入学Lメモ『風が……』 投稿者:Rune
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 これは並列世界での話だと思って下さい(笑)。
 そーいや何となく入学した当初から『いた』設定にする人っていないなぁと思って適当
に書いた話です(単に事情を大体知ってないと面倒なだけという話もあるか)。


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 1000人以上もの人間が集まる、熱気のこもった体育館で――
「――ルーンだ。以上」
 ……入学式の後。
 生徒の集まり合い――この学校には学級が『ない』らしい――、いわゆるオリエンテー
ションという場で、彼はそう自己紹介を打ち切った。
 座る。
 ……しばらく沈黙が降りた。
 私は、何となく眼鏡がずり落ちそうな気持ちがして、こめかみに手を当てる。
 視線を横にずらすと、
「……………………」
 やはり私と同じように困っているらしい香奈子ちゃん(彼女も私と同じ生徒会役員なの
だ)の顔が伺えた。
 彼女が、逡巡した後に、ようやく思いついたという感じで口を開く。
「えーと……それだけ?」
「ああ」
 彼は――つい先ほど入学式を終えた――つまり一年生の襟章を早々と脱いだ制服の上着
から取り外しながら、顔だけこちらに向けてくる。
「駄目か?」
 二年生の襟章をつけている先輩である筈の香奈子ちゃんにそういう口を利いてくる。
 彼女のこめかみがぴくりと動くのが見えた。
 彼女はもともと気の長い人ではない。
 私は、慌てて口を開いた。
 ざわざわとざわめきだした体育館を遮るようにして。
「え、えーと、ほら、これは新入生のみんながスムーズに仲良くなれるようにするための
自己紹介だから――」
「だから?」
「趣味とか」
「趣味?」
 ……彼は、ぽんと手を打った。
「そーか。趣味か。えーと、スプラッタ映画」
 ――し…………ん…………
 体育館の中が水を打ったように静まり返る。
 彼は、そういった聴衆の反応に驚いたように辺りを見回しながら、ぽつりと付け加えた。
「……というのは冗談で、つまりスプラッタ映画の実践というか――」
「犯罪じゃねーか?」
 誰かが言うのに対し、彼はまたぽんと手を打つ。
「ああ。そーかも」
「……今まで、どこの中学にいたのかな?」
 震える声で――つまり、怒りを押し殺そうとして失敗した声で――香奈子ちゃんが呟く。
 相手にしないことにして、さっさと次へ進もうと思ったのだろう(私も同感だった)。
 彼も、その心情を察したのか、にっこりと一言で答えてくる。
「かもめ第三小学校」
 次の瞬間、彼の顔面に消化器が生えた。


 その後は、それまでより遙かに厳かな雰囲気で自己紹介が続いたことを記しておく。


 次に彼を見かけたのは、一週間後のことだった。
「何しやがるっ!」
 ばきっ、と身のすくむような音を立てて、彼が私の目の前に倒れ込んできたのである。
 続けて現れたのは……
「橋本先輩?」
 私たち二年の女子の間でも少しかっこいいと言われている三年生の男の人だ。
 ただ……
「ふう……ちょっと顔に落書きしただけじゃねーか」
 そう。
 額に『中』という字と口元から二本の細長くウェーブのかかった髭が落書きされている。
「ふざけんな!」
 立ち上がりかけていた彼の顔を蹴り上げる。
「大体、何でてめえが三年の教室にずかずか入ってきてあんなことやってんだよ! 殺す
ぞボケが!」
 ……どうやら、状況はかなり悪いらしい。
 自業自得だが、このまま見過ごしてもいい訳でもない。
 私が割って入ろうとした時――
「……事情があるんだ」
 彼は、ぼそぼそと苦しそうに呟いた。
 それに、橋本先輩が虚を突かれたようにたじろぐ。
 それというのも――
「……なに?」
 それまで殴られても蹴られても弱音一つこぼさなかったルーン――という名前だった、
と思う――くんが、あろうことか、涙をぽろぽろとこぼしたのだ。
「自分、もう2日も何も食べてなくて……ひもじくて……」
「…………」
「あんたとたまたま同じ教室に、柏木梓って女がいたんだけど――」
「ああ。あのデカい奴か」
 橋本先輩の相槌に、うん、と彼は頷いてから、
「それなら……弁当を半分くれてやるから……って……その代わり、そこにホモの入った
男が昼寝してるからラーメンマンにしてこいって……」
 なおもぽつぽつと続けるが、声がかすれていて聞こえなかった。
 ……………………
「…………あ…………あのアマ…………!」
 ぎりぎりと奥歯を噛みしめる橋本先輩に、
「……ごめんなさい……ごめんなさい……」
 弱々しく地面にうずくまって泣いているルーンくん。
 その手には確かに油性マジックがあった。
 橋本先輩もそこに視線を落として、小さく呻く。
 そこには確かに柏木、と書いてある。
「おい、あんた」
 先輩がぎろりと私の方を見る。
「は、はい」
「こいつに何か食わせてやってくれる? オレ、今から行くところあるから」
 ばきぼきと指を鳴らしながら、半眼で言いながらこちらに向き直る。
 ――そこで、私は我慢できなくなった。
「笑うなぁぁぁぁぁっ!!」
 橋本先輩の虚しい怒声が校内に響き渡った……


