Lメモ「試立Leaf学園工作部奮戦記 第1章:水の節(前編)」 投稿者:Sage




 それは夏休みも間近になった、暑い日の事だった。
 水打ちした中庭の水たまりもあっという間に乾き、時折プールから聞こえる女性の声と
水音だけが涼をかもしだしていた。



「みーんみーんみーんみ〜〜〜〜〜〜ぃん」
「・・・・」
「じぃ〜じぃ〜じぃ〜じぃ〜じぃ〜」
「・・・・」
「つくつくほーし、つくつくほーし」
「・・・・」
「ほーほけきょ。」
(ずべしっ)
「あうっ。急にこけたらあぶないですっ。」
「貴様が人の頭の上で変な鳴き真似してなければ問題ないわっ!!」

 風見ひなたはそれが無駄だと思いつつも、頭上の水野響に向かって叫んだ。



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試立Leaf学園工作部奮戦記 第1章:水の節(前編)

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「ってことで、私の命を代償にしてかまいませんから、こいつの存在をこの世から
抹殺する装置を作ってください。(涙)」
「・・・ずいぶんと切実な願いだな。」
 工作部のドアをあけるなり、風見はそこにいた部長の菅生誠治に懇願した。
「・・・ひなたさんが自殺する方が手っ取り早かったりして。」
「みぃぃぃかぁぁぁぁかぁぁぁ(怒)」
「じょ、冗談です(汗)今冷たい麦茶でも入れてきますから座って落ち着いて。」
 あわてて逃げ出す工作部副部長であり、風見の妻、赤十字美加香。

  「「だれが妻ですかっ!!」」 by 風見&美加香

「・・・それは置いといて、水野君を頭の上からおろせばいいの?」
「そう言うことです。」
「うきゅ〜。ここはいごこちがいいからおりたくないですぅ〜。」
「・・・・おーい、みかちょん、長瀬のおっさんが持ってきてくれたやつ、出して
くれるかな。」
「は〜い。」
 奥でごとごとと物音がする。
 しばらくすると、大きなお盆を持った美加香がもどってきた。
「はーい、おまた・・・・せ(汗)」
 美加香がお盆をテーブルに置くのが早いか、その上に並べられた真っ赤に熟れた
西瓜に、いつワープしたのか、風見の頭上にいたはずの水野がかじりついていた。
 風見の周りだけはなぜだかセンチメンタルな秋風が通り過ぎていた。



 4人はテーブルを囲み、長瀬源五郎が差し入れた西瓜をかじっていた。
「今年の梅雨はやけに短かったですねぇ。」
「まったく。梅雨明けと同時に学校も休みにして欲しいぜ。」
「といっても、ひなたさんは休む理由が欲しいだけでしょうけどね。冬になったら
なったで、『寒いから冬休みを延ばして欲しい。』って、毎年先生に直談判してま
すから。」
「・・・(ごちん)」
「いったーい(涙)」

 ガチャッ。
 ドアが開く音がして、ひょっこりと三つ編みをした頭が現れる。
「あちー。お、こっちもお熱く夫婦げんかか?」
「「だれが夫婦ですかっ!」」
「あんたら二人。(きっぱり)」
「「がるるぅぅぅ!!」」
「はいはい。熱いんだから冗談はさくっと流して。
 あ、西瓜やないの。もうそんな季節やねぇ。」
 工作部員の保科智子は西瓜を一つつまむとエアコンの前に陣取った。
「あー、生き返るわ〜。いくら利用する生徒が少ないからって、図書館の閲覧室まで
空調止められたら、中の本が焦げるで。」
「え!?(汗)」
 ぱたぱたと、あけた胸元に手で風をおくりながら何気なく言った保科の言葉に誠治が
反応した。
「閲覧室の空調止めるって、他の部屋は?」
「ん?なんやら空調の調子が最近悪かったから、ごっそり修理する事になったとか、
図書委員の子が言ってたで?
 そういや図書館の空調はうち(工作部)の管轄やなかったんやねぇ。」
「そいつは・・・」
「やばいことになりますね(汗)」
「なに?なに?」
 血の気が引いた顔を見合わせる誠治と美加香の二人だが、周りは何のことかさっぱり
わからなかった。


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「・・・・・・・・・・・・・暑い。」
「夏ですからね。」
 自分から出た汗で溺死しそうなハイドラントには、スーツ姿であるのにも関わらず
汗一つかかない篠塚弥生は、実はロボットか、または携帯型のクーラーでも持っている
のではないかと思えてならなかった。
 以前、あまりの暑さに抱きつこうとしたことがあったが、ぼこぼこにされて、涼しく
なる以前に、体が冷たくなりかけた事もあり、それからは自制していた。
「だああっ!暑いぞっ!!
 暑いったら暑いったら暑いぞっ!!
 エアコンはどうしたっ!!」
「図書館の空調を修理しているそうです。今週いっぱいかかる予定ですが。」
「ってことは、今週いっぱいはこの熱地獄で暮らさねばならんと?」
「そういう事ですね。」
 それを聞いてハイドラントは体の一部が既に溶けている感覚に捕らわれた。
 このままここに居たら死ぬ。
 そんな気がした。
「・・・出かけてくる。」
「いってらっしゃい。」

