『どよめけ!ミスLeaf学園コンテスト』舞台裏伝説 第1幕 投稿者:Sage


 
 棚には工具やオイルの缶がずらりと並ぶ、町工場を思わせるそのガレージの端に置かれた
テーブルの上の2つのコーヒーカップからは、ほのかに湯気が、コーヒーの匂いと共に立ち
上っていた。
 部屋の主、試立Leaf学園、工作部部長の菅生誠治はその湯気と一緒にすすった褐色の
液体が手と食道を暖めるのを感じながら、目の前にいる男に尋ねた。
「で、メリットは?」
「経費の生徒会負担。残業割り増し料金を含む・・・では不満か?」
「いや、このイベント、生徒会に・・・いや、拓也にどんなメリットがあるのか聞きたいん
だが。」
「・・・変わったことを気にする奴だな。」
「まあ、小なりとはいえ、組織の長たる者だからねぇ。保身くらいは考えるさ。」
「ふむ・・・言うのはかまわんが、聞いたら我々と一蓮托生という事になるぞ?」
「知らずに事を成すより、知って事を成す方がましだ。特に人に責められるような事をする
場合はね。」
「・・まあ、君ならそういうと思ってはいたんだがね。しかし、知らない方が気が楽な事も
多いというのに、なんでこうトラブルに首を突っ込みたがる奴が多いのだろうね・・・」
 生徒会長月島拓也は、その細い目をさらに細くして、自分のコーヒーに唇をつけた。




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 『どよめけ!ミスLeaf学園コンテスト』舞台裏伝説 第1幕

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「ミスコン!?」
 放課後、部活動に集まってきた部員達を前に、誠治は拓也から受けた依頼内容を伝えた。
 ミスコンを行うのに際し、必要となる設備の設置および運営の依頼。
 具体的にはセイフティーゾーンとなる女子更衣室等のスペースへの防護措置、ルール違反
者の監視装置など、人では対応しきれない事の機械化であった。
 内容としてはそれほど大変な事ではない。
 工作部が日頃請け負っている、女子寮などの防犯設備をグレードアップすればいいだけで
ある。
「しかし、月島会長も何考えてるんでしょうねぇ?」
「臨時生徒会長てゆうてもなぁ・・・なったところでなんか得することあるんやろか?」
「さあ?」
「ともこねーちゃんと、美加香おねーちゃんも出るですかぁ?」
「んー、ちびまるちゃんが応援してくれるなら出ようかなぁ?」
「はいっ!いっぱいおうえんしますっ!!」
 工作部のサポートロボット「ちびまる」の言葉に冗談交じりで応えていた保科智子と赤十
字美加香だったが、この時点ではまだその言葉は冗談の範囲から出てはいなかった。
「主に作業は男子部員のみで行う。悪いが作業を行うメンバーはコンテストには不参加でい
てくれ。セキュリティーが守れなくなるからな。」
「任してくださいよ部長。そのあたりは心得てますから。」
 すでに様々な仕事をこなしてきた男子部員達の顔は、すっかりプロの顔になっていた。
「で、私たち女子部員はやること無し?」
 ちょっと不機嫌そうに保科智子が問う。
「あ、まさか『ミスコンに出て、臨時会長権限で、部費を上げろ!』とか・・・」
「言わないって・・・」
 じとーっという目で見つめる赤十字美加香に、誠治は苦笑しながら否定する。
「仕事が無いわけではない。というかこっちの方が大変だと思うんだが・・・」
「なんです?」
「女子メンバーには、至急第二購買部にコンタクトを取って欲しい。仕事を一つ請け負って
きて欲しいんだ。」
「はい?第二購買部に?」
「ああ。それでな・・・・・・」
 部員達は耳を寄せ合った。



 数日後。
 工作部員達は、それぞれに割り振られた作業に入っていた。
 そんな中、女子生徒達はぞろぞろと第二購買部へと繰り出して行った。
「ちわー。店長いる?」
 美加香が元気よくドアを開くと、カウンターには新聞を広げた男が一人座っていた。
「おや、お揃いで。今日は何でしょう?」
「あ、Beakerさん、ちょうどよかった。ミスコンの話は聞いてますね?」
「おや、耳が早いですね・・・というか、生徒会から工作部の方にも話が行ったということ
ですか。」
「ま、そういうことや。んで、商談なんやけど、制服の下に着る水着の選定ってもう決まっ
たん?」
 神戸の商売人、智子が美加香に変わって話を進める。
「いや、まだですが。」
「まあ、脱げる服はあんたの専門だからいいとして、下の水着まで脱がされたらたまらんか
らね、ちょっと工作部で試作してみたんよ。見てくれへん?」
 そういいながら智子は手にした紙袋をカウンターに置いた。
「・・・・・その『あんたの専門』ってのは引っかかりますがねぇ・・・。ま、いいでしょ
う。好恵さん?いますかぁ?」
 Beakerは店の奥に呼びかけた。
「なに?なんかあった?」
 奥から現れたのは、空手部主将であり、Beakerの愛人でもある・・・