 橋本先輩が駆け去ってから。
 ルーンくんはゆっくりと体を起こした。
「ふう。んじゃ、自分は逃げるから後はよろしく」
「え?」
 私は目をしばたたいた。
 涙のあとは全く残っていない。
「え? じゃないって――ああ、そうだ。これ、やる」
 そう言って手にしていた油性マジックを私に放る。
 私はそれをキャッチした。
 した時にふと持ち主の名前に目がいく。
『柏』の字の右側のつくりの『白』が『自』になっていた。
 私の瞼が意識せずに半分きっかりに落ちる。
「これ……」
「パチもん」
 訊く私に彼はあっさりと頷いた。
「まあ、梓の方にもやっといたし……大体20人もやったら飽きてきたし」
 私は、何か言おうとして――やめた。
 何となく何を言っても無駄な気がしたのだ。
「さーて……今日はどんな厄介事を引き起こしてやろうか」
 ぶつぶつと呟き出す彼。
 彼にとっては、先ほどの橋本先輩は厄介の内に入っていないらしかった。
 ふわりと、私の髪が浮く。
 冬から解き放たれたばかりの、春の息吹。
 それは、にわかに人々を浮き足立たせる。桜の花びらを乗せて。
 私は……不謹慎だけれど、少し楽しみにしている自分にふと気づいた。
 風が……この学園に吹くことを。


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 つー訳で、ルーンの入学Lメモをお届けします。
 Lメモを書き出してから一年経ったので、多少違和感もあるプロローグなんですが……
まあ、いいのではないでしょうか。昔の自分は、単にオーフェンというコンセプトがある
だけでしたけれども、今の方がずっと楽しかったりします(どっちがかっこいいかったら
昔だろうけど。でも、すましているキャラってのは個人的に気に入らない)。

 そう。コンセプトは『魔術士オーフェン』です。月刊ドラゴンマガジンの無謀編を意識
して書いています(知らない人は意味が理解できないでしょーが、つまりは、人を虐げる
人に虐げられるということでウケを狙う、ということです。人々が自分のわがままな行動
基準で、毒舌、暴力、意味不明さ、理不尽、権力、泣き落としなどの手段を駆使し、他人
に対する優先順位を奪い合うんですね。パターンとしては初めにボケる。ボケ通せばその
人の勝ち。突っ込み喰らってボケ通せなければ負け……簡単でしょ? 笑)。

 要は、つまり『言葉や計画でギャグをやりたい』ってことですね。このLメモで。

 この、『〜〜がやりたい』ってのは実はLメモに参加する上で重要な問題だったり。
 これを決めないでおくと、何となく戦闘ができて、何となく知識があって……っていう
感じになりかねないんですよね。キャラは極端であればあるほど覚えやすいんですが……
(最初『あかりの白刃』使ってた奴の台詞じゃないぞとか言われそうですが。でも『白刃』
使ってるルーンと使ってないルーンでは、後者の方がずっと作品での描き方が面白くなる
んですね。読む方書く方両方にとって)

 ……さて、あなたに問います。
 あなたはどんなことがしたいですか?
 どんな話が書きたいですか?
 書いていく内に見えてきそうなことではありますが、あらかじめ考えておく方が遙かに、
あなたにとっても、そして周りの作者にとっても、そしてLメモという作品を読んでくれ
る奇特な人にとっても幸せな結果をもたらしてくれます。
 いや、冗談抜きで。

 入学Lメモですから、自分のことを例示に挙げます(もっと早くこーしておくべきか)。

『みんなに使って貰う場合・自分の書きたい話の雰囲気1』:
 この作品のように『言葉や計画で』『ギャグ』が書きたいと思っています。
 基本的に頭でっかちなキャラクターにしたいので、ケンカとか直接的な暴力に晒された
場合は1〜10レベルの内なら1レベルで、幾らでもげしげしに扱ってください(お願い)。
 その代わり、戦闘以外の陰謀とか噂を流すとか、誰かを心理的な罠にはめるとか、そう
いったものの場合は9レベルとして扱って下さい(勿論馬鹿になる分には構いませんけど、
そういった感じの役を希望します)。
 ギャグで相手を虐げるか虐げられないかは、基本的に5:5の方が面白いです。
 自分の書いて貰いたい特徴はとにかく、『頭』です。これだけ。

『自分の書きたい話2』:
 シリアスがやりたいと思っています。基本的に頭も使いますが、戦闘みたいなことも、
多少はこなしたいと思います。
 ただ、戦闘関連はどう考えても非日常なので、他の人に迷惑をかけない形でやりたいと
思っています。基本的に、日常で使って貰う場合にはこっちの雰囲気を絶対に他の人にも
持ち込んで貰いたくありません(作品のアップも別のところで行おうと思います)。
『召還』という力を使いたいんですが、話のネタバレをしたくないので公に明かせません。
 他の人には頭でっかちということだけ捉えて貰いたいです。
 自分と積極的に関わりたいという人にだけ設定をお渡ししようと思います。

 改めて、皆さんよろしくお願いします。