「お日様が昇る時間がだんだん早くなり、 朝、布団の呪縛から逃れるのも容易になってきました。 梅がほころび始めたかと思ったら、 桜前線のニュースがテレビで流れていました。 もうすぐ春が来ます。 桜の花びらが舞い散る中、貴方と二人で歩く公園。 デートスポットとして有名なこの場所、 あちこちで仲むつまじく寄り添う恋人達。 でも、私は手を繋いで歩くなんてできません。 あなたのそばにいるだけで、 頬が桜色に染まってしまうくらいなのですから。」 赤十字美加香の日記より −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ●第1章 風見ひなた −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「それは悪夢であり、現実だった。 虚無であり、死神が手にする鎌のようにも思えた。 その本に書かれた文字は、ひとつひとつは特に意味も持たない。 だが、文字が重なり、一つの文章になったとき、悪魔はこの世に放たれた。 私は自分の血の気が、波のようにさぁっと引いて行く音を聞いた。 視界が次第に暗くなる。 『ああ、死ぬのかな・・・』 そう。そのとき私は死をかいま見た。」 何の気無しに手にした一冊の本。 それを開いてしまったことを僕は後悔した。 僕にとって、それは悪魔の書にしか見えなかった・・・ −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ●第2章 ルーティ −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「それはそれはきれいな白でした。 うさぎよりも白かったです。 パンよりも白かったです。 洗濯したばかりのシャツより白かったです。。 まるで、ふったばかりの雪をおさらにあつめて、 あたまからミルクをかけてたみたいな白さでした。」 おへやにいったら、ひなたさんが立ちつくしていました。 「ねえ!どうしたの!?」って言っても、ゆさゆさゆらしても、まっしろに なったひなたさんは目をさましませんでした。 そのとき、ひなたさんの手から、ばさっと本がおちてきました。 それはみかかさんが「よんじゃだめっ!」っていってた日記でした。 「あー!ひなたさん、いけないんだー!!」 と、いってはみたものの、わたしもちょっとみてみたくなって、日記をひ らきました。 わたしがおぼえているのはここまでです。 そのあとはブレーカーがおちたらしくて、きおくにありません・・・・ −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ●第3章 美加香 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「貴方は気まぐれ・・・ いつも私以外のほうを見て。 貴方は風・・・ いつも私の横を通り過ぎるばかり。 でも、今日こそは貴方を捕まえる。 私の思いを綴ったこの手紙で。」 私は桜の木の下で待っていた。 一部の女生徒の間では、「この桜の下で、花びらが舞う季節に告白すると、 願いが叶う。」と噂されていた。 そして、意中の人が通りかかるのを待っていた。 やがて人影が見える。グラウンドに向かう途中、ここを通ることは判っていた。 すぐ近くまでその人は歩いてきた。 覚悟を決め、声を絞り出す。 「雅史先輩!」 「ん?」 「これ・・・読んで下さい!」 「あ、浩之だ。おーい、浩之ぃ(すたすたすた・・・)」 ガーン・・・・ガーン・・・(以下エコー付きフェードアウト)) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ●第4章 Hi−wait −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「厄介事はどこからやってくるかわからない。 そして大抵、友をつれてやってくる。」 自宅で白髪の老人と化していたひなたと、糸の切れた人形のように倒れてる ルーティを担ぎ上げ、赤十字美加香を探して学園まで来たものの、桜の下には 風見ひなた達同様、白髪になり、立ちつくす美加香の姿があった。 ふと、白髪で固まったままのひなたを美加香に寄り添うように立ててみた。 ルーティも足下に寄り添うように座らせる。 「ふむ・・・・。」 桜の下にたたずみ、舞い落ちる花びらを眺める3人の彫像が完成した。 思わず短冊を取り、名を打つ。 −−−風見一家の団らん−−− By Hi-wait 石膏でできた彫像にも見えないことはなかったので、しばらくそのままにしておいた。 その後、瑠香が迎えに来たので、帰ることにした。 風見達を忘れた事に気が付いたのは、布団に入って電気を消してからのことだった。 3人の像は、しばらくデートスポットの待合い場所として有効活用されたらしい。 −END− (C)Sage 2000