   「だれが愛人じゃぁぁぁぁ!!!!(どがすっ!)」



 ・・・・・間違い。
 第二購買部の部員でもある坂下好恵であった。
「ちょっとこれを試着してみてくれませんか?」
「・・・・・やだ。どうせまた怪しい物何でしょう。」
「そんなことありませんよ。だいたい僕がいつ怪しい物出しました?」
「いつも。」
「・・・・・・・そうきっぱり言わなくたって・・・・(うじうじ)」
 珍しくハートにヒットしたらしい・・・・
「それはさておき、ちゃんとした物ですよ。工作部製ですし。」
 立ち直るスピードはいつも通りだった・・・
「ほんと?」
 問いかける好恵に、智子達はうなずき返した。
「んじゃ・・・まあ、着てみるけど。」
「あ、手伝います。」
 美加香はそういうと、奥に向かった好恵を追った。

 その数十分後。

「・・・・やっぱり怪しい物だったじゃないかっ!!」
 好恵は真っ赤な顔をして、ローブをまとったまま、美加香に背中を押されながらしぶしぶ
みんなの前に現れた。
「怪しくないでしょう。ただの水着なんだから。」
「プールならまだしも、なんで店内で水着にならなくちゃいけないんだっ!!」
「まぁまぁ、坂下先輩もそう熱くならないで。それではご開帳〜♪」
 美加香はそう言うが早いがローブをはぎ取った。
「きゃぁぁぁぁ!!!!!!」
 坂下はローブをとどめようとするが、Beakerに振り上げようとした拳を戻すのが一瞬遅く、
その露わな肌を人目にさらした。
「ほー、いいですねぇ。うむ・・・これからはその姿で店頭に立って貰おうかなぁ・・・」


  (どげしっ。)


 坂下は、胸を腕で隠したまま、Beakerの脳天にかかと落としを喰らわせた。
 崩れるようにしてBeakerはマット・・・じゃなくて床へと沈んだ・・・
「で、どうです?着心地は。」
「え?あ、まあ・・・普通の水着よりぴちっとした感じかな。さっきかけた液体のせい?」
「そうです。布が切れたり脱がされたりするのは、その服のエッジに指や物が引っかかっ
て引っ張られるのがその主原因となります。ですから、この生地はできる限り肌に密着する
ように作られています。身に付けたあと、生地の収縮を促す液体をスプレーすると、形状記
憶繊維で織られた生地が体にフィットするように変形します。縮んだ状態では、脱ぐことさ
え難しいと思いますよ。」
「あ、ほんとだ・・・」
 美加香の説明を聞いて、坂下は胸の部分から指を入れてみようとしたが、生地が肌に張り
付いており、その隙間に指を入れることはできなかった。
「でも、白い水着ってのは透けそうで恥ずかしいわねぇ。」
「これは試作品ですから、未着色なんですよ。本番には着色して使うことになるでしょうね。
まあ、実際に透けることはないんですが。」
「で、着心地はどうです?」
「これだけ体にフィットしてたら動きづらいとか、脱げそうとかって心配はないわね。少し
タイトに締め付けてくれるから、感触はスポーツブラみたいな感じかしら・・・って、いつ
のまに起きたのよっ!!Beaker!!エッチッ!!」
「エッチって、試着なんだからしょうがないじゃないですか。まあ、商品としてはよいよう
ですね。どうせ制服の予算は生徒会持ちですし、第二購買部としても、あとでトラブルにな
るような水着では困りますからね。いいでしょう。採用させていただきます。」
「まいど〜。」
 智子が手を差し出し、Beakerが握り返す。
 商談成立、ということである。

「ところで・・・水着を着たからには好恵さんも出場するんですよね?」
 あまりにもBeakerがさらっと言うものだから、好恵の反応は2秒ほど遅れて返ってきた。
「冗談でしょう?」
「出てくれないなら、この生地拡張剤、捨てちゃおうかな・・・・」
 いつの間に手にしたのか、ビンに入った透明な液体を、Beakerはちゃぽちゃぽと揺らした。
「す、捨てればいいじゃない。工作部新しいの貰えばいいんだから。」
「あ、それ試作品だから、拡張剤それしか無いですよ。二日待って貰えば新しいの抽出でき
るから待ってくれれば・・・」
 無情に美加香が告げる。
「なんですってぇぇぇぇぇ!?」
「あうあうさかしたせんぱいくるしいですぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!・・・くてっ」
 気絶した美加香の襟首を締め上げたまま、好恵は泣く泣く出場を承諾するのであった。


−−−−−−−−−−−−−−−−−
誠治「ところで昴河くん。君は出ないの?」
昴河「(ずべしっ)・・・・・な、な、な、なんで僕がっ!?」
誠治「いや、きみが出場するんじゃなくて・・・。
   吉田さんが出る事になるならナイト役やるのかなぁーとね?」
昴河「ああ、なるほど・・・って、私がナイト役!?」
誠治「・・・エの字の相手の方がいい?(笑)」
昴河「やめてくださいよ、ぶちょうー(滝涙)」
誠治「それとも出場する?(にやり)」


(C)Sage 2001