『School Wars「学内粉争」外伝』 〜工作部バージョン(後編)〜 投稿者:せーじ

『アテンション。体育館側から接近する人影あり。』
「こちらからも確認した。」
『白旗が見えます。』
「了解。こちらから人を出します。」
 ベニア板で作られたバリケードに陣取る守備部隊から無線連絡が入る。
 監視を担当していた昴河晶は双眼鏡から目をはずすと後ろを振り返った。
 部屋の奥には小さなテレビモニタが8台ほど並べられている。
 そこには数秒おきに様々な場所に置かれた監視カメラの映像が映されている。
 その中央、カメラを切り替える急造のスイッチャー台に身を乗り出すように工作部部長の
菅生誠治がいた。
「部長、多分また保護の要請だと思いますが。」
「ちびまるを行かせて、交渉にあたらせてくれ。
 保護の希望なら武器を持っていないか確認の上、部室まで連れてくるように、と。」
 そういいながらも誠治は一つの監視モニタを食い入るように見つめていた。
「ジルバよりボギー。中庭方面に動きがある。」
『了解。』
「ジルバよりステアー、ボギーの支援に回ってくれ。」
『ラジャー』
「君もちびまるを送り出したら支援に回ってくれ。ついでにサンドイッチの差し入れも。」
「はい。んじゃ行って来ます。」
 午後の一時、戦闘は小休止という感じだったが、そろそろまた動き出したようだ。

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 『School Wars「学内粉争」外伝』 〜工作部バージョン(後編)〜

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 今回の戦闘、ほとんどの部が参加していた。
 (掛け持ち部員ばかりの部は不戦敗となっていたが。)
 しかし攻撃力の少ない弱小部は単体では自らのフラッグを守ることさえ難しい。
 仲の良い部同士が連合を組み、陣地を同じにして守りを固めるという手もあったが、
それでも素人集団だけでは守りきれない事もしばしばであった。

「部長自ら白旗ってのは危険すぎるなぁ。
 だれか使者を出せばいいのに。」
「ええ。それも言われたのですが、白旗を揚げている人をあえてねらう人も少ないで
しょうし、どうせ白旗を揚げるなら目立つ人間の方がいいと思って。」
 菅生誠治の指摘に神岸あかりは、自らの赤い髪を弄びながらはにかんで見せた。
 彼女が部長を務めるお料理研究会は、前部長の梓が陸上部に、川越たけると電芹が
バレー部に行っており、もともと戦力が少なかった。
 戦時食の提供と引き替えに数部に保護協力を求めていたようだが、それも心許なく
なってきたのだろう。
 そこで戦闘中であるにもかかわらず、なじみのある工作部に保護を要請してきたので
ある。

「保護の件はオッケーですが、条件が二つあります。」
「・・・なんでしょう?」
「一つは、フラッグを持って、無事にここまでたどり着く事。
 こちらからは護衛や壁に人を裂くことはできません。
 なんとか自力でたどり着いてください。」
「わかりました。もう一つは?」
「もう一つは・・・こういう戦闘時にさくっと作れる料理をちびまるに教えてやって
ください。」
「それは、条件に入れなくても喜んで。」
「わーい!」
 白旗を持って現れたあかりを出迎えたちびまるは、内心誠治が保護の申し入れを
受けるかどうか不安だった。
 あかりには何度か料理を教えてもらったことがあり、できればこの交渉がうまく
行って欲しいと思っていたのであった。

