『School Wars「学内粉争」外伝』 〜工作部バージョン(前編)〜 投稿者:せーじ

「攻めるか、守るか・・・・攻めに賛成の者、挙手。」
 1,2,3。
 3人の手が上がる。
 赤十字美加香、昴河晶、FENNEK。
「守りの者。」
 1,2,3。
 保科智子、八希望、陸奥崇。
 挙手は同数。
 工作部の部室に部員全員を集めた部長の菅生誠治は腕を組むと考え込んだ。
「緒方先生からはなんかなかったん?」
 判断しかねている誠治を見て、智子が問いかける。
「いや、いつものように『任せた』だけ。
 例によって外から眺めて楽しむつもりだろうけどねぇ。
 ・・・・ちびまるはどっちがいい?」
「ほへ!?わ、わたしですか?」
 工作部のお手伝いとして常駐するサポートロボットのちびまるは、自分に
意見を求められるとは思わず、驚いた。
 こういう反応をするちびまるを見るたび、赤十字美加香はちびまるのバックボーン
にある人工知能の”人間らしさ”に興味を引かれるのだった。
 例えば冷静に判断を下すセリオタイプなどなら、どんな突拍子もない質問が繰り
出されたとしても、その場で最適な答えを探し、反応を示すだろう。
 だが、このロボットは”驚く”のである。
 技術的には、”想定されていない質問が来た場合に、驚く表情を浮かべる”という
アルゴリズムを組めば済むだけなのだろうが、普通はそんな”無駄”な事はしない。
 だが、そもそも人間っぽさとは、そういう無駄とか矛盾などを多く含んだ仕草から
感じられるものでもあるのだ。
 誠治がどの程度標準のOS(オペレーティングシステム)に手を加えているかは
調べていないが、もし自分でメイドロボを育てる機会に恵まれたら、こういう子に
育てて見たい、と思う美加香であった。
 そして、今そのちびまるが誠治に問われた質問に答えようと悩んでいる。
 美加香はどのような答えをちびまるが出すか、興味があった。
 きっとちびまるがどう答えるか、システムを作った誠治本人でさえ予想できて
いないだろう。
 だからこそ誠治はちびまるに聞いてみたのだろうし。
 そんな美加香が宿題で悩む子供を暖かく見つめる親のような視線の先では、
一生懸命考えていたちびまるが頭をあげ、口を開いた。
「うーん・・・撃ち合いするんですよね?」
「そう。といってもエアガンだけどね。痛いぐらいで怪我することはまず無い。」
「なら、みなさんが痛い思いをしない方がいいですっ。」
「・・・よし、決定。基本的方針は守りで行こう。」
「「「ラジャー。」」」
 攻めに挙手した者も、部長判断に異議を唱えもせず、一斉に立ち上がると持ち場に
分かれていった。
 疑問に思う事があれば、徹底的に話し合うが、一度決定が下されれば、一気に
突き進む。それが工作部だった。
 意志疎通力、方針決定から行動開始までの時間の少なさ、そして作業分担制の確立。
 この一見システマチックに見える工作部の組織だが、お互いの信頼があってこそ
成り立つものである、という事を思い返すたび、部長の誠治は嬉しくなるのだった。


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 『School Wars「学内粉争」外伝』 〜工作部バージョン(前編)〜

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 部費争奪部活対抗サバイバル・フラッグ戦。
 各部の持つフラッグを奪うか、またはその部のメンバーを全滅させることにより、
部費を奪ったり奪われたりするゲーム。
 各部員はエアガンを装備し、盾および剣を除く部分に当たった場合は死亡扱いとなる
ルールで行われた。

 1.資金は部費の範囲内とする。
 2.武器は市販品をベースとする。ただし改造は自由。
 3.守りを基本とする。

 これは、誠治が設けた工作部のみのレギュレーションである。
 実はこの部費争奪戦、装備に資金をかけすぎ、予算を食いつぶしてしまう部が毎年出る
まさに部の存続をかけたサバイバル戦である。
 工作部の予算はというと、学園内で一、二を争う程、潤沢だった。
 これは、工作部が学園ないの様々な機器の整備や製造を受託し、それによって支出が
まかなわれているからである。
 もし、受託した作業の収益を武器につぎ込んだら・・・
 おそらくロボット歩兵大隊が、バルカン砲を持ってうろつくことになるだろう。
 そこで、予算を部費の範囲内としたわけである。
 まぁ、部活動が受託費用で十分まかなわれている現状、まるまる部費が残っている分、
他の部より潤沢な予算であることは変わりないが。