 ハイドラントは外へと出た。
 中庭から見る校庭は陽炎が立ち上っていた。
 初夏にも関わらず、蝉の声が遠くから聞こえる。
 彼が常に身にしている黒い服は熱を吸収し、暑さを倍増させる。
 が、ポリシーが邪魔をして他の服を着る気にはならなかった。
 というか、他の服を着るという発想の転換さえ起きないほど彼の脳は熱で麻痺して
いたのだが。
 彼は涼を求め、図書館カフェテリアへと向かった。
 カフェテリアならば空調が利いており、冷たい飲み物もあると考えたからだ。

    【本日休業】

「なぜっ!?」
「あぁ〜、はぁ〜いぃ〜どぉ〜さぁ〜ん〜だぁ〜」
 休業の札を無視して中へと入ると、カウンターから暑さでだらけきった川越たけるの
声がハイドラントを出迎えた。
「だらけた声で暑苦しいっ!なんで休みなんだっ!というか空調はどうしたっ!」
「ここの空調も図書館のシステムと一体なんです。
 ですから、エアコンは使えないんです。」
 暑さには影響のない電芹が、さらっと答える。
「ちっ。だが冷たい飲み物ぐらいはあるだろう。」
「飲み物はあるんですが・・・・氷がないんです。」
「なぜだ?冷蔵庫とエアコンは関係ないだろう。」
「はあ、そうなんですが・・・・」
「えへへぇ〜、あんまり暑いんで、氷はつかっちゃったのぉ〜。」
 たけるが自分の足下を指さす。
 カウンターから中をのぞき込むと、どこから手に入れたのか、子供用プールが置いて
あった。
 その中にはたっぷりの水と、所々に浮かぶ、溶けかかった氷。
「・・・・全部使ったのか?」
「(こくこく)」
「・・・・商売用の氷も?」
「(こくこく)」
「・・・・で、臨時休業?」
「(こくこく)」
「・・・・今日の損害はお前らの給料からさっぴくからな。」
「えぇぇ!!!」
「そんなのひどいよこんな暑かったらだれだって涼みたくなるよ水タライに足をつける
ってのは日本人の常識だよ夏と言えば高校野球に蚊取り線香に冷やし水虫に怪談話だよ
怪談といえば恨み晴らさでおくべきかぁ〜」
「こ、こら、泣きながらどこからともなくわら人形を取りだすんじゃないっ!
 電芹も木槌と五寸釘なんてどうする気だっ!
 わかったっ!わかったから俺の名前が入った人形を電柱に打つのはやめろぉっ!(汗)」

 どうも二人にかかると旗色の悪いハイドラントだった。


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「ってことは、学園自体、空調が止まっている?」
 菅生誠治の説明を受け、風見ひなたは少し驚いた。
「コンピュータルームのある場所なんかは別系統になっているんだけど、基本的な空調
システムは学園全体でひとつに統括されているんだ。
 つまり、図書館の空調を止めるということは、学園全体のエアコンを止めるって事。」
「エアコンってあちこちにあるから、あちこちに冷却ユニットがあるのかと思って
ましたよ。」
「ビルの集中冷暖房と同じシステムだからね。学園側も省エネを考えてこうしたんだ
と思うが、故障となるとやっかいだな。
 今までエアコンに慣れている連中が、この暑さに耐えられるかどうか・・・」
「暴動が起きなきゃいいんですが(汗)」
 赤十字美加香がぼそっと言った。


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(空調が止まっていても、涼める所は何処だ!?)
 ハイドラントは熱崩壊しそうな脳味噌を、電芹に分けてもらったアイスキャンディー
で冷却しつつ、半分溶けかかった記憶をなんとか掘り起こした。
(そ、そうだ!プールがあるではないか。)
 涼しくなれるという希望にしがみつき、力を振り絞り、歩き出すハイドラント。
 校舎を抜け、プールへと向かう渡り廊下へと出る。
 が、そこには何人もの男達が立っていた。
 いや、幾人かは叩きのめされ、地面に躯を横たえていた。
(!?)
 立っている男達には殺気がみなぎっていた。
 切れるように鋭く、だが触れば溶けるほど熱い殺気が。

「・・・・ハイドラント、貴様も死にに来たのか?」

 今まさにトドメを刺したのだろうか。
 どさりと抱えた男を放り投げ、ゆっくり立ち上がった男がそう言った。

「・・・なんのことだ?」
「・・・まあいい。ここより先に進みたいのならば、このジン・ジャザムを倒して
から行って貰おう。」

 問答無用と言うように、ジンはゆっくりと拳を構えた。



 − 続く −

(C)Sage 2001