 交渉成立を受け、あかりは帰っていった。
 出ていくのを確認して再び誠治は無線をとった。
「本部より各位。お料理研究会の保護申し入れを受けた。20分後に移動予定。
 チームウィスキーへ。中庭からガレージへと回す。サポートできるよう、狙撃位置を
確保してくれ。」
『ショットグラス了解。』
『シェイカー、今、体育館脇の小屋の上をキープしました。ここからサポートします。』
『こちらステアーうわっと!!てめー!!(パン!パン!)・・・・失礼、中庭方面の
残党を片づけたら行きます。』
「頼む。ボギー、大丈夫か?」
『はい。今陸奥さんが最後の一人を片づけました。そろそろちびまるちゃんに弾の補給
を持ってくるよう、頼んでください。
 あと、陸奥さんサブマシンガンですから、狙撃用にスナイパーか、アサルトライフル
に変えた方が良いかと。』
『あ、お願いします。単発は苦手なんでアサルトで。』
「了解。ちびま・・・・・」
 無線を聞いていたのだろう。
 菅生誠治が指示をだそうと振り返ると、既にちびまるがバックパックを背負って
待っていた。
「いってらっしゃい。」
「はいっ!いってまいりますっ!」
 ぴしっと敬礼すると、ちびまるは元気よく部室を飛び出して行った。
 彼女の小さい体は狙いづらく、こういう物資輸送には最適である。
 この補給力の強さも工作部の戦力を支える重要な要素である。



「おいっ、料理研が動くぞ。」
「なに?あそこのフラッグが奪えれば、それをネタに旨い物が食えるかもっ・・・」
「調理実習室から工作部に行くルートは・・・」
 戦争の最中、小さな動きが様々な憶測や関心を集め、何でもない場所が戦争全体の
左右を決める要所となってしまう場合がある。
 ”お料理研究会”は、まさにその渦の中心となりつつあった。
「やっつ・・・増えてきたかな。」
 ガレージ上の天井に陣取り、ラジコンにくくりつけられたエアガンから狙いを定める
八希望はあかりが帰ってから今までに倒した敵の数をカウントしていた。
 彼の足下には小型の液晶モニタを付けたラジコンのコントローラーが何個も
置かれていた。
 現状、工作部で最もキルスコアを上げていたのは彼だった。
「部長、どうやら料理研究会の料理目当てにおなかをすかせた連中が集まってきてる
みたいです。やばいかもしれませんよ。」
『むぅ、白旗あげての移動がやはり人目を集めたか・・・・わかった。出来る限り
掃除を頼む。こちらでも手を打つ。』
「・・・・じゅういち・・・・了解。」
 無線の間にも、既に3人が餌食となっていた。



「・・・さて、行きますか。」
「はい。」
 隆雨ひづきに促されると、あかりはフラッグを大事に胸に握りしめた。
 M.Kと雛山理緒は、ひづきと共に大きな段ボール製の盾を手にあかりを囲んだ。
 ドアの前のバリケードには東雲忍と、陸上部から梓の代わりに回されたガード役の
生き残り二人が張り付いていた。
「行けますか?」
「うん・・・さっきから静かすぎて怖いくらいだ。
 多分みんな移動中を狙ってくるんだろうなぁ・・・」
 あかりの問いに忍が答える。
 恐らく移動中に狙撃されるだろう。
 忍は死を覚悟していた。(といってもゲームでの死だが。)



「はぁ・・・・気が進まねぇ・・・・・」
 FENNEKは大きくため息をついた。
「うきゅ?」
 その頭の上には我関せず、といった顔で水野響がなぜか居座っていた。
「しゃーない。行きますか。」
 FENNEKはボルトを引き、チャンバーに弾が装填されている事を確認すると、
ダッシュの態勢に入った。