「beakerさーん。」
「はーい、まいど。」
 誠治が基本計画を立て、智子が練った戦術を、美加香が詳細に詰めていく。
 そのプランにあわせ、八希がエアガンの選出、設計を行い、昴河と陸奥達が
加工を進める。
 ということで、買い出しにはFENNEKが向かった。
 第2購買部は、店内がすっかりエアガンショップと化していた。
「えっと、こっちの伝票は購入で。こっちはできればレンタルでお願いしたいんですが。」
「あいよ。・・・・って、工作部は自作しないの?」
「ええ。一から作るのも大変ですし。そもそもそんな事したら、部長や副部長あたりは
どんな物作るか・・・(笑)」
「確かに(笑)」
「フルオートのロボット警備兵でも作れば楽なんでしょうけど、それじゃ”楽しく”ない
ですからね。」
「さすが工作部は余裕だねぇ。予算が少ない割に人数の多い体育系の部なんて、
 『コッキングの一番安い奴でいいから、20丁くださいっ!』とか鬼気迫った形相で
 やってきたよ。」
「コッキングって、1発撃つ毎に手でガシャッってやるやつ?」
「そう。ま、2000円ぐらいのおもちゃとはいえ、精度は侮れないけどね。」
 そんな話をしながら、beakerはうずたかく積まれた段ボールの中から、伝票に書かれた
銃器を次々と重ねていった。
「っと、これで全部だな?伝票にサインよろしく。」
「はい。んじゃもらってきます。」
 巨大な段ボールが3箱。
 FENNEKはそれを軽々と持ち上げると、店を出ていった。
 店の外では弱小部の買い出しらしき生徒がその量に驚愕していた。
 きっと彼らは部に戻って、武器の追加購入を検討するだろう。
「ひょんな事が宣伝効果につながったな。次の客からは大きめの箱に入れて持って
帰らせよう・・・・」
 さっそくbeakerの頭の中のそろばんが激しく動き出した。



 そのころ部室ではちゃくちゃくと準備が進められていた。
 まず、部員を3つのチームに分ける。

 チームゴルフ。
 守備部隊。SMG(サブマシンガン)を主兵装とし、防御拠点を適時移動、敵の迎撃に
当たる。
 担当は赤十字美加香、保科智子、FENNEK。

 チームタンゴ。
 施設部隊。主に敵の監視と情報収集。そしてトラップの制御。
 担当は菅生誠治、八希望、ちびまる。

 チームウイスキー。
 攻撃部隊。主に遊軍として守備部隊のサポートをしつつ待機。状況に応じて陽動や攻撃
に転じる可能性もある。
 担当は陸奥崇、そして・・・・

「なーんでこの僕がバリケードを作るのを手伝ってるのかな?美加香くん。」
「そりゃー『暇だぁ』とか言ってだらけてるのを智子さんに見つかったからでしょう。」
「僕は暇じゃ無かったんだがなぁ・・・・」
「いいじゃないですか、楽しいですし。」
 自滅で巻き込まれた風見ひなたはさておき、たまたま通りがかっただけのHi-waitと
月島瑠香は、あきらかに風見のとばっちりを受けただけだった。
「まぁ、『部員でなければ戦闘に参加してはいけない。』ってルールはありませんし、
他の部も共同戦線を張ったり、中には傭兵雇ったりしている所もあるみたいですからね。」
「傭兵!?ってことは、俺らにもバイト料がでるとか?」
「そんなわけ・・・・」
「いいよ。」
 急に色めき立つ風見に、美加香があきれたような返事を返そうとしたところ、
不意に後ろから誠治の声がした。
「いいんですか?」
「いいよ。一人倒すごとにカフェテリアのS定食の食事券1枚でどうだ!?」
「「「「S定!?!?!?!?」」」」

 S定食。それは図書館カフェテリアで、月に1度メニューにならぶスペシャル定食。
 厳選された季節の食材をふんだんに使い、贅沢の限り(学生にとっては)を尽くした
高嶺の花のメニューである。
 このメニューを頼んだ学生は、周りから「おぼっちゃま」「お嬢様」と嫌み混じり
で呼ばれ、教師でさえ周囲の学生から殺意のこもった目でみられるという・・・
 (ちなみに来栖川芹香が毎回食しているのは言うまでもないが。)

「ただし、死んだらチャラな。」
「乗ったっ!!」
「S定食ですって、がんばりま・・・・」
 瑠香が振り向くと、欠食児童二人は猛烈な勢いでバリケードを築いていた。




 キーンコーンカーンコーン


「うぉぉぉぉーー!!」
 開始の合図となるチャイムとともに、学園中で雄叫びがあがった。
「パスッパスッ!」
「ギャパパパパパパ!!」
 ガスガンや、電動ガンの独特な発射音が響く。

