害という手があったか、と。
「行って来い、幻八っ!」
「おうっ!」
 わぁぁぁぁぁ、そんな感じで2年の方へと突っ込んでいく幻八。プレイヤー攻撃に走る。
「ていっ!」
 たまたま彼の鋏が西山の頭に命中した。
 猛烈に血液がほとばしる。
「え?」
 汗。
 そこまでやる気はなかった。
 とりあえず謝ろうとして――
 何となく西山の背中に目が吸い寄せられる。
 そこには「天」の一文字――

 ぼこすかぼこすかぼこすかぼこすかっ!
 めっさつ。

 そこへ、志保が叫んだっ!
「おーっと、3年生チーム、何と幻八先輩を鉄砲玉として送り込みましたっ!
 ボーナス点数が加算されますっ!」
 何ぃっ!?
 全員が瞠目して掲示板に注目する。
 2年生チーム「に」鉄砲「玉」が突っ込んだから――
 2年生にボーナスが加算されたっ!
 ……………………
 ……………………
「ああっ!? 敵に塩送ってるっ!?」
 頭を抱えたきたみちを、拓也がバットで殴った(笑)。

 それを見て、Fool。
「そーだ、智子さんっ! いい方法を思いついたっ!」
「何?」
「いわゆる『玉のような女の子』でもきっと得点になるに違いないっ! 智子さんなら、
きっと高得点だよっ!」
 彼は取り違えていた。
 確かに、玉のような女の子とは言う。
 言うが、それはいわゆる新生児だ。
 可愛いことの喩えだが、「丸々と太った」の意味に普通は取る。
 勿論智子もそう受け取った。
「どぉぉぉぉぉゆぅぅぅぅぅ意味やねんっっっっっ!!!」
 かくてここにもリタイアが一人(笑)。

 そーかっ!
 OLHはFoolと同じ結論に達していた。
 しかも、玉のような女の子。ある程度幼い方が可愛いよな。
「笛音ちゃー……」
 以下同文。
 つーかあれで「れでぃ」つーのは無理がある気もするが(笑)。

 で。泣き咽ぶUMA。
 それに対し、肩越しに凶悪な目つきの初音(笑)。
 そう。第一競技の反転が抜けていなかったのだ(笑)。
 彼女はおもむろに手品のように次々と隠していたボールをUMAの背中へと放り込んだ
(笑)。

 やがて、ホイッスルが鳴る。

「はーいっ! 得点は1年生が堂々の50点っ!
 2年生が堂々の30点っ!
 3年生が10点となりましたっ!」

 全員、精一杯戦った。
 悔いのない戦いだった。
 ありがとう青春。
 ありがとう人生。

「で、ここで影からこっそりと1年生ルーンくんからの謎の特殊ルール!
 点数が反転しますっ!」

 …………は?
 誰かが、そんな声を上げた。

「えー、つまり、一位は3年のマイナス10点!
 二位は2年のマイナス30点!
 三位は1年のマイナス50点――」

 皆まで言い終える前に。

『何じゃそらぁぁぁぁぁっ!!!』
 真面目にやればやるほど逆効果と言われてキレた20人がぼこすかにしたと言うこと。
 めでたしめでたし(笑)。

 ……一人事情を知っていた健やかがぽつりと呟いた。
「駄目だこりゃ」