「いくぞっ!!」
「はいっ!」
 お料理研究会(+α)のメンバーは一斉に走り出した。
 それを合図のように、予想通り待ち伏せしていたメンバーから一斉に銃弾が振りそぐ
「いてっ!!」
 陸上部員の一人が正面に出てきた伏兵の銃弾を受け倒される。
「ちっ!」
 忍は三連バーストをそいつに食らわせると、盾を前に一番の難所と思われる渡り廊下
に踏み込んだ。
「あかりさん!もっと低くっ!!」
 盾で囲われた明かりを狙って四方八方から弾が降り注ぐ。
 その射点を狙って忍も打ち返す。
 だが、多勢に無勢、徐々に身動きが取れなくなる。
「止まっちゃだめだっ!もっと動いてっ!!」
 そう言いながら打ち返す忍の周りにも弾が降り注ぎ、身動きが取れなくなる。
「おりゃぁぁぁ!!!」
 敵の一人が突貫してくる。
「やばいっ!」
 渡り廊下に飛び込まれたら同士討ちの危険もあり、撃つことができない。
 倒そうとトリガーを引くが、忍の電動ガンは弾切れを示す軽い音しか出なかった。
(やられた!?)
 そう思った瞬間、敵の服にぽつ、ぽつ、と蛍光塗料の点が浮かびあがった。
 はっと振り向くと、はるか後方、倉庫の木陰に人影があり、”早く行け!”と
こちらにハンドサインを送っていた。
 忍はピッと親指を立て、了解の合図を返す。
「今のうちです!早く!!」
 敵の待ち伏せ部隊は急な狙撃兵の登場に浮き足立った。
 神岸あかりご一行は、その隙をついて渡り廊下を突破した。
 だが、この後最大の難関の中庭が待っていた。

「こちらシェイカー。渡り廊下は無事突破しました。でもやばいですよ。わらわらと
人が集まってます。」
『こちらジルバ。お疲れ。中庭は対抗策を発動した。すまんが君は一行の後ろを狙う
連中を片づけてくれ。』
「了解。」
 Hi−wait無線で話しながら弾を補給すると、再び狙いを定めた。
 誠治の言うとおり、一行の後を追って渡り廊下に入ろうとする影があった。
 パスッパスッ・・・
 サイレンサー付きのG3 SG/1は、敵の背中に彩りを添えた。



 建物の中庭に面する出口までたどり着いた一行は、再び銃弾の洗礼を受け身動き
が取れなくなっていた。
 いくら盾があるとはいえすべての弾を防ぐ事も出来ず、隆雨ひづきと雛山理緒が戦列
を離れていた。
「ちくしょう、あと少しなのに・・・・」
 忍は唇を噛んだ。
 ババババババ・・・
「うわぁぁぁ!!」
「ギャー!!」
 突然一行が隠れる場所のすぐ上、階段の踊り場から銃の音と悲鳴が聞こえてきた。
 あわてて銃を構える忍達。
「おーい、味方だ〜。撃たないでくれ〜。工作部の陸奥だよ〜。」
 踊り場の手すりの影から、手のひらが振られる。
 まず見えるように銃が差し出され、やがて陸奥本人が姿を現した。
「お疲れさま。無事でなにより。上は片づけてきました。一応ひなたさんがガード
してますけど。」
「ありがとう。助かったよ。」
 正面の敵に気が集中しており、もし渡り廊下から攻められたら一網打尽になって
いただろう。
 そう思い返し、忍は鳥肌の立つのを感じた。
「さて、中庭ですが・・・」
「やばいねぇ。これじゃたどり着けそうに無い・・・」
「いえ、部長がもうすぐでっかい花火を上げるということですので、部屋の隅で隠れて
いろと。」
「花火?」

 それはすぐにやってきた。



「おい、料理部の連中があそこに籠もったままじゃ倒せねぇぞ。」
「そろそろ特攻しますか?」
「そうだな・・・反撃も狙撃も無いし・・・行くか?」
「はい。」
「んじゃ、おまえ達がつっこめ。俺とこいつでとどめを刺すから。」
「えぇ!?先輩ずるいですよっ!!」
「なにおぉ?先輩の命令がきけねぇってのかっ。だいたい俺はライフルだし、つっこむ
ならおまえのサブマシンガンの方がいいだろう。」
「じゃあ、銃を交換して・・」
「いいからいけっ!!」
「・・・ふぁーい・・・」
「よし、ワン、ツー、スリーで行くぞ。ワン・・・ツー・・・・スリー!!」
「わぁぁぁぁ!!!」
 部の上下関係は覆す事も出来ず、新人部員達はやけくそになって中庭へとつっこんだ。
 と・・・


   ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ・・・・・・
    (注:ドップラー効果付き)