「ブオーーーーーーーーーーーーーー(注:バルカン砲の発射音)」

 ・・・・中には毎分数千発の単位で弾をばらまいている輩もいるようである。


「偵察部隊がやられたっ!」
「くるぞっ!南階段からだっ!」
「バリケードを固めろっ!」
 数名がその声を聞き、部室のドアを開け、渡り廊下へと出てくる。
 部室の前には折り畳みの机やら段ボールやらで築かれた陣地ができていた。
(大声で叫んでたら無線持っている意味ないじゃないか・・・マイクも電波探知機も
無用だな。)
 FENNEKはそう思いながら指向性集音マイクの付いたサブマシンガンを地面に
置き、バックパックからサーモセンサを取り出した。
 これが夜ならノクトビジョン(暗視装置)をつかってもっと有利に仕事が進められる
のだろうが、今は昼間である。
 部室棟の薄いプレハブの壁越しに敵の陣地を赤外線で覗く。
「1、2・・・全部で3,部室に3人か。」
 バリケード内と部室に残る人数を確認すると、FENNEKは胸のサスペンダーに
付けられた無線のトークスイッチを押した。
「こちらサンドウェッジ。籠の中はインコが3匹、家には犬が3匹・・・いや、
インコが4に、犬が2になりました。」
「こちらショットグラス。了解。そちらのカウントで行く。」
 無線につながっているヘッドセットから、チームウィスキーからの返答が入る。
「ラジャー。カウント・・・スリー、ツー、ワンっ!」
 FENNEKは、最後のカウントがマイクに届く前に、銃だけを塀の角から出し、
適当に撃った。
 流れ弾に当たらぬよう、敵が一瞬萎縮する。
 そのタイミングを見計らい、FENNEKはぴったり1秒で射撃をやめる。
 それを引き継ぐように、突如敵の陣地の上に弾が降り注いだ。
 それは屋根を伝って近づいていたチームウィスキーのメンバーが撃った物だった。
「うわぁぁぁ!!」
 バリケード内にいた4人が次々ペイント弾まみれになる。
「チェック!」
「オッケー!」
 全員倒したことを風見【ショットグラス】ひなたが宣言。
 バックアップの【シェイカー】Hi−Waitが確認する。
 その合図を聞き、FENNEKが廊下を走り、敵のバリケードに踊り入る。
 バックパックから、20cmぐらいのなにやらごてごてした機械を取り出し、
 ドアのすぐ脇に置く。
「サウンドウェッジよりジルバ。フロント、ロック。」
「こちらステアー。バック、ロック完了。」
 【サウンドウェッジ】FENNEKが無線で報告するのとほぼ同時に、部室の
窓側にトラップを仕掛けた陸奥【ステアー】崇から報告が入る。
「こちらジルバ。確認した。撤収。」
 本部に詰める菅生【ジルバ】誠治がそう告げると、工作部からほど近い位置に
ある無線部の攻略に出ていたメンバーは一斉に引き上げていった。
 当然そこかしこにセンサーとトラップを残して。

 その数分後、部室に籠もっていた無線部の残党二人は、急に周りが靜になった事に
疑心暗鬼になっていた。
「おい、窓から外を見て見てくれ。俺はドアから外を見てみる。」
「はい先輩。でも気を付けてくださいね。」
「わかってる。ちゃんと壁の隙間を覗いてからあけるさ。」
 後輩が窓際へと歩いていく。
 先輩の方はまず廊下に面した部屋の壁に立てかけられたはしごを登った。
 無線部の壁の上の端にはちょっとした隙間がある。
 いつもはガムテープでふさがれていたが、今は覗き穴として使うためにテープは
はがされていた。
 そこから外を覗く。
 穴からはバリケードの両側が見える。
 視野には人影は入らなかった。
 同じように、ドアを挟んで反対側にある穴からも覗く。
 こちらは床ぎりぎりの所にある穴だが、小さな鏡を使うことで、床から天井まで
見渡すことができた。
 最後にドアに耳を当てる。
 遠くから聞こえる悲鳴が耳にはいるが、近くに物音は感じられなかった。
(よし・・・だれもいないな。)
 意を決してドアを少しだけあける。
 外が見える程度なら遠くから狙撃しようとしても無理だろう。
 そう思って数センチドアを動かす。
(なにも・・・なしか。撤退したのか?)
 もう少しだけ視野を広げようと、ドアを動かす。
 だが、そのわずかな動きがドアの脇にFENNEKが置いた装置を反応させるのに
必要な動きだった。
「パン」
 地面に置かれた装置は、すごく簡単な仕掛けだった。
 水平に飛び出したレバーに物があたるとトリガーが落ちて、たった一発の弾が発射
される。
 ドアを開いたときにレバーが動くよう設置されていたその装置は、絶妙の角度で弾を
打ち出した。
「うぎゃあっ!!」
 突然、しかも至近距離であごに一撃を受けた先輩は絶叫した。
 その声に仰天した後輩は、敵の襲撃に先輩がやられたものと勘違いし、窓から逃げ
出そうとした。
 だが、そこにも陸奥がしかけたトラップがあった。
 こちらはドアの前とは逆で、レバーを支える物がなくなると弾が出る仕組みになって
いた。
 そのレバーは窓枠にかかっており、後輩が窓を開けた瞬間、トリガーが落ちた。
「パスッ」
 筒に納められたペイント弾は、わずか数十ccの空気に押されアルミのパイプから
押し出されると、窓から出ようとした男のちょうどつむじに命中した。

 その姿は工作部の窓からも望遠で観測する事ができた。
「無線部、全滅しました。これで工作部周囲の要所の攻略完了です。」
「よし、これで一段落だな。一息入れようか。」
「はーい。今日は紅茶とマフィンにしてみました。」
「戦闘中に紅茶・・・なんか英国軍って感じやな。」
 ちびまるが配る程良い熱さの紅茶を口に運びつつ、一同はほっと一息ついた。
 だがそのころ砂漠のロンメル軍より怖い存在が近づいていた。



「あれは驚異だな。」
 科学部の誇る巨神兵、ジン・ジャザムはまさに歩くヘッジホッグ(ハリネズミ)、
フルタイム・カミューラランバンアタック状態で突き進んでいった。
「まー、予想どおりだけどね。」
 風見は一緒に偵察に出た陸奥に双眼鏡を渡すと、アサルトライフルを構えた。
 セレクターをセイフティーから単発に切り替える。
 ポップアップ装備のM4A1R.I.Sは風見の好みでグリップハンドルがカット
され、外見的にはカービンに近いフォルムとなっていた。
「だが、一発でも当たれば死亡ってルールだからな。ジンさんが気づかないときの証拠
になるように、ビデオ、撮っといてくれよ。」
「了解。」
 風見の横で陸奥がカメラを構える。
 風見はスコープのクロスにジンを捕らえると距離を考え、わずかに銃口を上に上げた。
 そしてゆっくりとトリガーを引く。
「バス!」
 ウレタンで消音化された電動ユニットからわずかに駆動音が漏れる。
 と、同時に銃口から一発の弾が送り出された。
 スコープの中、弾はまっすぐにジンへと向かって行った・・・・が。
「お?」
 最後の最後、ジンの直前で弾は弧を描き、左へとそれた。
 風の影響かと思ったが、周りの木々はほとんど揺れていない。
 風見は気を取り直して、再度狙いを定めた。
 こんどはやや右上。
「バス!」
 弾はジンの右前へとまっすぐ・・・・進むが、直前でやはり左にそれてしまった。
「なんだ!?当たらない!?」
 カメラ越しに見ていた陸奥も異常さを感じた。
 ズームしてみると、別方向から来た弾もジンに当たらずに逸れていった。
 風見達以外にも伏兵がいて、攻撃をしかけているようだった。
 あちこちから飛んで来た弾は、ジンを中心として半径2m程度以内に近づく事が
出来なかった。
 と、ジンの歩みが止まった。
「やべっ。逃げろっ!」
 ズームで見ていた陸奥がその気配にいち早く気づいた。
 脱兎のごとく走り出す二人。
「てめぇらこそこそとぉっ!!!!!!」
 周りの狙撃兵の存在に気づいたジンは、そう叫ぶと、両手を左右に広げた。
「・・・逝って来いっ!!!トウッ!」
 二人が校舎の影に入った直後、中庭はジャンプしたジンが撃ち下ろすペイント弾の
豪雨にさらされた。

 蛍光塗料に染められた狙撃兵の屍を、ジンの巻き上げた砂埃が覆っていった。



 −続く−

(C)Sage 2002


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●工作部陣営

○攻撃部隊:チームウィスキー(Wepon)
陸奥「ステアー」崇
風見「ショットグラス」ひなた
「シェイカー」Hi−wait

○守備部隊:チームゴルフ(Guard)
保科「バンカー」智子
赤十字「ボギー」美加香
「サウンドウェッジ」FENNEK

○施設部隊:チームタンゴ(Trap)
菅生「ジルバ」誠治
昴河「タップ」亮
八希「サンバ」望
「フォークダンス」ちびまる