 目の前をものすごい勢いで人が通りすぎていった・・・
 いやただの人ではなく、頭の上になんか載っけていたが。
「な、なんだ?」
 一瞬突撃した数名の脚が止まる。


 「むぉあぁぁぁぁてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!」


 ドドドドドドド・・・という地響きと、シャワーかと思わんばかりの銃弾の雨が中庭
を埋め尽くした。
「待ったら死ぬ時死ねども死ねよ死ね死ぬとき死ねば死んじゃいますぅぅ!!」
「うきゅーーー楽しいですーーーもっと速くですーーー」
 水野響を頭に乗せたFENNEKが全速力で逃げていたのは、まさに鬼神であった。
 その鬼神は両腕と肩から角を生やし、四方八方に砲弾の雨霰を降らしていた。

「うわぁぁぁ!!!ジン・ジャザムだぁぁぁぁぁ!!!!!」

 FENNEKを追いかけてきたジンが発射した弾は、その物量で段ボールぐらいの
盾や隠れ蓑にしていた木々を蹴散らし、お料理研究会の一行を狙って隠れていた狙撃
兵をなぎ倒した。
 中庭に特攻しようと走り出していた連中などは、洪水のようなペイント弾をもろに
くらい、肌の色まで蛍光色に変わって、同じく蛍光色のペイント弾に埋め尽くされた
地面と見分けがつかなくなっていた。

「・・・・・い、行きましょうか。」
 嵐が通り過ぎたあと、コンクリートの壁の影に隠れていた一行は茫然自失から
少し立って立ち直った。
 こうしてお料理研究会ご一行は、無事工作部へとたどり着いた。




「キーンコーンカーンコーン・・・・」

 終了の合図が校舎に響き渡った。
 工作部は死者も出さず無事戦闘を乗りきった。


「待てぇぇぇ!!待たんかゴルァァァァ!!!」
「待てませぇぇぇん!!」
「うきゅーーー!!!」

 こっちの追いかけっこは夕日の中、ジンの弾切れまで続いていた。
 
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誠治  「やー、お疲れさん(肩をぽん)」
ひなた 「12人やっつけたんですよっ!12枚!!S定チケット12枚っ!!」
誠治  「よくやってくれた・・・・・・と言いたいが、その肩の汚れは?」
ひなた 「え?あ?えぇぇ!?いつの間にぃ!?」
誠治  「ペイント弾だねぇ。ジンさんの流れ弾でも食らったのかな?
     残念・・・死亡したらチャラの約束だったよねぇ?」
ひなた 「(ガーーン!!!)」
Hi-Wait「まぁまぁ、僕が何枚かゲットしてるから。みんなで食べに行こうな。」
ひなた 「友よぉぉぉぉぉっ!!(がしっ)」

誠治  「いやあ、麗しき友情だなぁ。」
瑠香  「友情ですねぇ(うるる)」
智子  「誠治さん・・・・まさか・・・・」
誠治  「な、なんのことかな?」
瑠香  「???」

     なんのことでしょう?(爆)


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晶  「なんでジンさんに弾があたんなかったんでしょうねぇ。」
美加香「ビデオを解析したんだけど、どうやら熱のせいみたい。」
晶  「熱?」
美加香「そう。バルカンユニットと、ジン本人の出す熱が上昇気流を作って。
    ほら、このビデオ映像、周りの砂煙が竜巻みたいに渦を巻いてるでしょ?」
晶  「本当だ。小台風みたい。
    弾が風にそらされて、ジンさんは無傷だったんですか・・・」
美加香「まあ、普通の人なら熱にやられちゃうんでしょうけど、ジンさん
    だから出来たって所かな。」
晶  「ところで、ジンさんをどうやって引っ張ってきたんでしょう?」
美加香「作戦ではこれ見よがしに逃げ回って、挑発して誘導する、ってだけだった
    んだけど・・・・」
FENNEK「・・・・・(死亡中)」
水野 「うきゅ〜」

美加香&晶「(・・・きっとこいつが怒らせたんだろうな・・・)」


それからしばらくジンをからかって、怒らせては喜ぶ水野響の姿がよく見られたという。


 −終わり−

(C)Sage 2002


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